蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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05.比翼の音音

「モルフォ・スーパーライブぅ?」

歌姫(ディーヴァ)プロジェクト、だって?」

 

 きりんとZEDΩ(ジエド).が同時に、しかしその方向性が全く真逆の困惑の声を上げる。

 歌姫(ディーヴァ)プロジェクト。裏八雲という閉じられた場所で育ったきりんは知らないが、その名はかつて知る人ぞ知る、限りなく悪い方向に有名な代物である。以前メビウスの存在を調べる為に皇神(スメラギ)へ入念な外部調査をしていたジエドは、昔の事件とはいえその事についても調べをつけていた。

 

「……ふう。いけないな、悪い癖だ。今更キミ達がそんな悪どい事を単純に口にする訳が無いのに、つい疑いの目を向けてしまう」

「ちょっと、どういう意味よジエド。なに、歌姫(ディーヴァ)プロジェクトって」

「昔の皇神(スメラギ)やエデンとかいうテロ組織が企てていた、電子の謡精(サイバーディーヴァ)による能力者の支配計画さ。二度ともガンヴォルトのせいで頓挫したらしいけどね」

「はぁ!? この短時間で皇神(うち)の悪い所どんだけ出てくんのよ! もう勘弁してよ!」

 

 先程聞いたプロジェクト・ガンヴォルトに並び、またろくでもない事件概要が飛んでくる。思わずきりんは絶叫した。

 歌姫(ディーヴァ)プロジェクト。電子の謡精(サイバーディーヴァ)の感応能力を使い、第七波動(セブンス)能力者の精神を掌握し管理する、当時の皇神(スメラギ)の最高機密計画。

 皇神(スメラギ)がガンヴォルトに敗れた事で一度頓挫し、後にパンテーラを頭目とした能力者組織・エデンが転用を狙ったものの、紆余曲折の果てにこちらも最終的には阻止された。ガンヴォルトが絶対に止めようとした、そんな計画である。

 

『まず、その説明をする前に自己紹介するね。初めまして、わたしの名前はシアン。電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力者、その本人だよ』

「シアン……能力者本人? 前一緒に過ごしてたモルフォと同じにしか見えないんだけど」

『モルフォがガンヴォルトと一緒に消える寸前、無限の星詠(アストラルオーダー)の力で以前死んだわたしの精神を、可能性世界を通じて”こっち”に持ってきたの。だから今のわたしはモルフォであり、シアンでもある』

「なんでもアリだね。流石は第八波動(エース)だ」

 

 胡乱な目つきで質問するきりんに、モルフォ――シアンが返答する。ジエドはその答えに肩を竦め呆れた。

 何せ、ガンヴォルト達と違いジエドは無限の星詠(アストラルオーダー)の力を分かってはいても、体験した事は無い。”可能性世界”という多世界解釈の具現化、その取捨選択の自由。生死の境目すら軽々超越するそれを目の当たりにしても、そういう事も出来るのだと納得せざるを得ない。

 

『ルクシアの言う通り、暴龍事件の減少はわたしの仕業だよ。半年ぐらいGVやメビウスを連れて……まぁ、色々? やってきたの』

『モルフォ――いや、シアンだったわね。流石にそれは説明が大雑把過ぎると思うのだけれど?』

「ん!!」

 

 シアンの告白に対し、ルクシアとレイラが並んで非難じみた声を上げる。

 これまでの話は、このモルフォの姿をしたシアンという少女がガンヴォルトを助けた事から全てが始まっている。そしてそんな彼女が、よりにもよって自分自身の力を悪用する計画の名を持ち出してきたのだ。それを”色々”の一言で片付けられては堪ったものじゃない。

 その視線にばつが悪くなったシアンは思わずガンヴォルトの方を見るも、首を横に振られる。今のは君が悪い、そんな思いが心を読むまでもなく伝わってきた。

 

