蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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06.終着駅

『あ、当然今すぐわたし達の手から放すって意味じゃないよ? そんな事したらGVもわたしも消えちゃうし』

「そりゃそうよ! っていうか、今までメビウスや暴龍を抑え込むって話してたじゃん! なんでいきなり話を逆方向にぶっ飛ばしてんの!?」

「キミらが何の考えも無しに動いていないのは、今までの話で良く分かってるつもりだ。その上で聞くよ、何故そんな話が出るんだい?」

 

 ガンヴォルト達が切り出した最後の話、”メビウスを自由にする”。これまでで最も衝撃的で、そして無茶苦茶な提案に対し、流石にきりんとZEDΩ(ジエド).は動揺を隠し切れなくなった。

 現存する最大の問題、真なる暴龍の王、生まれながらの超越者。皇神(スメラギ)とATEMS、きりんとジエドが最も危険視した存在。ガンヴォルトとシアンは、確かにそれを自由にすると言った。

 だが、それはこれまでしてきた話とは完全に正反対の事である。何せ、メビウスの存在とそれに伴い生まれる暴龍こそが現時点最大の問題であり、ガンヴォルトとシアンが抑制する事を止めれば全ての努力が水の泡となるのだから。

 

「……きりん。ボクは昔から、ずっと戦ってきた。それはシアンの為だったり、親しい誰かの為だったり、贖罪の為だったり。だけど、そこに信念はあるのかって、改めて考え直したんだ」

「? 信念って、どういう意味よ」

「ボクが戦ってきた相手には、信じ貫こうとするモノがあった。紫電はこの国を守る為に、アシモフは無能力者の支配の為に、パンテーラは能力者の楽園を築く為に。思いも手段も全然違うけど、自分の想いの為に戦い抜いた」

 

 ガンヴォルトは目を細め、自分の胸に手を当ててこれまでの記憶(たたかい)を思い返す。

 相容れない存在だった。許してはいけないと思った。止めなければならなかった。ガンヴォルトはそうして戦ってきたが、それは何処かその場の状況に流されていた所があった。

 自分は悪でも構わない。かつてガンヴォルトは紫電に対しそう言い、エゴを通してシアンを助けた。しかしその戦いの先では、ただ自分の周囲に迫る火の粉を払うだけで、そこに他の想いが介在する余地は無かった。

 

「ジエドも、世界の未来を案じてメビウスを導こうとした。ボクときりんは君達の企みを阻止したけど……その想いが、信念が間違っていたとは思っていない」

「…………」

「”結局は一人の人間に世界は委ねられる。行く末はなにも変わらない”。君の言葉は、その通りだと思う。その上でボクは、自分がこの世界でどうありたいかを決めた」

 

 ジエドもそうだった。過程や結果はともあれ、自分が正しいと思った信念の為、自分の希望の為に動いた。

 やり方を咎めはしたが、未来に希望を求めた事が間違いだったとは言えない。ガンヴォルトにとって、世界は自分の近くで完結していた。そんな受動的な姿勢のままで居てはいけないのだと、これまでの半年で思った。

 だから、答えを出した。自分の信念を、何の為に戦い、何を選ぶのか。

 

「……そんなに難しく考える必要なんて無い。簡単な事だったんだ。ボクの信じるモノ――信念は、”自由”だ」

「……自由?」

「うん。ボクやシアン、きりんや治龍局の皆、ジエドやATEMS、能力者と無能力者。皆が皆、自由に過ごせる”明日”。それだけが、ボクの信念だ」

 

 自分自身を見つめ直して導き出した答え。ガンヴォルトが最初に求めたモノであり、フェザーに居た時より信じていた原点。それが、”自由”だった。

 世界を自分一人でどうこう出来るとは思えない。己のエゴで強く変えようとは思わない。ましてや未来を導く者になど、なれる器でも無い。

 ただ、皆が過ごす世界が自由であって欲しい。そして、誰もが望むその自由を守りたい。ガンヴォルトの希望――”信念”は、たったそれだけの事だった。

 

『わたしはGVと一緒に過ごして、わたしの歌を歌いたい。わたしの信念は、”歌いたいだけ”って自由だよ』

『それはまた、なんとも……今やってる事に反して、ささやかな願いね』

『レイラとルクシア。あなた達とわたしは、きっと何も変わらないよ。あなた達も歌う事が好き、そうでしょ?』

「……んっ」

 

 そしてシアンにとっての信念――やりたい事は、ただ歌う事。歌いたいように歌う、それだけの事。

 昔はそれすら許されなかった。ガンヴォルトに連れ出されその権利を得たが、そのままでは居られなかった。しかし、ガンヴォルトの”生まれ直し”によりそのチャンスはまた一度与えられた。

