蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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・電影想起

「あ、きりん。おかえりー、今日も別の部署に呼び出されてたの?」

「誰ぇ!?」

 

 治龍局の活動について皇神(スメラギ)内の社内会議にて様々なお小言を貰い、オフィスに帰ってきたきりん。そこで彼女は、()()()()()()に優しい声で出迎えられ、思わず声を上げた。

 薄紫のショートカットの髪、青いジッパーが取り付けられただけの水色のワンピース、小学生ほどの小さな背丈。思わずその姿を上から下まで二度見したが、どう見てもきりんが知らない子供である。

 が、当の少女はそんな困惑の様子を怪訝そうに小首を傾げていた。

 

「……あ、そっか。()()姿()になってるの忘れちゃってた、ごめんね」

「いやホントに誰なの。誰かに連れてこられた迷子……じゃないわよね?」

「子供扱いは流石に傷付くよ! むー、コレならわかるでしょ!」

 

 きりんからの迷子扱いに対し、少女はぷりぷりと怒る。そして、その背より()()()()()()()

 

「その第七波動(セブンス)の翅――シ、シアン!?」

 

 少女が生やした蝶の様な特徴的な翅を見て、きりんはようやく目の前の少女の正体を知る。その電子の翅は間違いなくモルフォ――電子の謡精(サイバーディーヴァ)の物であった。そんな能力(チカラ)の持ち主は、この世にシアン一人しか居ない。

 が、いくらなんでも姿が違いすぎる。どう見ても子供にしか見えないその少女は、大人びたモルフォ(いつも)の姿とは真反対も良い所である。

 何でこんな子供の姿になっているのか、何がなんだかわからない。きりんが浮かべた疑問はむしろ加速した。

 

「おかえりきりん。きりんから見て、このシアンの姿はどう? 変な所は無いかな」

「変なトコしか無いわよ! ……ガンヴォルト、コレあんたの仕業?」

「”仕業”と言われると、なんだか悪い事してるみたいでイヤだなぁ……」

 

 どうやらシアンらしい少女の後ろから、平気な顔をしているガンヴォルトがやってくる。ひとまずきりんは、ガンヴォルトをこの事態の第一容疑者と定めた。

 と言うのも、シアンの身に何かがあれば真っ先に狼狽するのはガンヴォルトである。そんな彼がこの変事にまるで動じていないのであれば、それは一切の心配を挟む程が無い程状況を完全に把握していると見ていいだろう。

 事実、ガンヴォルトはきりんからの責める様な視線に対して否定の言葉は返さなかった。

 

「……で。なんでシアンは、こんなちっちゃい子供になってんの?」

「ちっちゃいは余計だよ! ……GV、やっぱりわたしの身長ってもっと大きかったと思う! あと10センチぐらい!」

「いや、それは無いよ。……どれだけ昔の事でも、ボクがシアンを忘れる事はないから」

「GV……!」

「二人の世界作ってないでわたしの質問に答えなさいよ!」

 

 ガンヴォルトに怒ったかと思えば喜びに表情を染める少女のやり取りを見て、きりんはちょっとキレそうになりながらも目の前の少女が間違いなくシアン本人であると確信出来た。

 ここまでガンヴォルトと親しく接する存在など、一心同体たるシアンでしか有り得ない。どれだけ姿が変わろうと――それにしたって変わりすぎだが――、それだけはきりんにも断言出来る絶対的な真実である。

 それはよく分かったから質問に答えろ。抗議の意味を込め、きりんはイエローカードとばかりにガンヴォルトらに護符を取り出して翳した。

 

「ごめんごめん。一言で言えば、これは()()()()()立体映像(ホログラム)だよ」

「実体がある……?」

「一時的だけど、イマージュパルスで能力者を再現出来てたでしょ? じゃあ今なら()()()()()()んじゃないかなって思って、ちょっとやってみたんだ」

「”ちょっとやってみた”で人体作るのはちょっとどうなの? ……えぇ、ちゃんと普通に触れる……体温とかもあるし……」

「ひょっとひりん、ほっぺ(ふか)むのはひゃめてよぉ」

 

