オーブに侵攻したザフトのMS部隊の一つであるジュール隊の離反をキッカケにMS部隊を含めた幾つかの部隊がザフトを離反してオーブ軍の味方についた事もあってオーブに侵攻していたザフト軍は混乱に陥り、ザフト軍有利に進んでいた戦局もザフトの離反部隊によってオーブ軍は形勢を逆転する事に成功した。
幾つかの部隊が離反したという想定外の事態に混乱するザフト艦隊司令官だが、しかし勝機がなくなった訳ではない。
それはザフト艦隊には予備部隊がいくつか待機させていたからだ。しかし、ザフト艦隊の司令官は残している予備部隊を使う事に躊躇していた。
それはパナマの悲劇を起こした問題児がかなり混ざっているMS部隊であるため投入したくなかったからだ。しかし、離反したMS部隊がオーブ軍の味方について劣勢になっているのも事実であり、オーブ侵攻軍のザフト艦隊司令官は温存していたMS部隊を全て導入する事を決定した。
温存していたMS部隊は徴兵されて今回が初陣のザフト兵の比率が多く、更に先の作戦で虐殺を実行したザフト兵も混ざっている部隊で構成されているため、既存の部隊と上手く連携が取れるか不安があるため今まで投入を出し惜しみしていたが、オーブ侵攻に参加しているMS部隊が次々と離反していた事もあってザフト艦隊司令官は形振り構ってはいられないと判断して投入を決定したのであった。
ザフト地上軍は北アフリカ、ジブラルタル方面軍が壊滅してしまった事で大幅に弱体化して、パトリック・ザラの指示で地上にいるベテラン兵の半数以上を宇宙に呼び戻して、その穴埋めで徴兵した兵士を地上に派遣するという悪循環に陥り機能不全を陥って死に体と思われてるが、それでも開戦初期の段階で北アフリカ、ジブラルタル、カーペンタリアを占拠した実績は伊達ではなく、いくら兵の練度が低下し、兵力が減っているとはいえ、ザフト軍の底力は本物で、予備部隊も全て投入した事で、オーブ軍とザフト離反部隊も頑張ってはいたが徐々に劣勢となっていた。
そんなザフトが侵攻を開始し、オーブの一般市民達に本島からの避難警報が発令されてオーブ本島から避難しようとしている四人組の家族がいた。
四人組の家族の長男であるシン・アスカは父と母、そして妹のマユ・アスカと一緒に最低限の荷物をバックに詰め込み避難していた。シンは自分達はただ平和に暮らしていたのにどうしてこんな事に!と、オーブに侵攻してきたザフトに対して怒りを覚えながらも家族と一緒にオーブ軍が用意した避難船に向かって走っていた。
避難船に向かって走っている途中でザフトのMSであるジンが突然とアスカ家の目の前に現れた。いきなりザフトのMSが自分達の目の前に現れシン達は腰を抜かし、ジンが保持している重突撃機銃の銃口が自分達を捉えている事を知るとシン達はもうダメだ!と、思った瞬間に……。
「究極ゥゥ!ゲシュペンストキィィック!!」
その叫び声と共に自分達に銃口を向けていたザフトのジンに向かって白銀のMSは勢いよく突進して突っ込み、自分達に銃口を向けていたジンを勢いよく蹴り砕いて跡形もなくバラバラにした。
「あ、あれは……!」
「白銀のMS……」
ザフトのモノアイ型のMSとは違うバイザー型の頭部と、重厚な見た目が特徴なMSが自分達を助けてくれた事をシンとマユは実感し、シンの父親と母親ももうダメだと思っていた時に助かった事もあって腰を抜かした身体を立て直せないでいた。
「早く乗れ、安全な所に避難させて絶対に助けてやるからな!」
白銀のMSに搭乗しているパイロットは、呆気に囚われて腰を抜かしていたシン達に向かって家族四人が乗っても問題ない大きさのMSの手のひらを差し出して自分達家族に急いで乗るように言った。
その声に呆気に囚われて腰を抜かしていたアスカ家は、白銀のMSの手のひらに乗るように言われて現実に戻り、自分達家族を助けてくれたMSパイロットの言う通りにして無理矢理身体を起こしてMSの手のひらに急いで乗った。