 何度生まれ変わったとしても、きっと自分は他の何よりも歌う事を選ぶだろう。きっと歌が好きな人間なら、この気持ちは分かってくれる筈だ。シアンはかつての自分を思わせる少女(レイラ)へ、寄り添う様に声をかけた。

 

「だからボクは、もう誰も縛り付けたくない。今はまだ不安定だから皆で支える必要があるけれど……ボクはメビウスに、()()して欲しいんだ」

「独立、だって?」

「うん。希望の子だとか暴龍の王だとか、そんな呼び方じゃない。”メビウス”という個人として自我を持ってもらって、ボク達と並んで自由に生きて欲しい。ボクはそれまで、彼を見守る揺り籠になりたいんだ」

 

 ガンヴォルトもシアンも、世界に”こうあるべき”という形を求めない。代わりに、誰もが自由である為に――メビウスも自由に生きられる世界であって欲しいと思った。

 今はまだ第八波動(エース)という絶大な力と、それに伴う運命をメビウス一人では背負い切れない。だから背負える様になるまで育つ為の時間を作り、延ばして、皆で協力して。一緒に生きていく未来を探していく。

 そうなった先で何があるかは誰もわからない。不確かで、その先にはまた破滅の未来が待っているのかもしれない。

 それでもきっと。ここにいる皆や治龍局、皇神(スメラギ)、ATEMS、世界の人々。一人だけではどうにもならない事も、皆で生きて、考えて、積み重ねていけば。きっと、今日よりも良い明日を創れると信じて。

 

「――はぁー。全く、何ヘンな事言ってんだか……」

「……やっぱり、ダメな事かな? きりん」

「そーじゃない。何()()()()()()言ってるのか、って呆れてんのよ」

「えっ」

 

 迷いを見せるガンヴォルトに対し、きりんがバッサリと切り捨てる。

 メビウスを自由にする。一体どんな滅茶苦茶を言い出すかと思えば――

 

「ようは、()()()()()()にメビウスも守れば良いんでしょ? 今まで守ってきた所に、一人加わるだけ。大した事無いじゃない」

 

 きりんがするべき事は今までと何も変わらない。皆で協力して、未来を守り、繋いでいく。今度からそこに、メビウスが入るというだけだ。

 そこに信念だとか小難しい理屈は必要無い。考えるべき問題が今日から少し減って助かる。きりんにとって、ガンヴォルトからの話はそれだけで済む。

 そんなきりんの姿を見て、ジエドは軽く嘆息した。

 

「やれやれ、キミには本当に敵わないよ。確かに、何も難しい話じゃないな。思えばオレの元々の目的も、同じじゃないか」

「ジエド?」

「”オレ達がこの子を正しい未来へと導いてやる”。……ハハッ、龍の子育てなんて初めてだな、レイラ!」

「んっ!」

 

 ジエドは楽しそうに笑い始め、それにレイラが力を入れた返事をする。

 電子の踊精(サイバージーン)による舵取りなどする必要は無い。何も知らない赤子を育て、ゆっくりと力の使い方を教えていく。それは一般家庭でもやっている、誰でも出来る未来の創り方だ。

 かつてジエドは破滅の未来を悟り、自分の信じる理想こそが最良だと思った。しかしそれは、時を焦った短慮でしか無かった。

 だから。今度こそゆっくり、メビウスと一緒に歩むべき未来を探っていきたい。そうジエドは思えた。

 

『ほら、GV。言ったでしょ、”きっと大丈夫だよ”って』

「……うん。皆、本当にありがとう」

「ま、独断であれこれ動いてたGVへの制裁は後にして。BBやカミオムもそろそろ戻って来るだろうし、後回しにしてた再会パーティーの準備でもしよっか! どうせだし、ジエドも手伝いなさいよー!」

「えっ? 待ってきりん、今なんて?」

「んっ? 待ったきりん、オレまで準備役なのかい?」

「細かい事は抜き抜き! ほら、話も終わったんだし、こんなしけた場所からはさっさと帰るわよー!」

 

 話すべき事は今度こそ話し終えただろう。それを察してきりんが一足早く、笑いながら小走りでその場を去っていく。

 有無を言う暇も無く準備役に参加させられたのに気付いたジエドがその背を追い、ちらりとガンヴォルトとシアンを一瞥してからレイラが無言でついていく。ルクシアはやれやれと言わんばかりに溜息をついてから、姿を消した。

 完全に勢いに置いていかれたガンヴォルト達は、ぽつんと宝剣の丘の中心で立ち尽くした。

 

