キヴォトス召喚〜捻れて歪んだ先の分岐点〜 作:熱核戦争先生
帝都東京
内閣総理府
「伊野総理、キヴォトスと新世界国家との友好条約締結国の数が30ヶ国を超えました」
「キヴォトスが転移してから3月半は経ったのか」
児玉外務大臣の言葉を聞き、伊野は時の流れは早いと実感していた。
「今日のエストシラント通信社の朝刊のコピーです。昨日、パーパルディア共和国を代表の第三文明圏キヴォトス使節団を乗せた艦隊が出港したとの事です」
伊野は九条内閣情報大臣から渡された紙に目を通す。
首都エストシラントの海軍基地から、近代化されたパーパルディア海軍艦艇と大型魔導客船“パールネウス”号が出港する写真と記事が載った新聞だ。
「おぉ、遂に第三文明圏も乗り出したか。パーパルディアが第三文明圏代表と言うことは、あの要請が通ったのか?」
帝国外務省は、連邦生徒会外交室の外交業務の指導をしている。
指導の最近出てきた課題として、外交経験の少なさと組織としてはまだ拡充している時期であり、常にハードワークを強いられていることだ。
パーパルディア共和国含む第三文明圏ら85ヶ国の国と地域が存在し、これらの国が一斉にキヴォトスとの国交を結ぼうとすれば外交室がパンクする恐れがあり、キヴォトスと第三文明圏国家群との国交締結にはパーパルディア共和国代表での友好条約締結を要請していた。
「はい。この要請はフィルアデス大陸会議での議題として挙げられ、大東洋経済共栄圏加盟国とリーム王国を除き第三文明圏各国は要請に応じるとことに賛同しました。こればかりはパーパルディアの配慮と協力には感謝ですね」
「そうだな。後日、私から改めて感謝の意を言っとくぞ」
伊野は、秘書官に対しスケジュールに加えるように調整をお願いする。
「あとは、第一文明圏とラニアケア共栄圏、南方世界だけだが、この辺りは動きはあるか?」
伊野からの質問に、九条は内閣情報省に集まった各勢力圏の対キヴォトス外交の状況を報告する。
「第一文明圏はミリシアルとエモールを除く国では国交締結の動きが見えています。ラニアケア共栄圏はグラ・バルカスが属国や保護国の外交権を握っているため、グラ・バルカスが許可しない限りはキヴォトスとの国交締結はないです」
「今の状態だと、グラ・バルカスだけが国交を結ぶな」
「はい、幾ら科学技術が発展してるとはいえ、向こうはまだ我々にはおよびません。キヴォトスの発展具合を見た属国や保護国の反グラ・バルカス感情が高まれば、グラ・バルカスのラニアケア共栄圏運営に支障をきたすでしょう」
「南方世界はどうだ?」
「複数の現地協力者からの情報によれば、キヴォトスに関する話題は一切上がっていません。そもそも雑談の話題に上がらない程に興味を示していません」
「気持ち悪いな。アニュンリールならまだしも、保護国や独立国ですらその話題はないと?」
「はい。外交権は保護国や独立国が握っています。それでも市井の間で話題にすら上がっていません。現地協力者によると、精神操作魔法か記憶操作魔法で操作されてるように見えると推測されています」
実質的にアニュンリールが外交権を握っているよう状況であった。
「現地協力者は、その魔法にかかってないのか?」
「現地協力者は高度な魔法を扱えます。それら操作魔法の効果を打ち消す魔法で免れてるようです」
「そうか...引き続き情報収集を継続するように」
「はい」と九条は答えた。
彼は本省での仕事が残っていと言うことで内閣総理府を後にする。
「キヴォトスからの技術供与に関しての進捗はどうだ?」
「先週、日奇技術供与協定に基づき設置された審議会で早速両者が求める技術供与に関する審議が行われました。概ね、供与は前向きに見て良いです」
科学技術省の稲山高雄大臣の報告に伊野は笑顔を見せる。
「と、言うことは?」
「空中艦隊構想がようやく始動します」
これには国防総省の賀屋大臣は「やっとか...」と言う表情をしていた。
「長かったな」
