キヴォトス召喚〜捻れて歪んだ先の分岐点〜 作:熱核戦争先生
キヴォトスが新世界に転移してから4ヶ月が経った。
新世界へ転移した際に、約1000基の人工衛星からの通信が途絶したが、今は連邦生徒会と各学園、日本帝国との協力により衛星網の再構築が進んでいた。
連邦生徒会傘下のアポロ航空宇宙学校や三大学園が所有する宇宙センターから、各種人工衛星を乗せた多段式液体燃料ロケットが一週間おきに8発打ち上げられ、日本本土でも宇宙センターや宇宙港からもキヴォトス製の人工衛星を乗せた液体燃料ロケットやNA-21単段式宇宙循環輸送機が宇宙空間に到達し、衛星軌道に人工衛星を乗せていく作業をひたすら繰り返していた。
新世界への転移と日本などの外界勢力との遭遇は、日本帝国と会談をした翌日に、連邦生徒会からの公式発表でキヴォトスの全ての住民が知ることとなる。
住民にとって、古くから外界へ行った船や飛行機がそれっきり帰ってくることはなかったり、連邦生徒会も外界周辺の航行を厳しく制限していたため、新世界へ転移したという実感は薄かった。
むしろ、彼ら彼女らにとって日本などの外界勢力との接触は、外界にも陸地や人が住んでいることに驚くか、謎に包まれた場所が解き明かされたことで安心感を覚えていた。
とは言え、一部の住民は星座の位置が違ってたり、ミレニアムやその他の研究機関の調査で惑星の規模が転移前と違っている事には把握している。
だが、多くの住民にとっては、それらの違いは些細なことだと認識し、普段と変わらない生活を送っていた。
D.U.サンクトゥムタワー
首席行政官室
リンもあいも変わらず、首席行政官室に持ち込まれる大量の書類と向き合っていた。
外交室長のトウコもその場におり、リンと面を向かい書類を渡していた。
「日本本土での会談日程ですが、決まりました」
トウコの言う会談は、日本本土にて予定されている奇日首脳会談だ。
キヴォトスが新世界に転移してから4ヶ月の間は、この世界に順応していくための期間として当面は見送られていた。
ある程度落ち着いてきたので、日本側から首脳会談開催の要請があり連邦生徒会も二つ返事で了承し、双方ともに会談に向けて準備をしていた。
「報告ありがとうございます」
リンはトウコが持ってきた首脳会談に関する内容が書かれた書類を見る。
「開催日程が今から2ヶ月後、D.U.新第三空港発で帝都国際空港着、開催場所は首都の東京でですか」
「はい。会談以外にも日本の政財界や各国大使との晩餐、東京観光、伊野総理の地元“呉市”と言う地域の観光、陸空兵器を展示している軍事博物館の見学も予定しています」
初めて踏みしめるであろう外界と言う名の地、晩餐会、見慣れない地域の観光etc...
リンの好奇心をかり立たせ期待を膨らませていた。
「分かりました。話はこのまま進めてください」
「了解です。人選に関しては、リン行政官以外はまだ決まっていませんが...」
「それについては明日の会議で決めたいと思います」
「分かりました」
「...ところで外交室長、仕事の方は慣れましたか?」
リンは先輩として、後輩でもある外交室長のトウコに近況を尋ねていた。
「そうですね...まだ学ぶことはありますが、慣れてきましたね」
トウコは笑顔で答えた。
「そうですか、それは何よりです。何か困り事とかはありませんか?」
「そうですね。今はノウハウを積むために全地域を1つの部門にまとめて対応しています。今後は日本の外務省のように地域ごとに部門を分けたいと考えています。そのために人員を確保したいところです」
現在、外交室は国交締結、視察団との会談、締結国との友好促進、情報収集は外交業務部と呼ばれる部門で一括し対応している。
トウコは日本の外務省の内部組織を参考に、大東洋外交業務部、フィルアデス外交業務部、ムー外交業務部、総合外交業務部、情報部などの部門に細分化し業務過多の回避や専門性の向上を目指している。
「分かりました。人員の拡充に関しては外交室を優先にした人事で考慮するように人材資源室長に話を通しておきます」
「ありがとうございます」
ちょうどその時、ドアをノックする音が部屋に響く。
リンが「どうぞ」と入るように促しドアが開くり
入ってきたのはカヤだった。
「防衛室長でしたか」
「おや、トウコ室長が先客でしたか」
「今終わったところですよ。お邪魔でしょうか?」
「いえいえ、聞かれたらまずいようなものではないので同席してもらっても結構ですよ」
「本題に入りましょう」とカヤはリンの机の前まで歩き資料を渡す。
「首席行政官。現在の警備体制や今後についての相談に来ました」
「警備体制ですか?」
「はい。最近、日本の商社やメーカーなど社員が、キヴォトスに来訪して企業や学園との間で商談が行われているのはご存知ですね?」
現在、日本の5大商社をはじめ、松音電機や菊虎魔法瓶などの電機メーカー、凰麟飲料やセントリーなどの飲料メーカーの社員や技術者がキヴォトスでの事業展開や取引のために来訪している。
「もちろん、把握していますが」
「ご存知の通り、この世界の人達は先生と同じヘイローを持っておりませんし身体も頑丈ではありません。銃弾が飛び交うキヴォトスで1発当たっただけでも命を落とす死地です」
「そのため現在はキヴォトスへの入国制限がかかっていますよね」
