蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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02.彼の記憶

「な、なんでっ……」

『もー、GV。さっきから”なんで”ばっかり。久しぶりの再会なんだから、もっと喜んでくれたら良いのにー』

 

 ダブる。記憶が、重なる。遥か昔、常に一緒に居たあの頃に。

 シアン。電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力者にして、死後に精神(こころ)をモルフォと一体化させ、ガンヴォルトを一度死の間際から救った少女。

 文字通り一心同体の存在として寄り添ってくれていた彼女は、まるで当時そのままの形で今ここに居た。

 

『モルフォが願って、シアン(わたし)が来た。そしてわたしは、また”モルフォ”になった。単なる過去の幻影じゃない、本物のわたしに。……どう? ビックリした?』

「…………」

 

 言葉も出ない。ガンヴォルトの頭は、真っ白に染まっていた。

 シアンという少女は、極めて特別な存在だ。それは死後に第七波動(セブンス)その物となり、ガンヴォルトと同化したという特異性だけではない。組織(フェザー)を抜けてまで守ろうとした、唯一の家族と言える存在である。

 そんな彼女はその能力を狙われ、かつて多国籍能力者連合・エデンとの戦いの果てに消滅してしまった。肉体も精神(こころ)も消えた、その筈だったのだ。

 それが今、此処に居る。文字通り、運命の悪戯としか言えない形で。

 

『まぁ、私から説明出来る事はこれで全部かな。……で、さ。GVはどうしたい?』

「ど、どう、って?」

『これからの事に決まってるでしょ?』

 

 無限の星詠(アストラルオーダー)によるモルフォとシアンの一体化、彼女が望んだガンヴォルトの存命。そんな現状を聞かされたガンヴォルトにしてみれば、”どう”と言われても返答に困る。

 自分の望みは無限の星詠(アストラルオーダー)蒼き雷霆(アームドブルー)の両方の消失だった。懸念していた破滅と暴走は起きていないが、自分がこの姿で生きている事自体が不味いのだ。

 この可能性世界は現在、現実とは隔離されている。しかし今の無限の星詠(アストラルオーダー)の保持者――シアンの意思一つで、それは塗り替わるだろう。

 それはつまり、”無限の星詠(アストラルオーダー)を保有したガンヴォルト”という、考えられ得る最悪の可能性が現実世界に()()()()()事を指す。

 

『――で? それが?』

「え?」

『GV。わたしがあなたと一心同体だって事、忘れてない? あれこれ悩んでるの、全部筒抜けなんだから』

 

 なんとか頭を働かせようとする所に、シアンが声を挟んでくる。悪い方向に転がり落ちそうな思考を遮る様に。

 それも当然の事だった。今のシアンは独立しているとはいえ、それでも根本(ベース)はモルフォ――ガンヴォルトの能力の一部である。どれだけ強大な力を得ようと、その繋がり自体は切れていない。

 なのでガンヴォルトが今抱いている困惑も不安も、あらゆる考えが今のシアンには筒抜けとなっていた。

 

『暴走するのが危険? いつか破滅が訪れる? ()()()()は重要じゃないよ』

「そ、そんなの、って……」

『”そんなの”なの。だってそれは、GV自身の望みとは関係無いんだから』

 

 暴龍・第八波動(エース)無限の星詠(アストラルオーダー)。世界の破滅に繋がる全てを消して問題を先送りする、それがガンヴォルトの決断だった。

 決断して、行動した。しかしその直前に、ガンヴォルトは一つ望んだのだ。

 

『”またキミに会えるといいな”――あの時、そう言ってたでしょ?』

「それは……」

 

 ”やり直し”の刹那、一つ零した望み。

 きりんや仲間の皆と、また会える機会があれば。破滅の運命に囚われてしまった自分には許されない望み。そのほんの些細な一言を、その場にいたモルフォだけは拾っていた。

 

『今度は暴走の危険が無い様に、赤ちゃんにまでなって力を失くす。その理屈はわかるけど……それは本当に、GV本人だって言えるの?』

「……」

『いーや言わない。GVがなんて言っても、わたしは言わない。そんなのただの別人だよ。GVはあの時、自分が自分のまま皆と会いたかったのに』

「う」

 

