蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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ゲーム内トークルームぐらいのノリのおまけです。


・皇神交響楽団

『もうあーれーかーらー♪ んふふーふーんーんー♪』

「……そいやさー、モルフォ――じゃなかったわ、メンゴ! シアンちゃんってさ、ぶっちゃけ前とどこが変わったん?」

『ん? いきなりどうしたの、BB』

 

 日本の中に”ガンヴォルト”と呼ばれる超特殊能力を持つ少年が現れ戻った近代。巨大複合企業”皇神(スメラギ)グループ”の統制により、割と本当に安定した秩序が保たれ始めた頃――つまり、たった今の事。

 ある日のB.B.は治龍局オフィスにて機嫌良さそうに鼻歌を歌いながらふよふよ翔んでいるシアンの姿を見て、ふと思った。

 あれ、これ別に前と変わってなくね? ”モルフォ”として一緒に過ごしてた前と、”シアン”って娘に成った今で、なんか違いあんの? そんな、ド直球すぎる疑問。

 

第八波動(エース)? とかいうのに一応なったんだろ、GVと一緒に? オレっちはそれ、まだよーく分かってなくってさー……なんかこー、スゲー事出来る様になったー! って感じ、シアンちゃんからはしねーんだよなぁ。あ、わりー意味じゃない方で、ってハナシよ!」

『あー。まぁ、GVと一緒にわたしの(ちから)も、今は世界で八分割されてる状態だからね』

 

 実際の所、B.B.の疑問は正鵠を射ていた。メビウスや自分達の暴龍化を安定させる為に、ガンヴォルトは龍封鍵という形で身体から魂を分離させ、その分だけ能力は下がっている。

 その上、新たに得た無限の星詠(アストラルオーダー)の力はメビウスの制御に使われている。暴龍化の心配が無いのは良いのだが、だとすれば以前のモルフォとの違いは何処にあるのか。

 今のB.B.の目からは、モルフォの雰囲気が気持ち明るくなって”シアン”と名乗る様になっただけにしか見えなかった。

 

「で、で? ぶっちゃけ、なんかスゲー技とか覚えたん? 教えてくれよー」

『んー。まず、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力が全力で使える様になったよ』

「おおー! で、で!? それマックスで使ったら、どうなるん!?」

『……鼻歌で能力者を洗脳しちゃう、とか……?』

「スンマセンした」

 

 B.B.は即座に土下座した。勝てない。勝てる訳が無い。

 前と違いがあるどころではなかった。第七波動(セブンス)を超えた力と聞いてはいたが、今のシアンは対能力者相手だと本当に戦いにならないレベルのパワーを得てしまっている。

 文字通りの鼻歌交じりで能力者を完封出来るとか、それで力落ちてるってマジ? お通し感覚で出された能力の使用例があまりに凶悪過ぎて、B.B.は初手から降伏する事で自衛を図ろうとしていた。

 

『そ、そんな事やらないよ!? わたしの(うた)はそんなのの為のモノじゃないもん! せいぜい暴龍を抑え込むのに使うだけ!』

「そ、そうだよな、そうだよな!? ハ、ハァー……ッベーわ、思わずガチ焦りしちったよー。バビったー……」

 

 慌ててシアンが弁明し、B.B.は(おもて)を上げる。正直、シアン本人も自分の能力を意図的に全開で行使した事は無いので、思わず自分が知る最も極端な例を出してしまっただけだった。

 電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力は、基本的に応用しか出来ない。声の電子波形に第七波動(セブンス)を乗せて発し、その先で精神干渉や能力の増幅・能力者の探知など、様々な効果を発揮する。

 そして現在のシアンはそこに第八波動(エース)の破片を持っている様な状態であり、自分が何処まで出来るのかを試しておらず、結果的に自分の力の全容を把握出来ていなかった。

 

