シーマは想像より好人物のワイアットと和やかに話していたが、目的を忘れたわけではなかった。
「閣下。では情報と交換ということで、こちらの条件を提示してもよろしいでしょうか」
「流石に名高いシーマ艦隊だ。ここで空手形に気づけない共犯者は信ずるに値しない。もちろん伺おう」
シーマは書面を滑らせ、ワイアットはすぐに目を通した。
その顔は2枚目以降に差し掛かって難しいものになった。
「ふむ、大きく出たものだ。ここまで要求するなら、戦場での働きも期待して良いのかな」
「無論です。決戦時に我が艦隊は最前線に突撃。グワデンを撃沈して御覧に入れます」
「海兵隊の実力は身に染みている。が、彼らにもエースパイロットはいるだろう」
ワイアットはすでに密偵でアクシズがデラーズを支援していることを察知していた。
シーマに告げないのは、今更引け腰になってもらっても困るからだ。
ワイアットの懸念に、シーマはさらに資料を差し出す。
明らかに常軌を逸したジオンの実験、戦地に取り残されながらニュータイプに目覚め、生き残った少年兵。
彼の大まかな軍歴、能力、聞き取った過去、軍籍証明、キシリア派閥幹部の証言。
「こちらに取り込んだ彼は、先ほどガンダムタイプの試作機をザクで中破撤退させたそうです」
ワイアットは明らかな驚愕を隠すため、冷めた紅茶に手を付けた。
一呼吸入れて混乱を鎮める。
「ビィ中尉、彼の精神状態は大丈夫なのかね。これが真実なら狂人になっていてもおかしくない」
ワイアット自身、この少年の過ごした戦地で、狂った兵士を幾人も見てきた。
特にニュータイプという存在は共感や知覚が広く、精神が不安定というレポートを把握していた。
「戦闘時において多少のやりすぎはありますが、平時は年齢不相応なくらい理性的です」
シーマはワイアットを益々信頼できる人物と考えていた。
ビィの戦闘能力より彼の精神状態を先に尋ねてきたからだ。
ワイアットは顎を撫でながら思案する。
「私は当初あなた方を使ってジオン軍上層部の非道を糾弾しつつ、優遇することでジオン兵の懐柔を狙っていた。そういった意味ではビィ中尉を喧伝すれば、より効果は高まる。うまく使えばニュータイプについての管理にまで影響を及ぼせる」
そう言いながら険しい顔をするワイアットは、自身の言葉に対する生理的な嫌悪感を否が応でも表現していた。
「彼はどんな目的であなたに接触したのかね。彼の望みは何だと思う」
今度はシーマが思案する番になった。
「ビィ中尉は平穏と安住の地を望んでいる、と。しかし一方で戦闘狂な部分もあります。イメージにすぎませんが、戦場と平和な家を往復する生活をしたいのではないでしょうか」
キョトンとしたワイアットと、いたずらが成功したようにニヤつくシーマ。
二人は笑い出した。
「なんだそれは!贅沢にもほどがある。私とて将官になってからようやく手に入れたかどうかだというのに」
「えぇ、要するにシーマ艦隊の性格と同じく、ほぼ傭兵か海賊の類です」
「あなた達は気が合うだろうな」
「クルーの中で末っ子扱いされていますよ」
「そうかそうか、そいつは結構だ。楽しく小悪党をやりたまえ」
ワイアットは2部の要求文書にその場でサインをして、片方をシーマに手渡した。
「よかろう。私はこの要求全部を呑んで協力しよう」
「感謝いたします。全力で取り組みます」
二人は握手を交わすが、ワイアットは手を解かないまま続けた。
「それではあなたと坊やのために土産を持たせましょう」
「シーマ様、うちの艦にこいつが並ぶ日が来るとは思いませんでしたぜ」
呆れたようにデトローフは立ち並ぶ“土産”を眺めた。
シーマも困ったように笑っている。
「さすが大将、大盤振る舞いだねぇ」
「いやいや、ジムカスタムと物資、装備類を2部隊、8体分とかありえんでしょう。えぇい!連邦の物量は化け物か」
「こんなのと戦ってたのかい。後、声が変わってるよ」
<リリー・マルレーン>は建造以来初めて、ハンガーを満杯にして発進した。