「な、なんでっ……」
『もー、GV。さっきから”なんで”ばっかり。久しぶりの再会なんだから、もっと喜んでくれたら良いのにー』
ダブる。記憶が、重なる。遥か昔、常に一緒に居たあの頃に。
シアン。
文字通り一心同体の存在として寄り添ってくれていた彼女は、まるで当時そのままの形で今ここに居た。
『モルフォが願って、
「…………」
言葉も出ない。ガンヴォルトの頭は、真っ白に染まっていた。
シアンという少女は、極めて特別な存在だ。それは死後に
そんな彼女はその能力を狙われ、かつて多国籍能力者連合・エデンとの戦いの果てに消滅してしまった。肉体も
それが今、此処に居る。文字通り、運命の悪戯としか言えない形で。
『まぁ、私から説明出来る事はこれで全部かな。……で、さ。GVはどうしたい?』
「ど、どう、って?」
『これからの事に決まってるでしょ?』
自分の望みは
この可能性世界は現在、現実とは隔離されている。しかし今の
それはつまり、”
『――で? それが?』
「え?」
『GV。わたしがあなたと一心同体だって事、忘れてない? あれこれ悩んでるの、全部筒抜けなんだから』
なんとか頭を働かせようとする所に、シアンが声を挟んでくる。悪い方向に転がり落ちそうな思考を遮る様に。
それも当然の事だった。今のシアンは独立しているとはいえ、それでも
なのでガンヴォルトが今抱いている困惑も不安も、あらゆる考えが今のシアンには筒抜けとなっていた。
『暴走するのが危険? いつか破滅が訪れる?
「そ、そんなの、って……」
『”そんなの”なの。だってそれは、GV自身の望みとは関係無いんだから』
暴龍・
決断して、行動した。しかしその直前に、ガンヴォルトは一つ望んだのだ。
『”またキミに会えるといいな”――あの時、そう言ってたでしょ?』
「それは……」
”やり直し”の刹那、一つ零した望み。
きりんや仲間の皆と、また会える機会があれば。破滅の運命に囚われてしまった自分には許されない望み。そのほんの些細な一言を、その場にいたモルフォだけは拾っていた。
『今度は暴走の危険が無い様に、赤ちゃんにまでなって力を失くす。その理屈はわかるけど……それは本当に、GV本人だって言えるの?』
「……」
『いーや言わない。GVがなんて言っても、わたしは言わない。そんなのただの別人だよ。GVはあの時、自分が自分のまま皆と会いたかったのに』
「う」
ガンヴォルトの言い訳や逃げ場を塞ぐ様にシアンは捲し立てる。その指摘はどうしようもなく真実だった。
治龍局で過ごした、騒々しくも充実していた日々。自分が
それを振り切る様に、ガンヴォルトは決断した。自分の欲など、世界の前では些事でしかないのだから。
『……思い出して、GV。あなたは、わたし達は、今まで何のために戦ってきたの?』
「何の、為に……?」
『いつだってGVは、誰かの為に戦ってきたでしょ? 思い出して』
シアンがガンヴォルトの額に手を添え、それと同時に記憶が遡っていく。
最初の記憶は、アシモフに救われた時。
復讐の為かと聞かれ、それを否定した。人を憎む為ではなく、救う為に戦うと決めた。アシモフから与えられた、あの時の”自由”を信じて。
『わたしの為に、戦ってくれた』
次の記憶は、シアンを救った時。同じ
『オウカ達の為に、戦ってくれた』
その次は、オウカやシャオと共に過ごした時。居場所を失った自分を受け入れてくれた彼女達を守ろうと、エデンの侵攻に立ち向かった時の事。
そして再びシアンの力が狙われ、取り戻す為に争った。ただ皆の自由と平和を守ろうと願い、また戦って。
『封印されて、起こされて、その後も戦った。……ずーっと、GVは戦い続けてた』
そして暴走に至った自分を
贖罪の為にと、きりんや治龍局の皆と一緒に戦った。戦って、戦って、戦い抜いた。
『……昔に言った事、もう一度聞くね。あなたは、どこへ行きたい?』
「……ボクは……」
