キヴォトス召喚〜捻れて歪んだ先の分岐点〜 作:熱核戦争先生
戦艦信濃
信濃のレーダー・ソナー・通信などの戦闘情報が集約し、信濃の戦闘指揮・発令を行う重要区画。
CICはNCM鋼が分厚い艦中央部のバイタルパートに位置し、操作系統が集約している航海艦橋が破壊されてもCICの予備操縦システムが備わっており戦闘・航行共に影響が出ないように設計されており51cm3連装砲塔と艦橋に次ぐ頑丈さを持つ区画だ。
「レーダーに感あり!目標方位90度、目標との距離150マイル、数2、飛行物体が本艦隊に向けて接近中!」
レーダーを見張っていた電測員がCIC内に響くように伝える。
CICを統括する長い黒髪をポニーテールに結えた西条海来海軍少佐はすぐに飛行物体にIFFの応答を確認するように指示した。
「方角からして例の欧州大陸からね。IFFに反応は?」
「IFF、ATCトランスポンダ共に反応無し。アンノウンです!」
西条は壁に設置されているレーダースクリーンに視線を向ける。
レーダースクリーンには信濃に向けて接近する飛行物体2つの光点が映し出され上には「UNKNOWN」と表示されていた。
「無線でも呼びかけて。使える周波数帯全てを使用。当該機が応答するまで続けて」
同じ地球から転移してきた大陸という事もあり同胞がいる事を想定し
しかし...。
「目標からの応答、確認できず!」
「念の為中央・南方・アスガルズでも呼びかけて」
西条はこの世界で使われている各陣営の共通周波数帯での呼びかけにも試した。
中央・南方・ラニアケアと呼ばれたそれらは、最古の列強であり未だに影響を与える神聖ミリシアル帝国が属する中央世界で使われている
「西条室長、目標との相対速度は約400ノットです」
電測員が西条に所属不明機の飛行速度を伝えた。
「亜音速機クラスと言う事は我々と“同等”と言う事ね」
西条はCIC内にある艦内通信機を手に取り航海艦橋に居る蕪木に連絡を取る。
航海艦橋では艦内通信機からの連絡が来て航海長が手に取った。
「こちら航海艦橋。何?それは本当か?」
航海長はCICから来た連絡内容を蕪木に伝える。
「蕪木艦長、方位90度、距離150マイルから所属不明の亜音速機2機がこちらに向かって飛行しているとCICから報告がありました」
「所属不明だと?」
「IFF・ATC共に反応なし。無線も大東洋・中央・南方・ラニアケアの4周波数帯で呼びかけていますがこちらも反応がありません。どうします?」
報告を受けた蕪木は「遂に来たか」と顔をニヤつかせる。
「亜音速機と言う事は戦闘機でしょうか」
「我々が転移した時はトウカイとアマツミカで周辺海域を捜索してたから哨戒機かもしれんな」
トウカイとアマツミカは河崎重工業が開発した国産対潜哨戒機だ。
トウカイことP−1C対潜哨戒機はターボファンエンジン4基を搭載した低翼タイプの機体でロッキンド・マーティル社のP–2J対潜哨戒機の後継機。
C型は機首と尾部の大型化により機体全長が4mに延長し、搭載しているターボファンエンジンの高性能化による巡航速度の向上と航続距離の長距離化、軽量複合素材を多用し機体の軽量化、無人機と連携するための指揮通信システムを搭載しておりA型やB型より性能が向上し任務が多様化している。
アマツミカことP–2A対潜哨戒機はP–1C同様のターボファンエンジン4基を搭載しているが主翼が可変翼になっており低速域での対潜作戦と空中哨戒、高速域での空域展開と対艦攻撃を可能とし爆撃機のような性能を有した「現代の陸攻」と言う異名を持つ機体だ。
「IFFや無線に反応がないと言う事は直接確認するしかないな。冲鷹に艦載機の発艦準備を。それと航海長、西条少佐にモールス信号での通信も試させてくれ」
高度4000m。
ヴァルキューレ警察学校D.U.シラトリ分校の海警局第1航空学科所属ウミネコ飛行隊の大型哨戒機スペクター2機がアブレスト隊形で飛行していた。
濃水色と白の塗装が入った胴体と主翼にはルーン文字を思わせるヴァルキューレの校章と
“彼女ら”が搭乗するスペクターはカイザーインダストリーが海警局の要望を基に開発した大型哨戒機だ。