「……何されるんだろ、ボク達」

『あはは! 頑張ってね、GV!』

「きりんの事だから、シアンにも色々すると思うけど?」

『わたしは第七波動(セブンス)の体だから何されても効きませーん』

「ボクも電磁結界(カゲロウ)があるけど、きりんの鎖環(ギブス)に効くと思う?」

『……逃げられないね、わたし達』

 

 第八波動(エース)の能力者が二人並んで、渋い顔をする。何と言ったとしても、相手は鎖環(ギブス)の戦巫女。逃げようとすれば、(ふん)縛られてしまうのがオチだろう。

 未来選択能力(アストラルオーダー)があったとしても逃れられず確定しているだろうその”次”を理解し――二人は、くすりと笑った。

 

「……ふふっ。やっぱり、戻ってきて良かったよ、シアン」

『うん。いなくなっちゃったら、こんな風に悩む事も出来ないからね』

 

 戻ってきたという安心感と、生きているという安堵。二人きりでは不確かだったモノを確信し、その事にどうしようもない幸せを感じられる。

 今この時になってガンヴォルトは、消えなくて良かったというエゴに満ちた、屈託の無い笑顔を浮かべられた。

 

「……シアン。ありがとう、ボクを助けてくれて」

『んーん。”ありがとう”はわたしの方なんだよ、GV?』

「え?」

『まぁ、それは後でいっか。ほら、急いで! きりんを待たせたら、後が怖いよー!?』

「あっ、待ってよシアン!」

 

 改めて素直な感謝をガンヴォルトが送るも、シアンはそれをお互い様だと言った。

 どういう意味なのか。今ガンヴォルトがこうしているのは、シアンによる存在の保護があったから。その後の暴龍とメビウスを抑え込む計画も、基盤はシアンの突飛な考えがあったからだ。

 ガンヴォルトはそこにいくらかの考慮と改良を付け加えただけ。にも関わらず、何故シアンの方が礼を言うのか。

 それを問い詰める前にシアンはその場を飛び去っていき、ガンヴォルトは慌ててそれを追っていった。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「おおー! 本当(ジーマー)にGVじゃーん! やっぱ生きてたのかよー、それならちゃんと連絡ぐらいしろよなー!?」

「ひさしぶりー、ガンヴォルトー! ……ねえ、もう犬にはならないの?」

「GV、息災で何よりだ。事件での後遺症などは無いのか?」

「おお、GVか! ふむ……その筋肉、衰えてはいないようだな! 安心したぞ!」

「モルフォ――じゃなかった。シアーン、パーティーの出し物としてなんか歌いなさいよー。電子の謡精(サイバーディーヴァ)なら別に機材とかナシでもイケるでしょー?」

 

 ガンヴォルト達が治龍局のオフィスにやってくると、そこは喧騒に満ちていた。

 死霊(ガイスト)に会場を飾り付けさせようとし、見事に失敗して床に飾りを散らかすB.B.。

 てててーと寄ってくるも、犬形態に接する癖が抜けておらず無意識に消沈するシロン。

 純粋にガンヴォルトを心配しつつも、床に散らばる飾りを振子(ペンデュラム)で掃除していくレクサス。

 久々の帰還に対しても、筋肉の付き方だけで全てを納得して悟ろうとするカミオム。

 この場の全員に準備させておいて、自分だけは先につまみ食いをしているきりん。

 誰一人としてまとめる気が無い。そんな”自由”――というか、混沌(カオス)が広がっていた。

 

「……久々だなぁ、この空気」

シアン(わたし)は初めてだけど、モルフォの記憶が”懐かしい”って言ってるよ……」

 

 ガンヴォルトとシアンが二人揃って微笑み合う。この場所の為に帰ってきたいと願ったガンヴォルトにとって、この喧騒こそがかけがえのない風景であった。

 ”シアン”にとっては初めて来た場所ではあるが、無限の星詠(アストラルオーダー)によるモルフォとの同化と、可能性世界から観測した記憶と記録から、治龍局の事はよく知っている。

 自分達は、帰ってきたのだ。

 

「……ガンヴォルト。あんたには少し同情するよ」

「ジエド?」

「オレにとっては、こんな光景はATEMSのナイツの皆と一緒に過ごす時と同じ、当たり前の事だ。……けど、あんたにとっては、そんな顔をする程に嬉しい事なんだな」

「顔……?」

 

 喧騒を避難してオフィスの隅にいたジエドが、ガンヴォルトの近くにまでやってくる。

 ジエドから見て、ガンヴォルト達の表情は異様だった。懐旧、憧憬、羨望、感動。目の前の笑い話の様などんちゃん騒ぎに対し、あらゆる感情が綯い交ぜになった微笑みを浮かべている。

