キヴォトス召喚〜捻れて歪んだ先の分岐点〜 作:熱核戦争先生
キヴォトス
学園都市全体の行政を担う連邦生徒会と強力な自治権と武力を有した数千の学園とその自治区で構成された超巨大学園都市。
この学園都市には幾つかの問題を抱えていた。
一つは、連邦生徒会のトップである連邦生徒会長が失踪したこと。
トップ不在と言う政治的空白が発生した事により、連邦生徒会の行政行使能力の低下、連邦生徒会最高戦力のSRT特殊学園の封鎖、現行連邦生徒会の学園間の紛争や問題への介入・仲裁への不干渉のを取るなど連邦生徒会の政治力と各学園からの支持力は低下している。
もう一つは、連邦生徒会の対応に不満を持つ反連邦生徒会派の登場。
キヴォトスが政治的理由で崩壊することを恐れたキヴォトス西部地域の主要学園2校が学園間軍事同盟“
この学園間軍事同盟の結成は一部からは連邦生徒会との紛争も辞さないのではという声もあった。
最後は全ての人工衛星からの通信が途絶したこと。
キヴォトスの衛星軌道には気象・通信・GPS・宇宙望遠鏡・科学実験・技術実証・軍用などの用途を持つ人工衛星が約1000基打ち上げられている。
それらは連邦生徒会の各行政室を始め学園や学園に所属する部活動や企業などの組織が、それぞれ保有している。
それらの人工衛星からの通信が全て途絶し、これまで人工衛星に頼ってい側面もありキヴォトス各地で交通・情報・マスメディア・気象が機能せず連邦生徒会長失踪以来の混乱期を迎えていた。
キヴォトス沖
キヴォトスから200km離れた海域に連邦生徒会防衛室傘下の学園“ヴァルキューレ警察学校”D.U.シラトリ分校所属の海警局艦“ワダツミ”率いる第203警備分隊が白い航跡引いていた。
海警局はキヴォトスにおける海上警備・海洋観測・海難救助・海洋環境保護を主任務とする組織で海上保安庁や沿岸警備隊に匹敵する規模を有する。
第203警備分隊は中型警備艦ワダツミと高速警備艦3隻で編成。
旗艦のワダツミはライデン級中型警備艦の8番艦で排水量5500トン、全長150m、武装にカイザースチール社製の62口径76mm単装速射砲1門、艦対空ミサイルを装填したVLS16セル、40mm連装機関砲4基、12.7mm遠隔操作銃塔8基を搭載したエイギルの重武装艦だ。
ワダツミに従う高速警備艦は艦名はないもののそれぞれ“E23”と“E24”と“E25”の数字が与えられており排水量2500トン、全長110m、武装に62口径76mm単装速射砲1門、40mm連装機関砲2基、12.7mm遠隔操作銃塔6基を搭載しており最大速度40ノットを出すことができる快速艦である。
第203警備分隊は航法衛星からの通信を喪失した船舶の救助と海域保護封鎖を実施していた。
海域保護封鎖は学園・民間船舶の保護を目的に指定された海域への航行を制限したキヴォトス非常事態法の一つである。
現在、連邦生徒会は航法衛星を含む人工衛星からの通信が途絶した事を理由に海域保護封鎖令を宣言し、キヴォトスの基線から200km以降の海域への航行を制限し被害の拡大を阻止しようとしている。
海域保護封鎖令が発令された事により現在海警局は総動員しており、第203警備分隊以外にも多くの部隊が船舶を救助し海警局航空科の大型洋上監視機が上空から封鎖海域への侵入を試みる船舶の監視と遭難した船舶の発見と救助要請をかけていた。
ワダツミ 航海艦橋
ワダツミの航海艦橋は指揮・操艦・通信・索敵・火器管制を執り行う艦の中枢である。
航海艦橋にいる生徒が着る制服は通気性の良い素材を使った半袖のYシャツと裾にかけて広がる水色の短パンで、地上勤務の生徒とほとんど同じ組み合わせだ。
地上勤務の生徒と違う点は服の上に防弾チョッキではなくライフジャケットを装着しており、ライフジャケットは対物狙撃銃や榴弾の破片にも耐えれる素材を使用した特別仕様で防弾チョッキとしても機能している。
