キヴォトス召喚〜捻れて歪んだ先の分岐点〜 作:熱核戦争先生
あれは嘘だ
今回はムーがキヴォトスと関わる前段階の話なんですが、3話か2話ぐらいはやりそうな上、ミレニアムサイエンススクールと接触しそうで、ミレニアムが最初に出てきそうです
ムー
第二文明圏の列強であり、12000年前に日本がいた世界からこの世界に転移してきた、最古の転移国家である。
日本が転移する前はこの世界で唯一の科学技術を文明の体系にした国家であり、日本転移時には地球換算で1940年後半の技術力を独力で有した恐るべき国家でもある。
日本帝国が転移したことより、ムーの技術力は更に向上し今や1970年代の技術を有している。
そんなムーは、現在学園都市キヴォトスとの国交成立に向けた会談と現地での情報収集を目的とした視察団を乗せた、最新鋭ジェット旅客機“スーパー・コメット”が経由地の日本帝国の百里空軍基地に降り立つ。
護衛に着いていたムー空軍のジェット戦闘機“ジャベリン”も続けて降り立った。
同基地に駐機していた、日本帝国空軍のC-2中型戦略輸送機とC-5J戦略輸送機の横にムーのスーパー・コメットが並ぶ。
「相変わらず、日本の航空機は大きいものだ」
タラップから一人のムー政府高官が、相変わらずの日本の凄さに感嘆していた。
ムー統括軍情報通信部首席参謀のマイラス・ルクレールだ。
かつて、日本がこの世界に転移した事により世界のパワーバランスが変わりつつあることから、当時のムー政府によって設立された対日情報収集対応部会に所属し、日本との関係構築と祖国発展に尽力した一人である。
「だが、我が国のスーパー・コメットも負けてはいない」
彼はスーパー・コメットを見て息巻いていた。
スーパー・コメットは新興航空機製造企業のデラビラント航空工業が設計開発した、全長60m、翼幅57m、ターボジェットエンジン6基を搭載した、ムーの最新技術を結晶した大型旅客機である。
彼は日本との国交成立に向けた、対日視察団に所属し日本帝国本土に派遣された経験を持ち、その際に日本で感じた感覚を思い出す。
最新鋭機であるラ・カオスで日本の帝都国際空港に降りたった際に、同空港に駐機していた帝国貨物航空のボーニング747-400LCF、大日本空輸のエアシャトルA380-800、帝国旅客航空の帝国航空機製造NS-9-2000と言った巨人機に囲まれ圧巻された。
また、同空港に駐機していた最小モデルのボーニング737ですらムーにとっては大型機であり、ラ・カオスが霞むレベルだった。
「あっという間だったな...日本の技術供与のおかげで、こんなに立派な航空機を作れるようになった。現場も昼夜問わずに開発に勤しんでくれた」
マイラスの言う通り、今となっては、上記4機種以外にも空軍のC-2やC-5と言った大型軍用機と並んでも遜色ないほどに大型機に分類されるスーパー・コメットの開発に漕ぎ着け実用化できたのは、ひとえに日本の技術供与とマイラス達政府高官や現場の人間が尽力したと言っても過言ではない。
「まぁ、今回は私の仕事はほとんど無いがね」
今回編成された視察団は20~30代の若年層で占められており、それに対し年長者で経験のある数人をオブザーバーとして同行している。
彼も、その一人だ。
情報分析官の性なのだろう、キヴォトスという未知の勢力に対して、自分の目で確かめ自分の足で情報を収集するためにだ。
「キヴォトスか...聞いた話だと、日本が元いた世界とは別の選択をした平行世界の存在と聞くが、何ともオカルトチックだな」
彼はそう言いながら、日本が用意した送迎車に乗り込み、一度在日ムー大使館に寄った。
大使館で仲介役として同行する日本帝国外務省の職員と顔を合わせ、キヴォトスに関する資料と説明を受けた一行は、日本で一泊するために、帝都内のホテルに向かった。
帝国中央ホテル東京
株式会社帝国中央ホテルが運営するホテルの一つで、帝都プリンスホテル、ホテルニューヤマトと共にホテル御三家として知られる高級ホテルだ。
本館である“帝国中央ホテルタワー”は高さ300mもあり、最上階のスイートルームにマイラス達視察団団員が宿泊していた。
マイラス達は、翌日のキヴォトスで行われる会談に向けての準備や打ち合わせをしていた。
