蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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04.輪廻 邂逅

「――集まってくれてありがとう、皆」

「なんともまぁ……どうにも、本当に本人みたいだね、ガンヴォルト。正直、こうして目の前にした今も現実が信じられないよ」

「んっ」

 

 皇神(スメラギ)未来技術研究所・地下施設の最奥。かつてガンヴォルトが封印されていた場所――宝剣の丘にて、ある六人が顔を合わせていた。

 ZEDΩ(ジエド).・レイラ・ルクシア・きりんの四人が横に並び、それに相対する形でガンヴォルトとモルフォ。今回はガンヴォルト自身の強い希望により、皇神(スメラギ)の最高機密と言えるこの場にて六人のみの密会を行う運びとなった。

 

「レイラ、ルクシア。もう一度確認するけど、彼はガンヴォルト本人かい? 何かの間違いじゃあなくて?」

『間違い無いわ。少し能力の波長(パターン)は変わっているけど、彼は紛れも無く私達が出会ったガンヴォルトよ。……個人的には、隣のモルフォの方が気になるのだけど』

「コラ、ジエド。本人を前にどんだけ失礼してんのよ、連絡した時にわたしにも散々確認したじゃない」

「ごめんごめん。今回の事態に関してはそれだけ警戒する姿勢が必要なのさ。オレ個人じゃなく、ATEMSの長としてね」

 

 そう言ってジエドは肩を竦める。正直な所、ジエドとしても目の前のガンヴォルトにかつての敵意は全く抱いていない。きりん達を信じるとかつて決めた以上、その仲間であるガンヴォルトの事も信じている。

 しかしそれは個人的感情の話であり、暴龍事件に対する組織の長としては別な姿勢を取らなければならない。目の前にいるのは和解した存在である以前に、世界最大の暴龍という特大の爆弾なのだから。

 

「ガンヴォルト。キミは確か最後の戦いで、運命の内転で自身を赤子にまで逆行させた筈だ。にも関わらず、今のキミの外見はあの時と全く同じ姿のまま。……どういうマジックだい?」

「まぁ、マジックと言われると確かにその通りではあるね。ボク自身も、あのまま去るつもりだったから」

「待った待った、ちょーっと待ったぁ! 何それ、その考えまでは聞いてないんだけど!? やっぱり消える気だったんじゃないのあんた!」

 

 ジエドにとって聞きたい事など山程あるのだが、こういう時こそ一つずつ疑問を紐解き事態の全容を把握すべきだ。そう思い、まず最初にガンヴォルトの経緯について尋ねる事にした。

 ルクシアの観測により、ガンヴォルトが無限の星詠(アストラルオーダー)を自身に行使して”やり直し”を行った事は把握済みだ。それ自体はきりんにも共有した周知の事実だったのだが、事故ではなく自殺に近い事をやったと聞かされてきりんはキレた。

 自分の鎖環(ギブス)が不完全だったのかとか、下手な封印によりメビウスの力が暴走したのか、その他色々。”やり直し”のあの時に何が起こったのか、真相が分からず散々悩んだ身としてその内情は黙っていられる物では無い。

 

「……きりんには後で謝るとして……そうだね。手っ取り早く、見せた方が良いかな」

『そうだね、いつまでも心配させても仕方ないし。……顔出しても良いよー、()()()()

「「「!?」」」

 

 モルフォの呼びかけで、一瞬にしてその場に緊張が張り詰める。そして実際、その警戒にも等しい緊張は正しかった。

 ガンヴォルトとモルフォの丁度合間の宙空に、碧色の体色で有角有尾の赤子――メビウスが音もなく顕れる。完全に予想外の事に、きりんとジエドは反射的に構えてしまう。

 ガンヴォルトを超える、暴龍の王。未来選択能力という、気分一つで世界を破滅に導きかねない存在。ジエドがかつて最も恐れていた不安定極まる存在は――顕れた後、何もせずに静かに佇んでいた。

 

「レイラ、ルクシア!」

「ん!」

『……完全に安定してるわ。暴走の気配は無い……いや、これは……』

「ちょっとちょっと、そっちで勝手に完結してないでちゃんと教えなさいよ!」

「説明が難しいと思うから、ボクの方から言うよ。ボクは、いやボク達は、無限の星詠(アストラルオーダー)の力によって生まれ変わって……無限の星詠(アストラルオーダー)の力で()()されている」

