ガンダムSEED 架空国家の憂鬱   作:zero3 ガイル

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第二十九話 創世記の脅威

 

「これで私達は完全にプラントの裏切り者になりましたわね」

 

「ラクス様。誰かがやらなければいけなかったのです。プラントの未来ためにも」

 

ラクス・クラインは悲しそうな表情で呟き、それをクライン派のザフト兵が慰める。

 

現在、地球連合各国の首脳達は大慌てであった。

 

何しろプラント最高評議会前議長で、穏健派筆頭格でもあるシーゲル・クラインの娘であり、プラントの歌姫として絶大な影響力を誇るラクス・クラインが、プラント穏健派の中でも最大の影響力を誇るクライン派のザフト兵と一緒に、ザフトの新造艦である改エターナル級と、プラントが誇るハイエンド機であるフリーダムとジャスティスと一緒にザフトの軍事境界線を辛うじてではあるが、何とか脱出し、地球連合のユーラシア連邦所属のパトロール艦隊に接触し、その直後にラクス・クライン達は地球連合軍に投降したからである。

 

なお、投降したラクス・クラインは直ぐに取り調べを受ける。

 

プラントの歌姫であるラクスが、なぜプラントを離反した理由は本人から直ぐに告げられた。

 

ラクスが語ったその内容にユーラシア連邦は衝撃を受け、その内容を語ったラクスは、自分が喋った内容が本物である事を証明する為に、過激派のザラ派の中でも一握りの人間しか知らない重要なデータをコピーしたディスクを渡した。

 

ディスクの解析が終了するとユーラシア連邦は、この内容は明らかに自国だけで対処する事は不可能と判断して、地球連合の首脳達にラクス・クラインが告げた内容とディスクの内容を秘密裏に各国首脳達に告げた。

 

その内容は本格的にプラントに侵攻を始めようとしていた地球連合軍の前線指揮官や作戦本部の総参謀達は頭を痛め、地球連合の各国の首脳や重鎮達も同じ様に頭を痛めていた。

 

「何が『ナチュラルの野蛮な核』だ!こんな大量破壊兵器を平然と作っておいてどの口が言っているんだ!」

 

当然の様に大西洋連邦経済界に絶大な影響力を誇るムルタ・アズラエルの耳にも届き、ラクス・クラインが取り調べで告げた内容とディスクの情報を知ると、アズラエル本人は久しぶりにキレて、怒鳴り散らかした。

 

大量破壊兵器『ジェネシス』。創世記の意味を持つプラントが開発中の大量破壊兵器は、本来は他惑星間用の大型レーザー加速器を要塞砲に改良した兵器である。ジェネシスから発射されるガンマ線は高出力の電磁波であるため、ジェネシスのレーザー掃射を浴びた場合はMS・艦船・軍施設は数秒で破壊される。それは生物にも適用され、浴びれば水分で蒸発させられて絶命を免れる事は出来ないため、もしジェネシスを地球上に撃てば、地球上にいる全ての生物と自然は完全に淘汰されてしまう可能性もある恐ろしい兵器である。

 

「失礼しました。あまりの内容に思わず怒鳴ってしまいました」

 

テレビモニターで会話するサザーランドに向けて、怒鳴り散らした事を謝罪をするアズラエル。

 

『いえ、この内容を知れば無理はないかと』

 

「ありがとうございます。しかし、これでパトリック・ザラが降伏を受け入れずに徹底抗戦を崩さないで叫び続けていた理由に説明がつきましたね」

 

いくらナチュラル軽視のコーディネイター至上主義者の筆頭格の過激派でも、プラントの最高評議会議長に就任する人間が馬鹿では務まらない。既にザフト地上軍は完全に排除され、地球各国からも完全に見放されて孤立状態であるにも関わらず、降伏を受け入れないで徹底抗戦を叫び続けていたパトリック・ザラに、地球市民達の多くは乱心して頭が可笑しくなったかと見放していたが、政治トップにいる人間たちは違う。巻き返しが不可能なレベルにまで戦局が不利な状況にも関わらず、絶対的な自信を持って徹底抗戦を続けるパトリック・ザラの絶対的な自信は何処から来るのか?