 なんかガンヴォルトが滅茶苦茶な事言ってる。そう思いながらきりんはシアンの頬を触ったりつねたりしてみたが、どう触れてもそれは”映像”では無かった。

 イマージュパルスはガンヴォルトのイメージを鎖環(ギブス)の護符に込める事で記憶にある人間を疑似再現する能力である。鎖環(ギブス)無しではそれと全く同じ事は出来ないが、蒼き雷霆(アームドブルー)による電子操作でも似た事は出来る。

 

「実体を生み出す第七波動(セブンス)自体はこれまで結構見てきたからね。実際の人を作るとなると魂の有無が問題になるんだけど、今のシアンは魂その物みたいな存在だからその点はクリア出来たんだ」

「まぁ感覚的には、GVが能力で作った着ぐるみにわたしが入ってるみたいな感じかなぁ」

「えぇ……絶対そんな簡単に片付けていい事じゃないと思うんだけど……」

無限の星詠(アストラルオーダー)に比べたら大した能力(チカラ)じゃないよ」

 

 第七波動(セブンス)に対してかなり感覚が麻痺しているガンヴォルトらに代わり、きりんはドン引きする。

 実際、ガンヴォルトが出会ってきた能力者の中には物体や人間の複製・再現が可能な者が多く居た。死者の蘇生・鏡像の複製・データの実体化・霧の幻影。第八波動(エース)にまで至った事もあり、今のガンヴォルトは”やれば出来るんじゃないかな”と、実体化能力に対する認識が軽くなっていた。

 複製体を”本物”とするには魂も必要なのだが、それについてもABスピリットの扱いに慣れた今のガンヴォルトや、魂その物のまま生きてきたシアンにとっては大した問題にもならない。

 

「どういう事かは理解出来たけど……なんでまた、こんなトンデモな技試したのよ?」

「昔、ボクが守れなかったせいでシアンは命を落として、第七波動(セブンス)その物になってしまった。その贖罪――という訳じゃないけれど、もう一度で良いから生身の肉体を与えてあげたかったんだ」

「わたしは別に良いって言ったんだけどねー。今になってはモルフォの身体も悪くないって思ってるし」

「”ちょっとやってみた”って軽い言葉の後ろから、ヘビー級の裏事情が湧いて出たんだけど……それ、わたしはどういう顔すりゃいいの……?」

 

 何食わぬ顔でさらっとやった事かと思いきや、動機が重すぎる。話の恐ろしい温度差に、きりんは顔をひきつらせた。

 一時期、シアンは体を持っていない事を気に病んでいた節があった。それはガンヴォルトからして自分が背負うべき罪と責任の一つであり、無限の星詠(アストラルオーダー)による運命の悪戯で奇跡的に戻ってきた今も、肉体が失われているという事情は変わっていない。

 肝心のシアンは今はそれ程気にしている訳では無いようだが、ほんの一時ぐらいはまともな体を取り戻しても良いだろう。そんなちょっとした親切心から、ガンヴォルトは擬似的な死者蘇生をやってのけたのである。

 

「上手く応用出来れば、変装能力としても使えるかもしれないね。……生体電子を弄って第七波動(セブンス)反応の欺瞞が出来れば、一般人に扮して潜入任務に使えるかも……」

「あー、GVが良くない事考えてるー。これやる前に”蒼き雷霆(アームドブルー)を争いの為以外に使ってみたいんだ”ってわたしに言ったの、忘れてない?」

「う……ごめん、シアン。これも職業病って言うのかなぁ……」

「わたし今の使用法聞かなかった事にしたいんだけど。それ絶対皇神(スメラギ)上層部に言わないでよね」

 

