「ようやく完成したわね」
「本当ですね」
「ええ、長い道のりでしたよ」
中立国オーブが保有する工業コロニーヘリオポリスの秘密工場にて大西洋連邦所属のデュエイン・ハルバートン准将が発案したMS開発計画であるG計画の試作MSを開発していた。
そんな極秘計画を進める大西洋連邦もプラントや極東連邦と違ってMSの開発ノウハウがなかった為に戦場で鹵獲したジンをモデルにコピー機を作るならまだしも、ジンとは違う一から全く新しいMSを開発する新型MS開発計画であった為に開発は難航していた。それでもようやく大西洋連邦初の試作MS開発の一体であるGAT-X102『デュエル』の開発が成功し、G計画に深く関わっていた大西洋連邦の技術士官であるマリュー・ラミアス大尉は感慨深げに呟き、そんなマリューの呟きに同意する様に他の技術士官達も同じ様に呟いた。
本来の歴史なら連合初のMSはこのデュエルであったが、連合初のMSの称号は極東連邦のアクシオになっている為にデュエルは大西洋連邦初の試作MSという位置付けになっている。
そもそも大西洋連邦のMS開発計画が難航したのは、実機に関しては計画通りに物事が進んだのだが、MSを動かす為に必要なOSの開発が難航して計画が遅れてしまったのだ。
最初は鹵獲したジンのOSをベースに開発しようと考えられたが、ザフトで正式採用しているOSが曲者でそのOSは素人のナチュラルだけでなく、MS操縦が未経験のコーディネイターでも直ぐに適応できる代物でなかったからだ。
一応ザフトが正式採用してるOSは歩かせるだけの簡単な動作なら素人のナチュラルでも問題なく動かせるが、複雑な操作が必要とされる戦闘行動を直ぐに実行出来る程に動かせる代物ではなかった。分かりやすい例をあげれば市販のオートマ車しか運転してない人間にいきなりモータースポーツトップカテゴリー仕様のF1車やラリー仕様の特殊な車を操縦しろと言っている様なものである。
次に大西洋連邦でも数多く普及しているMSの始祖でパワーローダーをより発展して産まれた工作人型機械のモビルワーカーで採用されてるOSをベースに開発した。これも動かすだけなら問題なかったが戦闘行動の様な複雑で激しい動作を行ったら途中でフリーズしてしまい戦闘行動に耐えられるだけのOSではなかった。
ハードの開発は順調でもソフトの開発が難航して解決の糸口が見えない事もあって、ハルバートンは連合で初となる実戦MS開発に成功した実績を持つ極東連邦に協力を求める事を決定した。
この提案に大西洋連邦の極秘計画に極東連邦を関わらせて技術漏洩となってしまう事を嫌った軍上層部は反対したが、ハルバートンからユーラシア連邦を始めとした各国も極東連邦製のMSを購入してから多大な戦果をあげていて、中には技術交流が盛んな国ではMS共同開発計画もあると言われて、このまま大西洋連邦がMS開発の後塵を期していいのかと、上層部の自尊心を刺激して説得を行って極東連邦に協力を求める事を強引であったが納得させた。
ハルバートンは別に国のメンツなど気にしておらず、逆に極東連邦で採用してるアクシオを本格的に購入し、前線で大量配備が出来ればG計画も必要ないと考えており、少しでも戦場で自軍の戦死者や負傷者を減らせるなら他国産でも良い兵器を購入すべきという考えの持ち主だ。
しかし国のメンツを気にしている政治家や軍上層部は大西洋連邦は地球連合の盟主で、世界のリーダーという自負が強い為に他国産の兵器を大量購入するという発想に至っていない。あのプライドの塊である東アジアですら大西洋連邦製のリニアガンタンクやスピアヘッドといった兵器を大量に購入してるのにと思い、国のメンツや戦場での戦死者を数でしか理解してない国の上層部にハルバートンは呆れていた。
なあなあで済ませてどんなに犠牲を出しても物量でプラントを屈服させようとする軍上層部の考えに痺れを切らしたハルバートンは大西洋連邦初の国産MS開発計画という位置付けでG計画をスタートさせたのだ。