「はい、5年前に構想が立ち、設計も完了し資材も確保してました。ミリシアルの消極的的な姿勢がなければ、建造は進んでたはずです」
「とはいえ、すぐには建造できないのだろ?」
伊野の答えに賀屋は予め想定していたため、空中艦隊計画本部の責任者を連れて来ており、彼に説明を任せた。
「私から説明します。設計に関して、配管・電気・通信系統は純正浮遊魔法に対応するための設計をしていました。ですので、制御区画、原子炉区画、操艦区画の設計を反重力技術に対応するため設計を変更します」
「となると、予算の追加が必要か」
大蔵省の越前明徳大臣の懸念に責任者は認める。
「重要区画の設計変更なで、そうなります。使う鋼材や部品
を変更する必要があります」
越前ら痛い出費になることに純正浮遊魔法供与を渋っていたミリシアルに恨みを感じていた。
「反重力機関に関しては、初期生産ロットとなる1個艦隊分をキヴォトスのミレニアム・ドライブ・ヤード社にて建造します。最初に納品される反重力機関は仮称第180号航空艦搭載の大出力機関です」
「第180号...戦艦か」
「はい、戦艦です」
仮称第180号航空艦と呼ばれたそれは、全長480m、全幅80m、48cm3連装電磁加速砲を4基搭載する航空戦艦で空中艦隊の砲戦能力の要となる艦である。
「第180号航空艦1隻、航空空母となる第20号計画艦1隻、ワークホースとなる航空戦闘艦の第800号艦級8隻、航空揚陸輸送艦となる第950号艦級3隻からなる1個艦隊。古の魔法帝国戦までに2個艦隊を配備し、未知領域への進出も想定し最終的には4個艦隊に増強するのが最終目標となっています」
未知領域は現在日本が把握している第一・第二・第三文明圏、南方世界以外の大陸や陸地の存在が確認されている未到達地域だ。
未到達地域への進出は日本以外も興味を持っており、グラ・バルカス帝国では原子力艦で構成された艦隊を整備している。
「そのため、国内でも反重力機関の開発や生産体制を構築するため八菱重工、石高島播磨重工、松代の
「反重力機関に関して交通運輸省からです。国内の物流会社から商用利用に関する声が上がり関心が広がりつつあります。商用利用に関してはどう考えていますか?」
交通運輸省の前川翔吾大臣の質問に、カイゼル髭と和服を着た
「それに関しては、大手重工も商用利用の航空船建造にも意欲的になっている。既に設備投資計画やウチに資金力では劣る中小関連企業からの重化学工業成長基金の申請が集まっているところだ」
「ただ、技術指導を受けそこから国産開発までには10年以上はかかります。当面はミレニアム・ドライブ・ヤード社への発注か国内でのライセンス生産が中心になるかと」
「...古の魔法帝国の復活が近い時期だが、空中艦隊の配備は間に合うのかね?」
今郷地の懸念に責任者は渋い顔をする。
「計画としては古の魔法帝国との戦いまでに2個艦隊を揃えるとは言ってましたが、遅くても建造は7ヶ月後になるかと...どんなに早くても5ヶ月しか縮まりません。復活する時期も不明なのでそれまでに間に合うかどうかは未知数です」
「ミリシアルの消極的な供与は痛手だったな。そのツケを我々や現場が払うことになるとは」
その場にいる全員が「まったくだよ...」と言う顔をする。
「おかげで第19次国防戦略計画は狂いましたよ。古の魔法帝国に恐れて世界各国が団結して備えてる中で供与に消極的なんて、自分達の首を絞めてるとしか思いません」
計画を狂わされた賀屋には少しイラつきも交じっていた。
「全く。何のためにICUNに加盟したのだか」
「国内では旧世界に取り残され邦人の遺族の反対運動で世論は五分五分に分断してるのに、さらにミリシアルの姿勢も加わり厭戦気味になっています」
国民はもちろんのこと、政府内部でも厭戦や消極的姿勢が出始めていた。
そんな中で一国の長として、国家を導き2億5000万の国民の命を背負う伊野は、その空気に飲み込まれまいと自分の仕事と下す決断をするまでだと認識を再確認し、帝国のより良い未来に案じていた。