 皇神(スメラギ)の他部門が聞けば確実に悪用されるだろうリアリストな考案を、シアンが咎める。

 シアンが今回この技を受けた最大の理由は、ガンヴォルトが自身の能力に対し別方面から向き合おうとしたからだ。これまで争いにばかり使ってきた自身の力に、平和へ繋がる別の用途を見出す。そんな姿勢が見えたから、シアンはさして惜しんでいない肉体を受け取ったのである。

 それはそれとして。前々から何でも出来るとは思っていたが、本当に何でもアリな事があるか蒼き雷霆(アームドブルー)。横から聞かされたきりんは心の底からそう思った。

 

「……しっかし、シアンが元はこんな子供だったなんてねー。大人っぽいモルフォの姿しか知らなかったから、なんか意外だわー」

「わわっ。もー、だから子供扱いはやめてってば、きりん」

 

 小さな頭をつい撫で回しながら、きりんは改めて今のシアンの姿を眺める。

 治龍局で共に居た時の”モルフォ”は愛嬌と落ち着きをバランス良く持ち合わせた、大人びた女性だった。が、今の”シアン”は奔放さと明るさに寄った性格となっている。

 以前とは随分変わったなと思っていたが、能力者本体がここまで子供だったならばそれも納得出来る。随分可愛らしいものだなぁ、そう考え――ると同時に、実質的な享年がこれ程幼い頃という事に思い当たってしまい、いきなり気分が苦く落ち込んだ。

 

「でも、本当に肉体(からだ)はモルフォのままで良いの、シアン? 別にその状態でも電子の謡精(サイバーディーヴァ)は使えるし……この位の力なら、ボクも半永久的に維持出来るよ」

「横からごめんGV。それ、さらっと”不老不死に出来る”って言ってないそれ?」

「……そう言われると、確かに出来るね。でも、ボクも似たような存在だし……」

「コ、コイツ……」

 

 そういえばこの男も元々不老かつ永遠の存在だった。目の前の少年がかつてより常識を超越した存在である事を思い出し、きりんは改めて頭を抱える。

 ちょっと人外の領域に足を突っ込みすぎて、一般常識から離れかけてないだろうか。次の段階(ネクストフェーズ)だの暴龍化だの第八波動(エース)だの、色々背負い過ぎたからしょうがないのも理解出来るが、このままではメビウスの教育に良くない影響を与えてしまいそうだ。

 封印しよう、予測不能の行き過ぎた言動(ネクストステージ)。まだまだ自分が手綱を握る必要があると確信したきりんは、改めて気を引き締めた。

 

「さっきも言ったけど、わたしは今のモルフォ(からだ)で良いよ。……モルフォじゃなかったら、GVを助けられなかった。モルフォだったから、GVを支えられる。今は、それを誇りに思ってるんだから」

「……シアン」

 

 そう言って、シアンは自分の胸に――その奥の電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力に手を添え、微笑む。

 シアンがかつて肉体の有無を気にしていたのは、自分の死によりガンヴォルトが傷付いた事と、それからエデンに力を奪われた事で傍に居ても支えになれなかった事に起因している。オウカが居なければ、あの頃のガンヴォルトはきっと傷付いたままだった。

 しかし、今は違う。自分の力がモルフォであったからこそ、ガンヴォルトはこうして人に戻れた。自分も一緒に戻り、今も支えとなれている。その事実に比べれば、肉体の有無など些細な事である。

 だから、わたしは電子の謡精(モルフォ)で良い。それが今のシアンの心の底からの本音だった。

 

「はー、重い重い。空気が(おっも)いのよ、GV。全く、一回生まれ変わってもその真面目っぷりは変わんないのねー」

「き、きりん……」

「昔は昔、今は今。そういう事で、それだけの事でしょ? ね、シアン」

「……うん。そう言われると、確かに”だけ”かも」

「じゃ、それで良いでしょ。はいこの話これ以上するの禁止ー。上司命令よ、従いなさい」

 