『えーと、わかりやすい変化と言えば……GVから離れて動ける様になった事、とか?』

「ん? ……あれ、そいや今日はGV外に出てんじゃん。シアンちゃんって、GVやメビウスと一心同体なんじゃなかったん?」

 

 そこでB.B.は、なんとなく違和感があったけど自分がスルーしてた事実に気付く。今現在、ガンヴォルトは皇神(スメラギ)第七波動(セブンス)研究部門の方へ出向していた。

 前までのモルフォはイマージュパルス――きりんとガンヴォルトの能力であるという性質上、二人から離れる事は出来なかった。ガンヴォルトも鎖環(ギブス)の制御外となる可能性を考慮し、きりんから離れられなかった為、モルフォ達は常に三人で行動していた。

 が、今はそんな事は無い。ガンヴォルトはガンヴォルトで、きりんはきりんで、そしてシアンはシアンで。それぞれが完全に別行動をしており、一所に留まる必要は無くなっている。

 

『一心同体っていうか、”()()()()()”……って、研究者の人が表現してたっけ。宝剣化の影響で、一つの家に三人が別々に住んでるみたいな状態、だとか……? よくわかんないけど、なんか”GVやメビウスのそっくりさん”って感じらしいよ、今のわたし』

「……本気(ジーマー)でわかんね。研究部門の連中ってやたら小難しい話するよなー、オレっちの死霊(ガイスト)なんかも長々と分析してたし。校長センセーの話かってーの」

『わかんないよねー』

 

 ねー。二人が揃って、研究者泣かせの同意で話を〆る。

 可能性世界で個体として確立されたシアンは、ガンヴォルトの能力下より離れた。その後にメビウスと共に生まれ直した訳だが、”別人”という状態自体は継続されていた。

 結果として、メビウス・ガンヴォルト・シアンの三人は無限の星詠(アストラルオーダー)により顕現している、同一存在でありながら独立する”能力と人間の狭間”と言うべき新たな生態へと至った――のだが、シアンはそれを微塵も気にしていない。元々第七波動(セブンス)の身体で動いていたのもあり、正直自分が変わった存在だと言われても今更気にする事が無かった。

 ちなみにきりんは研究者からそれを話半分に聞いた後、最終的に”……要は、うちの人手が増えたって事で良いんでしょ?”と雑にまとめていた。頑張って解析した研究部門の人間は泣いた。

 

『あ、そうだ! アレ出来るよアレ、GV達がやってた瞬間移動!』

「瞬間移動ぉ?」

『きりんとGVが攻撃する時にやるヤツ! アレ結構便利だよ!』

「……マ?」

 

 そして生活の便利グッズぐらいのノリで、シアンは新技を習得していた。きりんが雷霆煉鎖、ガンヴォルトがライトニングアサルトと呼ぶ、自身の電子化とそれに伴う瞬間移動。

 本来これは蒼き雷霆(アームドブルー)の技だが、電子を遠隔で操るという点においては電子の謡精(サイバーディーヴァ)の方が特化した能力だ。電子の波を発し、探知した地点へ直接ワープ。シアンの能力の性質上、護符や避雷針(ダート)などのマーキングも必要とせず、呼吸するのと同じ様にそれを可能とする。

 ――もっとも。

 

「便利って、今までどんな時に使ったん?」

『えーと、きりんが忘れ物した時にパッと持ってきたりとか……カミオムが持ってきた動物のお肉を倉庫に運んだりとか……書類にも残せない伝言を裏八雲の里に伝える時とか?』

「…………パシリじゃね? それ」

『えー!? り、立派な仕事だよ!? 仕事、だよね!?』

 

 シアン本人に攻撃手段がある訳では無い為、きりんやガンヴォルトの様な用途は無い。第七波動(セブンス)能力としては破格の力でありながら、この技は本当に便利な移動手段でしかなかった。

