キヴォトス召喚〜捻れて歪んだ先の分岐点〜   作:熱核戦争先生

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2章 方舟と太陽
東京とD.U.


日本帝国首都東京

内閣総理府欧州大陸転移調査委員会

 

内閣官房の補佐、重要政策の企画・調整を行う内閣総理府に転移してきた欧州大陸と関連する災害等を調査する“欧州大陸転移調査委員会”が設置されていた。

最初こそ対策会議として設置されていたが、欧州大陸が転移してきた事が判明し現在の調査委員会に変更した。

 

「伊野総理、欧州大陸派遣艦隊より続報です。転移してきたのは欧州にあらず、と」

 

調査委員会のメンバーである賀屋一香国防大臣が国防総省から来た一報を伊野直也内閣総理大臣や他の委員会メンバーに伝える。

 

「欧州じゃないだと?」

 

伊野をはじめ多くのメンバーはその矛盾した内容に動揺を隠せなかった。

 

「国防大臣、なら目の前に写っているヨーロッパ大陸は何なんです?」

 

石原瑠莞輔大東洋共栄大臣が目の前の大型スクリーンに映し出されている転移してきた欧州大陸の画像を指す。

 

「確かに姿形も我々が知る欧州大陸ではあります。しかし、この地を支配する勢力が我々が知るいずれの欧州諸国ではないとの事です」

 

「欧州諸国ではない?」

 

「はい。この地を支配する勢力の名は“キヴォトス”と呼ばれる巨大学園都市との事です」

 

「キヴォトス...欧州にそんな国家ありました?」

 

歌住桜花国家総力戦研究室長が聞き覚えのない地名に首を傾げた。

 

「キヴォトスと言う単語...と言うよりは地名ですが、ギリシャ共和国の西マケドニア地方グレヴェナ県にその名を冠した村があったぐらいです。また、キヴォトスはギリシャ語で“方船”と言う意味もあります」

 

児玉千畝外務大臣がキヴォトスと言う単語に関しての補足説明をする。

 

「なるほど。方船の意味を持つ名前を付けるぐらい向こうで何かしらの事件があったのでしょうか。まるでアーク合衆国みたいですね」

 

歌住は日本帝国転移によって起きた地球での世界情勢が変化しているのではと考えていた。

転移に巻き込まれた在日外国人によって建国されたアーク合衆国の国名も旧約聖書の“ノアの方舟”から来ている。

計画名であった“ 旧地球諸国民連合国家(Former United Nations of Earth)”のアクロニムが“ FUNE(船/舟)”である事から、ノアの方舟が大洪水と言う災害を乗り切り種を保存したように、旧地球諸国の文化や歴史を保護し後世に伝える方舟として名前が付けられた。

 

「可能性はあります。理研による分析結果では帝国が転移したことにより米中冷戦、欧州有事などが高い確率で発生すると神戸の“道真”が答えを出しています」

 

賀屋は答える。

道真と呼ばれたそれは理化学研究機構が保有する世界最速のスーパーコンピュータだ。

道真は富嶽の後継機種としてFUJIJYOU(富士情報通信株式会社)と科学技術省が開発したスーパーコンピュータで、計算速度は富嶽の44京回に対し道真は2000京回の性能を有する。

本来、道真は5000京回の計算速度、AIとシミュレーション、リアルタイムデータや自動実験を組み合わせた計算基盤、半導体技術の進化に合わせた拡張性を目指し開発が進められていたが、日本が転移した事による科学技術の停滞の影響で“真正道真”の開発が難航。

これに困ったFUJIJYOUと科学技術省は、今の技術で開発可能なスーパーコンピュータを実用化させることで妥協し道真が実用化。

道真は兵庫県神戸市の神戸研究所、神奈川県横浜市の横浜研究所、北海道札幌市の札幌研究所の3ヶ所に設置されており今日に至るまで技術開発や魔法開発などあらゆる分野で活用されてきた。

本来の性能を発揮するはずだった真正道真の実用化は先の話である。

 

「下手したら全面熱核戦争で世界が崩壊してる上向こうでは相当な時間が経っているかもしれんな」

 

伊野は全面熱核戦争とウラシマ効果による地球の情勢が劇的に変化していると言う最悪な事態を想定していた。

 

「賀屋大臣。キヴォトスに派遣されている艦隊指揮官は誰だ?」

 

「はい。現在、キヴォトスへ派遣されている派遣艦隊は横須賀所属の第2艦隊。艦隊指揮官は第1水上打撃群所属原子力戦艦信濃艦長の蕪木少将です」

 

伊野はそれを聞き賀屋にある事を伝える。

 

「分かった。賀屋大臣、蕪木少将に外交団へ新興国家として接するようにと伝えてくれ」

 

 


キヴォトスD.U.