「デュエルで実機訓練を早く行ってデータ収集を行いたいわね。他のGの完成も早くなるでしょうから」
「ですね。早くGのテストパイロットがコッチに来て欲しいですよ」
「まだ難しいと思いますよ。完成予定が未定だったのが極東連邦の協力で一気に進みましたから、上の方でもテストパイロットの選定で忙しいみたいですからね」
マリューとしては技術者の意地として自分達の力だけでGを完成させたかったが、それよりも粗悪品を作るよりはマシという考えもあった為に、極東連邦に協力を頼むという、恩師とはいえハルバートンの決定に思うところはあったが、それでもデュエルが完璧に完成した事は嬉しかった。
「とりあえずデュエルが完成した以上は今までより気をつけなければいかんな」
「はい班長」
「ここでザフトにバレでもしたら今までの苦労が水の泡ですからね」
「ああ、だからザフトの工作員にバレない様に注意しろよ」
開発班長の言葉にマリュー達は頷く。
これから忙しくなる事を実感したマリュー達技術陣達はより一層気合いを入れ直してG計画の仕事を再開するのであった。
ーーー。
そして場所は変わり、中立国のオーブの工業コロニーヘリオポリスで極秘裏に地球連合のMS開発がされてる事を知らない民間人達は、戦争とは外の世界の出来事で自分達には関係ないと平和な日常を謳歌していた。
そんな平和なコロニーのオープンカフェでパソコンを弄っている一人の少年。プログラムを入力しながら画面端に映っているワールドニュースを見ていた。
『……現在、ザフトと連合による戦争は膠着状態が長く続いて戦争終結の様相が見えない事に地球各国で不満の声が』
『次のニュースです。極東連邦は南アフリカ統一機構に対して更なる軍備援助を発表』
戦争ばかりのニュースに少年はため息を吐く。
最近は連合もザフトも膠着状態が続いて何時かは双方が根を上げて戦争が終結するだろうと昨日もオーブのニュースキャスターが毎日の様に同じ事を言っているが、政治や国際情勢に疎い自分でも現実味がない事は分かってる為に、いつになったら戦争が終わって平和になるんだろうと思うばかりであった。
「よ、キラ。こんな所にいたのか」
キラ・ヤマトに声をかけたのは、オーブに移住してから知り合ったキラ・ヤマトの友達であるトール・ケーニッヒと、そのトールの恋人のミリアリア・ハウの二人であった。
「また教授に頼まれたのかキラ。いくら何でも人が良すぎるぜ」
「うん。でもバイト代を高く出すからって教授が」
そんな感じで会話をしているとキラのパソコンのニュース番組が目が映る。
『戦争が拡大しているのは軍事力に偏りすぎている地球連合各国に問題があり、更に極東連邦の軍備増強案はまさに平和を冒涜している政策であるとオーブは非難しており』
「まーた同じ事を言ってるよ」
「本当に何かしら理由をつけてどうして極東連邦を非難するのかしら」
オーブのニュースキャスターの言葉に呆れるトールとミリアリア。
オーブでは何故か自分達の祖父や曾祖父の世代は極東連邦を異常なまでに敵視しており、敵視している理由は再構築戦争前から自分達の祖先は極東連邦に差別や冷遇をされて育ってきた、再構築戦争の終結後にようやくオーブという安息の地を手に入れる事が出来た事をよく耳にタコが出来る程に聞かされてきた。
故にこの安息な地を奪われてはいけないから極東連邦相手に油断してはいけない、心を許してはいけないと言われてきた。
今や大西洋連邦製品同様に、極東連邦製の製品を手にしないで過ごすのは難しいと言われてる世の中であるためトール自身も極東連邦製の電子機器は普通に使用しているし、何より自分が生まれる前の事を偏見まがいな言葉で語られても祖父世代の言葉はピンとこない。
ジャーナリスト志望のミリアリアも偏見ばかり言う祖父世代の言葉に納得がいかず、キラにとっても月面都市から両親と一緒にオーブに移住してきた為にトールとミリアリア同様にイマイチ実感がしにくく、更に極東連邦は地球各国の中でオーブと同様にコーディネイターを受け入れている数少ない国家であるため、選民意識が強いプラントのコーディネイターとは肌が合わない地球出身のコーディネイターや両親がキラ同様にナチュラルである第一世代コーディネイターからは有難いと思われてる国家であった。
