「――キミは、この世界を守りたかっただけなんだね……」
時は、進み続ける。運命を選ぶ龍の力、それですら回避出来ない破滅の
誰もが良い明日を求めていた。明るい未来を望んでいた。しかし、その願いすら定められた運命が踏み躙る。龍に至った少年――”
「……そうだね。人に生きる事を訴えてきたボクが、自分の命を諦めるなんて。許されない」
滅びの運命の
しかし、その未来は封じられた。”
完全に力が封じ込められた訳では無い。ただ、運命は僅かにズレた。彼女が全力で
ならば、応えなければならない。自分は滅びの龍である前に――”治龍局”の一員なのだから。
「”今の姿のボク”が引き起こす破滅であるならば……ボク自身をやり直してしまえば……!」
ガンヴォルトは決意した。自分の封印は、完全には出来ない。今自らを縛っている
その猶予を引き延ばす。『延ばして、先送りして、みんなで協力して変えていく』。きりんが言った言葉を信じて、自分もまたそうする事を決意した。即ち、未来の滅びの運命を確定させている自分その物を、運命ごと遡らせる。
抑え込まれた”
破滅を辿るだけの自分を、未知の未来へ生まれ直させる。それが今、理性を取り戻したガンヴォルトに出来る限界であった。
「力を貸してくれ、メビウス! 迸れ、
最強の
そうして”ガンヴォルト”と呼ばれた少年の
「GVーーッ!!」
その場に残されたのは、封印の巫女・きりんの届かぬ叫びだけだった。
◆ ◆ ◆
◇ ◇ ◇
『――本当に。アナタは、それで良いの? ……GV』
◇ ◇ ◇
◆ ◆ ◆
――長い、長い夢を見ている。
自分は、見続けていた。
朧気な錯覚と、確かな実感。相反する二つの感覚が同時に自分の中に流れ込んでくるという矛盾。それでも不思議と心地良い、そんな夢を自分は見ている。
此処は、何処だろうか。自分は、何の夢を見ているのだろうか。ぽつりぽつりと、疑問が浮かぶ。
疑問が浮かぶ。疑念が積もる。
『――あ。やーっと起きたの、GV?』
”GV”。知らない名前だ。
鈴が鳴る様な澄んだ音が――誰かの声が、自分の頭上から聴こえてくる。
誰か、誰だ、分からない。分からないという思考ばかりが、流れ込んでくる。
これは、本当に夢なのか。ここは、本当に幻なのか。
『ふふっ。マボロシだなんて、傷付いちゃうわねー。……あぁ、でも。最初に会った時、私もそう自己紹介した様な? うぅん、だったら間違いじゃないのかしら……特に、今は』
おどけた女性の声が、夢幻の全体へと広がり響いていく。
これは、女性の声だ。靄がかかった様な意識は、声が男女の物なのかも判別出来ていなかった。
何を言っているのかが分からない。
『まだ起きたばかりだもんね。久しぶりだし、まだゆっくり寝てても良いのよ?』
そうはいかない。それはダメだ。何故か反射的に、そう思った。
何も分からない。だけど、このままじゃいけない。このままいけば、何かがまずい。何の根拠も無いまま、自分はそう思った。
自分は誰なのか、ここは
自分は、”GV”と呼ばれた。まずそれを考える――
二文字のアルファベットの呼称――
――
「――ガン、ヴォルト」
その
ただ感じ取るだけだった空間が、瞳で見える様になった。世界の静けさを、耳が受け取る様になった。四肢が、身体が、記憶が――自分と周囲の全てが、形作られていく。
自分は、ガンヴォルト。”
『うん。やっぱりGVは、その姿の方がしっくり来るわね。……おはよう、GV!』
「……モル……フォ……?」
そしてガンヴォルトは、呼び掛けてきた声の主――その少女についても、思い出した。
モルフォ。自分がかつて誰よりも守りたかった、ある少女の
金の長髪を一つ結びとし、白と青を基調とした和洋折衷の服を着た彼女は今――ガンヴォルトを、膝枕していた。
「……モルフォ?」
『ん? なに、GV?』
「なんで、膝枕してるの?」
『なんで、って……女の子の夢でしょ? 好きな男の子を膝枕するのって』
「……そ、そうなの?」
『あー、GV照れてるー! ふふっ、かわいー!』