新進気鋭の若き外交官達が経験豊富な外交官に会談や立ち振る舞いなどのレクチャーをし、各分野の情報収集担当は同行してきた年長者達から、情報の取捨選択等のアドバイスを受けていた。
「まさか、キヴォトスがここまで異常な場所だとはな...」
マイラスは1人だけ、キヴォトスが転移国家である日本と違った価値観や常識を持っていることに、頭を抱えていた。
「事前に聞いてはいたし、改めて日本の外務省から説明を受けたとはいえ、やはり情報が濃すぎる...!」
あまりにも内容が濃すぎたのだ。
「本当にそうですよ。聞いた時なんて宇宙猫状態で放心してましたよ」
マイラスの部下である情報分析官は、最近知った日本のネットミームを出して自分の感情を顕にした。
「確かにな。あれは誰が聞いたって耳を疑うよ」
「治安が、かつての文明圏外国家のスラム街ま真っ青な程に悪く、もれなく住民のほとんどが銃火器から戦車までを持つ武器社会。で、それらを扱うのが“生徒”と呼ばれる、ヒト種の女子学生で幼稚園から高等教育にまで至る。その女子学生は銃や爆発も効かない強靭な身体を持ち頭にはヘイローと呼ばれる生命反応と連動してる意識的な物が浮かんでる...うん、字面だけ見ると何言ってるか分からないですね」
「本当にそうだな。しかも、銃器は銃器でも拳銃どころか毎分3000発の機関銃や対戦車ライフルを片手で軽々と持つ体力おばけときた」
「このキヴォトスを代表するキヴォトス最強格なんて恐ろしいですよ」
彼はそう言い、あるリストを出す。
そこには、キヴォトスの生徒の中でも渾名や2つ名を持つほどに誰もが認める最強の生徒達が載る名簿だった
「ゲヘナ学園の最高戦力、約束された勝利の象徴コールサイン00、歩く戦略兵器...これ、ウチの陸軍に勝ち目あります?」
「それ以外の準最強格とされてる生徒も我々から見たら最強格と大差ない。最強格も、この3人以外にも複数人いる可能性もいる考慮しないとな...陸軍が近代化してるとはいえムーどころか日本でさえも勝てるか怪しい」
マイラスと部下はリストにある最強たらしめる理由が書いてあるエピソードや証言を見ていた。
どれも、普通の人間には不可能なことばかりで頭を回していた。
「最も恐るべきは、七囚人と呼ばれる者たちです。彼女らは、最強格や準最強格と肩を並べる実力を持ち、キヴォトス内で悪名を轟かせる凶悪な犯罪者達。それが7人も矯正局と呼ばれる監獄から脱走しています。それぞれ得意としている分野で凶悪犯罪に手を染めており、破壊活動、情報操作、通商破壊...一つ間違えれば国家転覆の可能性を持っています。そんな者達をムー国内に侵入を許しでもしたら...」
部下は七囚人に懸念していた。
特に災厄の狐、五塵の獼猴、潮水の蛟龍という二つ名を持つ彼女達がムーで騒ぎでも起こしさえすれば、ムーの警察力で対応できるか不安になっていた。
「これは日本側も警戒してると聞く。特に通商破壊に関しては一番の懸念事項だそうな。日本側も海軍や海上保安隊の軍艦や巡視艦、哨戒機で警備活動を強化している」
日本は、七囚人が万が一日本国内に侵入し犯罪を起こさないように、日本の警察力強化、連邦生徒会共同での対キヴォトス人鎮圧プログラムの作成と訓練、ヴァルキューレ警察学校日本分校の設置等の対策を講じていた。
「とはいえ、彼女らは戦力として見たら喉から手が出るほど欲しいです。古の魔法帝国との戦争に備え是非とも彼女達を
興奮した部下にマイラスは待ったをかけるように話をはじめる。
「気持ちは分かるが、キヴォトスと日本との軍事同盟は防衛寄りの安全保障条約を結んでる。外部からの敵は日本が代わりに防衛して迎え撃つほどに戦争には消極的だ。それに、いくら超武器社会で簡単には死ねない身体を持ってるとはいえ、殺人に対して強い忌避感を持ってる未成年の女子学生。超武器社会なのもその体質故に喧嘩する要領で使ってるはずだ。そんな彼女らに戦後に人を殺したという罪悪感を抱かせる気か?」
彼の言う通り、生徒でも殺人に対しては強い忌避感を持っている。
彼女達が武器を使うのは、身体が頑丈で死なないから喧嘩でも容易に武器を使ってやるのも厭わないからだ。
そんな純粋な彼女達を戦争という人同士が殺し合う空間に引きずり出し、目の前で銃弾一発で死ぬ兵士、極限状態で砲弾やミサイルが落ちる音を聞き、人が焼ける匂いや臓物で当たりが血溜まりになる様相、自分を殺しにかかる殺意など...