 

と、疑問に思い地球各国は徹底的に調査したが、パトリック・ザラの絶対的な自信につながる何かが発見できないでいたが、今回のラクス・クラインとクライン派のザフト兵がプラントを離反して、地球連合に投降した事で、パトリック・ザラの絶対的な自信の源を理解して、地球各国の首脳達は納得し、頭を抱えた。

 

「しかし自身の派閥の人間にも徹底的に秘匿し、限られた人間にしか明かしてない『創世記』の異名を持つ大量破壊兵器の情報をよくクライン派の人間が入手できましたね」

 

穏健派と過激派故に水と油の関係であるクライン派とザラ派。そんなザラ派の最重要秘匿兵器の情報をどの様な経緯でクライン派が入手したか、アズラエルは気になっていた。

 

『彼らだけでは不可能であった様です。現在のプラントはパトリック・ザラに対抗するために派閥の垣根を超えた地下組織が結成されているそうで、大量破壊兵器の情報も地下組織に所属しているザラ派に属する人間から経由して入手したものだそうです』

 

「へえ、新人類を自称する連中もパトリック・ザラの異常性に恐怖しているという事ですか」

 

パトリック・ザラの狂気のカリスマは、彼に共感する人間には麻薬似た中毒性はあるだろうが、共感しない人間には恐怖でしかない。今回のザラ派に属する人間も、今のパトリック・ザラならジェネシスが完成したら地球に向けてジェネシスを発射する可能性が高いと判断し、その事に恐怖してクライン派にジェネシスのデータを渡したのであった。

 

『戦略情報局によりますと、クライン派の兵士達の証言とディスクの内容が本当だとすれば、プラントの大量破壊兵器は八月後半から九月初めに完成する予定だそうです』

 

「それなら早期に叩いてしまえば問題はありませんね。しかし未完成とはいえ、情報通りの威力と考えると追い詰められたパトリック・ザラなら未完成でも使用することも考えられますから通常兵器だけで挑むのは不安がありますね。やはり、君が提示したNJCを搭載した核ミサイルの案件を進める事にしますか」

 

『ありがとうございますアズラエル様。しかし、極東連邦が素直に応じるでしょうか?』

 

「今回は非常事態ですよ。流石に極東もプラントがあの様な大量破壊兵器を保有していると分かれば重い腰を上げるでしょう。それに、兵器は使ってこそ意味があるのですから」

 

アズラエルの予想通りに、本来ならNJCに関する使用は復興が優先であり、兵器転用もMSの動力源にするなど限定的で、NJCを核ミサイルの様な大量破壊兵器に搭載した事が発覚した場合は、各国が協力して経済制裁を実行する事が条約に記載されていたが、プラントの大量破壊兵器の情報を極東連邦も入手してるため、NJCを核ミサイルに搭載する事に最初は難色を示したが、最終的に規制を緩和する事に同意した。

 

プラントの大量破壊兵器の情報と、それに対する対策は極東連邦の大和会でも緊急会議が開かれて議論が交わされていた。

 

「それでは、NJCに関する規制を緩和する方針に異論はありませんね」

 

「異議なし」

 

「本当は反対ですが、今回ばかりは仕方ありませんね」

 

大和会も多少の反対意見は出たが、NJCに関する規制緩和に賛成の意見が上回った。そして、次の議題は大量破壊兵器に対する対抗策に対しての会議に移行した。

 

大和会の極東連邦宇宙軍大将である武田は、プラント侵攻作戦に対してある兵器の使用許可を求めた。

 

「プラント本土攻略に向けて、例の『X計画』で開発した秘匿兵器の使用を許可して欲しいのですが」

 

「『X計画』の兵器ですか、しかしあれは……」

 

「今のプラントに何を躊躇する必要があるのですかな。人類のルールを理解しないミュータント相手に使用を躊躇う必要がないと思われますが」

 

「ギレンさん、あまりその様な差別発言は控えていただきたい」

 

「大和会にはコーディネイターも参加してるのですよ」

 

「ふふふ、これは失礼」

 

ギレンと呼ばれる大和会の会員の男性は、ほかの大和会の会員から注意を受けて謝罪する。

 

ギレン・ザビ、大和会に所属する極東連邦が保有するコロニー政府の代表であるデギン・ソド・ザビの息子で、デギン・ソド・ザビの補佐役として大和会に所属している人物だが、その卓越した政治手腕は大和会でも高く評価されており、何れはデギンの後継者として跡を継ぎ、大和会の中核をなす人物と称されている。

 

しかし、この様に挑発じみた発言をして、周りの反応を試す様にする悪い癖があるため、大和会の問題児の一人として認識されている。

 

ただ、このギレン・ザビは一部の大和会の会員からはかなり警戒されている。それは宇宙世紀の転生者組からは、ギレン・ザビという人間はかなりのタブー的な存在であるからだ。本人はこの世界の生まれで宇宙世紀とは全く関わりはないが、それでも宇宙世紀で最も過酷な宇宙戦争と言われた一年戦争をという地獄を味わった宇宙世紀の転生者達からしたら、ザビ家の人間はCE世界の生まれと分かっていても、最大限に警戒するべき一族であると強く認識していた。

 