 そもそも能力を普通に使うだけなら、電子の謡精(サイバーディーヴァ)は能力者本人がその場にいる必要も無い程の圧倒的な効果範囲がある。なのでわざわざ瞬間移動をする必要も無く、遠くから電子の波を飛ばせば大体の事は出来る。

 結果。制限無しの瞬間移動という恐ろしい技は、もっぱらきりんが仕事中不便と感じた時に使わされるのが常となりつつあった。無用の長物もいい所である。

 

『む、むー……! 確かに思い返したらパシリにされちゃってる気がする……! わたしの本業はアイドルなのにー!』

「あー、実際それ助かってるぜー? やっぱ可愛い広報役が居るってだけで、皇神(スメラギ)の評判大分良くなってんの。シアンちゃんが配信やった後はSNSも結構盛り上がるし」

『え、ホント? いやぁ、それほどでもー……あるよね!』

「すげえ、自己肯定感バリ高ぇー」

 

 が、シアンの治龍局での役割(しごと)は本来、龍放射の観測と治龍局の広告塔である。

 人間よりも歌って踊れるバーチャルアイドル・モルフォ。かつては国民的バーチャルアイドルとして親しまれていた程の愛嬌と地位を持っていただけに、半年前に彼女が消失した後の皇神(スメラギ)の一般人からの評判は”お固い大企業”という所にまで落ち込んだ。

 そこから半年ぶりの復帰記念として、シアンはひたすらイメージアップの為に昔の曲のリミックスやら新曲やらを続け様に発表。シアンが独立して動ける様になったのを良い事に、”モルフォ”が視聴者と交流出来るライブ配信用の皇神(スメラギ)公式チャンネルも設立。

 半年の空白は対外的には”高度な電子頭脳のアップデート期間”として発表しており、訝しむ声を押し流す勢いで皇神(スメラギ)公式チャンネルの登録者数は伸びていた。

 

『いやぁ、能力も抜きに人前で自由に歌って踊れるの、すっごく楽しくって! 昔は機械に繋がれて強制されたり、解放されてからは肉体(からだ)も失ったり……なんにも気にせず歌うだけなんて、今まで殆ど出来なかったから!』

「……GVもそうだけど、ちょっとした話の流れでさらりとヘヴィな事実が出てくるの、こっちの方が背筋サムくなるんよな……」

 

 うきうきという擬音が目に見えそうな程に次の配信日を楽しみにするシアンに対し、それに付随する地雷エピソードを垣間見たB.B.はちょっと引いた。

 ガンヴォルトと言い、なんでちょっとした雑談から厄ネタがこんな軽々と零れ出てくるのか。絶対に深堀り出来ないエピソードが雑談に混じる程に昔が酷かったのか。っていうか、ただ単に歌う事すら許されなかったのか。

 気を使うのは何故かいつもこちら側であるという状況に、B.B.はちょっと参っていた。

 

『――あっ、そうだ! BB、ちょっと思いついた事あるんだけど!』

「ん? なになに、急にアガってんじゃん。どしたんシアンちゃん」

『ほら、半年前に言ってた話あったでしょ。”死霊合唱団”について』

「おん? そいや、んな話もしてたっけ……してたわ。超イケてるってアガってたわあん時」

 

 話の最中、シアンが唐突に話題を切り替える。

 ”死霊合唱団”。それは昔のモルフォがB.B.の能力――死霊(ガイスト)と自分に共通点を見出した所から発想された、ぶっちゃけ与太話の一つである。

 B.B.の死霊(ガイスト)は霊魂のエネルギーを操る能力だが、それが本当の魂なのか、第七波動(セブンス)のエネルギー体なのかは本人すら分かっていないという極めて曖昧な能力だ。

 第七波動(セブンス)のエネルギー体という点で、電子の謡精(モルフォ)死霊(ガイスト)は類似の力である。その為、モルフォと同様にB.B.の死霊(ガイスト)も一緒になって歌えないだろうか。そんなアイデア。

 