それは、自らの手でアシモフを討った直後の言葉だった。全ての居場所を失い、途方に暮れていたあの時に、はっきりとした答えを返せなかった問いかけ。
今の状況は、その時と似ていた。戦いの果てに再び自分は全てを失って、シアンと二人きりで此処に居る。
ただ一つ違う事があるとすれば――
『今のGVには、戻りたいって思える居場所があるんだよ』
居場所がある。戻りたいと、そこに居たいと思える想いがある。
それが叶わないから割り切っただけで、今のガンヴォルトには小さくも確かな願望を持っていた。それこそが、これまでとの最大の違い。
『諦めないで、GV』
「え?」
『今までGVは、皆の為に戦い続けてきたじゃない。そろそろ、自分の事だけ考えても誰も文句なんて言わない筈だよ』
「そ、それは流石に――」
『っていうかわたしが言わせない。世界中の誰がなんて言おうとしても、わたしが許さないから』
「えぇ……?」
有無を言わさず食い気味で言い放つシアンに、ガンヴォルトは少し気圧された。
ガンヴォルトは生い立ちからか、我儘らしい我儘をろくに溢さない。人並みの欲求はあるのだが、常に自分よりも他人を優先してしまう。長く共に過ごしてきたシアンにとって、それは悪癖であると思っていた。
その優しさでシアンは守られ続けてきた。多くの人達が頼りとして、助けられた。しかし、そのガンヴォルト本人を守る人間が全くいない。
だから、
『これまでずっと、ずっと、ずーっと。わたしはGVに背負われるだけだったけど……今度こそ、そんなのは終わりにするの』
「……シアン?」
『わたしがあなたの翼になる。あなたの力になる。
単に力を貸すだけじゃない。ただ一緒にいるだけの存在にはならない。本当の意味で、ガンヴォルトを助ける。
その為に、シアンは此処に来たのだから。
『これまではどうにもならなかったかもしれない。世界は滅ぶ運命だったのかもしれない。でも、
「それは、どういう――」
『……そうでしょ?
「――!?」
シアンの言葉に応じ、寝転ぶガンヴォルトの頭上で
『大丈夫だよ、GV。今のこの子はちゃんと大人しくしてるから』
「そ、そうなの……?」
『…………』
『ほらね?』
「……う、うん」
沈黙を保つメビウス、微笑むシアン、体が強張るガンヴォルト。なんとも言えない空気が三人の間に広がる。
メビウスはその脅威性により、生まれた直後から
なので怒りとか悲しみとか、それ以前に声や表情だとか、ガンヴォルトに感じ取れるモノは無い。ただ、ガンヴォルト目線では個人的な判断で消失に巻き込もうとした相手なので、限りなく気まずいというだけだった。
『今のこの子は、GVと同じぐらいの力しか無いよ。”やり直し”の最中で留まれたのは、GVの存在が消失するギリギリでわたしがこの可能性世界に引っ張ってきただけだからね』
「いや、そう言われても……」
困惑しているガンヴォルトをよそに、シアンが説明を続ける。確かに、今のメビウスに暴走らしい暴走の予兆は見られない。
メビウスはガンヴォルトと同化し、運命と共に力と存在を失う筈だった。だがガンヴォルトが消失を免れた事で、宿っていたメビウスもまた同様にシアンによる保護を受けた形になった。
そして今その力は、限りなく薄れている。ガンヴォルトと同じく、シアンの可能性世界の中でようやく存在を保てている彼は、滅びの暴龍などと言うには烏滸がましいただの赤子同然の――本来あるべき生命の一つと成っていた。
『GV。今のあなたやわたし達は、もうひとりじゃないんだよ』
「……どういう、意味だい?」
『わたしはGVが居てくれたから、また戻ってこれた。メビウスはGVが生きる事を諦めないでくれたから、消えなかった。そしてGVは、わたし達が居るから此処に居る』
「…………」
『ひとつひとつは小さな小さな羽ばたきだったけど。今のわたし達は三人ともが無意識に支え合って協力して……それで、限りなく薄い可能性が生まれた』
