屋台をしながら放浪して、旅を続けていると経過した4年。
この4年間の間に、銀髪の男性が家族を連れて俺の屋台におでんを食べに来たりもした。
銀髪男性が連れてきた一人息子が負っていた古傷に、「ネットスーパー」の様々な品を使った上で、俺の気で治療を施し、アームレスリングでも世界チャンプが目指せる程度に回復させてみたりもしたが、それはかなり感謝されたな。
なんてこともあったが俺も18歳になり、高校生で言うなら3年生ぐらいの年齢ではあるが、今生では高校に通ってはいない。
完全に根なし草な俺だが、旅先で出会った風間少年からの頼みで久しぶりに川神に戻ってきてみると、川神にある橋の近くで見知った気の持ち主を発見。
あれが成長した川神百代であるのは間違いなさそうだが、川神百代に喧嘩を売った大勢の相手がぶっ飛ばされる姿が見えた。
戦うことを楽しんでいる川神百代が好戦的なのは、今でも変わっていないようだ。
まるで成長していない、としか言い様がないが、本人がそれでいいと思っているなら、無関係な他人である俺が気にすることではないだろう。
風間少年との待ち合わせ場所に、時間よりもかなり早めに来てしまったが、久しぶりに川神を少し巡ってみるのも悪くはない。
毎回毎回屋台に来る度に、万札の束を「釣りはいらねぇ」と言いながら置いて去っていく銀髪男性のおかげで、金銭的には余裕がある。
川神をぶらりと歩いて少し時間を潰した俺は、移動式屋台でおでんの仕込みを行っておいた。
「俺の仲間に、このおでんを食わせてやりたい」という風間少年の頼みを了承した俺は、おでんを先に作っておき、風間少年が待ち合わせ場所に時間ちょうどに来た時に出汁がしみ込んだおでんが食べられるようにしておく。
風間少年との待ち合わせ場所で屋台を開いて待っていると現れた風間少年と、その仲間達。
川神百代と風間少年以外は見知らぬ顔ばかりだったが「今日はタダで腹一杯食べていいぞ」と言った俺がおでんを提供してみると全員が食べ始めた。
「美味い美味い」とおでんを食べている彼等は風間ファミリーという集まりであり、風間少年がリーダーであるらしい。
全員が腹一杯になるまでおでんを食べていった風間ファミリーの面々。
その中でも川神百代だけは此方を見て「何処かで見たような」と呟いていたが、俺のことをはっきりと覚えていた訳ではないようだ。
昇龍拳で、記憶も一緒に飛んだのかもしれない。
風間少年とその仲間達から、しばらく川神に滞在してほしいと頼まれたので、川神に滞在することを決めた俺は、川神の河川敷にテントを用意して寝ておく。
川神に滞在して屋台を開いていると弁慶やら義経やらを名乗る相手がおでんを食べに来たりもした。
実際は本人という訳ではなく、弁慶や義経のクローンらしいが、何らかの目的があって作られたのだろう。
川神滞在中に何処かの誰かのクローンであるという葉桜清楚を名乗った女子学生とも知り合うことになり、学校が終わると俺が居る河川敷によく来るようになった葉桜少女。
葉桜少女とは料理の話をしたり、一緒に料理をして、作った料理を食べ比べてみたりもする仲になる。
その結果、俺の方が料理が上手かったことに若干精神的なダメージを受けていた葉桜少女は、女子力で俺に負けていたことがショックだったのかもしれない。
そんなある日、川神百代に負けない程の大きさの気を放つ葉桜少女が俺の前に現れた。
「瀬流彦よ、オレに着いてこい!共に世界を手にするぞ!」
口調が変わっていた葉桜少女が、人格まで変わっているのは間違いない。
「ふむ、記憶を共有した別人格という奴かな」
「流石は瀬流彦、理解が早いな。そう、オレこそが覇王項羽よ!」
片手に物騒な得物を持ちながら覇王を名乗った葉桜少女は、どうやら項羽のクローンであったみたいだ。
「何故、俺を勧誘するのかを一応聞いておこうか」
「毎日瀬流彦の料理を食べてから、凄まじく力が溢れてきてな。武神とやらが全く相手にならん程だ。オレが更に強くなった理由が、お前の料理であると考えるのは当然だろう」
俺が「ネットスーパー」で出した食材を使った料理を毎日食べてた葉桜少女が、凄まじく強化されていたのは確実だったので、確かに間違いではない。
「まあ、その予想は当たってはいるな」
「これからはオレだけの為に、その力を使うのだ瀬流彦よ!」
そう言いながら手を差し出してきた葉桜少女は、俺がその手を掴むことを望んでいるのだろう。
「悪いが、断らせてもらう」
「ほう、ならば力付くでお前を拐っていくとしよう」
長柄の得物を構えた葉桜少女が迫り、得物を振り上げた瞬間、間合いを詰めていた俺は技を放つ。
それは史上最強の弟子が使う技。
「小さく前にならえ」
相手の懐で両手を揃えて前にならった状態から、四種類の武術の要訣を混ぜて放つ突き技であり、必殺の威力を持つ一撃。
柔術の体捌きや空手と中国拳法の突きに、相手を打ち抜く気で突くムエタイの突きを組み合わせた技、その名を。
「無拍子!」
拳による鋭い突き技で、葉桜少女の腹部に叩き込まれた俺の拳。
その一撃で体をくの字に曲げた葉桜少女は完全に失神していたようで、倒れたまま動かない。
手加減はしておいたが、ちょっとやり過ぎたかもしれないと思った俺は、とりあえず気で葉桜少女の治療も行っておき、起きるまで待ってみたが、小一時間ぐらい気絶していた葉桜少女。
ようやく起きた葉桜少女は「瀬流彦くん「あんな凄まじい拳を叩き込んでくるなんて瀬流彦はオレを嫌っているに違いない」って項羽が泣いてるんだけど」と反応に困ることを言ってきた。
別に嫌いだから無拍子を叩き込んだ訳ではないが、また襲われるのも面倒だ。
そのまま項羽らしき人格には引っ込んでいてもらいたいところだな。