「モルフォ・スーパーライブぅ?」
「
きりんと
「……ふう。いけないな、悪い癖だ。今更キミ達がそんな悪どい事を単純に口にする訳が無いのに、つい疑いの目を向けてしまう」
「ちょっと、どういう意味よジエド。なに、
「昔の
「はぁ!? この短時間で
先程聞いたプロジェクト・ガンヴォルトに並び、またろくでもない事件概要が飛んでくる。思わずきりんは絶叫した。
『まず、その説明をする前に自己紹介するね。初めまして、わたしの名前はシアン。
「シアン……能力者本人? 前一緒に過ごしてたモルフォと同じにしか見えないんだけど」
『モルフォがガンヴォルトと一緒に消える寸前、
「なんでもアリだね。流石は
胡乱な目つきで質問するきりんに、モルフォ――シアンが返答する。ジエドはその答えに肩を竦め呆れた。
何せ、ガンヴォルト達と違いジエドは
『ルクシアの言う通り、暴龍事件の減少はわたしの仕業だよ。半年ぐらいGVやメビウスを連れて……まぁ、色々? やってきたの』
『モルフォ――いや、シアンだったわね。流石にそれは説明が大雑把過ぎると思うのだけれど?』
「ん!!」
シアンの告白に対し、ルクシアとレイラが並んで非難じみた声を上げる。
これまでの話は、このモルフォの姿をしたシアンという少女がガンヴォルトを助けた事から全てが始まっている。そしてそんな彼女が、よりにもよって自分自身の力を悪用する計画の名を持ち出してきたのだ。それを”色々”の一言で片付けられては堪ったものじゃない。
その視線にばつが悪くなったシアンは思わずガンヴォルトの方を見るも、首を横に振られる。今のは君が悪い、そんな思いが心を読むまでもなく伝わってきた。
『うーん……一応説明はするんだけど、上手く伝え切れないかもだから。分からない事があったらその時に質問して?』
「ゆっくりで良いさ。可愛い子には無理を言わないのが、オレのポリシーだからね」
「ジエド、あんたの口からだとナンパに聞こえるからそういう態度やめなさいよ」
『ナンパに聞こえるというか、実際軟派なのよねぇ。ナイツの皆もコレで拾ってきたし』
「ハハ、おかしいな。敵役のフリはやめた筈なのに、オレが敵みたいにされている」
女性は優しく尊重する、そうシアンに伝えたジエドは何故か一瞬にして針の
悪気は全く無いのだが、ジエドは女性への態度が平等に良くする為に、好かれるのと同様に人間関係のトラブルを招きやすい。タチが悪い事にそのトラブルはジエド本人へと向く事が少ない為、その様子を見てきりんは常々呆れている。
閑話休題。場の空気が戻ってきた所を見計らい、シアンが口を開いた。
『わたしの能力、
「レイラの
『そう。感知に関しては
『……なんですって? どういう事かしら、シアン』
自分では出来ない事がある、そう遠に言われて
個人差によるものか、あるいはモルフォがGVの
『
「あぁ、そういえば。ガンヴォルトの
「……待ってくれ。出来るのか、そんな事が?」
「あれ。レイラとルクシアは出来ないの?」
「むぅ」
そう言えばそんな事もあったと、きりんがぽんと手を叩く。しかしその言葉に驚いたのは、ジエドとレイラだった。
完全に活性化した暴龍の抑制・封印は、基本的に
だからこそ
『モルフォが
「暴龍の王の力。確かに、暴龍を制するのにこれ以上適したモノは無いね」
当時のシアンが考えた事を、ジエドが簡潔な理屈にまとめる。
かつてのモルフォはイマージュパルスという不完全な存在でありながら、最強の暴龍であるガンヴォルトを
しかしシアンは、ある問題点を考慮してその第一案を自分から却下していた。
『でも、これは結局GVの抑制に
「それでわざわざ、キミらが宝剣代わりになるなんて事になったんだね」
「いや、ジエド。それはボクのアイデアで、