 ぱんぱんと手を叩き、きりんはガンヴォルトに見える少しの迷いごと強制的に話を打ち切った。

 結局、重要なのは今だ。昔を気にする事は悪い事ではなく、それはガンヴォルトの確かな責任感の表れである。しかし、それで過去に足を引っ張られるのは良くない。

 今を生き、未来へ進む。そういった意識で言えば、今のシアンの割り切り方をきりんは好ましく思っていた。じゃあ肉体が無くても良いと言うのは些か割り切り過ぎだとも思うのだが、それはそれである。

 

「しっかし、皆ホント便利な能力持ってるわよねぇ。わたしの鎖環(ギブス)はこういうの出来ないから、正直羨ましいわー」

鎖環(ギブス)は凄い力だけど……確かに、戦う時以外はあまり活用法が無いかもしれないね」

「贅沢な悩みだねー。きりんが居なかったら、今の世界も無いのに」

「実際その自負はあるわよ。あんた達は特に、感謝の念を忘れない事ねー」

「うん。いつも頑張ってくれてありがとう、きりん」

 

 蒼き雷霆(アームドブルー)電子の謡精(サイバーディーヴァ)、他治龍局のメンバーもあれこれ色々出来るのを見せられてきて、きりんは本気では無いものの軽く愚痴を零す。

 どんな第七波動(セブンス)も封印出来る、唯一無二の能力。が、きりん自身も自覚している通り、鎖環(ギブス)は何かを生み出す力では無く、極論を言えば平和な時に使い道は無い。

 鎖環(ギブス)が繋いでくれていなければ、ガンヴォルト・シアン・メビウスら三者は今こうして存在出来ていない。破滅の運命を覆し世界の平和を繋いだ、一切の過言無く世界を救った能力だ。が、やはり隣の芝というのは青く見えるモノである。

 

「――シアンのその身体。立体映像(ホログラム)で生み出した実体なのよね?」

「ん? それがどうしたの?」

「GV。なんでも生み出せるの、その力?」

「なんでもって訳じゃないけど……ボクの知ってるモノなら、大体は生成出来ると思う」

「ふーん……ふぅん?」

「な、何その顔?」

 

 鎖環(ギブス)には何かを生み出す事は出来ない。そんな自嘲から一転し、きりんは悪い笑みを浮かべる。

 別に自分が何でもやる必要は無いのだ。力を合わせ、平和を繋げて、今こんな愚痴る程に平和な一時がある。

 それなら。ちょっとぐらいは、自分にも()()()()を言う権利はあるだろう。

 

「GVー? 蒼き雷霆(アームドブルー)、争い以外の為に使いたいって言ってたわよねー?」

「そ、そうだけど……」

「それならいっちょ、平和的な()()でもしてみない?」

「……?」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「んー……コレも捨て難い、こっちも悪くないわねー。GV、今度はコレ作ってー?」

「GV、GV! わたしも! わたしもコレ、作ってほしいなー!」

「…………うん」

 

 それから十分ほどして。パソコンの前に陣取ったきりんとシアンは、楽しげな様子でモニターを指差し、そこにあるモノをガンヴォルトに見せる。

 ガンヴォルトは死んだ目をしながら、きりん達からの要求に応えた。

 

「フッ! ……これで良いかな、二人とも」

「いやー、こりゃ良いわ! 裏八雲の里じゃ、ウィンドウショッピングも出来ないからねー!」

「わー! こんな()()着るの、わたし初めてだよー! モルフォのは”衣装”って感じだし!」

「……喜んでもらえて何より、かな……うん……」

 

 蒼き雷霆(アームドブルー)が迸り、きりんとシアンの()()()()()()

 雷光一閃、二人は()()()()()のカタログにある振袖の和服を身に纏っていた。

 

「何よGV、そんなしけた顔して。女の子のオシャレに付き合うのは男の甲斐性でしょ?」

「ありがとうGV! この肉体(カラダ)で色んな服を着れるなんて、夢みたいだよ!」

「そう、だね……二人の役に立てて、嬉しいよ……」

 

