Memory of Debris【完結】   作:びこーず

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Memories09:開宴

シーマ艦隊のコロニー奪取作戦は拍子抜けするほど楽に完了した。

<リリー・マルレーン>を追撃しているジムカスタム部隊という演技をしたところ、コロニーの護衛がすぐに食いついてきたのだ。至近距離で攻撃を受けた連邦艦隊は、打電する暇もなく投降した。

 

「あいつら、所属くらい確認すりゃいいのに」

 

「ジムカスタムは高級機体だからね、権威に弱いのさ」

 

シャトルに詰め込まれている連邦兵を一瞥したシーマは、二つのコロニーに目を向けた。

見張りのMS以外が総出で工作を進めている。

機体が増えたことで進捗は思ったよりも良い。

シーマ自身も最近手に入れたガーベラテトラで陣頭指揮を執り、補給に戻った艦内で携帯食料を立ち食いしていた。

みれば水を飲みながらクレーンを操り、MSに推進剤を装填しているクルーがいる。

全員が年甲斐もなく素直に高揚している。

かじっていた携帯食料の無機質な断面を見ながら、シーマはしみじみとつぶやいた。

 

「4年……この船で4年。やっと運が向いてきたね」

 

そのつぶやきを聞いた男は信じられないものを見たように惚けながら、歩き去る彼女を見ていた。

別のクルーが硬直している男の肩を叩いたが、それでも反応しないので尻を蹴られた。

壁に寄りかかりながらつぶやいた男の声は喧騒の中に消える。

 

「姐御もあんな顔ができるんだなぁ……」

 

 

 

 

 

ワイアットは観艦式の宙域に到着すると、即座に巡洋艦<アレキサンドリア>へ連絡を入れた。

 

「コリニー提督。この度は観艦式への遅参及び突然の演説依頼で誠に申し訳ない」

 

ワイアットが渋面で頭を下げれば、コリニーの軽快な声が降りかかる。

 

「何をおっしゃいますか、我々は共に連邦軍の大将ですぞ。トラブルに協力し合うのは当然の事」

 

「いえいえ、集結前に座乗艦が攻撃を受ける等、それこそ大将としてあってはならぬ失態でございました」

 

「しかし提督の戦艦が観艦式総旗艦でないことは残念です。<バーミンガム>は連邦軍の象徴ですからな」

 

「時代遅れの大艦巨砲主義ですよ。提督の<アレキサンドリア>は次世代を担うべき艦艇ですから、却って良かったとも考えております。何より、このところのジオン残党のMSによる奇襲は本艦と相性が悪い」

 

双方にジャブを繰り出しながら相手の様子をうかがっていたが、やけに自信の無いワイアットの態度にコリニーは内心首を傾げた。

この政敵はもっとプライドが高く陰険な男だったはずだ。

 

「どうなされた、閣下らしくもない。いつものように堂々としていただかねば。何かご懸念が?」

 

ワイアットの眉間にしわが寄るのを、コリニーは見逃さなかった。重ねて原因を問う。

するとワイアットは秘匿回線であることを確認し、説明を始めた。

 

 

 

「試作2号機を追っている<アルビオン>が先日攻撃を受けたことはご存じでしょうが、我が艦はその後に<アルビオン>との交信距離を通過したのです。しかし<アルビオン>からの警告や報告はありませんでした」

 

「成程、情報があれば奇襲も察知できた、と」

 

「左様です閣下。そして<アルビオン>は観艦式に間に合わない。閣下の部隊を疑うのは本意ではないのですが、少し作為を感じるのです」

 

コリニーはワイアットの懸念を理解した。

<アルビオン>がデラーズフリートに寝返る可能性。

確かに<アルビオン>は新鋭艦であり、試作型MSも含まれている。

 

「確かに、そもそもザク1機に敗退したなどと言う報告自体おかしな話ですからな。しかも修理のためラビアンローズに向かうと言っていた」

 

「あそこには試作3号機があります。貢物には十分すぎるでしょう。何ならアクシズとでも交渉できるカードです」

 

「……閣下のご懸念は理解しました。コーウェン中将に強く確認しましょう。警戒するに十分な理由です」

 

 

通話が終了し、椅子を回したワイアットはふぅとため息をついた。

 

「これでコーウェンは失脚する上、周囲の嫌悪はコリニーと側近が背負ってくれる。<アルビオン>が計画に乱入することもないだろう」

 

後は。そう言って窓に移るコンペイトウを見た。

これから大虐殺が起こり、自分は知りながらに止めない。

 

「しかしこれで、連邦軍の派閥問題が大きく改善する……すまんが、私は全能ではないからな」

 

その謝罪は誰に宛ててのものか。ワイアットは自問し、自嘲した。

 

 

 

 

観艦式は順調に進んでいたが、艦隊の外縁では散発的な襲撃があった。

艦の損傷から観艦式の艦隊から離れ、周囲の警護を行ったワイアット大将はそのことごとくを退けていた。

<バーミンガム>は戦域全体の統制に長けた艦であり、広大な防衛線を完璧に掌握していた。

 

ピケット艦数隻が哨戒している程度だろうと考えていた襲撃者の動揺は大きかった。

観艦式の主役と思われていた戦艦が防衛に出張ってきているのだ。

少数のMS部隊では突破できない。

 

ガトーは損害報告に焦っていた。

自身が<バーミンガム>の艦艇群に突撃すれば防衛線は崩せるが、それでは核攻撃の奇襲が行えない。

むしろ大将の座乗艦を核攻撃するか。

しかしそれでは計画通りの打撃を与えられない。散会している防衛艦隊に使うにはもったいないのだ。

 

その時ワイアット大将は不可思議な行動を指示した。

何と防衛ラインを大きく押し上げたのだ。

後に“ワイアットマーチ”と言われる艦隊機動は味方に激しい動揺を生んだ。

 

防衛ラインを押し上げるということは風船を膨らませるように、戦力の密度が薄くなる。

今回の目的は観艦式を守り切ることであるから、デメリットしかない指示であった。

 

 

 

 

「我らを侮ったか!これぞ好機」

ガトーは迷わずサイサリスを突撃させた。

爆発的な加速は対空砲火のことごとくを置き去りにして、中心へと突っ込んでいった。

モニターに広がるのは、観艦式で密集した連邦艦隊だ。

 

 

ガトーは吠え、ワイアットは全部隊に緊急退避を命じながら、軍帽を目深に被った。

 

 

 

「待ちに待った時が来たのだ!

 

 多くの英霊が無駄死にで無かった事の証の為に…!

 

 再びジオンの理想を掲げる為に…!

 

 星の屑、成就の為に…!

 

 ソロモンよ!私は帰って来た!!」

 

 

それぞれのやり方で、各人の宴が始まる。

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