『うーん……一応説明はするんだけど、上手く伝え切れないかもだから。分からない事があったらその時に質問して?』

「ゆっくりで良いさ。可愛い子には無理を言わないのが、オレのポリシーだからね」

「ジエド、あんたの口からだとナンパに聞こえるからそういう態度やめなさいよ」

『ナンパに聞こえるというか、実際軟派なのよねぇ。ナイツの皆もコレで拾ってきたし』

「ハハ、おかしいな。敵役のフリはやめた筈なのに、オレが敵みたいにされている」

 

 女性は優しく尊重する、そうシアンに伝えたジエドは何故か一瞬にして針の(むしろ)にされていた。

 悪気は全く無いのだが、ジエドは女性への態度が平等に良くする為に、好かれるのと同様に人間関係のトラブルを招きやすい。タチが悪い事にそのトラブルはジエド本人へと向く事が少ない為、その様子を見てきりんは常々呆れている。

 閑話休題。場の空気が戻ってきた所を見計らい、シアンが口を開いた。

 

『わたしの能力、電子の謡精(サイバーディーヴァ)で出来る事は知ってる?』

「レイラの電子の踊精(サイバージーン)と殆ど同じだろう? 能力者への共鳴と強化、干渉を応用した感知能力」

『そう。感知に関しては電子の踊精(サイバージーン)に負けてたんだけど……逆に、モルフォ(わたし)でしか出来ない事もある』

『……なんですって? どういう事かしら、シアン』

 

 自分では出来ない事がある、そう遠に言われて電子の踊精(サイバージーン)本人たるルクシアが聞き返す。

 電子の謡精(サイバーディーヴァ)電子の踊精(サイバージーン)。能力者限定の精神干渉能力であるこの二つは、基本的に同質の能力である。

 個人差によるものか、あるいはモルフォがGVの記憶の再現(イマージュパルス)であった為か、能力による性能差はある。しかし以前の時点から、電子の謡精(サイバーディーヴァ)でしか出来ない事が一つだけあった。

 

()()()()()()だよ』

「あぁ、そういえば。ガンヴォルトの鎖環(ギブス)が解けそうになった時には、モルフォの力でいくらか抑え込めてたっけ?」

「……待ってくれ。出来るのか、そんな事が?」

「あれ。レイラとルクシアは出来ないの?」

「むぅ」

 

 そう言えばそんな事もあったと、きりんがぽんと手を叩く。しかしその言葉に驚いたのは、ジエドとレイラだった。

 完全に活性化した暴龍の抑制・封印は、基本的に鎖環(ギブス)でしか行えない。封印の眠りについているメビウスの様に、力の弱まっている暴龍であれば電子の踊精(サイバージーン)の精神干渉は有効だが、それでも暴龍化現象の抑制が他で代用出来るならここまで事態は拗れていない。

 だからこそ皇神(スメラギ)やATEMSは総力を上げて、完全に暴龍と化した能力者すら単体で封印出来る新型の宝剣開発を急いでいるのだ。

 

『モルフォがシアン(わたし)に成った直後、わたしはこの力でGVを助けようと思った。モルフォの時点では不完全な抑制でしか無かったけど、メビウスの力を得たわたしだったらそれを完全に出来る。そう確信してたから』

「暴龍の王の力。確かに、暴龍を制するのにこれ以上適したモノは無いね」

 

 当時のシアンが考えた事を、ジエドが簡潔な理屈にまとめる。

 かつてのモルフォはイマージュパルスという不完全な存在でありながら、最強の暴龍であるガンヴォルトを鎖環(ギブス)抜きで抑え込むという荒業を、短期間ながら成功させていた。ならば力を得て完全な能力者となれば、それ以上の事が出来るのは言うまでもないだろう。

 しかしシアンは、ある問題点を考慮してその第一案を自分から却下していた。

 

『でも、これは結局GVの抑制に無限の星詠(アストラルオーダー)を使うって事になる。GVがメビウスに取り込まれた時の事が、今度はわたしになるだけ。そうなれば、今度はわたしが暴龍になる』