 正月でレンタルする様な高級和服を着て喜ぶきりんとシアン、その対照的に疲れた顔をするガンヴォルト。今このオフィスで行われているのは、ガンヴォルトの物質投影能力をフル活用したファッションショーであった。

 ガンヴォルトによる高度な立体映像(ホログラム)は、物を即時に実体化させる。それを利用し、きりんは能力の練習というお題目の元、自分が着てみたかった衣服やアクセサリーなどを投影・試着する事にした。

 だが、これが思った以上に難しい。通販サイト越しに断片的な情報しか知れない、構造の不明瞭な服や小物を限定的に生成するのは、人間の肉体を一から作り出す方が簡単と言えた。

 ”これも練習の内だから”と言われ、着替えるという行程をすっ飛ばして直接相手に服を着せる事も、きりんの要求の内である。どう考えてもきりんが手間を面倒臭がっただけなのだが、そのせいでただ服を作り出すよりも難易度が格段に上がってしまった。

 

「ホント便利ねー。シンデレラに出てくる魔法使いみたいじゃないの、この能力」

「言われてみると確かにそうかも! ねえねえGV、かぼちゃの馬車とかも作ったり出来る?」

「ボクは生まれて初めて童話の登場人物に同情しているよ」

 

 やっている事は本当に魔法使いレベルの所業だが、やっている本人からしたらたまったものではない。変身アイテムとしてパシられている最強の能力者は、かなり気疲れし始めていた。

 これが同性ならともかく、作っているのは異性の服なのだ。きりんもシアンも気付いていないが、サイズを合わせて服をそのまま着せる為には、ある程度相手の体型を把握する必要があるのだ。

 余計な雑念を棄てて二人の身体に電子を沿わせる。そこから想像のみで本物と一切変わらぬ精巧な立体映像(ホログラム)――()()映像を重ね、一瞬で創り出す。あらゆる部分がガンヴォルトの精神の負荷となり、すり減らし続けていた。

 

「……どう考えてもこういう能力じゃないと思うんだ、蒼き雷霆(アームドブルー)って」

「間違い無く平和な用途でしょ? 使い過ぎたら経済が乱れるけど、鎖環(ギブス)なら消せるし問題ナシね」

「言われなくてもボクが消すよ。鎖環(ギブス)も絶対そういう能力じゃないでしょ」

「力の使い道は一つじゃないって事が証明出来て良かったじゃない」

 

 雷光速の試着という遊びを存分に楽しみ終えたきりんは護符を取り出し、自分の着ている服に当てる。瞬間、蒼き雷霆(アームドブルー)によって生成された電子の仮装は解除された。

 違う、こうじゃない。確かにガンヴォルトは自分の力に争い以外の用途を求めたが、求めた希望の先が明後日の方角へ突き抜けた感じがする。

 自分の苦労を一瞬にして霧散させた鎖環(ギブス)ともども、自分の想定を斜め上に外れた能力の活用法を見せつけられたガンヴォルトは、精神の疲弊と徒労感でなんかもうどうでも良くなっていた。

 

「……全くキミは……まぁ確かに、能力の練習にはなったよ。これまでで一番蒼き雷霆(アームドブルー)を細かく操作したかもしれない」

「よし、次の治龍局のハロウィンはコレで決まりね。タダで好きな仮装が出来るし、楽しみだわー」

「待ってくれないかきりん。本当に待ってほしい。またコレやらされるの、ボク?」

「折角練習した能力なんだから、やらないと損でしょ?」

「…………」

 

 さらりと未来の予定を決定してくるきりんに、ガンヴォルトは本気で拒否しそうになった。

 確かに実体映像は今まで試さなかった蒼き雷霆(アームドブルー)の新たな可能性なのだが、間違った方向に極まったこの能力を使うのは色んな意味で疲れるのだ。電子で体型を測る部分など、実態がバレればセクハラと言われる恐れがある。