「……維持?」

 

 電子の踊精(サイバージーン)の力で一足飛びに状態を把握したルクシアに対し、何も感知出来ないきりん達は困惑して聞き返す事しか出来ない。

 ”生まれ変わる”まではまだ理解出来る。人智を超えた能力である無限の星詠(アストラルオーダー)とはそれだけの力があるだろう。しかし”維持”というガンヴォルトが口にした事柄に対しては、全く意味がわからなかった。

 

「そっちのレイラとルクシアって子はもう察知してるだろうけど……今、無限の星詠(アストラルオーダー)()()されているんだ」

「……分割、だって?」

「うん。”やり直し”の時に生まれたての所まで戻った蒼き雷霆(アームドブルー)無限の星詠(アストラルオーダー)は、更にその直前にシアン――モルフォの電子の謡精(サイバーディーヴァ)が取り込んだ。そして、モルフォが一度無限の星詠(アストラルオーダー)の保有者になったんだ」

「ねえ、ごめん。説明がぶっ飛びすぎてて全っ然分かんないんだけど? えーと……そもそもモルフォってイマージュパルス(GVのちから)よね?」

『それは昔のわたしだよ、きりん。新生モルフォ・Ver.3.0は一味違うんだよー?』

「……なんか雰囲気も変わってない? 気のせい?」

 

 きりんに対しウインクで応えるモルフォの姿と声色に、きりんは違和感を覚える。姿形こそ同じだが、イマージュパルスの時に会話した彼女はもう少し大人びた印象があった。

 今はそこに多めの茶目っ気と愛嬌がある様な、元々こうだった様な。そんなきりんのなんとも言い切れない違和感を他所に、ガンヴォルトは話を続けた。

 

「簡単に言えば、モルフォが力を得てボク達の存在を保護した。その後、ボクとメビウス、そしてモルフォは()()()()()()()で生まれ直したんだ」

「またキミは無視出来ない、凄まじい事を言ってるね……それがそのままその通りの意味なら、前とは比にならない世界の脅威だって自覚はあるかい?」

「その心配は当然だと思う。だけど、電子の踊精(サイバージーン)で観て分かる通り、今のメビウスやボク達に()()()()()()()()よ」

「……本当かい、ルクシア」

『事実よ。信じられないけれど、そこにいるガンヴォルトやメビウスは能力自体はそのまま、規模が縮小した様な形で安定してる。でも、どうやって……?』

「むぅー……?」

 

 ガンヴォルトの要約は、ジエドにとって警戒心を強める物でしか無かった。何せ、半年前に起きた事件において最大の脅威はガンヴォルトとメビウスの共鳴・同化現象である。

 第七波動(セブンス)を超えた力と、生まれつき超越していた第八波動(エース)。強大過ぎる力を宿したガンヴォルトは暴走し、ここにいる四人の力を合わせてなんとか対抗に至ったというのが事の顛末だ。

 一体化しているという説明の上では、今のガンヴォルトはその再来としか聞こえない。しかし現状、あの時の様な暴走現象は起きていない。これはどういう事かと、観測者であるルクシアとレイラがそれぞれ小首を傾げた。

 

「きりん。以前、ボクと旧式の宝剣について話をしたよね? ほら、”祭事の時ぐらいしか使われない”って言っていた方の宝剣。あれがどういうものだったか、覚えてる?」

「? 今と違って、わざわざ能力因子を剣の中に隔離して制御してた骨董品(ビンテージ)の事?」

「うん。今回は、無限の星詠(アストラルオーダー)()()をしたんだ」

「はぁ?」

 

 その理由の前提説明として、ガンヴォルトは旧式の宝剣についての説明を始める。

 宝剣とは、皇神(スメラギ)最先端の第七波動(セブンス)制御装置。技術が進んだ現代では違うが、かつてそれは力の一部を宝剣という外部に移植施術を行う事で、能力者の力を抑制していた。

 しかしその技術には、皇神(スメラギ)の能力者部門でも一部しか知らないだろう()()()があった。

 

「ボクとシアン、蒼き雷霆(アームドブルー)電子の謡精(サイバーディーヴァ)の持ち主は、元々無能力者だった。だけど当時の科学者は、生きた人間に能力を移植するという形で能力者を人為的に生み出そうとした。その研究は、”プロジェクト・ガンヴォルト”と呼ばれてたらしい」