「からかわないでくれるかな……まだ、状況が呑み込めてないんだから」
モルフォから言葉責めにも等しいストレートな好意を受けて、軽く赤面しながらガンヴォルトは現状を思索する。
自分の
同化したメビウスと共に、自分自身を”やり直す”。身体も
なのに、何故。何故今、自分はこうして、その事実を自覚出来ている? 赤子にまで戻ったのなら、それまでの全てを忘れていなければおかしいではないか。
『おかしいのはGVの方でしょー? 全く、あの時はそれしか方法が無かったとはいえ、自分を赤ちゃんにまで戻すなんて、メチャクチャよ』
はぁー。そんな大きな溜息をついて、モルフォは呆れ返った声を漏らす。
自分の考えている事は、モルフォには筒抜けになっている。それもそうだ、モルフォはイマージュパルス――自分の
だが、そこで新たに一つ疑問点が生まれた。イマージュパルスは、きりんの能力との組み合わせによって発現した力だ。きりんから離れた今、何故モルフォが顕現しているのか。
『ふふっ、GVが珍しく百面相してるのを見てるのも面白いけど……流石に意地悪だよね。教えてあげる、一つずつね』
何故か四肢に力が入らず、モルフォに膝枕された状態のまま、ガンヴォルトは聞き手となる。
二人きりの夜の高原というこの空間。赤子となった筈の自分が”ガンヴォルト”に戻っている事。イマージュパルスである筈のモルフォが顕現している事。
それら全ての答えを、モルフォは知っている様だった。
『端的に言うとね。ここは、
「……可能性、世界?」
『そ。ほら、思い出して
その瞬間、ガンヴォルトの脳内に記憶が流し込まれた。
それは、一度見た光景だった。しかし、一度も有り得る訳が無い光景だった。
可能性世界。それはメビウスの能力・
『――もっとすぐにこの国はダメになるかと思っていたけど……意外と何とかなるもんだ』
有り得ない筈の
紫電。過去の
しかし今観えている紫電は、それよりも遥かに強い。強い存在
『これからの世界は、今を生きるキミたちが守らなくちゃいけない。キミになら出来るさ、ボクには出来なかった事も、キミになら……』
可能性世界での紫電は、二つの
ただガンヴォルトを倒す為だけに得た、刹那的な力。それを使っても尚、彼はきりんとガンヴォルトの前に敗れ去り――その
それを思い出した瞬間、
『――そうだとも! 戦わずして勝ち取れる未来など、あるものか!』
深紅の光しか存在しない、電子演算機に囲まれた空間。その可能性世界で、ガンヴォルト達はある男と対峙している。
アシモフ。過去のガンヴォルトが所属していた、
かつてガンヴォルト自身が手にかけ、しかしその世界で再会した彼は、その妄執と力を更に積み上げた存在だった。
『……それでいい……お前になら、この世界を、任せられる……! 視えるぞ……! キングとなったお前の元に、再び集う仲間たちが……ユートピアが……』
そして再び、ガンヴォルトは彼を討つ事になった。かつての育ての親、自分が居た組織の恩師、大事に想っていた少女の仇。とても一言では言い切れない、そんな人物を。
しかし彼は、最期にはガンヴォルトに想いを託して逝った。『能力者の未来を託す』、昔の遺言と変わらない言葉を預けて。
可能性世界は、現実の世界では無い。それは有り得るかもしれない運命を辿った別の世界であり、本物ではあるが
――だが。
『GV。ちゃんと観えた?』
「……うん。確かに、在ったよ。この世界は」
確かな現実であるメビウスを止める為に、ガンヴォルトは彼らを討ち果たし、可能性世界より抜け出した。
それらは有り得ない筈の世界。彼らは過去の人物であり、かつて戦った記憶を持ちながらも再会に疑問も抱かず、こちらの世界の情勢もある程度把握しているという矛盾した存在。
しかし、確かに在ったのだ。夢幻でもなんでもなく、確かに存在する彼らと出会うという、そんな
『話を戻すね。この場所はアタシの――”モルフォ”の可能性世界。だからココにアタシはいるし、アタシが引き寄せたGVもまたココにいる』
「……なるほど」
可能性世界という概念を観る形で思い出し、ガンヴォルトはある程度の納得を得た。