帽子も水色の制帽ではなくパトロールキャップで上からそのままヘルメットを被れるようになっており見栄えより機能性を重視している。
「レーダーに反応。前方から艦船4隻。E25と要救助船を確認」
レーダー担当の南部アイカが報告する。
航法衛星からの通信が途絶え遭難していた民間船舶と救助に向かっていた高速警備艦“E25”が安全圏に帰還したところだ。
民間船舶はカイザーマリンの中型コンテナ船、オデュッセイア海洋高等学校の交易船、キヴォトスの海を荒らすタコさん海賊団の海賊艦であった。
「了解、あとは陸上から指示に従うように。海賊艦はこのまま鐘崎港まで案内して身柄を内地に引き渡して。まさか航法衛星を失って海賊も取り締れるなんて...航法衛星様様だよ」
第203警備分隊のトップでありワダツミの学級委員長(艦長職に相当)の尾崎テツヨは、普段から敵対関係であり取り締まり対象の海賊が警備艦に簡単に先導されている様子を見て航法衛星が無くなった事に少しだけ感謝していた。
「ふぅ...とりあえず、私たちが担当している海域の救助活動は終わりましたかね?」
学級副委員長(副長職に相当)の谷コウキは安堵の息を漏らしていた。
「そうなるね。他の部隊からも救助活動は落ち着いてきてるようだし。あとは封鎖令が解除されるまでノンビリ監視活動するだけだよ」
テツヨは学級委員長席の情報共有ディスプレイに表示される他部隊の活動状況を見ていた。
救助活動も終盤に差し掛かっており、残るは航空機と連携した監視活動のみとなっていた。
一段落し艦橋に併設されている給湯室から電車レンジで温めたどら焼きと熱い緑茶が入ったマグカップを口にしている時にアイカから新たな報告が来た。
「テツヨ委員長、レーダーに反応があったよ」
テツヨは口に入れたどら焼きを喉に詰まらせ咳き込み慌てて緑茶を流し込んだ。
「えっ、まさか取りこぼした?数と識別は?」
テツヨはまだ封鎖海域に船舶がいる事に驚きながらも救助に向かうため状況を把握しようとしていた。
「数は10。艦種は不明なものの反応から見て超大型艦1、大型1、中型8だと思うよ」
「位置は?」
「西に500kmの海域…外界方面付近からいきなりレーダーに現れたよ」
アイカの報告にテツヨ達艦橋メンバーは怪訝な顔をする。
「外界方面だって?レーダーの故障じゃないの?」
外界。
一般的にキヴォトスの外と呼ばれている世界でいまだに解明ができていない謎多き地である。
キヴォトスの基線から700km先にあるとされ、キヴォトスの間では一種のオカルトとして語り継がれており、別の学園都市が無数にある世界、亡者が住まう地、神々が住まう世界、虚無の空間、熱核戦争によって徹底的に破壊され尽くした廃墟が広がる世界などがさまざまな説が立たれている。
キヴォトスの外の謎を解き明かそうと幾千幾万の冒険家がこの地に足を踏み入れようとしたが、コンパスや計器の異常、正体不明の感染症などの現象が発生し引き返すかそのまま強行して消息を断つなどの事故が多発した事により連邦生徒会は外海方面から50km手前の海域への船舶や航空機の往来を禁止している。
海域保護封鎖令が宣言されたのも航法衛星からの通信を失い方向感覚を失った船舶が立ち入り制限がかけられた海域または外界への航行を防ぐためでもあった。
そんな立ち入り制限がかけられている外界方面付近からいきなり船舶らしき物がレーダーに反応しているのだ。
「ついさっきレーダーの点検をしてたから有り得ないと思うよ。念の為自己診断システムにもかけたけど、レーダーに異常無しという診断も出ているし」
アイカはテツヨにレーダーの故障を否定する。
「すると外界方面に足を踏み入れて遭難していた船が戻ってきたの?」