「なっついなー。あん時は結局オレっち、死霊(あいつ)らに歌覚えさせんのムリでガン萎えしたっけ……んで? あん時のアレがどしたって?」

『もっかい! もう一回やってみようよ!』

「えー? もっかいっ()ったって、オレっちも前からそこまでレベルアップしたってワケじゃねーんだぜー? 今でも流石に出来るとは思えねーなぁ……」

『いいや、出来る! その為のわたし、その為の電子の謡精(サイバーディーヴァ)だよ!』

 

 B.B.の操る霊魂は意思疎通が不明瞭であり、歌という高度な行動を取らせる事は出来なかった。正確には声を出させる事は出来るのだが、”死霊”の名の通り地獄の亡者の様なうめき声を上げさせるのが限界である。

 一度は断念した考えなだけに、今のB.B.もそんな曲芸染みた芸当は不可能である。しかし、それがどうしたと言うのか。

 第七波動(セブンス)における不可能を可能にするのが、電子の謡精(サイバーディーヴァ)という能力なのだから。

 

『行くよ、BB! わたしの歌が、あなたの力になる!』

「お、おぉっ……!? なっ、なんかっ、スゲーバリバリ、キてる……!?」

『あなたの真の力――わたしが引き出すッ!』

「う……うぉおぉおぉッ――!!」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「――ただいま。シアン、BB、戻ったよ」

 

 治龍局のオフィスの扉を、研究部門より帰ってきたガンヴォルトが開く。

 ガンヴォルトの仕事は、以前治龍局に居た時より数段増えていた。単独行動・単独封印が出来る様になった事で、きりんが担わざるを得なかった優先暴龍案件の分担。龍封鍵・及び第八波動(エース)の身体となったガンヴォルトそのモノの研究解析。そして、常時人間形態となった事で回される様になった事務仕事。

 最後だけ何か方向性が違う仕事であったが、これも龍ではなく人として戻れた証拠である。きりんより渡される書類が気持ち多い様な気もするが、人間として仕事に励むのは良い気分だったので、ガンヴォルトとしては充実した日々を過ごせていた。

 

『あ、おかえりGVー』

「うん、ただいまシア――んっ?」

 

 丁度オフィスの入口近くを通っていたシアンがガンヴォルトを出迎える。それにガンヴォルトが笑顔で応えて――とんでもない違和感を感じた。

 オフィスの奥から、かなり大きな物音が聴こえる。しかしそれは決して耳障りなモノではなく、むしろ耳に優しい音色。そして、自分が何度と無く耳にしてきた調べ。

 ()()()()()()が、()()()()()()から聴こえてきていた。

 

「…………シアン?」

『なにー?』

「君は、シアンだよね?」

『何言ってるのGV、わたしが別人に見えるの? ……まさか、皇神(スメラギ)の人に変な研究でも受けさせられた!? それならきりんに言わないと!』

「いやいや、そんな事してないよ。健康診断(メディカルチェック)の範囲内だから安心して」

『それなら、良いんだけど』

 

 嫌な汗が流れてくる。目も耳も正常だ、思わず蒼き雷霆(アームドブルー)で自身の三半規管の異常を探ってみたが、全く問題は無いと断言出来る。

 目の前に居るのも間違いなくシアンだ、同位体である自分がその波動(けはい)を間違える事など目を瞑っても有り得ない。これもやっぱり断言出来る。

 その上で。オフィスの奥から断続的に聴こえてくるシアンの歌声。()()()()()()()と、ガンヴォルトは自信を持って言い切れる。

 どういう事なの。ガンヴォルトの脳内がハテナマークで埋め尽くされた。

 

『あ、そうだ! 聞いてよGV、わたし新技覚えたよ! 今練習してるトコなの!』

「し、新技……?」

『うん! ふふーん、ビックリすると思うよー!?』

 