「それでわざわざ、キミらが宝剣代わりになるなんて事になったんだね」

「いや、ジエド。それはボクのアイデアで、()()()なんだ」

「へ? 第三案って……つまり、その前に第二案があったって事?」

『きりん、ご明察。そしてそれこそが、わたしの歌姫(ディーヴァ)プロジェクトだよ」

 

 ウインクひとつ、シアンがきりんの疑問に応える。

 メビウスに対し二人が宝剣化するというのは、プロジェクト・ガンヴォルトより着想を得たガンヴォルトの案だった。最終的にはこちらが採用された訳だが、その前身かつ()()している”第二案”がシアンにはあった。

 シアン自身の出した暴龍化現象への対策。それはもっとシンプルな、そしてスケールが大きい作戦(かんがえ)である。

 

『わたしの歌で、()()()()()()()()()()の』

「「……はっ?」」

『当然それはGVも、メビウスも、そして()()()()()も。全ての暴龍に、わたしの歌を聴かせる。これがモルフォ・スーパーライブの概要だよ!』

 

 ふふんと胸を張るシアンに対し、ガンヴォルトを除く全ての人間が硬直する。その反応を予想していたのか、ガンヴォルトは苦笑いを零していた。

 自分達を宝剣と見立てるなど迂遠な考えはしない。暴龍化現象という世界問題に対し自分一人で真っ向から喧嘩を売る、そんなストレートな手段。それこそがシアンの考えた、無限の星詠(アストラルオーダー)の使い方だった。

 ガンヴォルトやメビウスのみを抑制するだけでは解決しない。だから問題の全部をまとめて抑え込む。それは誰がどう考えても、暴挙中の暴挙であった。

 

『本気で――いや、正気で考えたのかしら、そんなメチャクチャな計画を?』

『ヒドいなぁ、ルクシアはわたしのお仲間でしょ? 第八波動(エース)なんておっきなマイクがあるんなら、コンサート会場は広い方が良いと思わない?』

「……これまでの話の中で、というかオレ史上で最もメチャクチャなアイデアを聞いた気がするよ。メビウスを操るって言ってたオレよりもとんでもない考えじゃないのかい?」

「まったくよ……ってか、いくら第八波動(エース)って言っても、そんな事が出来るの?」

「まぁ、残念だけど出来なかったんだ。()()()()()()()()

 

 ガンヴォルトが肩を竦め、そのアイデアが失敗に終わった事を話す。

 この突拍子も無さそうなアイデアには、実は根拠が一つあった。メビウス覚醒時に龍放射が拡散し、海外にまで暴龍化現象が広まった事。龍放射を全世界に広げる事が出来るなら、逆に広げた龍放射を縮めて抑え込む事も可能なのではないか。これがシアンの着想元である。

 しかし無限の星詠(アストラルオーダー)で未来を視た結果、流石にシアン本人への負担が大きすぎて自分の力を抑えきれない事が判明。それによりこの案は、()()()()()事になった。

 

「”そのままの形では”……?」

『実はこの計画は半年もかかっちゃったけど、ここ最近()()()()()の。ちょっと工夫して、ね』

「……嘘だろう?」

『こんな事で嘘ついてどうするの。ホントもホントだよ』

 

 モルフォ・スーパーライブ、全世界の暴龍抑制計画。これをシアン単体でやる事は出来ない。

 しかしシアンの計画の穴を埋める、最強のパートナーが此処には居る。

 

『GV、アレ出して?』

「うん。きりん、コレを見て欲しい」

「え? ……んんっ?」

 

 モルフォの呼びかけに応じ、ガンヴォルトが手を前に前に出す。

 そして次の瞬間に、きりんにとって()()()()()()()()()()()()()()がガンヴォルトの手の前に顕れた。

 

「――()()!?」

 

 黄色の柄、蒼い刀身、紅の光。かつて龍脈を抑えるべく造られ、メビウスが眠る場所を封印するべく各地に刺されていた真の宝剣。裏八雲の誰もが知る代物が、まばたき一つした瞬間ガンヴォルトの手に収まっていた。