「へ? 第三案って……つまり、その前に第二案があったって事?」
『きりん、ご明察。そしてそれこそが、わたしの
ウインクひとつ、シアンがきりんの疑問に応える。
メビウスに対し二人が宝剣化するというのは、プロジェクト・ガンヴォルトより着想を得たガンヴォルトの案だった。最終的にはこちらが採用された訳だが、その前身かつ
シアン自身の出した暴龍化現象への対策。それはもっとシンプルな、そしてスケールが大きい
『わたしの歌で、
「「……はっ?」」
『当然それはGVも、メビウスも、そして
ふふんと胸を張るシアンに対し、ガンヴォルトを除く全ての人間が硬直する。その反応を予想していたのか、ガンヴォルトは苦笑いを零していた。
自分達を宝剣と見立てるなど迂遠な考えはしない。暴龍化現象という世界問題に対し自分一人で真っ向から喧嘩を売る、そんなストレートな手段。それこそがシアンの考えた、
ガンヴォルトやメビウスのみを抑制するだけでは解決しない。だから問題の全部をまとめて抑え込む。それは誰がどう考えても、暴挙中の暴挙であった。
『本気で――いや、正気で考えたのかしら、そんなメチャクチャな計画を?』
『ヒドいなぁ、ルクシアはわたしのお仲間でしょ?
「……これまでの話の中で、というかオレ史上で最もメチャクチャなアイデアを聞いた気がするよ。メビウスを操るって言ってたオレよりもとんでもない考えじゃないのかい?」
「まったくよ……ってか、いくら
「まぁ、残念だけど出来なかったんだ。
ガンヴォルトが肩を竦め、そのアイデアが失敗に終わった事を話す。
この突拍子も無さそうなアイデアには、実は根拠が一つあった。メビウス覚醒時に龍放射が拡散し、海外にまで暴龍化現象が広まった事。龍放射を全世界に広げる事が出来るなら、逆に広げた龍放射を縮めて抑え込む事も可能なのではないか。これがシアンの着想元である。
しかし
「”そのままの形では”……?」
『実はこの計画は半年もかかっちゃったけど、ここ最近
「……嘘だろう?」
『こんな事で嘘ついてどうするの。ホントもホントだよ』
モルフォ・スーパーライブ、全世界の暴龍抑制計画。これをシアン単体でやる事は出来ない。
しかしシアンの計画の穴を埋める、最強のパートナーが此処には居る。
『GV、アレ出して?』
「うん。きりん、コレを見て欲しい」
「え? ……んんっ?」
モルフォの呼びかけに応じ、ガンヴォルトが手を前に前に出す。
そして次の瞬間に、きりんにとって
「――
黄色の柄、蒼い刀身、紅の光。かつて龍脈を抑えるべく造られ、メビウスが眠る場所を封印するべく各地に刺されていた真の宝剣。裏八雲の誰もが知る代物が、まばたき一つした瞬間ガンヴォルトの手に収まっていた。
有り得ない。封鍵は裏八雲の独自技術で生み出され、日本にしか存在しないモノである。なんだかんだの理由を付けられATEMSに使われる事もあるのだが、ここまで一本たりとも紛失はしていない。
今目の前に出現したのは、
「ジエド、君なら知っているだろう? ABスピリットという物質について」
「ABスピリット……キミの力の残滓の事か。しかし、それが一体――」
「これは
「なんっ……!?」
その発言に、今度はジエドが驚愕する。
ABスピリット、ガンヴォルトが消えた後に残された力の塊。強い能力者の魂の欠片とでも言うべきそれは、現状でも解明出来ていない点が多い。
そんな謎の塊たる物を、今ガンヴォルトは事も無げに扱っている。
「元々封鍵は日本の龍脈――霊的な力の流れをコントロールする為に刺されていた。ボク達は今回、それを
「ど、どういう事よ……?」
『GVが言った通りだよ。ABスピリットで創ったGVの封鍵――