 なんだか知らないが、物凄く嫌な予感がする。ガンヴォルトの心が、紫電やパンテーラを相手にした時よりも緊張し始めていた。

 生まれ直した事でシアンはあらゆる(くびき)から解き放たれた。誰かに縛られるでもなく、その身を狙われるでもなく、ガンヴォルト(じぶん)に宿り続ける必要も無くなった。それはガンヴォルトにとって、朗報中の朗報である。

 が、それはそれとして解き放たれ過ぎている。今まで抑圧されてきた影響からか、シアンは天真爛漫に自由を謳歌し、今では立派に曲者揃いの治龍局メンバーのノリに溶け込んでしまっている。

 別に大っぴらな問題行動は起こさないと信じているのだが、何をビックリさせる気なのか。ガンヴォルトは糸目になりながら、シアンに連れられオフィスの奥へと向かっていくと――

 

『――ほらBB! 指揮が乱れてる! ちゃんと拍子を意識して!』

『あー! アルトパート今ズレたでしょー! 引っ張られないでよー!』

『うーん、ハモリって難しいなぁ……ライブで合わせる事を考えるなら、これかなりみっちり練習しないとダメかも……』

「うおおおお! ムリ! オレっち音楽の成績そんな良くなかったから! シアンちゃんの要求レベルまでなってねーから! 聴き専なのオレっち!」

 

 ――()()()()()()()()()していた。そして何故かB.B.が必死に腕を振り、指揮者の真似事をしている。

 

「……シアン。えーと……これは、何?」

『よくぞ聞いてくれました! これはBBの死霊(ガイスト)にわたしの電子の謡精(サイバーディーヴァ)を合わせた合体技――名付けて、歌姫の奏列(ディーヴァプロセッション)だよ!』

「うん」

 

 そっかぁ。あまりにあんまりな光景に、ガンヴォルトの思考が完全に短絡化(ショート)した。

 

『いやぁ、昔してたでしょ、BBの第七波動(セブンス)で合唱団が出来ないかって! 今のわたしの(ちから)を合わせたら出来ないかなーって思ってやってみたら……なんか、こうなった!』

「うん」

 

 そっかぁ。説明されてもあんまりな光景に、ガンヴォルトの思考は麻痺したままだった。

 

『もーBB、ちゃんと指揮してよー! 分身したわたし達だって、こう見えてもあなたの能力の一部なんだから! わたし達の声の安定感は、あなたの実力次第なんだよ?』

『うーん、自分の歌声に合わせるのって難しいね。どうしても引っ張られちゃうなぁ』

『一旦パート勉強とかする? 声の音量とか見直さないと、これじゃ折角の歌がメチャクチャになっちゃうよー』

「……うん……」

 

 滅茶苦茶なのはこっちの気分の方だよ。ようやく思考停止(オーバーヒート)から回復したガンヴォルトが、分身しているシアン達同士のやり取りに対し、脳内でツッコミを入れた。

 とにかく、一から事態を脳内で整理する。シアンがB.B.と合体技――つまり、B.B.の能力を電子の謡精(サイバーディーヴァ)で増幅させた。その結果、強化された死霊(ガイスト)の力でシアンが増殖した。そして何故か、能力者本体のB.B.がシアンの増殖体に絶賛責められている。

 なんでそうなるの? やっぱりガンヴォルトの脳は混乱した。

 

『どう? これが上手くコントロール出来る様になれば、実質わたしがいっぱい増える事になるよ!』

「それは……確かに、凄いね」

 

 自分の大切な人がそっくりそのまま目の前で分身しているというトンチキな光景には一旦目を瞑り、ガンヴォルトはこの能力(わざ)について冷静な分析を始める。

 電子の謡精(サイバーディーヴァ)の多重分身。強力な能力者をそのまま増やすという、かつてパンテーラだけが可能とした技。ZEDΩ(ジエド).辺りからは危険性を忠告されるだろうし、乱用は間違いなく厳禁だろうが、適切に運用出来れば治龍局の大きな力となるだろう。