 有り得ない。封鍵は裏八雲の独自技術で生み出され、日本にしか存在しないモノである。なんだかんだの理由を付けられATEMSに使われる事もあるのだが、ここまで一本たりとも紛失はしていない。

 今目の前に出現したのは、()()()()()()の封鍵だった。

 

「ジエド、君なら知っているだろう? ABスピリットという物質について」

「ABスピリット……キミの力の残滓の事か。しかし、それが一体――」

「これは()()()()()()()()()()()()()なんだよ」

「なんっ……!?」

 

 その発言に、今度はジエドが驚愕する。

 ABスピリット、ガンヴォルトが消えた後に残された力の塊。強い能力者の魂の欠片とでも言うべきそれは、現状でも解明出来ていない点が多い。

 そんな謎の塊たる物を、今ガンヴォルトは事も無げに扱っている。

 

「元々封鍵は日本の龍脈――霊的な力の流れをコントロールする為に刺されていた。ボク達は今回、それを()()()()()()んだ」

「ど、どういう事よ……?」

『GVが言った通りだよ。ABスピリットで創ったGVの封鍵――()()()とでも言うべきコレを、この半年の間に世界の各地に埋め込んできたの。誰にも知られない様に、こっそりね』

 

 ABスピリット、ガンヴォルトの魂。メビウスの次点に強大な暴龍の力を持つそれを”鍵”とし、全世界に打ち込む。それがシアンの案を支える、ガンヴォルトのアイデアだった。

 封鍵はATEMSがそうした様に、能力者の力を引き出す効果がある。しかし本来の使い方は、皇神(スメラギ)地下に隠されたメビウスへの道を封じて隠す事。そしてそれ以前には、霊力という不明瞭な力を安定させる効力があった。

 封じて隠す力と、見えない(モノ)を安定させる力。これらを組み合わせれば――

 

「今ある龍封鍵は全部で七つ。東アジアと西アジア、アフリカ、ヨーロッパ、南アメリカと北アメリカ、オセアニア。人口密度の多い場所を狙い、それぞれの範囲をカバーし合う様に設置している。これを()()()()()()()()にしてるんだ」

 

 それは、かつてパンテーラにやられた事――シアンの力をミラーピースとして分離・分割したのと近い発想であった。

 ガンヴォルトの力と魂を分割し、封鍵の形に変える。そしてその封鍵を各地に配置する事で、その場所にシアンの(ちから)を与える。

 先程ルクシアが観測した、ガンヴォルトらの力の規模の縮小。それは、ガンヴォルト達がその魂を龍封鍵として体から世界へと切り離した事を示していた。

 

『まぁ要は、わたしの声とマイクだけじゃ世界に届け切れないから、GVに電波塔を設置してもらったって感じ。これで今、わたしの力は全世界に届く様になってる』

「……正しく歌姫(ディーヴァ)プロジェクトだね。やろうと思えば、悪用し放題だ」

『それがそうでもなくてねー。結構無理してるんだ、これ』

 

 本来の歌姫(ディーヴァ)プロジェクトは衛星拠点”アメノウキハシ”の施設より、モルフォの歌を配信する事で精神感応を促し、世界中の能力者を管理する計画である。

 今回シアン達がやったのは、その機能の代わりに龍封鍵という媒介を世界各地に埋め込み、ABスピリットとガンヴォルトの繋がりをケーブル代わりとして、シアンの現在位置を問わず”抑制”の力場を発生させるという物。確かにそれは、歌姫(ディーヴァ)プロジェクトの進化系と言える。

 しかしこの案にも、ある一つの問題点がある。そしてその問題こそが、ジエドが懸念する悪用へのストッパーになっていた。

 

「さっきボク達の存在は不安定な状態を維持している、って話したよね。ボク達の力の殆どは、メビウスの封印に使ってるから」

「それはさっき聞いたけど――……待ってGV。そんな状態で世界中の暴龍の抑制なんて、する力あるの?」

()()()