実際にデギンやギレンが大和会に所属する事に宇宙世紀出身の転生者は凄まじく反対しており、宇宙世紀出身の転生者は、ザビ家の所業によって地球・コロニー生まれ関係なく、凄まじいトラウマを植え付けられた一族であるため、ザビ家は大和会の影響力を利用してこの世界でもジオン公国の様なコロニー国家を作る気ではと強く思い、そうなればCE世界で宇宙世紀で最も最悪な宇宙戦争と呼ばれた一年戦争の再来となってしまうと考えて、ザビ家の人間が大和会の会員になる事を最後まで反対していた。

 

それでもデギンの極東連邦におけるコロニー社会の貢献と、ギレンの政治手腕を手放したくないため、宇宙世紀組の反対を押し切って大和会に所属させている。

 

「息子が申し訳ない赤星首相」

 

「いえ、彼が本気で言っていない事は理解していますデギンさん」

 

「ありがとうございます。しかしX計画で開発した兵器を使用しなければいけないほど、プラントがその様な蛮行に走りますかな」

 

「随分と甘い考えですな父上……いえ、デギン殿。既にNJCの規制を緩和する事は決定事項なのですよ、いまさらX計画の兵器を使用する事に何を躊躇する必要があるのですか」

 

「しかしだなギレン。X計画の兵器は」

 

「プラントに理性と呼べる知能は既にありません。国際法はナチュラルが作った法律で、コーディネイターに適用されないというふざけた理論を掲げる集団に躊躇しては、此方の被害が増すばかりです。私も宇宙軍が提案したX計画の兵器を使用する事に賛成です」

 

その後も会議は続き、大和会はプラント攻略戦に対して対ジェネシス用に核ミサイルにNJCの搭載する事を決定し、核兵器同様に極東連邦が極秘裏に開発した『X計画』の兵器をザフトの宇宙要塞である対ボアズ及びヤキン・ドゥーエ戦に限り、使用する事を許可するのであった。

 

こうして地球連合は、ラクス・クラインよりもたらされたザフトの大量破壊兵器であるジェネシスの情報を入手した事により、本来ならプラントの戦後統治を見据えて、これ以上プラントのコーディネイター達の感情を逆撫でしないようにするため、血のバレンタインのきっかけとなった核ミサイルを含めた大量破壊兵器の使用はするつもりはなかったが、現在のプラント政権が倫理観が全くないパトリック・ザラ率いるザフト相手に手心を加えては地球全が大損害を被ると考えて、地球連合は手加減なく全力でプラント攻略戦に臨むのであった。

 

そして、CE71年8月4日。地球連合は万全に宇宙に戦力を整え、プラント本国を防衛する重要な要塞である宇宙要塞ボアズに向けて、地球連合軍は大規模な宇宙艦隊を率いて侵攻を開始した。

 

 





登場人物紹介

デギン・ソト・ザビ

性別 男性
年齢 62
種族 ナチュラル

極東連邦所属のコロニー政治家。宇宙移民黎明期において、混乱していた極東連邦コロニーの政治基盤の基礎を盟友ジオン・ズム・ダイクンと共に気づき上げた高い功績を残しており、極東連邦の宇宙コロニーにおいて多大な影響力を誇る人物であり、現極東連邦コロニー首相の地位についている。非転生者ではあるが、大和会にも所属しており、大和会の成立した真の目的も理解しているため、転生者(宇宙世紀組)の一部が自分を極度なまでに敵視した意味を知り、並行世界とはいえ、自分達一族の影響を受けた宇宙市民達の蛮行に頭を痛めた。

宇宙世紀同様にギレン、サスロ、キシリア、ドズル、ガルマの息子と娘がおり、大和会の転生者達の並行世界のザビ家の所業を聞いて、並行世界同様の過ちを犯させない為に徹底的に教育方針を見直し、特に盟友であるジオン・ズム・ダイクンにおいては、息子の教育は絶対に間違えるなと今も言い続けている。

ギレン・ザビ

性別 男性
年齢 35
種族 ナチュラル

デギンの息子で長男。デギン同様にCE世界の生まれであるため宇宙世紀からの転生者ではない。デギンが並行世界の息子の所業を聞いて、徹底的に教育方針を見直した為に、その影響で傲慢な部分はあれど、宇宙世紀のギレンと違い、冷徹な部分は多少はなりを潜めている。CE71年代の大和会については極東連邦を大国として成長させた傑物の人間と認識しているため、あまり人を誉めたり、認めたりしないギレンにしては珍しく敬意を表している。

大和会の設立目的をデギン同様に知っているため、一部の転生者がどうして異常なまでに自分を敵視している事を理解した後は、宇宙世紀の自分の所業はCE世界の自分には関係ないと開き直り、逆に宇宙世紀の自分の所業を「違う世界とはいえ、自分ながら情けない」と、軽蔑している。

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