 ガンヴォルトの言い訳や逃げ場を塞ぐ様にシアンは捲し立てる。その指摘はどうしようもなく真実だった。

 治龍局で過ごした、騒々しくも充実していた日々。自分が暴龍(じぶん)であるせいで居られなかった居場所。未練など、いくらでもある。

 それを振り切る様に、ガンヴォルトは決断した。自分の欲など、世界の前では些事でしかないのだから。

 

『……思い出して、GV。あなたは、わたし達は、今まで何のために戦ってきたの?』

「何の、為に……?」

『いつだってGVは、誰かの為に戦ってきたでしょ? 思い出して』

 

 シアンがガンヴォルトの額に手を添え、それと同時に記憶が遡っていく。

 最初の記憶は、アシモフに救われた時。皇神(スメラギ)の実験体の身から救われ、フェザーに入ると決めた時の事。

 復讐の為かと聞かれ、それを否定した。人を憎む為ではなく、救う為に戦うと決めた。アシモフから与えられた、あの時の”自由”を信じて。

 

『わたしの為に、戦ってくれた』

 

 次の記憶は、シアンを救った時。同じ皇神(スメラギ)の実験体として囚われていたシアンに自分を重ね、彼女を守る為にフェザーを抜けた時の事。

 電子の謡精(サイバーディーヴァ)という能力ではなく、ただ自由に歌う事を望んだ彼女を皇神(スメラギ)から守る。彼女の自由の為に、戦った。

 

『オウカ達の為に、戦ってくれた』

 

 その次は、オウカやシャオと共に過ごした時。居場所を失った自分を受け入れてくれた彼女達を守ろうと、エデンの侵攻に立ち向かった時の事。

 そして再びシアンの力が狙われ、取り戻す為に争った。ただ皆の自由と平和を守ろうと願い、また戦って。

 

『封印されて、起こされて、その後も戦った。……ずーっと、GVは戦い続けてた』

 

 そして暴走に至った自分を皇神(スメラギ)の力で抑え込み、知らずの内に暴龍化現象という災厄を振り撒いてしまった事を知らされ。

 贖罪の為にと、きりんや治龍局の皆と一緒に戦った。戦って、戦って、戦い抜いた。

 

『……昔に言った事、もう一度聞くね。あなたは、どこへ行きたい?』

「……ボクは……」

 

 それは、自らの手でアシモフを討った直後の言葉だった。全ての居場所を失い、途方に暮れていたあの時に、はっきりとした答えを返せなかった問いかけ。

 今の状況は、その時と似ていた。戦いの果てに再び自分は全てを失って、シアンと二人きりで此処に居る。

 ただ一つ違う事があるとすれば――

 

『今のGVには、戻りたいって思える居場所があるんだよ』

 

 居場所がある。戻りたいと、そこに居たいと思える想いがある。

 それが叶わないから割り切っただけで、今のガンヴォルトには小さくも確かな願望を持っていた。それこそが、これまでとの最大の違い。

 

『諦めないで、GV』

「え?」

『今までGVは、皆の為に戦い続けてきたじゃない。そろそろ、自分の事だけ考えても誰も文句なんて言わない筈だよ』

「そ、それは流石に――」

『っていうかわたしが言わせない。世界中の誰がなんて言おうとしても、わたしが許さないから』

「えぇ……?」

 

 有無を言わさず食い気味で言い放つシアンに、ガンヴォルトは少し気圧された。

 ガンヴォルトは生い立ちからか、我儘らしい我儘をろくに溢さない。人並みの欲求はあるのだが、常に自分よりも他人を優先してしまう。長く共に過ごしてきたシアンにとって、それは悪癖であると思っていた。

 その優しさでシアンは守られ続けてきた。多くの人達が頼りとして、助けられた。しかし、そのガンヴォルト本人を守る人間が全くいない。

 だから、()()()()

 

『これまでずっと、ずっと、ずーっと。わたしはGVに背負われるだけだったけど……今度こそ、そんなのは終わりにするの』

「……シアン?」

『わたしがあなたの翼になる。あなたの力になる。()()()()()()

 

 単に力を貸すだけじゃない。ただ一緒にいるだけの存在にはならない。本当の意味で、ガンヴォルトを助ける。

 その為に、シアンは此処に来たのだから。

 

『これまではどうにもならなかったかもしれない。世界は滅ぶ運命だったのかもしれない。でも、()()()()()()んだよ』

「それは、どういう――」

『……そうでしょ? ()()()()

「――!?」

 