「――嘘でしょ。知らないんだけど、そんなの」

「……キミが過ごしていた頃の皇神(スメラギ)は、本当に腐り切っているね。研究が進んだ現代でも、人権侵害のラインを遥かに超えている。実験動物(モルモット)と何が違うんだい、それは」

『いや、本当にヒドかったよ……。わたしなんて機械に繋がれて、強制的に能力使わされてレーダー代わりだったもん。GVが助けてくれなかったら、間違いなく精神(こころ)が壊れてたよ』

 

 プロジェクト・ガンヴォルト。生きた人間に能力因子を移植させて人為的に設計(デザイン)した能力者を生み出す、まさしく当時の皇神(スメラギ)最先端にして最悪の研究。

 後にそれは電子の謡精(サイバーディーヴァ)プロジェクトの発端にもなり、皇神(スメラギ)管理化に置かれていた当時を思い返したモルフォがうんざりだとばかりに露骨に表情を歪ませた。

 しかしガンヴォルトは今回、敢えてその過去に正面から向き合う事にした。

 

「力を失いかけていた無限の星詠(アストラルオーダー)はモルフォが受け継ぎ、生まれ直す時にボクがその半分を受け取った。そして同時に、メビウスに対して()()()()()()()()になったんだ」

「……! そうか、”分割”とは、そういう事か!」

「え? いやちょっと、さっきから怒涛の説明すぎてわたしまだ付いていけてないんだけど。ジエド、あんたコレで分かったの?」

「ああ、多分ね。……なるほど、ルクシアがさっき”モルフォの方が気になる”って言ってたのは、この事だったのか」

 

 ガンヴォルトの身の上だとか皇神(スメラギ)の悪行だとか、次々に(つまび)らかにされる皇神(みうち)の内部事情で頭がパンクしそうになっているきりんとは対照的に、外様であるジエドは冷静にその説明の真意を理解した。

 旧式の皇神(スメラギ)の宝剣、プロジェクト・ガンヴォルト。並行して語られたその二つは別々な様で、()()()が存在する。それがガンヴォルトが伝えようとし、こうして無事にいる理由なのだと。

 

「能力因子を移植するという点において、旧式の宝剣とプロジェクト・ガンヴォルトは同様だ。つまりプロジェクト・ガンヴォルトは、()()()()()()()()研究と言い換える事も出来る」

「キミら二人はその経験者だった。そして半年前には、メビウスと共に無限の星詠(アストラルオーダー)を体に宿した。つまりキミらは今回、メビウスの能力因子を()()()()()()()したんだ。そうだろう?」

「流石だね、ジエド」

 

 能力因子を人間に隔離し、制御する。いわば”生きた宝剣”を生み出すという研究が、プロジェクト・ガンヴォルトである。

 そして今回、ガンヴォルト達は同じ事を試みた。力が弱まったメビウスより無限の星詠(アストラルオーダー)の能力の一部を受け取り、自分達が外部から制御する。旧式の宝剣で行っていた事と全く同じ方法を、二人で取った。

 現行最先端の宝剣を以てしても、第八波動(エース)であるメビウスは封じ切れない。金色の黎明(ゴールドトリリオン)電子の踊精(サイバージーン)で増幅させた鎖環(ギブス)ですら、一歩届かなかった。しかしそれは、純粋に力の不足――()()()()()()()()()()というだけの理由である。

 それは、つまり。

 

無限の星詠(アストラルオーダー)を宿したボク達は、無限の星詠(アストラルオーダー)()()()を宝剣代わりとして、メビウスの制御を担った。個人では制御し切れない程に強大な第八波動(エース)も、ボクの”やり直し”によって力が弱まったからね。賭けではあったけど……なんとか、成功した」

「……ま、またムチャクチャな発想したわね、GV……ちょっと引くかも」

「きりん、流石にその反応は傷付くよ。これでもかなり熟考した上でのアイデアなんだから」

 

 困ったような顔をするガンヴォルトに対し、困りたいのはこっちだと言わんばかりにきりんは苦い顔をする。

 無事に相棒が帰ってきたと思ったら、昔の事とはいえ身内の不正行為を内部告発され、しかし今回はその手段を転用した事で戻ってこれた。ガンヴォルト自身は感覚が麻痺しているが、元々が非人道的な研究から始まったアイデアである為に、きりんの良識は喜ぼうにも喜べない。

