アスランとニコルの様子を知りたいという感想が多かったので……。
極東連邦捕虜収容所のいくつかは本土より300キロ離れており、観光名所にもなってない小さな孤島に設置されていた。そのうちの一つは極東連邦設立の前である西暦時代に性別関係なく重犯罪者を一箇所に集める事を目的とした刑務所が設置されていた場所であったが、再構築戦争が始まる前に刑務所の老朽化にともない取り壊された。連合・プラント大戦が始まるまでは極東連邦海軍の小規模な哨戒基地が一つあり、後は数百名の島民が静かに暮らしてる静かな島という印象が強い場所であった。
現在はプラントとの戦争が始まった為に急遽捕虜収容所が作られ、それに伴い島の守りも厳重となった。かつては哨戒用のヘリコプターや哨戒艇が数えるほどしかない小規模な基地であったが、現在は海軍から本格的な戦闘艦であるイージス巡洋艦も配備され、水陸両用MSであるハイゴックやズゴックEが配備されて、本土から捕虜が逃げ出さない為に歩兵が数百名が派遣される事が決定すると規模に見合う様に哨戒基地も大規模に改修された。
そんな捕虜収容所に北アフリカ攻防戦で捕虜となったアスランとニコルがいた。
「ここにいましたかアスラン」
「ああニコルか、どうしたんだ?」
捕虜収容所の図書室で読書をしていたアスランにニコルは静かに声をかけた。
北アフリカ攻防戦で捕虜となった彼等は大きい怪我こそなかったが、それでも武が操縦するゲシュペンスト・ラーゼンのジェット・ファントムによる連撃と、グルンガストの凄まじいパワーで殴られた事により、物理に強いPS装甲に守られてるとはいえ、衝撃までは分散は出来なかったのであらゆる方向に凄まじい衝撃とGが掛かった為に全身が捻挫と打撲となって、しばらくは軍病院で安静にしていたが、怪我が完治した後にこの捕虜収容所に収監された。
最初二人は捕虜となった事でどの様に扱われるか、自分達は最高評議会の息子と極東連邦に知れ渡っているから他のザフト兵でも知らない情報を持っていると考えて、下手したら拷問をされるのかと警戒心が高かったが、二人は普通に尋問されて終わった。
この結果に「え?」と、不思議そうにした二人だったが、そんな二人の様子に尋問を担当した極東連邦の担当官は苦笑いしながら二人に説明した。
「君達の様にナチュラルは人権を無視した取り調べをするって考えてるザフト兵は一定数いるんだよね。そもそも捕虜の拷問は国際法で禁止されてるし、何より裏がない君たちの様な子供にする必要性がないからね」
そこから捕虜収容所での暮らしは思っていた以上に自由であり、収容所の中で問題さえ起こさなければスポーツ、読書、ゲーム、映画といった娯楽を楽しんでも問題ないといった感じであり、あまりの自由に二人は最初は戸惑いを隠せなかった。
流石に消灯時間の22時以降の活動は余程の事情がなければ禁止されているが、それでも捕虜となったザフト兵達は収容所の暮らしに不満はないようであり、アスランもニコルも暮らしていくうちに捕虜収容所の暮らしに慣れて今では自由に暮らしていた。
アスランとニコルがいる捕虜収容所は捕虜となった時の取り調べで、脱走する心配がない、捕虜同士で揉め事を起こす心配がないと判断された捕虜達であるため他の捕虜収容所と比べて自由が約束されている。アスランもニコルも揉め事を起こすタイプではないと判断されてはいるが、それ以上に二人がプラント最高評議会議員の息子という事もあって、政府より他の赤服と同じような扱いはするなと通達されて、アスランとニコルには指揮官クラスの捕虜と同じ様に個室が与えられている。
因みに極東連邦に限らず地球連合は、ザフト兵を捕虜にした場合の扱いに関しては最初は頭を悩ませていた。
理由としてはザフトは軍隊ではなく義勇軍に近い為に階級が存在しないからである。
一応は制服の色によって一般兵が緑、エリート兵が赤服といった様に分ける事も出来るが、それでも一兵卒、下士官、士官、高級士官と分かる様な細かな階級がザフトに存在しない為に連合はザフト兵に対する扱いに四苦八苦していた。