 何せ暴龍の完全制御が出来る能力は、今は鎖環(ギブス)蒼き雷霆(アームドブルー)電子の謡精(サイバーディーヴァ)のみ。更に電子の謡精(サイバーディーヴァ)は応用の幅が極めて広い能力であり、暴龍対策以外にも様々な活用法が見込める。

 

「分身を遠くにまで配置出来る様になれば、能力者鎮圧の為に皇神(スメラギ)が出張する件数も減らせるかもしれないし……うん、これは凄い能力(チカラ)だよ、シアン」

『へ、能力者の鎮圧? ……なんでそんな話になるの?』

「え? だって、あの分身達は皆同じ電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力があるんでしょ? なら能力者に対しても効果が――」

()()()?』

「――えっ」

 

 えっ? シアンの返答にガンヴォルトは、思わず口と頭で全く同じ単語を輪唱した。

 

『あの分身(わたし)達のベースはBBの死霊(ガイスト)だもん。BBが出来ない事は基本、分身(あのこ)達も出来ないよ。当たり前でしょ』

「……BBが出来る事と、同じ事しか出来ないの?」

『うん』

「……じゃあ何の為に分身するの?」

『そんなの、歌う為以外にあるの?』

「…………」

 

 そっかぁ。ガンヴォルトの三度目の感想は、言葉すら失われた。

 能力者二人がかり、しかも電子の謡精(サイバーディーヴァ)で能力を増幅してまでやる事が、歌う人数を増やすだけ。それはガンヴォルトには決して思いつけない、ある種シアンらしい牧歌的な技だった。

 

「じ、GV、ヘルプミーッ! シアンちゃん達が厳しーんよー! オレっちが頑張って能力を制御しないと、声がブレちゃうとかさー! 無言で動いてくれるいつもの霊魂(みんな)が恋しくなっちゃうぜ!」

『ちょっとBB、そんな言い方は無いでしょー!? 前はわたしの事、”ぷりちー”って言ってたのにー!』

「ギャー! 過去のオレっちの引用(リポスト)はズルってモンだぜ、シアンちゃん!」

「……う、うーん……」

 

 増幅された影響なのか、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の方が強い能力だからか、能力者本体であるB.B.が自我を持ってしまった分身達に(なじ)られている様子を見て、ガンヴォルトは渋い顔になる。

 毒にも薬にもならないとはこういう事なのだろうか。強力な能力を操り切れずに持て余すというケースは能力者にはままある事だが、その中身が”歌の指揮が上手く取れない”という事案は恐らくこれが世界初だろう。そして二件目も間違いなく起こり得ない。

 

「……とりあえず、静かにしよっか皆。他のオフィスにまで声が響いたら迷惑だから」

『『『はーい』』』

 

 ひとまずガンヴォルトは、”うるさい”というこの技最大の問題を攻略した。

 

  ◆  ◆  ◆

 

『ねーGV、聴いて聴いて! BBのおかげで、昔の曲のデュエット版が歌える様になったの! これ、次の新曲発表や復刻アルバムに出しても良いよねっ! ねっ!』

『よーしBB! 最後の仕上げだよ! このままスタジオで収録しちゃおー!』

「お、おぉぅ……ちょ、メンゴ、ちょい休ませて……歌の指揮ってこんな神経使うのな……世のアーティストにガチリスペクトだわ……」

「……頑張りすぎないようにね、シアン」

 

 その後、二体までなら分身の音程(うた)を安定させられる様になったB.B.が、たまに収録スタジオに連行される事があったが、それはまた別の話である。

 




独り寂しくハミングでも――なんか増えてる……

トライアングルエディション発売決定記念として、ちょっとだけ小話を投稿する事にしました。
第七波動(セブンス)なんてしょうもない事に使うぐらいがこの世の中は平和で良いと思います。
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