理屈は通る。有り得ない筈の世界を引き寄せる、それこそが
”可能性”はある。しかしそれは、ある大前提が必要だ。それこそ、有り得ない筈の前提が。
「……だけど。メビウスはボクと融合して、一緒に力を失った筈だ。可能性世界はメビウスの
『ふふん。それだけどGV、大事な所を見落としてない?』
「大事な、所?」
『あの時。メビウスと融合したのは、
「!?」
太陽宮の頂点でガンヴォルト達はATEMSのリーダー――
その後にきりんはジエド達との協力を得て、ガンヴォルトの暴走は一時的に制止。そしてその瞬間、ガンヴォルトは自分の意志により
しかし。その手前より、
『メビウスがGVを乗っ取ろうとしたあの時。
「……あっ!」
その言葉を聞き、ガンヴォルトは完全に当時の事を思い出した。
モルフォ。イマージュパルスという
そしてその時は自覚出来ていなかったが、暴走してきりんと戦う事になったあの時。ガンヴォルトは彼女の能力を感じていた。彼女の
――つまり。
『メビウスは
「……なんだって……」
モルフォは唯一、自我を持つイマージュパルス。故にガンヴォルトが浸食された時、彼女もまた同時にメビウスの影響を受け、共に暴走した。
その後、きりんによる
だから一時的に
『ここはアタシの、
「……じゃあ。
『殆どは失われてるけど、まだ力は残ってるわよ? GVと違って、アタシ本体は”やり直し”されてないからね』
モルフォがさらりと言った言葉に、ガンヴォルトは戦慄した。
本来、
しかし
『……っていうか、GVは感謝してよねー? きりんと戦った時、暴走してる最中にも意識があったのって、アタシのおかげだからね?』
「えっ?」
『忘れてない?
「……そう、だったのか」
しかしその事実は、悪い事だけではなかった。
モルフォの力は、歌を介した
「……モルフォ。なんで、こんな事を?」
『ん?』
「ボクと一体化していたキミなら、ボクの”やり直し”に付き合えた筈だ。……だけどキミは、それをしなかった」
ガンヴォルトは自分の知らなかった事実を整理し、そして最大の疑問点を口にする。
モルフォは自我を持つ、唯一無二のイマージュパルスだ。限りなく当時の本人を再現した彼女は、ガンヴォルトから独立して思考・行動出来る。
それでも彼女はガンヴォルトの一部なのだ。故に”やり直し”によって暴龍の力を失わせる、その強い意志は言うまでもなく伝わっていた筈だ。
彼女は、それを拒否した。”ガンヴォルト”が消失する前に自分の意志で行動し、可能性世界へガンヴォルトを引き寄せ、今際の際で消失を防いだ。
ガンヴォルトの心中に付き合う事が、モルフォにとって不本意なのは理解出来る。だが、この手段でしか世界の破滅を免れるしか無かったのは確かで、それが分からない彼女では無い筈だ。
「……酷い言い方をしちゃうけど。どうしてキミは、ボクを助けてしまったんだ? あのまま行けば、
最低の事を言っている自覚はある。しかしガンヴォルトは、問わずにはいられなかった。
暴龍化現象は
しかし
『はぁぁ……それ本気で言ってる、GV?』
「えっ」
『忘れちゃったの? あの時、
「……?」
”モルフォが死んだ時の事”。その言葉に、ガンヴォルトは僅かな違和感を抱いた。
モルフォは
しかし、もう一つ何か。とても小さな何かが引っかかった。
『”GVのことは、わたしが守ってあげる”。……
「……その、言葉はっ……!」
可能性世界。有り得ない事象を引き寄せる、その世界。
その存在を知り、
二つ目は、
その為に。
『ふふっ、ドッキリはここまでにしとこっか。……久しぶりっ、GV!』
「――
姿はそのまま、モルフォの口調が変わる。大人びて落ち着いた喋り方から、少女じみた明るいモノへと。その話し方と声色を、ガンヴォルトは一時たりとも忘れた事は無い。
シアン。
ある戦いの最中において完全に消滅した筈の彼女は、
少女の祈り
これからちょっと長めの短編として、一日一話投稿していきます。
本編の終わり方が悲しかったので、なんとしてでもハッピーエンドにする気で書きます。