蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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01.幻想巡夜

「――キミは、この世界を守りたかっただけなんだね……」

 

 時は、進み続ける。運命を選ぶ龍の力、それですら回避出来ない破滅の未来(ぜつぼう)へと。

 誰もが良い明日を求めていた。明るい未来を望んでいた。しかし、その願いすら定められた運命が踏み躙る。龍に至った少年――”蒼き雷霆(アームドブルー)”ガンヴォルトは、それを刹那の狭間で見た。

 

「……そうだね。人に生きる事を訴えてきたボクが、自分の命を諦めるなんて。許されない」

 

 滅びの運命の根本(はじまり)にあるのは、ガンヴォルト自身であった。だからガンヴォルトは、目覚めた龍王――”第八波動(エース)”の子、メビウスと共に命を断ってもらうつもりだった。

 しかし、その未来は封じられた。”鎖環(ギブス)”の能力者、きりん。彼女は最後まで運命に屈する事なく、”第八波動(エース)”を宿して暴走した自分すらも封じて止めようとした。

 完全に力が封じ込められた訳では無い。ただ、運命は僅かにズレた。彼女が全力で封印(とめ)ようとした事で今、自分は束の間の理性を取り戻す事が出来た。真の運命を知った。

 ならば、応えなければならない。自分は滅びの龍である前に――”治龍局”の一員なのだから。

 

「”今の姿のボク”が引き起こす破滅であるならば……ボク自身をやり直してしまえば……!」

 

 ガンヴォルトは決意した。自分の封印は、完全には出来ない。今自らを縛っている(ギブス)は、僅かでも緩めばすぐにでも解けてしまうだろう。自分の小康状態は、少しの猶予に過ぎない。

 その猶予を引き延ばす。『延ばして、先送りして、みんなで協力して変えていく』。きりんが言った言葉を信じて、自分もまたそうする事を決意した。即ち、未来の滅びの運命を確定させている自分その物を、運命ごと遡らせる。

 抑え込まれた”第八波動(エース)”を一時的に掌握し、力を使う。電子を操る”蒼き雷霆”(アームドブルー)により自分の体の組成を完全に電子化し、未来選択能力・”無限の星詠”(アストラルオーダー)により自分その物を”選択”する。

 破滅を辿るだけの自分を、未知の未来へ生まれ直させる。それが今、理性を取り戻したガンヴォルトに出来る限界であった。

 

「力を貸してくれ、メビウス! 迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)! そして無限の星詠よ(アストラルオーダー)! 我が運命(すがた)の定めを、覆せ!!」

 

 最強の第七波動(セブンス)と、最大の第八波動(エース)。真なる龍と化したガンヴォルトが、力を行使する。

 そうして”ガンヴォルト”と呼ばれた少年の永遠(さだめ)は、運命より自由を得て。自らの姿を電子へと変換し、幼子の姿に遡った自由(だれか)は、その世の果てへと飛び去っていく。

 

「GVーーッ!!」

 

 その場に残されたのは、封印の巫女・きりんの届かぬ叫びだけだった。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

『――本当に。アナタは、それで良いの? ……GV』

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 ――長い、長い夢を見ている。

 自分は、見続けていた。微睡(まどろ)みの中で、蒼い流星が降り注ぐ、広い広い夜の高原。非現実的な空間(せかい)の中で、何かの夢を見ている。

 朧気な錯覚と、確かな実感。相反する二つの感覚が同時に自分の中に流れ込んでくるという矛盾。それでも不思議と心地良い、そんな夢を自分は見ている。

 此処は、何処だろうか。自分は、何の夢を見ているのだろうか。ぽつりぽつりと、疑問が浮かぶ。

 疑問が浮かぶ。疑念が積もる。()()()()()()

 ()()()()()()()

 

『――あ。やーっと起きたの、GV?』

 

 ”GV”。知らない名前だ。()()()()名前だ。

 鈴が鳴る様な澄んだ音が――誰かの声が、自分の頭上から聴こえてくる。

 誰か、誰だ、分からない。分からないという思考ばかりが、流れ込んでくる。

 これは、本当に夢なのか。ここは、本当に幻なのか。

 

『ふふっ。マボロシだなんて、傷付いちゃうわねー。……あぁ、でも。最初に会った時、私もそう自己紹介した様な? うぅん、だったら間違いじゃないのかしら……特に、今は』