 シアンの言葉に応じ、寝転ぶガンヴォルトの頭上で()()が急に現れる。

 第八波動(エース)――無限の星詠(アストラルオーダー)の能力を持ち、ガンヴォルトと共に同化・暴走を起こした、龍の角と尻尾を持つ緑の赤子。ガンヴォルトが自分と共に消そうとした存在が、すぐ目の前にいた。

 

『大丈夫だよ、GV。今のこの子はちゃんと大人しくしてるから』

「そ、そうなの……?」

『…………』

『ほらね?』

「……う、うん」

 

 沈黙を保つメビウス、微笑むシアン、体が強張るガンヴォルト。なんとも言えない空気が三人の間に広がる。

 メビウスはその脅威性により、生まれた直後から皇神(スメラギ)に封印されていた。情緒と言えるものは育ち切っておらず、先の暴走もその無垢さに起因している。

 なので怒りとか悲しみとか、それ以前に声や表情だとか、ガンヴォルトに感じ取れるモノは無い。ただ、ガンヴォルト目線では個人的な判断で消失に巻き込もうとした相手なので、限りなく気まずいというだけだった。

 

『今のこの子は、GVと同じぐらいの力しか無いよ。”やり直し”の最中で留まれたのは、GVの存在が消失するギリギリでわたしがこの可能性世界に引っ張ってきただけだからね』

「いや、そう言われても……」

 

 困惑しているガンヴォルトをよそに、シアンが説明を続ける。確かに、今のメビウスに暴走らしい暴走の予兆は見られない。

 メビウスはガンヴォルトと同化し、運命と共に力と存在を失う筈だった。だがガンヴォルトが消失を免れた事で、宿っていたメビウスもまた同様にシアンによる保護を受けた形になった。

 そして今その力は、限りなく薄れている。ガンヴォルトと同じく、シアンの可能性世界の中でようやく存在を保てている彼は、滅びの暴龍などと言うには烏滸がましいただの赤子同然の――本来あるべき生命の一つと成っていた。

 

『GV。今のあなたやわたし達は、もうひとりじゃないんだよ』

「……どういう、意味だい?」

『わたしはGVが居てくれたから、また戻ってこれた。メビウスはGVが生きる事を諦めないでくれたから、消えなかった。そしてGVは、わたし達が居るから此処に居る』

「…………」

『ひとつひとつは小さな小さな羽ばたきだったけど。今のわたし達は三人ともが無意識に支え合って協力して……それで、限りなく薄い可能性が生まれた』

 

 シアンはガンヴォルトの記憶の中で生き続け、メビウスの力によりこの世界を作った。

 ガンヴォルトはメビウスが視た破滅の運命を覆し、シアンの想いで自分の命を繋いだ。

 メビウスはシアンに力を間接的に与え、ガンヴォルトと同化したが為に消滅を免れた。

 それらはとても小さな粒の様な可能性に過ぎなかった。それでも、ここに叶っている。

 

『……あなたの言葉を聴かせてよ、GV。”まだそこへ行くわけにはいかない”なんて、寂しい言葉で終わらせようとしないでよ。一緒に、生きようよ』

「シアン……」

 

 シアンは今にも涙を流しそうな程に悲しい顔で、ガンヴォルトに呼びかける。

 自分の命だけは諦めない。その為に今取れる最善の策として、自分は全ての先送りを選んだつもりだった。しかし、それでは彼女を悲しませるという事を悟り、胸が痛む。

 その呼びかけに、悲しみに、選択に。ガンヴォルトが応えるべき答えは、一つしか無かった。

 

「……うん」

『”うん”だけじゃ伝わらないよ』

「伝わってるくせに」

『こういうのはね、言葉にしなきゃダメなんだよ』

 

 答えは出た。その想いだけは、既にシアンにも伝わっている。

 だが、言葉(かたち)にしなければいけない。その答えは、他ならないガンヴォルト自身が口にしなければいけないのだ。

 

「――戻りたい」

 

 ガンヴォルトが呟く。

 

「帰りたい」

 

 破滅の運命とされた存在が零す。

 

「一緒に居たい」

 

 ただ強い力を持っただけの少年が、我儘を言う。

 

「……シアン。ボクを、助けてくれないか?」

 

 自分で言ってて情けない。そう思いながら、ガンヴォルトは生まれて初めて命乞いをした。

 それも今自分を膝枕している、自分が守らなければならないと思ってきた少女に対して。

 