 とはいえ、朗報には違いない。何せ、どんな装置や能力を使おうが封じ込められなかった第八波動(エース)を、人為的に制御する事が出来る様になったのだ。しかも、犠牲者を出さないまま。

 

「ガンヴォルト。キミらにより無限の星詠(アストラルオーダー)を制御出来るというのは分かった。だが、本体側――メビウスの方から制御が破られる可能性は無いのかい?」

『なーに言ってんの。メビウス一人と私達二人分の力、それはどっちも同格。一と二、数が大きいのはどーっちだ?』

「ハハ。……それはオレの人生で聞いた女性の言葉で、一番の罵倒かもしれない」

「シアン。あんまり尖った言い方しちゃダメだよ。ジエドは冷静に事態を把握しようとしてるだけなんだから」

『う。ごめんなさい……』

「いや、いいさ。こっちもキミらの事を疑う様な言い方をしているという自覚はあるから」

 

 ジエドは冷静さを保ちながらも、考えられ得る問題点を一つ一つ洗っていく。

 かつてメビウスは外から能力の余波を受ける事で、自分を封じていた宝剣の内側から覚醒した。今回はガンヴォルト達二人がその時の宝剣の代わりとなった訳だが、これを破れるかどうか。答えは不可能である。

 無限の星詠(アストラルオーダー)は本体であるメビウスと、その制御側であるガンヴォルトとモルフォへ分割された。前回の暴走はメビウスの大きすぎる力に対し、力の”鞘”が足りなかったせいだ。

 第八波動(エース)を封じられるのは第八波動(エース)だけ。そして擬似的で力が弱まっているとはいえ、今のガンヴォルトとモルフォは分割という形でその格に達している。これは純粋に、メビウスが持つ力より二倍の宝剣で制御されている、という事でもある。

 この状態ならば確かにメビウスの暴走は起きない――が。

 

「なら、肝心のキミらの方はどうなんだい? キミらは無限の星詠(アストラルオーダー)を宿し、外に出ている。キミらのどちらかが暴龍の域まで達してしまえば、制御は途端に意味を失う」

「その通りだよ、ジエド。だからボク達は、持っている力の()()()()()()()()()

「……なんだって?」

 

 ガンヴォルトの言う理屈は、”毒を以て毒を制す”に近しい。生きた宝剣になったと主張すれど、その力の本質がメビウスと同質ならば、今度はガンヴォルトかモルフォがメビウスと同じ流れを辿り暴龍へと至る可能性が高い。

 その危惧に対してガンヴォルトは、シアンと合意の上で()()()となった。

 

「さっき言ったよね。”ボク達は無限の星詠(アストラルオーダー)で維持されている”って」

「あ、そうそう。衝撃のカミングアウト続きで完全に聞くタイミング逃してたわ。どういう意味なのよ、”維持”って」

「”やり直し”の最中でボクが生き残ったのは、ボクの存在が消える寸前の状態でシアンの力で保護されたからだった。だから、()()()()()()()んだ」

 

 無限の星詠(アストラルオーダー)が手繰り寄せた可能性世界へ一時的に避難する形でガンヴォルトという存在は一命を――一存在を失わず、消える(すんで)の所で留まった。

 存在が残るか消えるか、シアンの力と意志次第で決まる危篤状態。”やり直し”による、限りなく無に近い境地。ガンヴォルトは、この状態を逆に利用した。

 

「ボクは”やり直し”で、存在を失う一歩手前にまで達した。これは無限の星詠(アストラルオーダー)で防がれた訳だけど……逆に言えば、それが無ければボクは()()()()()()

「……は?」

「はっきり言うと、今のボクとモルフォは()()()()だ。メビウスの力が無ければ、そのまま消滅する状態にある。だからボク達は、()()()()()()()()()()()()()使()()()()()

「はぁぁぁ!?」

 

 きりんが大口を開けて絶叫する。また今度は何を言い出すかと思えば、それはこれまでの説明を全て吹っ飛ばす様な、聞き逃すなど出来る訳がない衝撃発言だった。

 今の二人は、()()()()()()()()()()()()状態を保っている。無限の星詠(アストラルオーダー)という強大な力により、存在をギリギリで世界に維持しているだけ。限りなく精神体に近い、不安定な身体(カタチ)

 第八波動(エース)という絶対的な力でしか実現出来ない、そんな状態のまま外界に顕現していた。

 