シアンはガンヴォルトの記憶の中で生き続け、メビウスの力によりこの世界を作った。
ガンヴォルトはメビウスが視た破滅の運命を覆し、シアンの想いで自分の命を繋いだ。
メビウスはシアンに力を間接的に与え、ガンヴォルトと同化したが為に消滅を免れた。
それらはとても小さな粒の様な可能性に過ぎなかった。それでも、ここに叶っている。
『……あなたの言葉を聴かせてよ、GV。”まだそこへ行くわけにはいかない”なんて、寂しい言葉で終わらせようとしないでよ。一緒に、生きようよ』
「シアン……」
シアンは今にも涙を流しそうな程に悲しい顔で、ガンヴォルトに呼びかける。
自分の命だけは諦めない。その為に今取れる最善の策として、自分は全ての先送りを選んだつもりだった。しかし、それでは彼女を悲しませるという事を悟り、胸が痛む。
その呼びかけに、悲しみに、選択に。ガンヴォルトが応えるべき答えは、一つしか無かった。
「……うん」
『”うん”だけじゃ伝わらないよ』
「伝わってるくせに」
『こういうのはね、言葉にしなきゃダメなんだよ』
答えは出た。その想いだけは、既にシアンにも伝わっている。
だが、
「――戻りたい」
ガンヴォルトが呟く。
「帰りたい」
破滅の運命とされた存在が零す。
「一緒に居たい」
ただ強い力を持っただけの少年が、我儘を言う。
「……シアン。ボクを、助けてくれないか?」
自分で言ってて情けない。そう思いながら、ガンヴォルトは生まれて初めて命乞いをした。
それも今自分を膝枕している、自分が守らなければならないと思ってきた少女に対して。
『――ふっふーん! 仕方ないなーGVは! わたしが居ないと、やっぱりダメなんだから!』
「うん。どうも、ダメみたいだ。ボクだけじゃダメだったよ」
満面の笑みを浮かべながら、シアンが茶化す。ガンヴォルトも苦笑するしかなかった。
思えば、自分一人でなんとかなった事など無い。最強の能力者と言われてるくせに、紫電にシアンを攫われたし、アシモフに殺されかけたり、パンテーラにシアンを取り込まれたり。挙句の果てには世界の破滅ときた。
ダメダメじゃないか。改めて自分の
「それで、どうしよう。どれだけ弱まっていても、
『うん、わたしもそう思う。元々
自分が自分のままガンヴォルトは明日を求めると決めた、しかしそれはそれとして避けられない問題がある。
元々暴龍化自体、メビウスも関係無く強力な能力者がいずれ至る
ガンヴォルトの生存を望んだシアンも、流石にこれを無視するつもりは無かった。
『実はGVが起きる前にひとつ、考えてたアイデアがあるの』
「アイデア?」
『うん。GVもわたしもメビウスも、皆が問題無く元の所に帰れる。そんなビッグアイデア!』
「そ、そんなのがあるの……!?」
ぱん、と自分の両掌を合わせて笑うシアンに、ガンヴォルトは驚愕する。
世界の問題その物とすら言える三人が全員共存出来る、そんな手段などガンヴォルトには到底考えつかなかった。
『どうにもならなかった前ならともかく、今のわたし達には力があるじゃない』
「今持ってる力って……
『もー、焦らない焦らない。GVは戦う事ばっかり考えるから気付けないの』
未来選択能力・
しかしこれを使う事は根本的な解決にはならない。能力で最善の未来を選び取ると言っても、能力者の行き着く最終地点が暴龍化である事には変わらないし、使い続ければ
これを危険視した結果ATEMS――
『未来を選ぶなんて
「つ、つまらない……?」
『力を全く違う形で使う。わたし達はずっとそうやってきたじゃない』
ガンヴォルトの懸念を、ばっさり一刀両断する様にシアンは言い放つ。
ガンヴォルトにはその自覚が無い。どうしても彼は、戦う者でしか無かったから。
『ふふん、驚かないでよね! 作戦名は、名付けて――モルフォ・スーパーライブ!!』
「…………???」
自信満々なシアンの言葉に、ガンヴォルトの思考は再び停止した。
こんな所で終わらせない
いいから幸せになれ(要約)