正式名称“第3号ヴァルキューレ制式大型哨戒機スペクター”は、ターボファンエンジン4基を搭載した最新鋭機だ。
状況に応じて胴体下部のウェポンベイを対潜爆弾・魚雷を格納する爆弾倉と小型無人機を射出する射出装置への換装が可能となっている。
哨戒型のスペクター以外にも画像情報収集型の“オリオン”、カイザーPMC向け早期警戒型の“パンドッグ”、ミレニアムサイエンススクールの海洋大気研究部向けの気象観測型“オヒサマ君”などの派生型が幾つか配備されている。
閑話休題。
ウミネコ飛行隊のフライト・リーダー機の機内でレーダー担当の岬モナがレーダースクリーンに反応が出ている事に気づく。
「キョウコちゃん、レーダーに反応が出たよ。ワタツミが探知した件の艦隊だと思うよ」
モナの報告に編隊長兼機長の折出キョウコが操縦席内にあるレーダースクリーンを確認した。
モナが扱うレーダースクリーンよりは簡素であはる物の西の方からキヴォトスを目指し進行している10個の光点が表示されていた。
「ありがとうモナ」
キョウコはモナに礼をインカムで他の機体にレーダーに反応がないかを確認した。
「リーダー機から2番機へ。レーダーに反応が出たんだけど、そっちのレーダー写っている?」
『はいはい2番機。こっちのレーダーにも写ってるから』
キョウコの問いに2番機機長からの返答が返ってくる。
「了解、ありがとう」
「外界方面からの艦隊...外界の謎が解けるんですね。楽しみです」
キョウコの隣の操縦席に座る副編隊長兼副機長の吉江ハナが目を輝かせていた。
「...外界からの来訪者がキヴォトスにもたらすものは果たして光か闇か」
そんなハナとは反対にキョウコはキヴォトスの行く末に案じていた。
「キョウコちゃん、件の艦隊に無線で呼びかけてるけど応答ないよ」
航法・通信担当の相原ヨシホがキョウコに件の艦隊からの呼びかけがないと報告する。
「旧キヴォトス共通周波数帯もか?」
「うん、全く。とりあえず、いろんな周波数帯を使って呼びかけてみるよ」
「お願いね」
ヨシホは件の艦隊への無線での呼びかけに何度も試していた。
そんな中、モナが慌ただしくキョウコに報告をしてきた。
「キョウコちゃん、レーダーに新たな反応!こっちに向かってくる物体あり!方位270、距離50km、あと数分でコンタクトするよ!」
モナのさっきまで落ち着いてた時と打って変わって悲鳴に似た報告だった。
彼女からの報告を受け取ったキョウコはすぐにレーダースクリーンを確認した。
レーダースクリーンに2つの光点が凄まじい速度で接近していた。
「なんで今まで気づかなかったの!?まさかステルス機か!?」
キョウコは狼狽しながらも編隊長としての役割を果たすためインカムで指示を飛ばした。
「リーダー機から2番機へ。こちらに向かってくる飛行物体を確認!接触に備え警戒監視を強化して!」
キョウコからの指示を受け取った2番機機長はソナー担当や哨戒調整担当などの生徒に目視での警戒監視を指示した。
「ヨシホ!ワタツミに所属不明の飛行物体が接近してる事を伝えて!」
「わ、わかった!」
その時は来た。
『2番機、飛行物体を確認!』
キョウコはハナに操縦を預け双眼鏡を手に取り確認する。
どこにいるかわからずにいたがしばらくして件の飛行物体を見つけた。
既に双眼鏡なしでも視認できるとことまで近づいていた。
飛行物体はウミネコ飛行隊の横をすり抜けるように轟音を響かせながら後ろへ通り過ぎ旋回しながらウミネコ飛行隊と併走していた。
キョウコは併走している飛行物体の観察を始めた。
「キョウコ、飛行物体はどんな感じです?」
操縦しているハナの質問にキョウコは答えた。
「そうだね。飛行物体の形状はノッペリしたステルス戦闘機。色は艶のないグレーを基調とした塗装。水平尾翼がない無尾翼タイプ。組織の所属を表すマークは白縁が入った赤い日の丸。部隊マークは雉がミサイルらしき物体を足で掴んでるね」
キョウコの言う通り、併走している飛行物体はステルス性を意識し平面の全てが垂直となるように付けられた角度とコーナーリフレクターに、曇り空や霞んだ空に溶け込み視認性を低くするグレー塗装、空気抵抗を低減させ水平尾翼を省いた無尾翼ステルス戦闘機だ。