 

 おどけた女性の声が、夢幻の全体へと広がり響いていく。

 これは、女性の声だ。靄がかかった様な意識は、声が男女の物なのかも判別出来ていなかった。

 何を言っているのかが分からない。()()()()声で、誰かが喋っている。それだけしか、分からない。

 

『まだ起きたばかりだもんね。久しぶりだし、まだゆっくり寝てても良いのよ?』

 

 そうはいかない。それはダメだ。何故か反射的に、そう思った。

 何も分からない。だけど、このままじゃいけない。このままいけば、何かがまずい。何の根拠も無いまま、自分はそう思った。

 自分は誰なのか、ここは(ユメ)なのか、この声は誰なのか。その全ての答えを、自分は知りたい。()()()()()()()()()()

 自分は、”GV”と呼ばれた。まずそれを考える――()()()()

 二文字のアルファベットの呼称――()()。一つ一つ、水泡が海底の深くより浮かび上がる様な感覚に任せて、思考を走らせる。

 ――()()

 

「――ガン、ヴォルト」

 

 その単語(なまえ)を口にした時。自分が、()()()された。

 ただ感じ取るだけだった空間が、瞳で見える様になった。世界の静けさを、耳が受け取る様になった。四肢が、身体が、記憶が――自分と周囲の全てが、形作られていく。

 自分は、ガンヴォルト。”蒼き雷霆(アームドブルー)”、ガンヴォルトだ。

 

『うん。やっぱりGVは、その姿の方がしっくり来るわね。……おはよう、GV!』

「……モル……フォ……?」

 

 そしてガンヴォルトは、呼び掛けてきた声の主――その少女についても、思い出した。

 モルフォ。自分がかつて誰よりも守りたかった、ある少女の第七波動(セブンス)――”電子の謡精(サイバーディーヴァ)”の能力による、意志を抱いた彼女の分身。

 金の長髪を一つ結びとし、白と青を基調とした和洋折衷の服を着た彼女は今――ガンヴォルトを、膝枕していた。

 

「……モルフォ?」

『ん? なに、GV?』

「なんで、膝枕してるの?」

『なんで、って……女の子の夢でしょ? 好きな男の子を膝枕するのって』

「……そ、そうなの?」

『あー、GV照れてるー! ふふっ、かわいー!』

「からかわないでくれるかな……まだ、状況が呑み込めてないんだから」

 

 モルフォから言葉責めにも等しいストレートな好意を受けて、軽く赤面しながらガンヴォルトは現状を思索する。

 自分の過去(これまで)を思い出す。思い出せる。自分は確かにメビウスと同化し、暴走したままきりんと対峙し、彼女の封印で得た猶予の中で無限の星詠(アストラルオーダー)の能力を使った。そして、運命を改変した。

 同化したメビウスと共に、自分自身を”やり直す”。身体も能力(ちから)も、それまでの全てをリセットし、ガンヴォルトという存在をほぼ異なる新たな生命――ただの赤子にまで改変した筈だ。

 なのに、何故。何故今、自分はこうして、その事実を自覚出来ている? 赤子にまで戻ったのなら、それまでの全てを忘れていなければおかしいではないか。

 

『おかしいのはGVの方でしょー? 全く、あの時はそれしか方法が無かったとはいえ、自分を赤ちゃんにまで戻すなんて、メチャクチャよ』

 

 はぁー。そんな大きな溜息をついて、モルフォは呆れ返った声を漏らす。

 自分の考えている事は、モルフォには筒抜けになっている。それもそうだ、モルフォはイマージュパルス――自分の第七波動(セブンス)による、過去の記憶から具現化した存在である。記憶の模倣でありながらモルフォは自我を持つという特別性があるものの、どちらにせよ自分の一部であると言っても過言では無い。

 だが、そこで新たに一つ疑問点が生まれた。イマージュパルスは、きりんの能力との組み合わせによって発現した力だ。きりんから離れた今、何故モルフォが顕現しているのか。

 

『ふふっ、GVが珍しく百面相してるのを見てるのも面白いけど……流石に意地悪だよね。教えてあげる、一つずつね』

 

 何故か四肢に力が入らず、モルフォに膝枕された状態のまま、ガンヴォルトは聞き手となる。

 二人きりの夜の高原というこの空間。赤子となった筈の自分が”ガンヴォルト”に戻っている事。イマージュパルスである筈のモルフォが顕現している事。

 それら全ての答えを、モルフォは知っている様だった。

 

