蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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・戦士たちの寄辺

「うむ、GV! せっかくだ、立ち合いをしないか!?」

「…………カミオム、今なんて?」

「立ち合いだ! ……あぁ、”喧嘩”とは違うから安心しろ!」

「いや、なんで?」

 

 ガンヴォルトが書類仕事を終えて一息ついた所で、カミオムが声をかけてくる。

 立ち合い。即ち武道的な試合の事である。当然だが、ガンヴォルトはカミオムに対し喧嘩を売られる様な事はした覚えが無い。メビウスに誓っても良い。

 なんで急にそんな話が湧いて出てきたのか。あまりの急展開に、ガンヴォルトの理解は及ぶ事無くあっさりと屈した。

 

「実は前々から思っていたのだ……GV。お前は何か、武道をやっているのではないのか?」

「……驚いたな。ボク自身も忘れそうなぐらい昔だけど、確かに学んでた事があるよ」

 

 カミオムの指摘に、ガンヴォルトは自分自身の事ながら驚いてしまう。

 かつてガンヴォルトは皇神(スメラギ)の実験体の身から救出されてフェザーに所属し始めた時より、育ての親となったアシモフから第七波動(セブンス)能力の訓練と並行し、任務に必要な技能を教えられたという経緯を持つ。

 そしてその中には、第七波動(セブンス)に頼らず戦う為の徒手空拳・体術も含まれていた。

 

「どうして分かったんだい? ボクの普段の仕事の中では、全然そんな様子を見せていないと思うんだけど……」

「その位、筋肉の付き方を注視すればわかる。整った筋肉は、整った武芸の中でしか付かん」

「……そうなの?」

「オレの目に間違いは無い。こうして人となった姿と対面すれば良く視えてくる、お前はきりんやレクサスにも劣らない筋肉(わざ)がある」

「何故だろう、今物凄く言葉と乖離したイントネーションが含まれていた気がする」

 

 カミオムの筋肉式超理論による飛躍した正答に対し、ガンヴォルトは人の直観とは時に百の研究を超える物があるのかもしれない、と一瞬現実逃避じみた感想を抱いてしまった。

 ガンヴォルトが治龍局に就き始めた頃は、基本的に封印された犬モードで過ごしていた。任務中にはきりんの意志で人型モードとなる事もあったが、その時も基本的に蒼き雷霆(アームドブルー)応用した能力(ヴォルティックアーツ)を主として戦っている。

 犬・オア・能力。殆どそのどちらかしか見せていない状態の頃から、カミオムは垣間見える筋肉の輝き――即ち、武芸者としての気配を感じ取っていた。もはや第六感の域である。

 

「きりんは剣士だ、張り合うには獲物の差がある。レクサスは恐らく実戦兵法なのもあるが、性格的に喧嘩(タイマン)を受けてくれん。そうなるとGV、お前こそがオレと肩を並ばせる好敵手(ライバル)である可能性がある」

「その可能性は絶対に無いから安心して欲しいかな」

「その可能性を捨て切れんから立ち合いを申し込んでいるのだ」

「カミオム、君は会話からも相手を逃さない能力者なのかい?」

 

 カミオムの能力に囲まれた様な錯覚をガンヴォルトは覚えた。当然だがそんな第七波動(セブンス)反応は検出されていない。この会話は純粋なカミオム天然百パーセント配合である。

 正々堂々・一対一の状態を生み出す喧嘩上等(タイマン)第七波動(セブンス)は、大別的には拘束系の能力だ。直接的な被害を能力の範囲外に及ぼす事無く、対面する相手をその場に留める。本人の脳筋っぷりに反し、極めて鎮圧部隊向きの力。

 本人の性格的にはもっと攻撃的な第七波動(セブンス)になりそうなモノなのだが。そう思っていたガンヴォルトは、この一連の会話でカミオムが間違いなく拘束系の能力者である事を確信した。

 

「で、だ。どうだ、一本?」

「ジュース感覚で試合を申し込まれても困るよ……そもそも、殴り合いなんて何処でするつもりなのさ。まさか皇神(スメラギ)の研究部門の能力観測室でもわざわざ借りるつもりかい?」

「いや、その必要は無い。……シアン、居るか?」

『ん? なにー、カミオムー?』

 

 しゅん、とシアンがその場にワープで現れる。その両手にはレクサスに対抗して現在淹れる練習をしているコーヒーが二杯握られていた。

 第七波動(セブンス)の肉体でありながら、今のシアンは生きた人間同様に物体に干渉していた。これはガンヴォルトの使う電磁浮遊の様に、優れた電子操作能力によって念動力(サイコキネシス)めいた挙動を行っているからである。

 シアンとして生きていた頃にも、モルフォが物質に干渉する障壁(バリア)を展開した事があるが、今している事はそれを極めた応用技と言える。やっている事はお茶汲みでしか無いのだが。