「えっ」

 

 シアンの計画には、大前提として無限の星詠(アストラルオーダー)により増幅された電子の謡精(サイバーディーヴァ)が必要である。そうでなくては、暴龍及びその予備軍とも言うべき能力者達の総力に力負けするから。

 しかしガンヴォルト達はメビウスを封印するべく、得た力の大半を自分達の中で行使して完結させている。この状態では、どうやっても出力が足りない。

 だが。力が足りないのなら、()()()()()だけで良い。

 

「龍封鍵はシアンの力の発生源であり、()()()()()に刺してある。足りない分のエネルギーは、()()()()てるんだ」

『いやぁ、大変だったよねー……メビウスと一緒になって、適した感じの場所を全世界見て回って、大きな影響を出さない位置や時勢を見極めてブスブス刺していくの……』

「あんた達わたしが知らない間にそんな事やってたの!? 皆に内緒で!? 馬鹿じゃないの!?」

「そ、それを言われると返す言葉も無いんだけどね……世界の暴龍化対策は、早い方が良いと思ったから。なるべく急いだんだけど、結局半年かかっちゃったんだ」

「せ、せめて裏八雲(うち)に言ってくれれば、調査チームでも出したものを……素人が龍脈探しなんて、時間かかるに決まってるじゃない……」

 

 足りない力は、()()()()()()()()()。龍脈という超自然的な場所より、必要な力を一部だけ借りて運用する。それこそが龍封鍵の真骨頂だった。

 しかしそんな話を聞かされ、きりんは呆れ果てて言葉も出したくないが、口にしなければいけずに頭を抱える。それを見たガンヴォルトとシアンは、流石にちょっと申し訳なくなった。

 龍脈など現代科学の外側にある霊的事象は、裏八雲などの古くから続く専門機関ぐらいしか取り扱っていない。そんなものをメビウス含む無知の三人で手探りで探していたなど、半年で済んだのが奇跡的な暴挙である。

 しかしその成果は、絶大だった。

 

『ま、まぁまぁともかく! 世界の龍封鍵を通じて、わたしの力――暴龍を抑え込む力は最近ちゃんと機能する様になった。足りない力は現地調達、能力を余剰に使ってないからわたしの暴龍化も無し! どう、完璧でしょ!?』

「実際、凄い計画である事は認めるよ。ホウレンソウがなってない以外はね」

「ん? ジエド、今いきなりミサイルを国に撃ち込んで侵入してきたヤツの話でもした?」

「ハハ、オレの発言権は半年前に没収されていたらしい。すまなかった」

 

 ジエドがきりんの白んだ目を受け冷や汗を流し、あっさりと屈する。そこにATEMSの長としての威厳は皆無であった。

 何の報告もせず行動に移したという点において、半年前のジエドがやった事は世界において他の追随を許さない。国の結界を突破するべくミサイル型の輸送機を国に飛ばしたり、世界を導くという名目の元メビウスを引っ張り出して龍放射を全世界にばら撒いたり。

 散々悔やんだ前例をきりんに持ち出されてしまい、ジエドの反論する力は完全に封印された。

 

『そんな大々的な動きをして、私が感知出来なかったのは?』

「龍封鍵は龍脈の力を吸い取る機能があるからね。通常の第七波動(セブンス)や龍放射みたいに、外側へと発散される力も無い。多分それで、君の電子の踊精(サイバージーン)波動(ちから)が吸収されたんだと思う」

『ふふーん。元祖歌姫の面目躍如、って感じ?』

「……むぅ」

 

 ルクシアとレイラが揃って不機嫌そうな表情を浮かべる。これこそが、ガンヴォルト達から龍放射を検知出来なかった原因でもあった。

 暴龍を抑え込む為の暴龍、その分身たる龍封鍵。鎖環(ギブス)とはまた異なる、能力封じの力。世界規模で広められたそれは、電子の踊精(サイバージーン)という最高峰の感知能力をも超える効力を持つ。