 ガンヴォルトは背負ってしまった力のせいで、こういった日常に浸る自由すらも奪われていたのだ。それをジエドは、表情一つから察してしまった。

 

「半年前から少し考えてた事がある。オレがあんたの昔の立場だったら――誰かの手によってレイラと世界を天秤にかけられたとしたら、オレはどうするんだって」

 

 ぎゃーぎゃーと喚き合う治龍局の面々からガンヴォルトと共に距離を取る様に下がりながら、ジエドは自分が考えていた事について零し始める。

 半年前、ジエドがABスピリットを収拾していた時、レイラはその力に呑まれて暴走した事があった。その時になって、ジエドは大切な人を理不尽に奪われるという体験を擬似的にした。

 ABスピリットはただの力であり、あの事件は事故でしかない。しかしあれが、もっと強大な組織の手によるものであれば。電子の踊精(サイバージーン)を狙う、何らかの陰謀が関わっていたとしたら。その時自分はどうするのか、ジエドはそれを自問した事がある。

 

「……きっとオレも、レイラの為に動く。誰に言われても、どんな理屈を並べられても。大切な人を奪われて”はいそうですか”なんて、簡単に納得なんて出来やしない」

「んっ」

 

 答えは決まりきっている。ジエドも、かつてのガンヴォルトと同じ選択を取るだろう。

 世界だのなんだの言われても、自分やレイラの気持ちを踏み躙られて黙っていられる訳が無い。そしてそれは、メビウスを巡る騒動での自分を改めて省みるきっかけになった。

 誰かにどれだけ正しい理想(せかい)を見せられても、他の誰かには受け入れられない。ならば、絶対に正しいと未来を言い切れる権利など、誰の手にも無いのではないか。

 だから。

 

「手伝わせてくれ、ガンヴォルト。キミらの信念――”自由”を」

「――……」

 

 正しい未来は自分にも、誰にも分からない。無限の星詠(アストラルオーダー)があったとしても、一人ではきっとどこかで選ぶ未来を間違えてしまう。

 それなら、一緒に力を合わせよう。努力して、知恵を合わせて、時には失敗してでも。決して正しいとは言えない世界で、今日の方がマシと皆で言い合える。そんな”明日”を守ろう。

 ガンヴォルトの話を聞いた今、ジエドはそう強く思えるようになっていた。

 

「……ありがとう、ジエド。キミにそう言って貰えると、心強いよ」

「ハハ、まぁそう心配する事も無いさ! 皇神(ここ)にもATEMSにも、頼りになる仲間は一杯いるからね! 可愛らしい花もここに一輪増えた事だし、少なくともオレにとって今日は昨日より良い日さ!」

『ちょっとジエド、それわたしの事? わたしはGVのモノなんだけどー?』

『ちょっとジエド、堂々浮気かしら? さっきまではレイラを大切にするって話だったと思うけど?』

「むーっ!」

 

 ガンヴォルトとジエドが共に並び、その相棒である歌姫二人、いや三人が横から口を出す。

 昨日まででは有り得なかった”今日”が、ここにはあった。

 

『……ね、GV。ちょっと前の言葉、もう一回言うよ』

「え?」

『GVは、生きててくれた。辛い事も苦しい事もいっぱいあったのに、モルフォ(わたし)の事は忘れないでくれた。だからシアン(わたし)は、此処に来れた』

 

 シアンは改めて、”ちょっと前の言葉”をちゃんと口にする事にした。

 皇神(スメラギ)と戦い、育ての親と戦い、エデンと戦い、戦い、戦い続けた。ガンヴォルトはその果てに暴龍へと目覚め、封印されてしまった。

 しかしきりんの手により目覚めた時、最初に手にしたイマージュ(きおく)は、モルフォだった。他の記憶の何よりも鮮明に、自我を持つ程にガンヴォルトは覚え続けていた。

 ガンヴォルトにとっては忘れられる訳も無かった以上、それは必然だったのだろう。しかしそれこそが、この未来に繋げる為の最初にして絶対の一歩だった。

 

『――ずっと覚えててくれて、生きててくれて。ありがとう、GV。わたしは今、幸せだよ』

「ッ」

 

 シアンが満面の笑顔で、ガンヴォルトに笑いかける。

 その笑みを受けて。ガンヴォルトは直面するのに堪え切れず俯いて。

 治龍局のオフィスの床を、静かな水雫が濡らし始めた。

 