ABスピリット、ガンヴォルトの魂。メビウスの次点に強大な暴龍の力を持つそれを”鍵”とし、全世界に打ち込む。それがシアンの案を支える、ガンヴォルトのアイデアだった。
封鍵はATEMSがそうした様に、能力者の力を引き出す効果がある。しかし本来の使い方は、
封じて隠す力と、見えない
「今ある龍封鍵は全部で七つ。東アジアと西アジア、アフリカ、ヨーロッパ、南アメリカと北アメリカ、オセアニア。人口密度の多い場所を狙い、それぞれの範囲をカバーし合う様に設置している。これを
それは、かつてパンテーラにやられた事――シアンの力をミラーピースとして分離・分割したのと近い発想であった。
ガンヴォルトの力と魂を分割し、封鍵の形に変える。そしてその封鍵を各地に配置する事で、その場所にシアンの
先程ルクシアが観測した、ガンヴォルトらの力の規模の縮小。それは、ガンヴォルト達がその魂を龍封鍵として体から世界へと切り離した事を示していた。
『まぁ要は、わたしの声とマイクだけじゃ世界に届け切れないから、GVに電波塔を設置してもらったって感じ。これで今、わたしの力は全世界に届く様になってる』
「……正しく
『それがそうでもなくてねー。結構無理してるんだ、これ』
本来の
今回シアン達がやったのは、その機能の代わりに龍封鍵という媒介を世界各地に埋め込み、ABスピリットとガンヴォルトの繋がりをケーブル代わりとして、シアンの現在位置を問わず”抑制”の力場を発生させるという物。確かにそれは、
しかしこの案にも、ある一つの問題点がある。そしてその問題こそが、ジエドが懸念する悪用へのストッパーになっていた。
「さっきボク達の存在は不安定な状態を維持している、って話したよね。ボク達の力の殆どは、メビウスの封印に使ってるから」
「それはさっき聞いたけど――……待ってGV。そんな状態で世界中の暴龍の抑制なんて、する力あるの?」
「
「えっ」
シアンの計画には、大前提として
しかしガンヴォルト達はメビウスを封印するべく、得た力の大半を自分達の中で行使して完結させている。この状態では、どうやっても出力が足りない。
だが。力が足りないのなら、
「龍封鍵はシアンの力の発生源であり、
『いやぁ、大変だったよねー……メビウスと一緒になって、適した感じの場所を全世界見て回って、大きな影響を出さない位置や時勢を見極めてブスブス刺していくの……』
「あんた達わたしが知らない間にそんな事やってたの!? 皆に内緒で!? 馬鹿じゃないの!?」
「そ、それを言われると返す言葉も無いんだけどね……世界の暴龍化対策は、早い方が良いと思ったから。なるべく急いだんだけど、結局半年かかっちゃったんだ」
「せ、せめて
足りない力は、
しかしそんな話を聞かされ、きりんは呆れ果てて言葉も出したくないが、口にしなければいけずに頭を抱える。それを見たガンヴォルトとシアンは、流石にちょっと申し訳なくなった。
龍脈など現代科学の外側にある霊的事象は、裏八雲などの古くから続く専門機関ぐらいしか取り扱っていない。そんなものをメビウス含む無知の三人で手探りで探していたなど、半年で済んだのが奇跡的な暴挙である。
しかしその成果は、絶大だった。
『ま、まぁまぁともかく! 世界の龍封鍵を通じて、わたしの力――暴龍を抑え込む力は最近ちゃんと機能する様になった。足りない力は現地調達、能力を余剰に使ってないからわたしの暴龍化も無し! どう、完璧でしょ!?』
「実際、凄い計画である事は認めるよ。ホウレンソウがなってない以外はね」
「ん? ジエド、今いきなりミサイルを国に撃ち込んで侵入してきたヤツの話でもした?」
「ハハ、オレの発言権は半年前に没収されていたらしい。すまなかった」