サンクトゥムタワー

 

キヴォトスのメガストラクチャーの一つであるサンクトゥムタワーはキヴォトス全体を管理する制御システムであり、キヴォトスの全行政を担う連邦生徒会の本部庁舎でもある。

 

サンクトゥムタワー内にある生徒会室に連邦生徒会長を除く首席行政官と各室長が人工衛星の喪失、外界からの来訪者などに対応していた。

 

「日本帝国海軍…相手はそう名乗っていたのですか。防衛室長」

 

連邦生徒会長代行兼首席行政官の七神リンが防衛室長の不知火カヤからの報告に耳を傾けていた。

 

「えぇ、首席行政官。海警局の洋上監視機がモールス信号を受信して内容を解読した事で分かりました」

 

リンは目の前にタブレットに映し出されていた日本帝国の情報を読んでいた。

 

「カヤ室長、日本帝国海軍がここキヴォトスへ目指している理由は何かしら」

 

財務室長の扇喜アオイがカヤに質問する。

 

「彼らの上位組織である日本帝国政府の命令で、艦隊を用いてキヴォトスの地質や実態の調査と私達現地勢力との接触が理由のようです」

 

「なるほど。彼らは今どこに?」

 

「現在、日本帝国海軍艦隊は付近に展開していた海警局水上部隊と接触するため、指定された合流地点を目指している途中です」

 

「そう。ありがとう、カヤ室長」

 

「とんでもありません♪」

 

カヤは笑みを浮かべアオイからの感謝の言葉を受け止めた。

 

「アユム、先生は何時キヴォトスへ到着しますか?」

 

リンの問い掛けに調停室長の岩櫃アユムが自身の業務用スマホを取り出し画面を見る。

画面には先生とのモモトークのチャット欄が表示されていた。

 

「は、はい。先生は1時間前に K.C.B.R.(キヴォトス横断弾丸列車)でレッドウィンター連邦学園のマリナ保安委員長と親衛隊員の生徒さん達と一緒に乗車してキヴォトスへ向かっている途中です。到着まではあと5時間かかるそうですが、人工衛星喪失の影響で遅れるかもしれないとの事です」

 

交通室の由良木モモカが明太ポテチを食べながら自身のタブレットに目を入れていた。

 

「先生が乗ってるのって正午ちょうどのレッドウィンターおひげ中央駅発のトリニティ行きだね。先生が降車するD.U.中央駅は6時ぐらいに着くけど、人工衛星喪失で交通関連にも影響出てるから遅れるかもしれないよ。ま、今のところ事故や銃撃戦が起きてるって情報はないから大丈夫そうだけど」

 

レッドウィンターに出張していた先生は連邦生徒会からの要請を受けて、レッドウィンターでの用事を早々に切り上げた。

本来ならば“レッドウィンターおひげ空港”で飛行機に乗ってD.U.まで一っ飛びだが、人工衛星喪失でキヴォトスの全空域の飛行が制限されており、比較的安全で速いK.C.B.R.と言う日本の新幹線に相当する高速鉄道に乗ってD.U.を目指していた。

その道中での銃撃戦や襲撃に備えレッドウィンターの池倉マリナと親衛隊員数名が先生の護衛に付いている。

 

「分かりました。先生には道中気をつけて来るように伝えてください」

 

「は、はい」

 

アユムはリンからの事付けを先生に伝えるためモモトークを送信した。

 

「リン行政官。日本帝国と接触した後どうするつもり?」

 

アオイの言葉にリンを除く生徒達が注視する。

日本帝国と接触した後の対応は誰もが気になっている議題だ。

 

「...今は何とも言えません。相手の出方次第で決めようかと思います。意思疎通が可能なので交流も視野に入れています」

 

「彼らとの交流?」

 

「はい」

 

「そう。でもこれだけは覚えていて。貴女は連邦生徒会長じゃない。単なる行政官で代行の腕章を付けてるだけにすぎないわ」

 

リンとアオイとの間に空気がピリつく。

この2人は連邦生徒会内では対立関係である。

失踪した連邦生徒会長の超人と言われるほど高い能力を持ち強大な権限を持っていた。

連邦生徒会長の代行としてリンがその役割を引き継いでいるが、連邦生徒会長のような超人でもなければ代行と言う腕章を付けただけの一行政官に過ぎない彼女が強権を振りかざす事にアオイは良しとしてなかった。

 

その空気に絶えれなかったモモカが退室しようとするがそれをアユムが阻止していた。

 

「重々承知しています。しかし、今回の案件は前例が無く責任の所在があやふやです」

 

日本帝国の出現はキヴォトスにとって前例のない事態である。

彼らがキヴォトスに対して敵対的であったら防衛室がその権限を握り対処するが、意思疎通が可能な上キヴォトスに対して敵対的ではなかった。

更に外務省のような外国とのやり取りを所管する行政室が無いため、現在の連邦生徒会で対応するのは非常に困難であった。

 

「ですので私達連邦生徒、各学園、連邦生徒議会との三者協議の上で彼らとの交流を持ちたいと思ってます」

 

リンの言葉にアオイは彼女が強権を振りかざす事態にならなかった事に少しホッとし話を切り上げる事にした。

 

「そう...それなら良いわ。私からはこれ以上言う事はないわ」

 

そしてアオイは目の前に置いている自身のタブレットに視線を向け、タブレットの中にある“手段”を行使するのはしばらく先だろうと考えていた。

 

「...少しは休みなさい」

 

アオイは誰にも聞こえないように独り言を呟く。

 

「アユム、各学園と連邦生徒議会に情報共有を」

 

リン達連邦生徒会も行動に移る。

 

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