『端的に言うとね。ここは、()()()()()()()()()なの』

「……可能性、世界?」

『そ。ほら、思い出して()()?』

 

 その瞬間、ガンヴォルトの脳内に記憶が流し込まれた。

 それは、一度見た光景だった。しかし、一度も有り得る訳が無い光景だった。

 可能性世界。それはメビウスの能力・無限の星詠(アストラルオーダー)によって観測される、擬似的な並行世界。第八波動(エース)という強大な力により引き寄せられた、異なる運命を辿った世界の近似値。

 

『――もっとすぐにこの国はダメになるかと思っていたけど……意外と何とかなるもんだ』

 

 有り得ない筈の世界(もの)が観えてくる。かつて一度戦い、再び戦った少年が跪く姿が想起された。

 紫電。過去の皇神(スメラギ)の能力者部隊の管理役にして、今現在から見ても最高クラスだったと断言出来る能力者。

 しかし今観えている紫電は、それよりも遥かに強い。強い存在()()()

 

『これからの世界は、今を生きるキミたちが守らなくちゃいけない。キミになら出来るさ、ボクには出来なかった事も、キミになら……』

 

 可能性世界での紫電は、二つの第七波動(セブンス)――念動力(サイコキネシス)蒼き雷霆(アームドブルー)を携えてガンヴォルト達と対峙する。しかし無理な能力移植の代償として、その肉体は崩壊寸前と化していた。

 ただガンヴォルトを倒す為だけに得た、刹那的な力。それを使っても尚、彼はきりんとガンヴォルトの前に敗れ去り――その可能性世界(うんめい)から、自分達は抜け出した。

 それを思い出した瞬間、()()()()()()()()

 

『――そうだとも! 戦わずして勝ち取れる未来など、あるものか!』

 

 深紅の光しか存在しない、電子演算機に囲まれた空間。その可能性世界で、ガンヴォルト達はある男と対峙している。

 アシモフ。過去のガンヴォルトが所属していた、皇神(スメラギ)と対抗する武装組織(レジスタンス)のリーダー。”自由”の為に戦うと謳いながら、その実態は無能力者を淘汰するという思想に取り憑かれた復讐鬼。

 かつてガンヴォルト自身が手にかけ、しかしその世界で再会した彼は、その妄執と力を更に積み上げた存在だった。

 

『……それでいい……お前になら、この世界を、任せられる……! 視えるぞ……! キングとなったお前の元に、再び集う仲間たちが……ユートピアが……』

 

 そして再び、ガンヴォルトは彼を討つ事になった。かつての育ての親、自分が居た組織の恩師、大事に想っていた少女の仇。とても一言では言い切れない、そんな人物を。

 しかし彼は、最期にはガンヴォルトに想いを託して逝った。『能力者の未来を託す』、昔の遺言と変わらない言葉を預けて。

 可能性世界は、現実の世界では無い。それは有り得るかもしれない運命を辿った別の世界であり、本物ではあるが現実(いま)ではない。未来選択能力・無限の星詠(アストラルオーダー)によって垣間見えた、一時的な幻と言えるだろう。

 ――だが。

 

『GV。ちゃんと観えた?』

「……うん。確かに、在ったよ。この世界は」

 

 確かな現実であるメビウスを止める為に、ガンヴォルトは彼らを討ち果たし、可能性世界より抜け出した。

 それらは有り得ない筈の世界。彼らは過去の人物であり、かつて戦った記憶を持ちながらも再会に疑問も抱かず、こちらの世界の情勢もある程度把握しているという矛盾した存在。

 しかし、確かに在ったのだ。夢幻でもなんでもなく、確かに存在する彼らと出会うという、そんな可能性(せかい)は。

 

『話を戻すね。この場所はアタシの――”モルフォ”の可能性世界。だからココにアタシはいるし、アタシが引き寄せたGVもまたココにいる』

「……なるほど」

 

 可能性世界という概念を観る形で思い出し、ガンヴォルトはある程度の納得を得た。

 理屈は通る。有り得ない筈の世界を引き寄せる、それこそが第八波動(エース)の――メビウスの力。故に、有り得ない筈の存在がここに居る。

 ”可能性”はある。しかしそれは、ある大前提が必要だ。それこそ、有り得ない筈の前提が。

 