ジエドがきりんの白んだ目を受け冷や汗を流し、あっさりと屈する。そこにATEMSの長としての威厳は皆無であった。
何の報告もせず行動に移したという点において、半年前のジエドがやった事は世界において他の追随を許さない。国の結界を突破するべくミサイル型の輸送機を国に飛ばしたり、世界を導くという名目の元メビウスを引っ張り出して龍放射を全世界にばら撒いたり。
散々悔やんだ前例をきりんに持ち出されてしまい、ジエドの反論する力は完全に封印された。
『そんな大々的な動きをして、私が感知出来なかったのは?』
「龍封鍵は龍脈の力を吸い取る機能があるからね。通常の
『ふふーん。元祖歌姫の面目躍如、って感じ?』
「……むぅ」
ルクシアとレイラが揃って不機嫌そうな表情を浮かべる。これこそが、ガンヴォルト達から龍放射を検知出来なかった原因でもあった。
暴龍を抑え込む為の暴龍、その分身たる龍封鍵。
打ち込まれた龍脈の力ごと、
世界を安定させる為の機構。それこそが、
「――んっ? ちょっと待ってGV。そんなドデカい
「か、顔が怖いよきりん! 落ち着いて!」
『あー……その、日本には結界があるでしょ。アレのせいで、東アジアの龍封鍵の力が届いてなくってね……これは完全に計算外だったの』
しかし、このシステムにはたった一つの漏れがあった。最終国防結界”神代”、過去より能力者など数々の外敵から国を守る為に日本を覆っている結界。これにより、日本に対してのみ龍封鍵の力が遮断されていた。
龍封鍵の力はルクシアの感知をすり抜け、世界に害を齎す物でも無いが、それでも未確認の力である事に変わりは無い為に国防結界には弾かれてしまう。元々霊的なアプローチにより国を守ってきた日本に対し、それを応用したガンヴォルト達の力は競合対象であった。
これらの結果。世界の暴龍化現象はシアンの力が波及した事で徐々に減少していき、そして結界で逆に閉ざされている形の日本のみ暴龍が増え続けていた。完全に不幸な事故である。
「……ったく。ま、元々やらなきゃいけない仕事だったし、別に良いけどね。その龍封鍵っての、
「うん。ジエドも、それで良いかい?」
「オレは大歓迎さ。
「今の内にシロンとレクサスにATEMSに回せる仕事ありったけ手配させようかな」
軽口を叩くジエドを見て、きりんは割と本気で端末のメモ帳に連絡用の文章を打ち込み始める。しかしその位には、既に場の空気は落ち着いてきていた。
シアンがガンヴォルトを守る為に考えた新たな
かつて世界を混迷に導きかけた三人の力は、”戦わない”という形にひたすら注がれ、今ようやく安定に至った。それをこの場の全員が理解した為に。
『これでわたしの
「うん。……まぁ、最後の話が一番大事なんだけど」
「えっ。まだなんか隠し事あんのあんた達。流石にいい加減わたしキャパオーバーするわよ」
だが、
ガンヴォルト達二人の宝剣化、シアンによる世界の暴龍化現象の抑制。二つの翼が揃い、世界の問題は安定へと向かいつつある。
しかしこれはガンヴォルトとシアンが既に独断でやり遂げた事であり、極論を言えばこの場の四人や、治龍局・ATEMSに報告する義務や必要性は無い。当然異論があれば手段の修正や見直しはする気であったが、今回全員を集めた本題はそこではない。
この場所にきりん達四人を集めたのは、
「始まりは、ボク達六人だった。だからまず、皆で話し合おうと思ったんだ」
「……何のことだい、ガンヴォルト」
『
「「!!?」」
ガンヴォルトとシアンが、後ろで眠りながら浮遊するメビウスへと目をやる。
衝撃発言のオンパレードである今回の話の中で、恐らく最大の衝撃がきりん達を襲った。
(対処するべき)問題が……問題が多い……!
次回で最終回です。