「こちらオルトロス2、白銀武。避難が遅れた民間人の家族を救出した。ペガサスで保護してくれ」
『こちらペガサス。許可します』
手のひらに全員が乗った事を確認すると、救出した家族達を潰さず、飛ばされない様に優しく手のひらで包み込み、白銀のMSは勢いよく飛び出した。アスカ家を助けた白銀のMSは極東連邦のMSであるゲシュペンスト・ラーゼンであり、パイロットも極東連邦のエースパイロットである白銀武であった。
どうして極東連邦が中立国のオーブに手助けに来ているのか不思議に思うが、オーブには極東連邦だけでなく、大西洋連邦もオーブの援軍として駆けつけていたのだ。
この事態にオーブ総司令部も予想してなかった様で、極東連邦と大西洋連邦の突然の援軍に驚いていた。
「極東連邦からはペガサス級二隻、大西洋連邦もアークエンジェル級一隻がオーブ領海内に入り、ザフト艦隊に向けて攻撃を開始しています!」
「極東連邦のペガサス級と大西洋連邦のアークエンジェル級といえば両軍のエース部隊が所属している母艦だぞ!」
「どうして極東連邦と大西洋連邦のエース部隊がオーブの援軍に?」
「どうやら間に合った様だ」
オペレーターの報告に驚愕するオーブ軍の総司令官。そんな総司令部にある一人の男性が現れて呟くと、その声に反応して振り向くと総指揮官は無論、オペレーターを含めた誰もが総司令部に現れた人物に驚愕した。
「「「ウズミ様!」」」
それはオーブの前首長であるウズミ・ナラ・アスハであったからだ。首長の座はアスハ家からセイラン家に移ってオーブの国家元首ではなくなってしまったウズミではあるが、その影響力は未だに健在であり、オーブの政治の中枢を担う政治家の多くウズミを支持しており、セイラン家もウズミを蔑ろにする事は出来ない為に地球連合の加盟申請に対する根回しが上手くいかなかったのである。
オーブ軍の総指揮官は気になってウズミに聞いた。『間に合った』とは一体……。
「私には首長時代に培った太いパイプがある。いざという時には即座に各国が義勇軍をオーブに派遣してくれるパイプが」
ウズミの言葉に誰もが唖然とする。そんな唖然とする総司令部にいるオーブ軍人達にウズミは真剣な表情になりながら語る。実際にウズミは極東連邦の大和会、ブルーコスモス穏健派といった巨大な勢力とも深い繋がりがあり、極東連邦からは大和会経由で、大西洋連邦からはブルーコスモス穏健派の政治家経由でアズラエルに話が伝わり義勇軍を派遣された。
「国家を守るのに必要な事は、何れかの勢力に肩入れする事だけではない。オーブの理念である他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、他国の争いに介入しない。その理念を守る為に私は中立を維持し続けてきた。オーブが何れかの勢力に深く肩入れすればオーブは侵略され、オーブの主権は他国の物となってしまう。そうさせない為に私は各国に対して平等に接してきたのだ」
ウズミはセイラン家の言う理想ばかり追いかけないで、現実を見ろという意見は理解している。しかし、理想なき国に未来はなく、理想を実現する為に努力する事を許されない国は存続する価値はないとウズミは強く思っている。
中立を維持し、オーブの理念を守る為に、何方の勢力にも強く肩入れしない様にウズミは各国に対して太いパイプを形成していた。その太いパイプは彼が首長時代に培ったものである。その太いパイプはザフトがオーブに対して侵略戦争を仕掛けて回答期限が僅か48時間という短い時間の間に各国に対してウズミが義勇軍という体裁を整えて援軍の派遣を要請した。
そんなウズミの要望に対して地球連合軍は即座に地球連合の中でも二大勢力に位置する極東連邦と大西洋連邦のエース部隊を派遣したのだからウズミの影響力がどれほど各国に対して高いのかとオーブ軍の兵士達はそう思うのであった。
(やはりオーブはウズミ様が率いるべきなのだ!)