テツヨは先述したキヴォトスの外の謎を解き明かそうと足を踏み入れ消息を絶った冒険家達が乗った船でないかと推測した。
「それは恐らくありえないかと思います。外界方面へ向かい未帰還になった船舶の中でも最大の物でも排水量3000トンの海警局海洋観測艦ぐらいです。レーダーに反応している船の
コウキがタブレットに転送されたデータを見て否定する。
「謎が深まるばかりだね...私達以外に付近を航行している部隊は?」
「南西80kmにユウナギの第204分隊、南東70kmにシュガーの第207警備分隊、あとは航空科の洋上監視機が飛行しているよ」
レーダースクリーンには赤色に表示された所属不明船団に加え、青色の“204FREET”と“207FREET”そして航空科所属の洋上監視機のマークが表示されていた。
「ユウナギとシュガーも今頃レーダーで捉えている頃だね」
テツヨは少し悩んだ末に外界方面から来た所属不明船団への接触を試みようと決めた。
「ヒトミちゃん
「りょ、了解!」
それを聞いた通信担当の市川ヒトミは連邦生徒会とシラトリ分校に報告した。
しばらくしてから連邦生徒会とヴァルキューレから付近を航行する警備分隊と洋上監視機と連携し所属不明船団への接触を試みるように指示が出された。
「これより、所属不明船団との接触を試みる。第3戦速!全艦進路そのまま、ヨーソロー!」
「進路そのまま、ヨーソロー」
操舵担当の太田ジュンリが戦速を切り替え舵を握る。
ワダツミが搭載するガスタービンエンジンもは徐々に出力を上げていきながらスピード速度を出し波を割りながら突き進む。
テツヨは次の指示を出す。
「全艦、戦闘準備!」
「ほいほい、主砲塔即応弾装填。機関砲要員は各銃座に徹甲弾装填してって」
火器管制担当の北野ムツミがワダツミがいつでも戦えるようにしていく。
ワダツミの62口径76mm単装速射砲に弾薬庫から自動で即応弾が装填されていき、合計12基の機関砲に機関砲要員の生徒とドローンが徹甲弾を装填し回り、白兵戦に備え実働部隊の生徒や非番の生徒が個室や相部屋から、自分の名前やデコレーションがされた自動小銃や散弾銃などの武器を取り出しライオットシールドを手にする。
E25を除く第203警備分隊は何時でも戦えれるようになった。
こうして第203警備分隊は他の警備分隊と合流するため合流ポイントに向かった後に、外界方面から来た10隻の所属不明船団と接触を試みようと進路を取った。
第203警備分隊などの複数の部隊から、「外界方面付近のて所属不明船団をレーダーで探知」と言う報告をうけた連邦生徒会とヴァルキューレではちょっとした大騒ぎとなっていた。
立ち入りを禁止し未だに解明できてない未知の世界である外界から艦隊が来ているのだから驚くなと言う方が無理である。
これを受け連邦生徒会とヴァルキューレは報告してきた部隊に所属不明船団への接触を指示し、それぞれの対応策を講じる。
連邦生徒会は不測の事態に備え各学園地区への警戒強化の呼びかけ、ラーズグリーズ航戦高等学校へ要撃部隊の出動準備、鐘崎港に偶然停泊していた大エイギル学園の戦艦アンドロメダとアポロノームへの出動要請、更にたまたまレッドウィンターへの用事ででかけているシャーレの先生に戻って来るようにお願いをしていた。
ヴァルキューレも所属不明船団からの攻撃を受け海警局の防衛戦が突破さキヴォトスに到達した際の、地上での戦闘に備え公安局や警備局が出動し生活安全局が住民の避難指示をしていた。
D.U.に住む生徒や住民はヴァルキューレの装甲車や戦車そして戦闘ヘリが次々と飛んで行くのを見て、今回の人工衛星喪失事件、鐘崎港沖合に停泊している大量の船やD.U.セントラル・新第3・小飛行場に飛行機やヘリコプターが緊急着陸している様子を見ていた事もあり、自分達が思っている以上に深刻な事態に陥っていると自覚し不安を覚えていた。