「ボク達は、無限の星詠(アストラルオーダー)の力の殆どを存在の維持――つまり、能力者本体であるメビウスの保護に費やしている。そしてメビウスは、そんなボク達により制御されている。これにより、ボク達自身は未来を選択するだけの力を持つ事が出来ない」

 

 それは、一種の矛盾。未来を選択する力を、()()()()()()に使う。

 ガンヴォルト達はメビウスから力を移植された宝剣であり、本体無しでは存在出来ない。メビウス本人は、ガンヴォルト達により制御されている。

 メビウスを中核とし、ガンヴォルトとシアンがそれを支える両翼と成る。能力を使わない事に力を費やす形で、滅びの運命を齎す第八波動(エース)は安定へと至った。

 

「これを確実な事実として観測出来るのは、恐らく電子の踊精(サイバージーン)の能力だけだ。そしてボク達二人を裁くに足る力を持つのはきりんとジエド、君達二人。その為に、ボクは皆をここに呼んだ」

「……なるほどね。オレ達は多分、今の世界でトップクラスの能力者だ。キミらを危険因子として見た時に、倒せる可能性があるのはオレ達だけ。……そしてこの地下は、秘密裏にキミを処理するには絶好の場所」

「ッ! ジエドッ!」

 

 そう言いながらジエドは一歩前に出て、その背に焔の翼を展開する。いつでも攻撃に入れると言わんばかりの、臨戦態勢。

 きりんはそれを制止しようと声を上げたが、身体が動くより前にジエドから目配せされる。

 何か意図がある。長い付き合いの中で積み上げた信頼がそう直感させ、きりんはジエドの行動を遮らなかった。

 

「ガンヴォルト、聞かせて欲しい。アンタは生まれ変わる時、メビウスから力を奪い独占する形にも出来た。違うかい?」

「違わない。シアンに助けられたボクは、無限の星詠(アストラルオーダー)を自由に使う事が出来た。そうすれば、ボクは第二のメビウスに成っていたと思う」

「何故そうしなかった? 今のアンタは強大な力を手にして、それで生まれ変わって、しかしその力を手放した。力を危険視するのなら、アンタがそのまま消えれば済む話だ」

 

 灼熱の焔光を背負いながら、ジエドは淡々とガンヴォルトに質問する。

 メビウスの力を封じる事が目当てなら、ガンヴォルトがそのまま消えるか、または赤子同然にまで戻り全く別の存在になるだけで良かった。わざわざ自分が宝剣代わりとなり、その際の悪影響を考えて自分の存在を不安定にするなど、やり口としては迂遠に過ぎる。

 何故そんな遠回りな手段をしたのか。何故そこまでして生まれ直したのか。

 

「アンタは未来を選ぶ力を得て、その上で棄てた。……ならアンタは、何を求めて生まれ直したんだ?」

 

 平時に見せる笑みの一切を排し、ジエドは真剣に詰問した。

 どんな未来も自分で選べる、求めるならば全てが手に入る。そんな力を持ってガンヴォルトは生まれ変わる事が出来た。しかし、それをしなかった。

 力も未来も手にせず、どうして戻ってきたのか。その問いに、ガンヴォルトは笑って答えた。

 

()()()()()()()()んだ」

「……明日?」

「きりんやBB、シロン、レクサス、カミオム、そしてシアン。治龍局の皆と、前みたいに一緒に過ごす。そんな”明日”が、どうしても欲しかった」

「……それだけかい?」

「うん。それだけだよ」

 

 存在が消えかけた時、シアンの可能性世界で見つけた答えを、正直に吐露する。

 ガンヴォルトにとって、己の力も未来もどうでも良かった。”変わりない日常”というなんでもない明日こそが、何よりも自分が求めていた希望だと自覚した。

 だから、こんな手段を使ってでも帰ってきたのだ。そんなちっぽけな希望に対し、ジエドは――

 

「――ハハ、ハハハッ! 良いね、それは確かに、オレも欲しい! ナイツの皆と過ごす日々は、いつも退屈しないからね!」

 

 戦意と炎の翼とふっと消し、愉快極まりないとばかりに笑い飛ばした。

 そもそも先程までの臨戦態勢は、ガンヴォルト自身の本音を聞く為の虚仮威しである。全く物怖じされなかったので、元々察されていた可能性もあるのだが、それでも姿勢(ポーズ)というのは重要だ。