総司令部にいるオーブ軍人の誰もが、やはりウズミがオーブの首長として君臨するべきと強く思い、ウズミのシンパはより一層ウズミに対する忠誠心が強くなった。
こうしてオーブ軍のウズミに対する忠誠心は増し、ザフト離反部隊に続いて極東連邦と大西洋連邦のエース部隊の援軍を得たオーブ軍はザフトを追い返せるかも知れないと希望を抱く様になり、オーブの士気は大幅に向上した。
(本当に私はなんて小さいんだ)
総司令部でMS部隊に指示を出しているウズミの娘であるカガリ・ユラ・アスハは、先程まで落ち込んでいたオーブ軍の士気を見事に回復させた事に偉大な父の大きく頼りになる大きい背中に、父の偉大さをカガリは感じた。
やはり父の背中は凄まじく大きく、自分がどれほど小さくて、周りが見えないで何も考えもせずに突っ走って父に迷惑ばかりかけてしまったと改めて痛感するのであった。
実際に自分は大西洋連邦のMS開発計画に父が協力してると思い込んでウズミに内緒でヘリオポリスにいき、そして開発されたMSを発見すると父親がオーブの理念を裏切った(G計画はサハク家が極秘裏に大西洋連邦と協力してるため、ウズミは関与してない)と勘違いして勝手に父に失望してしまった。
ザフトの襲撃に対してはキラの助けで脱出艇に乗り込む事に成功してヘリオポリスを無事に脱出し、オーブ本国に無事に帰国した。
その後にMS開発計画についてカガリが父であるウズミに尋ねても「お前は世界を知らん」と言われた事に反発し、家を飛び出して、かつての父の恩師であったサイーブが率いるレジスタンス組織に身を置いて暴れるなど、色々と問題ばかり起こしてウズミが首長の座を降りるキッカケを自分で作ってしまい、自分は本当に父の足を引っ張ってばかりだとカガリは自嘲気味に心の中で呟く。
(私もいつかお父様の様に)
自分には父の様に足りないものが多すぎると自覚し、それでもいつかは父の様な立派な大人になり、故郷であるオーブを守りたいという思いを強く抱く。父親と比べて今の自分に出来る事は少ないが、それでも自分に出来る事を精一杯やろうと強く決意してMS部隊の指揮を続けるカガリであった。
そして場所は変わり、武によってペガサス級一番艦『ペガサス』に保護されたアスカ家は、自分達は本当に助かったんだと家族全員で喜びあった。ペガサス級の乗員達に戦闘が終わるまで此方の指示に従って下さいと用意された部屋に案内され、用意された部屋に入ると、ペガサス級は戦闘艦であるため船は激しく揺れてるが、それでもジンによってミンチにされるという恐怖から解放されたアスカ家はようやく一息着く事が出来て家族全員が安心する。
そして、冷静に考える事が出来る様になったシンとマユも自分達を助けてくれたMSパイロットが、地球連合のエースが搭乗しているMSとしてワールドニュースやネットニュースで何度も取り上げられて世界中で話題となっている有名人である事をシンとマユは思い出した。
「ねえお兄ちゃん。私たち助けてくれた白銀のMSって……」
「ああ、確かニュースで話題になってた極東連邦のエース『白銀の閃光』タケル・シロガネのMSだよな」
どうして極東連邦を代表するエースパイロットが他国のオーブに来て、自分達を助けてくれたんだろうと不思議に思う二人であった。
「どうして助けてくれたんだろう?」
「マユ、助けてくれた理由は俺にも分からないけど、オーブに侵略に来たザフトから俺達家族を守ってくれた事は事実だ」
「そうだねお兄ちゃん」
嬉しそうに語るシンに対して、同じ様に笑顔で答えるマユ。
マユは自分達家族の命が危ない時に助けてくれた武の事を、まるで漫画やアニメに出てくるヒーローみたいと心の中で呟く。
マユがワールドニュースやネットニュースで武の素顔を見た時の第一印象はイケメン。しかも白銀武はクラスメイトの男子や、兄であるシンよりも大人びた男性であり、テレビ越しとはいえ、年齢が18才と思えない程に強いオーラを感じてそれが余計に大人びている様にマユには見えて、そこらの男性アイドルよりマユは武の方が遥かにカッコよく見えた。
学校でも武と同じようにワールドニュースやネットニュースで地球連合のエース特集として紹介された『凶鳥の狙撃手』の異名を誇るユウヤ・ブリッジスと一緒に学校の女子生徒達はタケル派とユウヤ派で別れるくらいに人気があり、マユはタケル派であり、自分の携帯端末の画面の待ち受けはタケルの画像である事は父と母だけでなく、兄のシンにも内緒であった。
(どうしてこんなにドキドキするんだろう?)
初めは学校の友達と一緒に武の事はテレビで俳優を見る感覚でカッコいい人という認識でしかなかった。でも、自分も含めて家族の命の危険から助けてくれて、自分達家族を助ける為に言ってくれた武の力強い言葉を事を思い出す度にマユは武の事を考えると心がドキドキして……。
「……ボフン!」
「ど、どうしたんだマユ!急に顔を真っ赤にして!」
「だ、大丈夫お兄ちゃん。自分の気持ちを理解したから」
「気持ち?」
普通こんなあからさまな反応したら誰でも分かるのにと、マユは兄であるシンが恋愛に関して鈍感な事に助かったと思うと同時に呆れてしまった。
それでもマユの初々しい反応から父と母はマユの武に対する初恋の気持ちに気がついた様で父と母は微笑ましい表情でマユに対して「頑張りなさい」とマユを応援する様に声をかけて、両親の言葉にマユは余計に顔を赤くして恥ずかくなり、両手で顔を隠した。
そしてシンは両親がマユに言った言葉と、マユが両親の言葉を聞いて顔を赤くしている理由が理解できなくて首を傾げる。
そんな恋愛に鈍感なシンに対して両親は、娘のマユは9才で女性としての一歩を進んだのに、息子のシンは14にもなって恋愛に関して鈍感な事に呆れた様子だった。そんな両親の態度にシンは「どうして呆れてるんだよ!」と、両親の反応に納得がいかないようで反発するのであった。
恋愛原子核、九歳の女の子に発動www