そのため、地球連合は勢力によって扱いは細かな違いこそあるが、極東連邦では緑服・赤服のザフト兵は同じ扱いにし、赤服・緑服のザフト兵には大勢が寝泊まりする共同部屋が提供され、ザフトの指揮官の副官の立場である黒服は六畳ほどの広さの部屋で二人で寝泊まりし、ザフトのトップというべき白服は部屋の広さは黒服と同じたが個室が与えられている。そのためアスランとニコルは赤服という立場でありながら個室が与えられてる事は二人が極東連邦でVIP待遇を受けている証拠であった。
「実は所長がピアノのコンサートを開く事を許可してくれました。その事を伝えたくて」
「ついに許可されたのか?」
「はい、島民の皆さんも聞きに来てくれる様なので気合いが入りますね」
この捕虜収容所には楽器を演奏する音楽室もあるため、ニコルは捕虜収容所の暮らしに慣れてからは毎日音楽室でピアノを弾いている。しばらくしてニコルは無理を承知で捕虜収容所の所長にピアノのコンサートを開きたい事を進言していた。
捕虜収容所の所長は最初は難色を示したが最終的に許可を出した。許可した理由はニコルが脱走する心配もないことは捕虜収容所の生活態度を見れば分かり、更に彼の優しい人柄と少女と見間違う程の美少年という事もあって女性兵士達の人気は日に日に増し最近はファンクラブも出来て人気は更に急上昇していてこの離島に駐屯する殆どの女性兵士達がピアノコンサートに賛成した事が理由であった。
ニコルがピアノのコンサートを開きたいと分かると女性兵士達を中心に賛成の署名活動が活発化し、それに触発されて他の男性兵士達も賛成に回った。
男性兵士まで賛成に回った理由としては本土から数百キロは離れてる孤島である捕虜収容所があるこの島にマトモな娯楽施設はない。ここに配属された極東連邦の兵士達は本土の様に気楽に通える娯楽施設がないため兵士達は娯楽に飢えていた。そんな娯楽に飢えていた時にプラントで有名なプロピアニストであるニコルがコンサートを開くと聞いて兵士達は賛成に回ったのだ。
「それは良かったじゃないか」
アスランがそう答えるとニコルも「はい」と、笑顔に答えるのであった。
なおアスランは、この捕虜収容所に来た当初はプラントの常識とは違うナチュラルとコーディネイターの関係に軽いカルチャーショックを受けていた。無論、彼もプラントのコーディネイターの大勢が認識しているナチュラルが野蛮で下等という考えは間違っている事は理解している。
母の友人で、幼馴染で親友のキラの母親であるカリダ・ヤマトはナチュラルであった。自分がコーディネイターと分かっていても、そんな事を気にせず多忙な父と母が家にいない事が多くて月面都市に留学していた時はヤマト家に居候しており、そんなアスランを息子のキラと同様に愛情を注いで接してくれていた。その様に愛情深く接してくれた事もあってアスランにとってカリダ・ヤマトは第二の母親であり、母親であるレノア・ザラと同様に敬愛していた。
コーディネイターであっても関係ないと自分に愛情を注いでくれたヤマト夫妻の存在を知っているアスランであったが、コーディネイター排除を理念に掲げるブルーコスモスの蛮行のニュースは毎日の様に報道され、極め付けはユニウスセブンに核ミサイルを撃った事で自分の母親の命を奪ったのはブルーコスモスシンパの地球連合によるものであった為に、ヤマト夫妻が特別なだけで、ナチュラルの多くはコーディネイターを敵視しているとアスランは思っていた。
だが、極東連邦ではコーディネイターもナチュラルの社会で普通に生活しているらしい。少なからず差別はあるが、だからといって生活に困るほどでもないため気にならないレベルとの事だ。実際に自分は周りにコーディネイターと教えなければナチュラルと勘違いされていたと親しくなった捕虜収容所の極東連邦の警備兵に教えられた。