『――ふっふーん! 仕方ないなーGVは! わたしが居ないと、やっぱりダメなんだから!』

「うん。どうも、ダメみたいだ。ボクだけじゃダメだったよ」

 

 満面の笑みを浮かべながら、シアンが茶化す。ガンヴォルトも苦笑するしかなかった。

 思えば、自分一人でなんとかなった事など無い。最強の能力者と言われてるくせに、紫電にシアンを攫われたし、アシモフに殺されかけたり、パンテーラにシアンを取り込まれたり。挙句の果てには世界の破滅ときた。

 ダメダメじゃないか。改めて自分の記憶(かこ)を振り返ったガンヴォルトは、その情けない自分の有り様にいっそ可笑しくなってしまった。

 

「それで、どうしよう。どれだけ弱まっていても、無限の星詠(アストラルオーダー)は暴龍その物なのは変わらないし……このまま元の世界に戻っても、いつかはまた暴走すると思うんだ」

『うん、わたしもそう思う。元々第七波動(セブンス)能力自体、GVの影響だけで暴龍化しちゃってたし』

 

 自分が自分のままガンヴォルトは明日を求めると決めた、しかしそれはそれとして避けられない問題がある。

 無限の星詠(アストラルオーダー)と暴龍化現象。ガンヴォルトが自身の消失を決心した、滅びの力。こればかりは単なる希望的観測のまま放置してはいけない物だった。

 元々暴龍化自体、メビウスも関係無く強力な能力者がいずれ至る次の段階(ネクストフェーズ)の望まぬ覚醒である。そしてメビウス・ガンヴォルトの両方が自然に出してしまう龍放射は、それを強制的に促進する。

 ガンヴォルトの生存を望んだシアンも、流石にこれを無視するつもりは無かった。

 

『実はGVが起きる前にひとつ、考えてたアイデアがあるの』

「アイデア?」

『うん。GVもわたしもメビウスも、皆が問題無く元の所に帰れる。そんなビッグアイデア!』

「そ、そんなのがあるの……!?」

 

 ぱん、と自分の両掌を合わせて笑うシアンに、ガンヴォルトは驚愕する。

 蒼き雷霆(アームドブルー)電子の謡精(サイバーディーヴァ)無限の星詠(アストラルオーダー)。これらの能力はどれか一つでも世界を左右するだろう強大な能力である。だから、このままの状態で帰る訳にはいかない。

 世界の問題その物とすら言える三人が全員共存出来る、そんな手段などガンヴォルトには到底考えつかなかった。

 

『どうにもならなかった前ならともかく、今のわたし達には力があるじゃない』

「今持ってる力って……無限の星詠(アストラルオーダー)を使うつもり? でも、それじゃあ――」

『もー、焦らない焦らない。GVは戦う事ばっかり考えるから気付けないの』

 

 未来選択能力・無限の星詠(アストラルオーダー)。あらゆる未来の可能性を手繰り寄せる、世界最大の力。

 しかしこれを使う事は根本的な解決にはならない。能力で最善の未来を選び取ると言っても、能力者の行き着く最終地点が暴龍化である事には変わらないし、使い続ければ蒼き雷霆(アームドブルー)だけで暴龍に覚醒したガンヴォルト同様、第八波動(エース)は暴走してしまうだろう。

 これを危険視した結果ATEMS――ZEDΩ(ジエド).らと対立した以上、頼りにする訳にはいかない。しかしそんな事など、シアンとて百も承知だった。

 ()()()()使()()

 

『未来を選ぶなんて()()()()()力、そのまま使う必要無いでしょ?』

「つ、つまらない……?」

『力を全く違う形で使う。わたし達はずっとそうやってきたじゃない』

 

 ガンヴォルトの懸念を、ばっさり一刀両断する様にシアンは言い放つ。

 第七波動(セブンス)だろうが第八波動(エース)だろうが、言い方や分類がどれだけあろうとも、力は力でしかない。その事を一番知っているのは、他ならぬ自分達二人であるとシアンは自負している。

 ガンヴォルトにはその自覚が無い。どうしても彼は、戦う者でしか無かったから。

 

『ふふん、驚かないでよね! 作戦名は、名付けて――モルフォ・スーパーライブ!!』

「…………???」

 

 自信満々なシアンの言葉に、ガンヴォルトの思考は再び停止した。

 




こんな所で終わらせない

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