キヴォトス召喚〜捻れて歪んだ先の分岐点〜 作:熱核戦争先生
雲一つない快晴の空。
待ちに待った日本とキヴォトス政府高官との会談の日を迎えた。
「外交官護衛の兵士は?」
「各科から射撃検定上位の水兵を集めています。射撃の精度に関しては申し分ないでしょう」
「本格的な陸戦に関しては陸軍には劣るがな」
「そうですね...」
蕪木と加藤は寄せ集めの臨時の外交官護衛部隊に不安を覚えていた。
「外交交渉相手国に爆撃機を飛ばすなんて、アニュンリールに対する報復勧告での外交交渉以来だな」
蕪木は沖合に停泊している、霞ヶ浦海軍基地所属の第11海軍戦略爆撃飛行隊のBFB-55戦略爆撃飛行艇“シンホウ”を見る。
主翼上部にターボジェットエンジンを6基搭載し、胴体ウェポンベイと翼下に計20トンの爆弾を搭載可能。
爆弾以外にも巡航ミサイル、核弾頭搭載ALADCMも搭載でき、飛行艇版B-52を目指した機体であり、日本の戦略爆撃機戦力の中核を成す機体として新明西工業が開発した世界最大の量産型飛行艇だ。
キヴォトスの治安の悪さによる外交官保護の名目で4機のシンホウご急遽派遣された。
何故、キヴォトスに海軍の戦略爆撃飛行艇がいるのか。
遡ること、1日前の銃声から始まった。
D.U.に到着して日が出た8:00ちょうどに、ある区域で銃声が連続して響いた。
最初こそは「まぁ、そんな日もあるか」と、気にも止めてなかったが、その10分後に別の場所で銃声が響き、そこから短いスパンで立て続けに発生。
挙句の果てには区域の一角で爆発音も起き、蕪木達もさすがにこれはおかしいと思い、キヴォトス側に状況の説明を求めたところ、キヴォトスは想像している以上に治安が悪いことが判明した。
ここに住む生徒と呼ばれる未成年者達は、常人より身体が頑丈で大口径砲の爆発を食らっても気絶する体質が故、喧嘩に銃や爆発物をすぐ使ってしまうほど、銃撃戦は日常茶飯事のものとなっている。
覚悟が決まっている小原達外務省職員を、市街地での銃撃戦が絶え間ない危険地帯に放り込むのは危険すぎるため、蕪木は日本政府に対して、キヴォトスの治安も含めて今後どうするかの対応を求めた。
この報告を受け、日本政府内での意見が分かれた。
職員の命を危険に晒すわけにはいかないとし、帰還させるか会談は後日改めて安全な場所でするべきだとの声が上がっていた。
一方、キヴォトス側が急ピッチで会談の準備を整えている上、相手が自分達より歳もいかない未成年者なだけあって、取りやめや延期は相手に対して心象を悪くし、今後の交流において支障をきたすのではないかという声も上がっていた。
会議は踊る、されど進まず。
これまた、戦艦信濃の副長加藤がある提案をしてきた。
外交官防護を名目に戦略爆撃機をキヴォトスに派遣してみてはどうかという事だった。
キヴォトス側もただでさえ、連邦生徒会長失踪や転移現象で治安が悪くなっている上、会談にも警備のリソースを割いている現状、現地警察たるヴァルキューレ警察学校の対応能力が追いついてない。
爆撃機なら、沖合に停泊している艦隊や艦載機より視覚的抑止の効果を期待でき、一過性とはいえ現地警察の悩みの種を排除できるなら、向こうも乗ってくれるだろうと考えた。
この案に対して、国防総省と外務省は強く賛同していた。
一方で、キヴォトスの内政干渉にあたらないか、かえって混乱を招き更に治安を悪化させるのではないかと言う反対意見も出ていた。
意見が定まらず伊野直哉総理の判断で、キヴォトス側にこの案を打診し、許可が降り次第戦略爆撃機の派遣を承認した。
一方のキヴォトスもとい連邦生徒会はこの提案に対して、意見が分かれていた。
カヤを筆頭とする賛成派は、D.U.以外のヴァルキューレ管轄区域も手一杯で増援は見込めない上、他の学園自治区の応援を借りても対応が追いついてない現状、現場の負担を軽減させかつ、安全に会談を実施するためなら提案を受け入れてみてはどうかとの声が出た。
一方のアオイを筆頭とする反対派はキヴォトスの問題に、得体の知れない勢力の軍隊が治安を回復させるのは、れっきとした軍事介入であり、視覚的抑止なら手が空いているラーズグリーズの対地攻撃部隊を動員すれば事足りるとし賛成派と対立していた。