 散々第七波動(セブンス)で悩んできた身ではあるが、こんな悩みを抱える羽目になるとは思わなかった。

 

「ふふっ。GV、わたしでも今まで見た事ない顔してるよ?」

「シアン……この能力、二人が思ってる以上に疲れるんだ……頼むから一緒に、きりんを止めて欲しいな……」

「ごめん、わたしもハロウィンの仮装はしてみたいや。……ダメ?」

「……ダメ……ではない、けどね……」

 

 トドメにシアンから未来選択能力(おねだり)を喰らい、ガンヴォルトは己の背負った運命から逃げられなくなった。

 生前に自由を与えられなかった身として、シアンに希望を乞われては拒否など出来る訳も無い。それこそ肉体を作ろうと考える程にシアンがやりたい事なら何でも叶えてあげたいと思っているのだから、当然ではある。

 むしろシアンの言葉にハッキリと即答出来ない事に、ガンヴォルトは自分ながら驚くレベルだった。そしてやっぱり進んでやりたくはないと思った。それ程までのキツさであった。

 

「難しい能力だってんなら、余計に練習しとかないとダメね。時間はあるんだから、自分で変身の練習とかしときなよー」

「そういえばGVは皇神(スメラギ)の皆みたいな変身ってした事無いよね。自分でデザイン考えてみるとかどうかな!」

「勘弁して……」

 

 ダメ押しの提案を喰らい、いよいよガンヴォルトは肩と頭をがっくりと落とした。

 確かに自分にこの能力を使う分には精神的負荷は殆ど無くなるが、自分で変身衣装を考えるというのは軽く罰ゲームの部類だ。宝剣や暴龍化による変身現象は自動的に個々人に適したカタチに変わるのであって、自分で考える物ではない。

 七宝剣・G7・暴龍・封鍵だのと様々な変身を見てきた身だが、自分でやるという発想は一度も無かった。ああいうデザインって何すれば良いんだろう、どういう方向を目指せば良いんだろう。そんな事を、本気で悩み始める。

 

「――時間はある、か」

 

 そんな事を、本気で悩む。こんな事を、悩む事が出来る。そんな時間がある。

 贅沢な悩みだ。少し前までは自分のせいで世界が破滅するだとか、そういう壮大な危機と向き合っていたのに。それと比べれば、今向き合っている危機や悩みはなんとささやかな事か。

 歌姫(ディーヴァ)プロジェクト、エデンによる国家侵略、暴龍の王と世界の運命。あらゆる事に追われる様に戦ってきたのに、今直面しているのはこんな下らない事だ。

 案外、これが平和という物の本質なのかもしれない。ガンヴォルトはくすりと苦笑いした。

 

(ごめん、アシモフ。やっぱりボクは、(キング)よりこっちが良いよ)

 

 新たな時代の王、能力者の未来は託す。かつてアシモフより受けた言葉を、改めて心の中で拒否する。

 逃れられぬ運命だと言われ、まるで予言の様にガンヴォルトは暴龍の王に成りかけた。しかし今はそれを覆し、こうして人らしく小さな悩みに翻弄されている。

 ただ。”お前の元に仲間達が再び集う”、可能性世界でのその言葉だけは確かな現実として、これからも叶えていきたい。穏やかだった頃の恩師の顔を思い出しながら、そう思った。

 

  ◆  ◆  ◆

 

『――ねぇGV。いっぱい考えたんだろうし、文句を言うのは良くないと思うけど……その仮面、似合ってないよ?』

「……そ、そんなに似合ってない……?」

『うん。ぜんぜん』

「……そっか……」

 

 後日。ひとまず小物からと自分でデザインして作った黒い仮面は、シアンよりNGを食らった。

 




ヴォルティック変化

GVの宝剣アーマー形態、雷ボスっぽくファルコンアーマーみたいになるんでしょうか。
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