キラ達は知らないが、再構築戦争終結後にオーブに移住している国民の殆どは反大和会勢力と、転生者の並行世界日本の中でも極端な左翼思想を持った人間の家族や親戚達の多くで形成されていた。
再構築戦争前は大和会から危険人物として厳しく監視されており、国家にとって不利益な行動をすれば大和会や大和会に属する非転生者達から一般に知られる事なく闇に葬られてきた。
オーブの子孫達からすれば、大陸日本の有り様は愚かな大日本帝国の軍国主義の国家がスケールを大きくした国家であると認識していた彼等は、例え世界が違えども自分達の理想の日本に戻す為に非転生者の左翼集団と手を結び、史実世界の赤軍同様の過激な行動を起こしまくって手段を選ばずに国家転覆を何度も企んだ。だが、組織として数百年の歴史を誇り、組織として成熟していた大和会に現実が見えず、明確な方針を持たない左翼思想の理想主義者達が叶うはずもなく、彼等が問題を起こす度に徹底的に排除し、または秘密裏に拘束していた。
しかし、再構築戦争の時に世界中が混乱し、大和会も国家の立て直しに奔走していた為に反大和会勢力の監視が弱まり、再構築戦争の終戦のドサクサに紛れて数少ない反大和会勢力が国外に逃亡して建国されたのがオーブ連邦首長国の始まりであり、最終的には極東連邦は悪しき日本国の象徴として認識し、何時かは滅ぼす事を考えていた。
たが、再構築戦争終結後になって国内が安定した後に大和会は極東連邦の国益を損なう行為を許さず、CE時代に入った後に実力があるオーブの反大和会勢力の重鎮達を秘密裏に暗殺しまくった。
容赦がない極東連邦の対応にオーブは改めて大和会の恐ろしさを骨身に染みてオーブの改革派はこれ以上極東連邦の標的となってオーブをメチャクチャにされる事を恐れて反大和会勢力が強い一派を一掃して和解を求めた。そのお陰で建国当時の様な打倒極東連邦思想は年々弱まり、特にキラ達十代から二十代の若者世代になると反極東連邦のデモ活動する人間など絶滅危惧種な程に珍しい存在となっていた。
しかし、建国した経緯を知っている曾祖父とそんな親の教えを忠実に守ってる祖父世代達は、影響力は低下しても反極東連邦思想はやめないで今でも熱狂的に活動しているグループは少なくとも存在している。
だが、オーブで活動している今の反極東連邦勢力は大した影響力もなく、極東連邦勢力圏で抗議はしてもテロ活動をするほど度胸もないため大和会も今では最低限の監視に留めている。まあ、それでも建国理由が反大和会の人間達の子孫という事もあり、少しでもまた反極東連邦勢力が影響力が増したと判断すれば容赦なくやる事は確定している為に大和会はオーブに対する警戒心は弱めていない。
「まあ湿っぽい話はこれで終わりにしようぜ。それよりキラ、この後カズイとサイと合流してイーストエリアに行こうぜ。なんか新しい店がたくさんオープンしたっていうからさ」
「そうそう、たまにはゼミの事なんて忘れて皆んなと遊びましょうキラ」
「うんわかった。でももう少しだけ待って、このレポートも後少しで終わるから」
自分がコーディネイターと知っていても普通に接してくれる友達達と、平和なこの国がキラは好きだった。
オーブより外は戦争で平和とはかけ離れた世界という事もあって不安があり、かつて月面都市に住んでいた時に頼りになる親友はプラントにいるが、それでも親友と親友の母も戦争は大嫌いなのは知っているので頼りになる親友が戦争に参加はしてないだろうとキラは思っていた。だから戦争が終わって平和になったら親友がいるプラントに遊びに行ってオーブで出来た友達を紹介しようとキラは思うのであった。
だが、キラは知らなかった。この平和は数ヶ月もしたら崩壊し、自分も、そして友人達も戦争とは無縁の存在ではなく、深く関わる存在になってしまう事に……。