賛成派と反対派で会議は滞り、カヤとアオイが皮肉合戦へ移行していく中で、リンは提案を受け入れるとし、正式に日本帝国政府に対して爆撃機の派遣を承認した。
このリンの判断に対し、アオイらは連邦生徒会長でもない、ただの代行が、“軍事介入”を容認するのは越権行為だとの批判が続出していた。
リンは今のキヴォトスは人工衛星途絶とキヴォトス異世界転移と言う未曾有の大災害を迎えており、治安は連邦生徒会長失踪時に匹敵するほどまでに悪化している。
一時的でも治安を回復して安全に会談を実施できる手段があるなら、日本側の提案を受け入れてみる価値はあるとした。
カヤの助け舟で、ラーズグリーズの視覚的抑止効果も普段から頻繁に出動しているせいで、住民も見慣れ挙句の果てには煽り返されている報告が上がっていたため効果は期待できない。
なら、未だに全貌が明らかになってない勢力の爆撃機なら、住民は見慣れてない初めて目にする物で否応なしに勝手に静かになるだろうから、視覚的抑止効果は期待できると反論した。
それに、こんな銃撃戦や爆発が絶えないヘイローを持たない人達にとっては死地へ、それを承知の上で乗り込んで会談に挑もうとしている。
その人達の覚悟に応えてみてはどうだろうかと、リンが駄目押しした。
リンの力説やカヤの現実的な視点を聞いた反対派の生徒達も、賛成派に傾きつつありアオイも根負けして、今回だけは許すとスタンスを変えざる得なかった。
こうして、キヴォトス側の提案受け入れにより、日本帝国政府は正式に戦略爆撃機のキヴォトス派遣が決まった。
現地空港が空軍の戦略爆撃機に対応できるか不明な点、現地空港は現在多くのの民間機で満杯になっており駐留出来ない点、現地犯罪勢力による戦略爆撃機の地上での破壊活動を考慮し、
・水上が滑走路であり地上に比べて制約を受けない事
・派遣艦隊の空母冲鷹には飛行艇の洋上補給機能が備わっている事
・現地犯罪勢力の破壊活動が容易ではない事
これらの判断材料によって、海軍のBFB-55戦略爆撃飛行艇が適任であった。
沖合に停泊している空母冲鷹の両舷に4機のシンホウが接舷していた。
鐘崎港側から貸与された移動式フロートが機体との橋渡しとなっており、双方の水兵がその場で補給・整備・警備をしていた。
信濃のCICに移動していた蕪木は、懐中時計を見て作戦開始の命令をした。
「よし、冲鷹へ。第11海軍戦略爆撃飛行隊に対して直ちに離水開始。指定された空域を常時旋回。高度に関してはギリギリまで落とせ。とにかく、住民に対してシンホウの存在を大きく誇示させるんだ」
冲鷹に接舷していた4機の内2機のシンホウが離れ、離水位置へ移動した。
離水区域に武装した海軍のゴムボートと海警局の警備艦が、他の船が侵入してこないように監視をしていた。
6基のターボファンエンジンが甲高い音を立て、US-2譲りの溝型波消し装置とスプレーストリップが海を掻き分けながら離水を開始した。
胴体下部からは離水時の水の抵抗を減らす大型の滑走板が展開し全長50m、翼幅62mの巨体が水面から持ち上がり始めた。
滑走板だけが水面を高速で滑り離水速度が230kmに到達。
離水距離が1kmを切ったところで、遂にシンホウはキヴォトスの空へ飛び立った。
信濃が停泊している鐘崎港から離れた対岸では、クロノスジャーナリズムスクールの報道部が、シンホウがD.U.の空を羽ばたいた光景をキヴォトス各地にリアルタイムで配信し、キヴォトスを騒然とさせた。
三大学園を始めとした各学園の生徒会には、連邦生徒会が説明していたため、現在のキヴォトスの情勢下ではやむなしと理解し、深く追求する事はなかった。
それ以外の一般生徒や住民は、先日からSNSで話題になっている帝国海軍欧州大陸派遣艦隊に加え、いきなり現れたシンホウにまだ頭がついていけてなく、様々な憶測や根も葉もない噂が付いていた。
とは言え、全員が共通したのは触らぬ神に祟りなし。
何か分かるまでは変な気を起こさないことこそが最前の選択だと。