生徒達に、人を殺したという罪悪感を背負い、戦場での光景をフラッシュバックをさせて生きるか自ら命を絶つという最悪な未来を、マイラスは想像し危惧し部下が道を踏み外さないように諭していた。
「で、でも古の魔法帝国は全世界共通の敵なんですよ?」
「君はムーの旧世界復古主義を知ってるかね?」
マイラスの問いに部下は答えた。
「3000年前に台頭した保守派閥の一つでしたっけ今は化石同然ですよね?」
ムーがこの世界に転移してからの12000年の歴史のうち、7000年は“混乱期”と呼ばれる、先住民による侵略による領土の喪失、周辺国との軋轢、魔法文明との技術格差などで混迷を迎えていた。
それらを乗り越え順応し、新生ムーとして新たな道を進み始めた“新世期”と呼ばれる時期の中期で、保守派閥の一つ“旧世界復古主義”が台頭し始めた。
現在は、この世界で完全に順応できるように学校教育が進んだことにより、鳴りを潜めているが少なからず支持している層は一定数存在している。
「そうだな。この旧世界復古主義、最初はバカにしていたが、今となっては「言われてみればそうだな」って思うようになったんだ。」
「と、言いますと?」
「所詮、この世界や住民、古の魔法帝国なんて我々転移国家からすれば縁もゆかりも無い赤の他人の騒動に巻き込まれてるだけに過ぎない」
マイラスの言葉に部下は衝撃を受けていた。
国家のために、世界のために、と仕事をしていた彼を否定するかのような発言だった。
「言っておくが、私はこの思想は完全に支持してない。そう言う意見も理解できるし、こう言う考えもあるんだなって思ってるだけだ」
旧世界復古主義は、自分達は無関係な赤の他人も同然なこの世界の国家や住民に対して、奪われ失われた自分達が協調路線を歩むことに疑問を抱き新世界の政情にたいする関与を否定し消極的になる政治思想だ。
「君の仕事は間違ってない。祖国ムーのために、この世界を率いる列強の一員として古の魔法帝国との戦争に備える」
マイラスは「ただ...」と一呼吸置き語り始める。
「それはこの世界で生きていくために、国家のために行う存本能としては活動してるからに過ぎない。我々が失って気づいたものは“変わらない日常”だろう」
「変わらない日常...」
「そうだ。旧世界復古主義は新世界に転移したことより、経済圏と地位を失い混乱期と呼ばれる国難の時代を通じ、世界の不条理さとやり場のない怒りを発散するために生まれた。経済や国際的な地位なんて後から取り返そうと思えば取り返せれる。だが、変わらない日常は取り返せれない」
マイラスの目は慈愛と悲哀の混じった瞳をしていた。
世界最古の転移国家として、自分達の先祖が歩み泥水をすすってこの世界に生きていたため、痛いほどわかっていた。
「ムーは12000年という長い年月をかけてこの世界に順応し元いた世界とは割り切ることはできた。でも、転移して間もない日本、グラ・バルカス、そしてキヴォトスはそうはいかない。彼らも旧世界での地位と経済圏、親しき者と言う変わらない日常を多く失っている」
日本とグラ・バルカスでも同様に、旧世界復古主義に似た主義は政治家や企業、個人の間で支持を集めている。
企業は優秀な人材や海外拠点、工場、サプライチェーンを失ったことにより痛手を受けていた。
しかし彼らも、この世界でも生き抜くため経済圏を広げ「元凶を打倒し経済植民地を手に入れ喪失分を補填する」という反骨精神を元に、古の魔法帝国との戦争に支持している。
だが、支持している個人層の心情は簡単には切り替えれない。
転移に巻き込まれず取り残された在外邦人の遺族や関係者の間で、広がりではこの思想は広がりをみせていた。
仕事、留学、観光など様々な理由で海外に滞在していた在外邦人の数は約400万。
家族、親戚、友人、恋人と永遠に引き離され遺族や関係者は絶望に打ちひしがれ、自殺者数増加の発端として日本が抱える社会問題となっている。
対古の魔法帝国軍事連合のICUN結成と日本帝国加盟の際も、
《なぜ、かけがえのないものを失った私達が、さも当然のように世界の一員として古の魔法帝国との戦争に備えなければいけないのか?》
と、反発する遺族達による大規模デモが国内で発生しており、反対活動や運動は今も尚続いている。
「でも、キヴォトスは長い間外界と断絶され、日本やグラ・バルカスのように外界との交流は持っていませんよ? 失う物なんてあります?」
「いや、必ずしも全員には当てはまるとは限らない。キヴォトスはその特殊な環境下で我々のような“外敵”に晒されず過ごしてきた。そんな中で、国家という巨大な生き物同士の策謀と軍靴の音が響く世界に放り込まれた。以前のような外敵に晒されない日々を過ごせれなくなるだろう...」
マイラスはキヴォトスがこれから直面するであろう苦難を乗り越えれることを信じ祈っていた。
ムーも乗り越えてきたし、日本やグラ・バルカスもいずれは乗り越えることはできる。
時間はかかってもいい、ゆっくりとどこかで割り切れることを願って。