空から光の柱が降ちてきたかと思えば、見知らぬ場所に、俺は屋台と一緒に立っていた。
また別の世界に移動したんだろうな、とは思ったが、もう慣れているので特に焦ることはない。
さて、まずはどんな世界であるのか情報収集することから始めておくとしよう。
軽く気配を探ってみたが人里からは離れているようで、近くに居る人の気配は2人程度。
とりあえずこの2人に会ってみて、言葉が通じるなら話を聞いてみるのがいいかもしれないな。
そう決めて移動し、発見した小屋。
小屋の内部に感じる気配からして、中に人が2人居るのは間違いない。
小屋の扉をノックした俺は「すみません、誰か居ませんか?」と声をかけてみて、通じる言葉が返ってくるか試してみた。
「何の用だ?」
扉の中から返ってきた男性の声に、言葉が通じていると知ることができた俺は「ちょっと道に迷ってしまいまして、周辺のことを教えてもらえないかと」とだけ言って、返事を待つ。
「少し待て」
男性の言葉に従って、少し待っていると開いた小屋の扉。
小屋から出てきたのは両目の周囲に傷痕が残っている大男。
「若いな、旅をしながら屋台でもしているのか?嗅いだことのない美味そうな匂いが染み付いているが」
などと言いながら俺の近くにある屋台を見ていた大男は、嗅覚が鋭いみたいだ。
「周辺の情報を教えてくださるなら、屋台の料理をご馳走しますよ」
「そいつはいいな、どんな料理が食えるか楽しみだ」
笑みを浮かべた大男が教えてくれた周辺の情報は、人里まではかなり距離があるというものと、近くの道が何処に繋がっているかというものだった。
情報を提供してもらったお礼として屋台のおでんを振る舞うことにしたが「もう1人小屋に居るんだが、そいつにも食べさせてもいいか?」と聞いてきた大男。
「構いませんよ」
俺の答えを聞いた大男は小屋の中に入ると、灰色の髪をした女性を連れて戻ってくる。
いきなり箸を使うのは難しいかと思ったので、フォークを大男と灰色髪女性に渡し、おでんを提供。
「これは魚肉などをすり身にした後に油で揚げたものを、極東の調味料で味をつけた汁で更に煮込んでいるようだな。うむ、美味い」
さつま揚げを食べながらそんなことを言っている大男は、どんな食材が使われているのかをちゃんと理解しているらしい。
「ほう、柔らかいな。しっかりと煮込まれた大根は、味が染みていて悪くない」
おでんの大根を上品に食べている灰色髪女性は、大男ほど大量には食べていないが、食事を楽しんでいる。
おでんの様々な具を食べていく大男と、大根ばかり食べる灰色髪女性。
「これは牛のスジ肉か、上手く処理して煮込むと、ここまで柔らかくなるのか。これも美味いな」
美味そうに牛スジを食べていく大男が「酒もあるなら欲しいところだが」と此方を見てきた。
「極東の酒で良ければどうぞ」
そう言った俺がコップに日本酒を注いで提供すると、一口飲んで「こいつはこの料理に合うな」と笑った大男。
そんな大男の隣に座っている灰色髪女性が、咳をしはじめる。
見るからに体調が悪くなっていた灰色髪女性は持病があったようだが、明らかにつらそうだ。
とりあえず気による治療を行っておき、症状を和らげておくと「身体がいきなり楽になったが、私に何をした?」と聞いてきた灰色髪女性。
「気という力で治療を施しました。貴女の病を完治させるには、更に気を使用して治療を行うだけではなく、他にも使わなければいけないものがありますが」
「待て、治るのか!こいつの病が!」
俺の言葉に、病人な灰色髪女性よりも大きな反応を示した大男は、驚きを隠せていない。
「あながち嘘という訳ではあるまい。明らかに不調になった筈の私の身体が、こうして楽になっているのでな」
気による治療で身体が楽になったことを実感しているのか、俺が病を治療できるということを灰色髪をした女性も信じてくれているようである。
「治療を受けてくれるというなら、此方は全力で治療を行いますよ。確実に完治させると約束しましょう」
そんな俺の言葉と大男の説得もあり、治療を受ける気になってくれた灰色髪女性に「ネットスーパー」の様々な品々と、地球を粉々にできる程度の量の気を凝縮して、気による治療を行い、完治させた女性の病。
ちなみに大男の身体も毒でかなりボロボロになっていることを知った俺は、大男の身体に残る毒などを「吸収」で吸収して消し去る。
それから気による治療と「ネットスーパー」を使用して作り出した水の秘薬なども用いて治療を行い、大男にも健康な身体になってもらった。
あのままでは毒や病で、長くは生きれなかった可能性が高かった大男と灰色髪女性。