機首の横には飛行物体が所属している組織を表すマークは日の丸だけのシンプルなデザインと、垂直尾翼には組織を表す日の丸とは別に所属する部隊を表す部隊マークが描かれていた。
「あっ、翼をバンクしてる。敵意が無いってことかな」
キョウコは目の前の戦闘機がバンクをしていた。
「ステルス戦闘機なんてキヴォトスじゃ最近になって開発が盛んになった代物。カイザーのステルス戦闘機開発事業で製作された試作機が1ヶ月前に飛行したばかりだし」
キョウコの言葉を聞きハナは憶測を立てた。
「つまり、あのステルス戦闘機は実戦に投入できるほどの技術力と組織力を持つ勢力がキヴォトスの外界に居ると言う事ですか?」
「そうなるね。ついでに言えばステルス戦闘機の価格は非ステルス戦闘機5〜7機分の価格になる。見た感じ攻撃してくる様子もないしこっちに向かってくる艦隊のレーダーが私達を捉えて偵察で来たんじゃないかな?」
キョウコからステルス戦闘機1機のおおよその値段を聞きハナは目を丸くした。
「あんな高額装備を揃えるほどの財力があって。ウチなんか毎年予算カツカツで弾薬も装備も装備の更新もままならないのに...羨ましいです」
ハナが羨望する中艦隊との通信を試みていたヨシホから進展があったと報告が来る。
「キョウコ、件の艦隊からモールス信号があったよ!」
信濃のレーダーが探知した所属不明機と接触すべく軽空母冲鷹の第27戦闘攻撃飛行隊“ランガード”所属のF−3B戦闘機2機は所属不明機の飛行隊と併走しながら飛行していた。
F−3B戦闘機“ライジング・イーグル”は“共通先進戦術戦闘機計画”によって開発・配備されたF−3戦闘機の艦載型だ。
超音速巡航能力を持つターボファンエンジン2基を搭載し高いステルス性能、高機動性能、STOL性能を有し空中格闘戦闘能力と隠密空対地攻撃を得意とし帝国空軍のF−15JE/JFや帝国海軍のF−14JDの制空戦闘や艦隊防空を超え戦域全体を支配する航空支配戦闘機である。
空を支配する鷹を操るランガードのパイロットは併走する2機の所属不明機を見て困惑していた。
「なんで、P−1がおるんだ?」
ランガード3のTACネームを持つパイロットは目の前にいる所属不明機の姿が帝国海軍のP−1Cに酷似している事にハテナを浮かべていた。
『特徴的な機首に丸み帯びたジェットエンジン。確かにトウカイに似てるな』
僚機のランガード4のパイロットは記憶にあるP−1Cの特徴と合致している事を認めた。
「ランガード4、確か視力良かったな?悪いがあのP−1ゴトキを観察してくないか」
ランガード3は部隊内で視力が一番高いランガード4に確認するようにお願いをした。
『ランガード4、コピー』
ランガード4は了承し併走している所属不明機の観察を始める。
『幾何学的な紋章にK.S.P.Dのアルファベット…恐らく何かしらの組織の省略した物と思われる。尾翼には可愛い部隊マークがあるな』
「ランガード4、P−1ゴトキのコックピットの様子はどうだ?」
『んー。人らしき物がこっちの様子を伺ってるな。見た感じ中高生ぐらいの女の子だ』
中高生と女の子の言葉に反応したランガード3はJHMCSと酸素マスクの下でネットリした顔をする。
「JCかJKがP−1ゴトキを操ってるのか?良い絵になるねぇ。とりあえず、向こうさんにバンクしとくか」
敵意がない事を伝えるためF−3Bの主翼を左右に3回振る動作をした。
互いに通信が通じない状況下で敵意がない事を伝える最善な方法だ。
「おや、バンクを返してきた。向こうさんも敵意はないと言う事か」
所属不明機も同様に敵意がない事を伝えるためバンクを返してきた。
『ランガード3、艦隊からの新たな指示が出た。正体が判明するまで監視せよ、だ』
ランガード4からの通信が入りランガード3は了承する。
「ランガード3、コピー」
2機のF−3Bは警戒しながらも所属不明機と併走していた。
しばらくしてから信濃から新たな通信が入り彼らは目の前にいる所属不明機の正体が判明した事を知らされた。
『こちらはヴァルキューレ警察学校海警局の折出キョウコです。キヴォトスへの航行目的を教えてください』
キヴォトスと異世界の接触は捻れて歪んだ先の分岐点の始まりを意味した。