 きりんはガンヴォルトに近すぎて、肩入れし過ぎる。他の人間では蒼き雷霆(アームドブルー)相手に対抗する事すら難しい。そうなると、金色の黎明(ゴールドトリリオン)しか審判役が務まらない。

 まぁ、今のジエドも大概ガンヴォルトに好意的であり、返答次第では戦うというフリでしか無かったのだが。

 

『あー、良かった。いきなり戦う羽目になるとかだったら、わたしが困ってたよ』

「だから大丈夫だって言ったでしょ、シアン。ジエドだってきっと同じ気持ちなんだから、って」

『GVは甘いから、その分わたしが気を付けないとダメなの!』

 

 モルフォの方はそのフリを普通に信じ、こっそりファイティングポーズを取っていた。

 それに対しジエドは微笑ましいと思いながらも、勘弁して欲しいと思った。得た力の大半はメビウスの制御に使われていると言っても、それでも相手は最大級の能力者とそれを強化する最高峰の能力者だ。金色の黎明(ゴールドトリリオン)電子の踊精(サイバージーン)を全力で使っても負けた事がある以上、戦いになればろくな結果にならないだろうと分かっていた。

 それに加え、後ろから白んだ目で見てくるきりんが怖い。

 

「……はぁ。今のあんたなら大丈夫とは思ってたけど、あんまりビックリさせないでよね。話をいきなりぶった切るんだから、こっちも刀抜くとこだったわよ」

「アイコンタクトで通じてくれて良かったよ。モルフォもそうだけど、女の子を怖がらせるのはオレの主義に反するからね」

「よく言うわ」

 

 一連の流れに対するツッコミとばかりに、きりんは錫杖の柄でジエドの背を突く。単に問いかけるだけなら、別に能力を見せる必要までは無いだろう、と。

 それでも止めなかったのは、きりんがガンヴォルトとジエドの二人を信じたから。”この二人なら大丈夫だろう”という信頼だけが、唯一の理由だった。

 

「はーあ。衝撃の発言の連続で、聞いてるこっちが疲れるわ……レイラもそう思うでしょー?」

「んっ」

「なんでそこでレイラに話を振るんだい、きりん。振るなら同じ立場のオレじゃあないのか?」

「わたし達の周囲にいる男衆は大体トラブルメーカーだからね。振り回されるのはいっつもわたし達女の方、でしょ?」

「ん!」

「なんでそこでレイラはいつもより強めで返事するんだい!?」

 

 何故か意気投合するきりんとレイラを見て、ジエドは焦る。

 え、オレまでそんな目で見られてたの。確かにいつも電子の踊精(サイバージーン)に頼っている節はあるが、相棒にそんな風に考えられているのは普通にショックを受けた。

 

『……うちの方がなんか醜く言い争ってる所悪いのだけれど。私はモルフォの方に聞きたい事があるわ』

「ルクシア?」

 

 大方の話がまとまり雰囲気が和みかけた所で、今度はルクシアが前に出る。

 無限の星詠(アストラルオーダー)は制御された。その理由も分かり、少なくともこの場の全員は安心した。しかし、絶対に無視出来ない()()()()まで有耶無耶になってしまっては困る。

 

『モルフォ。恐らくあなたよね、今世界で起きている異常の根本は』

「……異常? なんかあったっけ?」

『あるでしょう、きりん。”暴龍事件の減少”っていう、とんでもない異常が』

「え゛。アレもGV達の仕業なの?」

『タイミング的にそうじゃないとおかしいわ。ただ、半年も経って何故今なのか、半年間私にも感知されない中で何をしていたのか。教えてくれる?』

『隠す理由なんて無いよ。……ふふん、GV。ここからは、私のターンだね?』

「うん。お願いするよ、シアン」

 

 ガンヴォルトが一歩引き、代わりにモルフォがその位置に立つ――本人はふわふわと浮いているが――。

 というか、ずっと軽くスルーしてたけど、シアンって誰だ。なんか雰囲気も違うし、ルクシアも変だって言ってるし、ガンヴォルトの扱いもちょっと違う気がする。数々の現状に押されていたきりんは、遅れて困惑し始めた。

 

『それじゃあ、今回のメインイベントの紹介をするよ! モルフォ・スーパーライブ――最新版(ニュー・)歌姫(ディーヴァ)()()()()()()について!』

 




ボク自身が宝剣になる事だ

この小説はガンヴォルト内の設定を使い倒す気でいます。
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