しかし俺の治療で2人の寿命が延びたことは間違いないだろう。
一応は恩人ということになる俺に、名を名乗らないでいるのはどうかと2人は思ったらしく、自己紹介してくれた2人。
大男はザルド、灰色髪女性はアルフィアという名前であるようだ。
俺も自分の名前を名乗ってみたが、2人には極東出身だと思われることになったので、日本的な名前をしているのは、この世界だと極東出身者なのかもしれないな。
健康な身体になったザルドとアルフィアの2人には、やらなければいけないことがあるようで、それは黒竜というドラゴンが、現在何処にいるのかを調べることであるらしい。
ドラゴンが居るということは、どうやらこの世界にも、普通にモンスターが存在しているみたいだ。
まあ、特にやることもないので2人についていってみようと決めた俺は、ザルドとアルフィアに実力や能力を示し、共に行動することを認めてもらった。
俺が気で形作った絨毯に乗って全員で空を飛んで、ザルドやアルフィアの指示通りに移動していき、様々な場所へと向かう日々。
そんな日々も過ぎ去り、そしてついに突き止めた黒竜の居場所。
そこは竜の谷という場所であり、様々な竜が生息しているところでもあるそうだ。
竜の谷は、かなりの危険地帯であるみたいだが、毎日「ネットスーパー」の品々を食べたり飲んだりして強化されている今のザルドとアルフィアは、凄まじく強くなっているので問題はない。
という訳で全員で向かった竜の谷。
襲いくる様々なドラゴンを倒して奥深くまで進むと、発見した巨大な黒い竜。
隻眼の黒竜は結界らしきものに封じられているように見えたが、完全に封じることはできていなかったようで、此方の気配に気付いた黒竜が目を覚まして咆哮を上げた瞬間、破れて壊れた結界。
こうなったら戦うしかないので此方も戦闘体勢に入り、黒竜には、ある技を繰り出す。
それはドラゴンボールの主人公の友人の技。
「気円斬!」
薄い円形の形にした鋭い気の刃を回転させて放ち、相手を斬り裂くという殺傷力の高い技である気円斬。
今回はそれを黒竜に合わせたサイズに巨大化させて高速で放ったので、特大高速気円斬といったところかもしれない。
俺が凄まじい速度で繰り出した特大の気円斬は黒竜を真っ二つに斬り裂き、黒竜の魔石もついでに斬り裂いていた為、たった一撃で戦いは終わりとなる。
あっさりと終わった黒竜との戦いに、しばらく固まっていたザルドとアルフィアの2人。
「まあ、ムコーダだからな」
「ムコーダのやることを気にしていても仕方あるまい」
そんなことを言い出して、諦めたような顔をしたザルドとアルフィアは、溜め息を吐いて頭を押さえていたな。
その後、竜の谷から移動し、特にモンスターなどが居ない場所でちょっとした宴会をしていると、接触してきた神。
エレボスと名乗った神は、ザルドとアルフィアを探していたようだが、黒竜が既に倒されたことを知ると「いや何があったの!?」と物凄く驚いていた。
俺が1人で黒竜を倒したことも知り「マジでか!」と更に驚いた神エレボス。
「ああ、じゃあ、もう世界は救われてるのか。良かった」
そう言って笑った神エレボスは、下界に降りてきた神にしては、この世界のことを真面目に考えていたみたいだ。
とりあえずまともそうな神エレボスには、俺が別の世界から来たことを伝えておき、元の世界に戻る手段がないか聞いてみた。
どうやら神が神の力を使えば、世界を越えることも不可能ではないらしい。
しかし下界で神が神の力を使えば、神は天界に送還されてしまうそうだ。
「世界を救ってくれた礼に、俺がきみを元の世界に戻すよ」
そう言ってくれた神エレボスは、天界に送還されることを覚悟で神の力を用いてくれたようで、俺の身体が光に包まれていく。
「ザルド、アルフィア、2人との旅は楽しかった。せっかく寿命が延びたんだから、2人とも長生きしろよ。それじゃあな」
ザルドとアルフィアに別れを告げた瞬間、完全に光に包まれた俺は、気付けば馴染みのある河川敷に立っていた。
どうやら元の世界に戻ってこれたみたいだ。
「ネットスーパー」を確認してみるとアダマンタイトやミスリルなどの金属が確かにカタログに載っており、俺が別の世界に移動して「吸収」してきた物が増えていたのは確かだな。
それと何か忘れてると思ったら、屋台をあの世界に忘れてきてしまった。
まあ、また新しい屋台を作るとしよう。
ちなみに向田が居なくなった後に、オラリオに行ったザルドとアルフィアは闇派閥を潰し、停滞しているファミリアに英雄の作法を教えてやったようです