Memory of Debris【完結】   作:びこーず

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Memories08:ホーム

<リリー・マルレーン>において、一番人が集まるのが娯楽室である。

賭け事は日常茶飯事、軍隊の規律も治外法権になる場所。

そこで今まさにリンチにあっている少年がいた。

 

「なにガンダムタイプとやりあってんだ。遅滞戦闘って言ってたよなぁ」

 

「えぇ、でもほら、現場からは遠ざけましたし、時間も稼ぎましたし」

 

「俺らが追いつくころには敵の戦艦が離脱してたな。この戦闘バカがよぉ!」

 

拳骨がビィの頭に突き刺さる。

周囲はゲラゲラ笑っていてビィを助けてはくれない。

むしろやいのやいのと言いたい放題だ。

 

「よくあれでガトー少佐の僚機できたよな。完全に駄犬だよ駄犬」

 

「こいつはリードを放すとどっか行っちまうのさ」

 

「少佐助けて、僕の職場がひどすぎます」

 

誰一人として真面目ではない。

むしろ良くやったという表現が、ちょっと変わっているだけなのだ。

それはビィもよくわかっていた。

 

そして大人であるクルー達はもっと理解していた。

戦場に酔うタイプは珍しくない。

だから最後の一線を越えさせないように、ホームにはつなぎとめないといけない。

不器用で過保護なようだが、彼らは発狂して脱落していく仲間を幾人も見てきたから。

 

こんなやり取りを出入口で聞きながら、シーマは出立前にしたガトーとの会話を思い出した。

 

 

 

「少佐、どうしてビィ中尉に決めた?他の奴でもよかったろうに。やっぱり2号機のアレは見せたくないかい」

 

これから行われる核攻撃による虐殺。その意図を受け、ガトーは鉄面皮のまま言い放った。

 

「技量は問題ないのですが、ジオンの大義に立って戦うに、彼はまだ未熟」

 

 

 

シーマは呆れながら、そうかい。と返すしかなかった。

クルーも素直ではないが、それとはまったく異なるガトーの性格。

もし配慮だったとしても、ビィには伝わっていないだろう。

 

「質の悪い男だよ。その妹はまぁ、哀れだね」

 

イザベラ少尉。今まさにアクシズからの物資を護衛しながら合流しているはずの彼女。

久々に会う兄妹がどうなるか。

 

「案外同じ気質だったりしてね」

 

あのセリフを吐く女性を想像して、シーマは首を振った。

 

 

 

シーマ艦隊がコロニーに接触するころ。

ガトーの座乗艦である巡洋艦ペール・ギュントではデラーズが訪れていた。

 

「司令官殿に、敬礼!」

 

グラードル艦長の声に合わせて、ハンガーの全員が敬礼し、デラーズは足を止めて答礼した。

整備兵には疲労が見て取れるが、姿勢は全くブレていない。

中央で敬礼するガトーは覇気すら漂わせていた。

 

「慣れぬ機体整備ご苦労。諸君らの献身あってこそ今回の作戦が決行できる」

 

頼もしさと覚悟を感じ、デラーズは胸を張る。

そして労いの言葉をかけながら、ガトーに向き直る。

 

「ガトー少佐。貴官はジオンの精神が生み出した宝だ。連邦にその魂を刻んでくるがいい」

 

「はっ!必ずや吉報をお届けします」

 

十名に満たない見送りを受け、死者の魂を導く鬼灯は飛び立った。

 

 

 

 

そして同時刻。宇宙の深淵からデラーズ・フリートへ向かうアクシズ先遣艦隊。

旗艦グワンザンの背後には、戦艦に匹敵する大きさの輸送船が一隻。

輸送艦パゾクはMSを50機以上格納できる巨大輸送船である。

その発着デッキを目一杯に使用して、着艦する赤い巨体があった。

 

「イザベラ少尉、着艦します」

 

巨人であるドムが見上げる程のMAはT字のような形状をしており、足は存在しない。

両肩を掴まれる形で船内ドックに収まった機体には、即座に整備士や技術士がとりついた。

そして胸部のハッチから出てきたパイロットは、キャットウォークに降り立ち、ヘルメットを脱いだ。

 

「ふぅ」

 

アイスシルバーの髪を手早く撫でつけ、赤い花の意匠を凝らしたかんざしでハーフアップに整える。

手近な端末画面の反射で髪のセットや表情を整えていると、彼女の従卒が小走りで現れた。

 

「少尉殿、お疲れさまでした。タオルとドリンクです」

 

礼を言いつつショートカットの小さい従卒から受け取りながら、代わりにヘルメットを渡す。

その後しばし無言になったイザベラに何かを感じたのか、従卒は声のトーンを抑えた。

 

「哨戒中に何かございましたか?」

 

「え?いえ、問題ありません。兄上と同型機を預かるのですから、緊張していただけですよ」

 

「それにしては何か、嬉しそうなお顔でしたよ」

 

従卒の指摘に、イザベラは照れたように片手で顔を覆う。

その様子に、従卒はくすくすと笑った。

 

「あまり上官をいじめるものではないですよ。セフィ」

 

「すみません。でも、ようやくお会いできますよ!アナベル・ガトー少佐に」

 

「もぅ。いい加減になさい。ほら、報告の後に書類仕事ですから、何か甘いものを用意しておいて」

 

まだ拙い敬礼をして、セフィはパタパタと通路をかけていった。

残されたイザベラはゆっくりと歩き、扉の傍でつぶやいた。

 

「あぁ、ようやくだ」

 

彼女は震える肩を抑え、その手で頬を少し揉んだあと、艦橋の扉を開けた。

 

「イザベラ少尉。ゼロ・ジ・アール運用試験及び哨戒任務を終え、只今戻りました。」

 

柔らかい声音に凛とした視線と敬礼。揺れるかんざしの意匠は彼岸花。

彼女の心根を知るものは殆どいない。

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