それはどうしてだ?ナチュラルとコーディネイターでは才能という点でコーディネイターと差があり、自分も幼少期はキラと同様に月面都市の幼年学校でコーディネイターとバレない様に苦労しながらナチュラルに合わせて生活していた為に不思議に思っていた。
そんなアスランの疑問に自分がコーディネイターだと教えてくれた警備兵に尋ねると……。
「俺達地球出身のコーディネイターの多くはプラントのコーディネイターの様に高い金を払ってコーディネイトされないで生まれたコーディネイターが多いからさ、俺もコーディネイターだがナチュラルより少し健康ってだけで後はナチュラルと大差はねえよ」
「プラントのコーディネイターはよく勘違いしてるけど、コーディネイターだからって全ての素質がナチュラルより優れて生まれるわけじゃねえからな」
「君は根は真面目で優しいからあんまりこんな事は言いたくねえけど、地球出身のコーディネイターの多くは、プラントのコーディネイターをあんまり良く思ってないぜ」
「何故かって、自分達プラントのコーディネイターがコーディネイターの代表で、コーディネイターの心情の代弁者扱いされたら良い印象は抱かないよ」
アスランはキラと同様に地球軍に協力するコーディネイターがいる事に驚いたが、それ以上にプラントではコーディネイターの権利を守る為に、コーディネイターが普通に生活が出来る様にプラントの独立を目指して戦っていると信じて戦っていたのに地球出身のコーディネイター達はプラントのコーディネイターを良く思っていない事に衝撃を受けていた。
それからアスランはナチュラルとコーディネイターの違いはなんなのか?と、考える事が多くなった。
地球ではナチュラルと大差がないコーディネイターが数億人住んでいる。
地球出身のコーディネイターの多くはコーディネイターと自分から言わなければナチュラル達は彼らをコーディネイターと認識しないで普通にナチュラルと認識しており、問題なくナチュラルの社会で暮らしている。
歪ではあるが、この様な関係もある種の共存共栄ではないかと思い、今は亡き母であるレノア・ザラはコーディネイターについて「ただ入れ物が大きくなっただけよ」とアスランに答え、ナチュラルとコーディネイターに明確な差はないと教えてくれた。
そして極東連邦の兵士達も母と同様にナチュラルとコーディネイターの違いに対してあまり気にしていない。
しかし、本国のコーディネイター達は父と同様にコーディネイターを特別視して、自分達を新人類と称してナチュラルを見下しているコーディネイターも多い、そのナチュラル達もプラントのコーディネイターの才能に嫉妬して迫害するナチュラルも多く存在する。
(本当にコーディネイターとナチュラルってなんなんだろうな……)
アスランはプラントの常識とされていたナチュラルとコーディネイターとの関係が絶対ではない事を極東連邦軍の捕虜となってから知る様になり、それからコーディネイターとナチュラルとの違いについて深く考える様になり、答えのない問題を解いている事に分かっていながらも、ナチュラルとコーディネイターについて今日も考えるのであった。
なお、ニコルが提案した捕虜収容所のピアノのコンサートは大成功を納めて捕虜達は無論、島民や極東連邦兵士達からも大絶賛された。その様子を島民の誰かが録画して、動画投稿サイトに掲載されて世界中にその様子が拡散されてニコルのピアニストとしての腕前と、兵士とは思えない美少女と見間違う程の美少年という事もあって母性本能が刺激されて年上の女性達を中心に地球でも人気が急上昇し、ニコルはプラントだけでなく、地球でも注目される人気のピアニストになったのであった。
そして、ニコルの両親は息子のニコルが地球連合で捕虜になったと報告を受けた時は常にニコルが地球連合の捕虜収容所で酷いことをされてないかと心配していたが、そのニコルが捕虜収容所の中ではあるが、笑顔で大好きなピアノを弾いている様子を確認すると息子が無事と分かってアマルフィ夫婦は号泣した。