「……だけど。メビウスはボクと融合して、一緒に力を失った筈だ。可能性世界はメビウスの能力(ちから)が無ければ生まれない、なのにどうして……?」

『ふふん。それだけどGV、大事な所を見落としてない?』

「大事な、所?」

『あの時。メビウスと融合したのは、()()()()()()()()ってコト』

「!?」

 

 太陽宮の頂点でガンヴォルト達はATEMSのリーダー――ZEDΩ(ジエド).と戦い、その決戦の余波を受けてメビウスの拘束は外れた。そしてガンヴォルトはメビウスに浸食され、融合・暴走した。

 その後にきりんはジエド達との協力を得て、ガンヴォルトの暴走は一時的に制止。そしてその瞬間、ガンヴォルトは自分の意志により無限の星詠(アストラルオーダー)を行使して、メビウスの力を自分ごと生まれたての所まで失わせた――筈だった。

 しかし。その手前より、()()()()()()がメビウスと融合していた。

 

『メビウスがGVを乗っ取ろうとしたあの時。()()()()()()()()()じゃない』

「……あっ!」

 

 その言葉を聞き、ガンヴォルトは完全に当時の事を思い出した。

 モルフォ。イマージュパルスという第七波動(セブンス)その物でありながら、限りなく当時の本人に近い自我を持つ存在。一心同体たる彼女もまた、ガンヴォルトと同時に浸食された。

 そしてその時は自覚出来ていなかったが、暴走してきりんと戦う事になったあの時。ガンヴォルトは彼女の能力を感じていた。彼女の(ちから)を背負っていた。

 ――つまり。

 

『メビウスは蒼き雷霆(アームドブルー)だけじゃなくて、電子の謡精(アタシ)も乗っ取った。……まぁ、アタシはGVのオマケみたいなモノだったけど? 全く、失礼しちゃうわよねー』

「……なんだって……」

 

 モルフォは唯一、自我を持つイマージュパルス。故にガンヴォルトが浸食された時、彼女もまた同時にメビウスの影響を受け、共に暴走した。

 その後、きりんによる鎖環(ギプス)による封印をまとめて受けた。ガンヴォルトの”やり直し”の時、その内側の彼女は居合わせていた。

 だから一時的に無限の星詠(アストラルオーダー)を制御したガンヴォルトと同様に、モルフォもまた無限の星詠(アストラルオーダー)の力を宿していたのだ。

 

『ここはアタシの、()()()()()()()()()可能性世界。ここは現実とは切り離された世界で、時間の流れ方も違う。だから向こうで”やり直した”GVも、精神だけここに居る。……疲れてた所を起こしたくなかったから、しばらく眠らせてあげてたけどね』

「……じゃあ。無限の星詠(アストラルオーダー)は、メビウスは……」

『殆どは失われてるけど、まだ力は残ってるわよ? GVと違って、アタシ本体は”やり直し”されてないからね』

 

 モルフォがさらりと言った言葉に、ガンヴォルトは戦慄した。

 蒼き雷霆(アームドブルー)は、無限の星詠(アストラルオーダー)は――世界を滅ぼす龍は、未だ残っている。よりにもよって、自分の最も大事にしていた少女を媒介として。

 本来、第七波動(セブンス)は一人につき一つしか保有出来ない。二つ以上の力を宿せば、可能性世界の紫電の様に身体の方が保たず、いずれ崩壊する。

 しかし無限の星詠(アストラルオーダー)蒼き雷霆(アームドブルー)と完全な融合を果たした。それは、()()が既にあったから。ガンヴォルトの蒼き雷霆(アームドブルー)には、電子の謡精(サイバーディーヴァ)という別の能力との接続点があったからだった。

 

『……っていうか、GVは感謝してよねー? きりんと戦った時、暴走してる最中にも意識があったのって、アタシのおかげだからね?』

「えっ?」

『忘れてない? 電子の謡精(アタシ)には一時的だけど、GVの暴走を抑えられる力があるって事。まぁ、あの時は無意識でやってただけなんだけどね』

「……そう、だったのか」

 

 しかしその事実は、悪い事だけではなかった。

 モルフォの力は、歌を介した第七波動(セブンス)能力の干渉。能力を増幅させるのが主目的ではあるが、精神に干渉するという性質からガンヴォルトの暴走を抑制する力としても扱える。