「あーっ! じ、GVが泣いてる!? だ、だいじょうぶー!?」

「何ッ!? それは良くないな、肉を食え肉を! 筋肉は活力だ、涙も吹き飛ばしてくれるぞ!」

「……お前ら、もう少しデリカシーというモノをだな……」

「まだパーティーも始まってないのに、感動で泣くにはまだ早いんじゃないのー? ま、嬉しくってしょーがないってのは良い事だけどね」

 

 ”泣くガンヴォルト”というあまりに異様な光景を見て、治龍局の面々も集まってくる。

 シアンがいる。皆がいる。自分も、ここにいる。その当たり前の、しかし今まで”当たり前”では無かった、そんな日常に戻ってこれた事を、強く自覚させられる。

 それが、辛い程に幸せで。ガンヴォルトはついに嗚咽を止められなくなった。

 

「……っ、う……そ、そのっ。ごめっ、ん……ちょっとっ、一人、にっ。させて、くれないかな……?」

「ダメに決まってるでしょーが。もうパーティーの準備も出来ちゃったんだから、さっさと始めないと。今日の主役が一抜けなんて、許さないからね!」

「ハハッ、レイラ! ルクシアもシアンと一緒にデュエットライブするってのはどうだい? 折角の祝いの席だ、なんでもやってみると良い!」

『音楽性が全然違うのだけれど……まぁこんな機会も早々無いでしょうし、やってみようかしら』

「んっ!」

 

 そんなガンヴォルトの心情を知ってか知らずか、きりんが強引に背中をぐいぐいと押して会場(オフィス)の中央へと追いやる。

 ジエドはそんな二人を祝福するべくレイラに提案を持ちかけ、それに呼応してルクシアが現れる。それからわいわいと、宴は際限なく賑やかになっていった。

 そして――

 

  ◆  ◆  ◆

 

「――あーもう! まーた暴龍案件じゃないの! いつになったら日本は落ち着くのよー!」

「まぁまぁきりん。第七波動(セブンス)研究部門の人達も龍封鍵の構造が解析出来るまでは手元に置きたいって言ってたし……裏八雲もまだ適した龍脈(ちてん)を探り当ててられないんでしょ?」

「それはそうだけど! シアン、電波塔(アマテラス)からライブして能力届かせるとか、無いの!?」

『アレは昔設置されてた増幅器(ブースター)ありきだし、龍封鍵と同じ構造の機構が無いと”抑制”の能力は発揮出来ないんじゃないかなぁ……』

「だー! 最強の能力者達が、揃いも揃って情けないわねー!」

 

 ビルの谷間を、三人が駆けていく。

 誰か一人に、すぐに世界を変える様な力は存在しない。強く願ったとしても、”自由”とはそう簡単に掴む事は出来ない。

 しかし。

 

「ハハ、また随分と荒れてるねぇ、きりん!」

「ジエドォ!? あんたなんでまた日本(ここ)来てんのよ、そっちの国は空けて大丈夫なの!?」

「ガンヴォルトのおかげで海外(そと)は随分落ち着いたものさ。だから龍封鍵の共同研究がてら、ATEMSがこっちに出張する余裕が出来たって訳だよ」

「だからってトップが直々に現場出る!? フットワーク軽すぎでしょ!」

 

 更に一人の力が加わり、同じ行先へと向かっていく。

 一人では出来ない事も、力を合わせれば可能になる。

 

「はぁ……まぁいいや! それじゃあ――行くよ、皆!」

「うん!」『ええ!』「ああ!」

 

 きりんが刀を抜く。ガンヴォルトが銃を構える。シアンが羽搏(はばた)く。ジエドが火を灯らせる。

 四人は肩を並べて、”明日”を目指し駆け抜けていった。

 




蒼き雷霆ガンヴォルト 環解(リーヴス)

という事で、ガンヴォルト鎖環の二次創作でした。
「ガンヴォルト幸せにするにはどうすればええんや……せや!」と、クリア後から長い事考えるだけしてたアイデアを書き上げたモノになります。
短い中に詰め込み気味でしたが、どこかのガンヴォルトプレイヤーの楽しみの一つになれたのならば幸いです。

読了ありがとうございました。良ければ感想・評価・好きなガンヴォルト楽曲名の報告などしてくれると助かります。
作者が好きな楽曲は「断罪討滅」「燐光演舞」「青写真-cyanotype-」「交わる龍虎」「鏡乱狂奏」「並行世界」「菫青石」「記憶解放MIAOU」「希望灯」「エクストリームビヨンド」「命題:>」「終着駅」「疾駆する黄衣の刃」「彼の記憶」「幻想巡夜」「比翼の音音」です。
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