キヴォトスの治安の悪さと超武器社会は日本国民には周知の事実となっている。
そのため、国民の安全を第一にキヴォトスへの渡航は、一般人の観光目的での渡航を一切禁止し、政府から許可が出た会社員、政府関係者のみの渡航が許されている。
これに関しては、連邦生徒会も先生がエデン条約事件で瀕死になりかけていたのを知っていたため合意していた。
外務省が提供する海外安全ホームページの危険情報にはキヴォトスの危険等級は5級に分類されている。
それより上の6級があるが、限られた政府関係者のみの渡航が許された、主に戦争真っ只中の国や交戦国に対して適用される。
閑話休題
「現在、警備局や公安局から優秀な人員を選出し、日本人護衛の任に着き、訪問先の学園には風紀委員会等に任務を引き継ぐ体制をとっています。今後、このような機会がさらに増えると考えると今のヴァルキューレや各校の風紀委員会の護衛の数が不足する事は避けられません」
キヴォトスにいる日本人は、上記の大手企業の会社員、大使館職員、編成途上の在キヴォトス帝国軍三軍、基地建設に携わっている日本の建設会社の従業員を合わせると約4000人である。
今後、日本企業のキヴォトスでの事業展開や商談のために来訪する頻度や人数が増えるのは避けられない事であり、カヤたち防衛室は頭を悩ませてる。
ちなみに日本をはじめとした友好国の大使館も設置しており、現在は非戦闘地区として定められた第3業務地区の仮庁舎となっているテナントビルに入居している。
本庁舎は同地区の区画に建設中である。
「今後、日本以外の友好国からも事業展開や商談で来訪することも考えると、生活安全局に配属された元SRT生や海警局からも人員を割く必要性があります」
解体されヴァルキューレに編入学されたSRT特殊学園の生徒すらも必要なほどに人手が不足するキヴォトスの状況。
そこにリンが、先日あった要請を思い出す。
「...実は、連邦生徒議会や百鬼夜行連合学院などの観光に力を入れてる学園などからは、入国制限の大幅な緩和の要請が来ています」
「大幅な緩和と言いますと?」
カヤは恐る恐る聞く。
「現在、日本政府に許可された者しか入国が許されていません。そのハードルを下げて公的証明書と簡単な入国審査だけで入国できるように制限を緩和して欲しいようです」
百鬼夜行連合学院などの観光に力を入れている学園や企業にとって、日本人と言った新世界人が訪れることで学園の活気や莫大な経済効果を生み出すと考え入国制限の緩和を要請している。
これに関しては日本でも同様なことが起きており、航空業界や旅行業界、キヴォトスに興味を持つ一般層からも制限緩和の声が相次いでいる。
「...制限を緩和するとなると、今の護衛体制は崩壊します。それをしたいなら、キヴォトスに住む住民から武器という武器を全て取り上げて破棄しない限りは無理です」
さすがのカヤも糸目となっていた目を見開き苦言を呈していた。
「銃を持たない生徒より裸で歩いている生徒の方が、統計的に多いと言われるぐらいに銃は出回っていますし、キヴォトスのアイデンティティと言っても過言じゃありません」
トウコは少し顔を赤らめモジモジしながら語る。
「生徒のみならず、一般人やPMCも銃を保有しています。数にして、数億から数十億丁ほどには昇るかと。回収するだけでも容易ではありませんし、コストもかかります。それに銃の一切の保有を禁止してしまえば銃器メーカーや弾薬メーカーからの反発は必至です」
リンは、難しい政治判断だと頭を悩ませていた。
生徒以外にも、飲食店の壁に銃を立て掛け、各校の風紀委員会や実働部隊のみならず民間のPMCも予備として保管し、個人で銃を所要しているのも含めると、数億から数十億。
下手をすれば、ブラックマーケットに出回っている違法銃なども含めると数は増える。
そのため軍事産業もキヴォトスでは一大産業になっているため、軍産複合体のカイザーインダストリーや弾薬を作るKAZAYAMAなどからの激しい抵抗も目に見えている。
「...
リンは思わず呟いた。
これには思わず、リンのことを内心快く思ってないカヤですら同情していた。
「...事情は分かりました。ヴァルキューレへの人員拡充も含め考えましょう」
「首席行政官、ただ人を増やすだけじゃ解決しません。優秀な人材を育てるには、それ相応の訓練や現場経験、本人の資質にも左右されます。日本人の命も大事ですが、あくまでもヴァルキューレや各校の風紀委員会は学園や自生徒、キヴォトスの治安を守るために存在しています」
カヤの力説にリンはハッとする
「軽率でしたね。申し訳ありません」
「いえいえ、わかってくれただけでも十分です。人を増やしてくれるのもありがたい限りです。ただ、人を増やす以外の解決策が欲しいと言ったところです」
これに対してトウコは思いつく。
「日本と協議するのはどうでしょう?」
「その手がありましたか」
「はい。向こうも事情を考慮してくれれば何かしらの対応を考えてくれると思います。近いうちに大使館に行く予定がありますので、その時に協議しますね」
「その方向でお願いします」
リンはトウコに協議の対応を任せた。
そこからは3人で協議するために具体的な内容を考え、翌日トウコは小原と日本大使を交えた協議に挑んだ。