 無限の星詠(アストラルオーダー)は本来、蒼き雷霆(アームドブルー)より上位の能力だ。にも関わらず侵食されたガンヴォルトが完全に乗っ取られずに済んだのは、その内のモルフォという安全装置が働いていたからだった。

 

「……モルフォ。なんで、こんな事を?」

『ん?』

「ボクと一体化していたキミなら、ボクの”やり直し”に付き合えた筈だ。……だけどキミは、それをしなかった」

 

 ガンヴォルトは自分の知らなかった事実を整理し、そして最大の疑問点を口にする。

 モルフォは自我を持つ、唯一無二のイマージュパルスだ。限りなく当時の本人を再現した彼女は、ガンヴォルトから独立して思考・行動出来る。無限の星詠(アストラルオーダー)の力も得たとなれば、尚更だ。

 それでも彼女はガンヴォルトの一部なのだ。故に”やり直し”によって暴龍の力を失わせる、その強い意志は言うまでもなく伝わっていた筈だ。

 彼女は、それを拒否した。”ガンヴォルト”が消失する前に自分の意志で行動し、可能性世界へガンヴォルトを引き寄せ、今際の際で消失を防いだ。

 ガンヴォルトの心中に付き合う事が、モルフォにとって不本意なのは理解出来る。だが、この手段でしか世界の破滅を免れるしか無かったのは確かで、それが分からない彼女では無い筈だ。

 

「……酷い言い方をしちゃうけど。どうしてキミは、ボクを助けてしまったんだ? あのまま行けば、無限の星詠(アストラルオーダー)は失くせた筈なのに……」

 

 最低の事を言っている自覚はある。しかしガンヴォルトは、問わずにはいられなかった。

 蒼き雷霆(アームドブルー)暴龍の王(メビウス)無限の星詠(アストラルオーダー)。世界の破滅に直結する脅威や問題を、まとめて先送りする。それがこの”やり直し”だった。

 暴龍化現象は第七波動(セブンス)の避けられない運命であっても、時を置いた未来ではそれを抑制出来る技術が開発されるかもしれない。あの最終決戦で、きりんとジエドが手を取り合い自分を止めた時の様に。

 しかし無限の星詠(アストラルオーダー)が在る限り、破滅の可能性は世界に残ってしまうのだ。なのに、何故。

 

『はぁぁ……それ本気で言ってる、GV?』

「えっ」

『忘れちゃったの? あの時、()()()が死んだ時のコト』

「……?」

 

 ”モルフォが死んだ時の事”。その言葉に、ガンヴォルトは僅かな違和感を抱いた。

 モルフォは第七波動(セブンス)その物であり、”消滅”ならともかく”死ぬ”とは表現しない。確固たる自我を持つ彼女の場合であれば、その言い方も別に不思議ではないのだが。

 しかし、もう一つ何か。とても小さな何かが引っかかった。

 

『”GVのことは、わたしが守ってあげる”。……()()()言ったでしょ? ”これからはずっと一緒だから”って』

「……その、言葉はっ……!」

 

 可能性世界。有り得ない事象を引き寄せる、その世界。

 その存在を知り、無限の星詠(アストラルオーダー)を宿したモルフォは、()()の事を望んだ。一つ目は当然、自分にとって最も大事な存在――ガンヴォルトの保護。

 二つ目は、()()を果たす為。それは遥か昔から、()()が死んだ時に約束された、最期の意志。戦いに傷付いた彼を支え、背を押す為の言葉。

 その為に。無限の星詠(アストラルオーダー)の力を得たモルフォは、有り得ない可能性を手繰り寄せた。

 

『ふふっ、ドッキリはここまでにしとこっか。……久しぶりっ、GV!』

「――()()()!?」

 

 姿はそのまま、モルフォの口調が変わる。大人びて落ち着いた喋り方から、少女じみた明るいモノへと。その話し方と声色を、ガンヴォルトは一時たりとも忘れた事は無い。

 シアン。電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力者にして、死して電子の謡精(サイバーディーヴァ)その物になった、かつてガンヴォルトが守りたかった少女。

 ある戦いの最中において完全に消滅した筈の彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()

 




少女の祈り

これからちょっと長めの短編として、一日一話投稿していきます。
本編の終わり方が悲しかったので、なんとしてでもハッピーエンドにする気で書きます。
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