 打ち込まれた龍脈の力ごと、電子の踊精(サイバージーン)の波動を吸い取る。そしてその分の力は、龍放射を抑える為に自動的に運用される。

 世界を安定させる為の機構。それこそが、()()()と言うべきシステムだった。

 

「――んっ? ちょっと待ってGV。そんなドデカい計画(コト)やったのに、なんで日本(うち)だけ暴龍出っぱなの? 嫌がらせ? ねぇ嫌がらせ?」

「か、顔が怖いよきりん! 落ち着いて!」

『あー……その、日本には結界があるでしょ。アレのせいで、東アジアの龍封鍵の力が届いてなくってね……これは完全に計算外だったの』

 

 しかし、このシステムにはたった一つの漏れがあった。最終国防結界”神代”、過去より能力者など数々の外敵から国を守る為に日本を覆っている結界。これにより、日本に対してのみ龍封鍵の力が遮断されていた。

 龍封鍵の力はルクシアの感知をすり抜け、世界に害を齎す物でも無いが、それでも未確認の力である事に変わりは無い為に国防結界には弾かれてしまう。元々霊的なアプローチにより国を守ってきた日本に対し、それを応用したガンヴォルト達の力は競合対象であった。

 これらの結果。世界の暴龍化現象はシアンの力が波及した事で徐々に減少していき、そして結界で逆に閉ざされている形の日本のみ暴龍が増え続けていた。完全に不幸な事故である。

 

「……ったく。ま、元々やらなきゃいけない仕事だったし、別に良いけどね。その龍封鍵っての、日本(ここ)でも刺すなら良い場所(トコ)調査するから、言いなさいよ。サクっと終わらせたげる」

「うん。ジエドも、それで良いかい?」

「オレは大歓迎さ。皇神(スメラギ)にせっつかれる仕事は少ない方が良いに決まってる」

「今の内にシロンとレクサスにATEMSに回せる仕事ありったけ手配させようかな」

 

 軽口を叩くジエドを見て、きりんは割と本気で端末のメモ帳に連絡用の文章を打ち込み始める。しかしその位には、既に場の空気は落ち着いてきていた。

 シアンがガンヴォルトを守る為に考えた新たな歌姫(ディーヴァ)プロジェクト。それを叶える為のガンヴォルトと七龍鍵。そして二人の存在を自身の力で担保しながら、暴走より守られるメビウス。

 かつて世界を混迷に導きかけた三人の力は、”戦わない”という形にひたすら注がれ、今ようやく安定に至った。それをこの場の全員が理解した為に。

 

『これでわたしの歌姫(ディーヴァ)プロジェクトの話はおしまい。だから、()()()()()()だね』

「うん。……まぁ、最後の話が一番大事なんだけど」

「えっ。まだなんか隠し事あんのあんた達。流石にいい加減わたしキャパオーバーするわよ」

 

 だが、()()()話さなければならない事が、ガンヴォルト達にはもう一つだけあった。

 ガンヴォルト達二人の宝剣化、シアンによる世界の暴龍化現象の抑制。二つの翼が揃い、世界の問題は安定へと向かいつつある。

 しかしこれはガンヴォルトとシアンが既に独断でやり遂げた事であり、極論を言えばこの場の四人や、治龍局・ATEMSに報告する義務や必要性は無い。当然異論があれば手段の修正や見直しはする気であったが、今回全員を集めた本題はそこではない。

 この場所にきりん達四人を集めたのは、()()が欲しかったからだ。

 

「始まりは、ボク達六人だった。だからまず、皆で話し合おうと思ったんだ」

「……何のことだい、ガンヴォルト」

()()()()()()()()()()()について、だよ』

「「!!?」」

 

 ガンヴォルトとシアンが、後ろで眠りながら浮遊するメビウスへと目をやる。

 衝撃発言のオンパレードである今回の話の中で、恐らく最大の衝撃がきりん達を襲った。

 




(対処するべき)問題が……問題が多い……!

次回で最終回です。
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