 

「前にオレと共に試したあの技があるだろう。アレを屋上でやってくれないだろうか」

『あぁ、あの合体技? 別に良いけど、なんで?』

「雷撃などに頼らぬ、GVが持つ真の武技。……それを見たいとは思わないか」

『み、見たい……!』

「シアン???」

 

 おっと風向きが変わった。カミオムの言葉に乗せられるシアンを見て、ガンヴォルトは逆風を感じた。

 というか、また合体技を編み出していたのか。なんか復活してから自分の知らない所で治龍局の面々に力を貸しているという事実に対し、ガンヴォルトはちょっとだけ寂しい思いを抱いた。

 シアンが自分の意志で力を貸すという状況は、これまで基本的に自分の蒼き雷霆(アームドブルー)への強化ばかりだった。なので別に独占欲がある訳では無いのだが、なんかこう、変なモヤっとした違和感が拭い切れない。

 

「……シアン、カミオムとの合体技って、今度はどんな技なの?」

『我ながらすごく便利な技だと思ってるよ! 任務の時でも使えるんじゃないかなって思ってるぐらい!』

「うむ。今度きりんにも確認してもらい、使用の許可を取ろうと思っている」

「二人とも、大分自信アリだね。……見るのが少し楽しみかもしれない」

『でしょでしょ! しっかり見せてあげるから、来てGV!』

「あっ、しまっ――」

 

 ガンヴォルトの言葉を受けて喜色を浮かべたシアンが、一足先に屋上へと翔ぶ。

 しまった。完全に興味が出て、最後の一押しの様な形になってしまった。ここに来てガンヴォルトは己の思慮の甘さと迂闊さを思い知る羽目となった。

 今更あんな楽しそうにしているシアンの期待を裏切る事は出来ない。そしてどういう技か知らないが、その”合体技”はカミオムが要求したモノであり、使われてしまえば十中八九立ち合いから逃れる事は出来ないだろう。

 逃走不能。別に何も悪い事してないのに、今ガンヴォルトは囚われの身だった時の気分を思い出していた。

 

「よし、征くぞGV! いざ、我らの決闘の場へ!」

「…………うん」

 

 もうどうにでもなれ。世界最強の能力者は、人生史上最もなげやりな気分で戦いに臨む事にした。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「よーし、ここが中心点だな。シアン、あの技を使うぞ!」

『オッケー任せて! わたしの歌を聴けー!』

「うおおおおッ!!」

 

 皇神(スメラギ)ビル屋上、その中央に立ったカミオムに対し、シアンが電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力を行使する。

 そして自分自身が増幅される感覚に合わせ、カミオムが能力を発動。変身をしていないにも関わらず、それを超える程の圧倒的な第七波動(セブンス)の奔流が周囲へと広がっていく。

 そうして放たれた光がビルの屋上をどんどんと包み込んでいき――ぴたりと、屋上の縁で留まった。

 

「……これが、合体技?」

『そうだよー!』

「うむっ、成功だな!」

「……いつもの力場と何が違うんだい?」

 

 ガンヴォルトが訝しむ。今の状況は、カミオムから放たれた光の壁がビルの屋上全体を覆い、縁に合わせて四角柱の様に固められたという形である。

 カミオムの発する能力は地形や自身の周辺に、逃げられない力場を展開するというモノ。今使われた”新技”は、一目見るだけではハッキリ言って同じ様にしか見えない。

 が、二人の喜ぶ様子を見れば、その見立てが違うだろう事は間違いなかった。

 

「GV。試しにで良い、床に雷撃を撃ってみてくれないか」

「え゛。い、嫌だよ、物を壊したらきりんやレクサスに怒られるし……」

『大丈夫大丈夫! 良いからやってみて!』

「……う、うん……」

 

 自信満々で前方腕組み状態のカミオムとシアンに、ガンヴォルトは気圧される。

 カミオムの能力はあくまで相手の退路を塞いだり、自分の方へ吸い寄せたりする力場を作るだけである。なので能力者を逃さない事は出来るが、非生物の物質はその対象外にある。

 つまり、カミオムの能力範囲で戦闘すると物的な損害が普通に出る。なのでガンヴォルトはやれと言われても躊躇しているのだが、二人は全く問題無いといった風に構えている。両腕を。

 そこまで言うなら、まぁ、ちょっとぐらいなら。そう思いガンヴォルトは手加減に加減を重ね、床の表面だけを焦がす程度の雷撃を左手から放ち――

 

「あれっ?」

 

 落とした雷撃が、()()した。

 

「……もうちょっと強めでも良い?」

「応! 本当の本気で無ければ問題無いだろう!」

『ふふん、わたし達のチカラ、とくとご覧あれ!』

 

 なんとなく技の効果を察したガンヴォルトは、今度は明確に床を割るレベルの雷撃を放つ。

 しかし同様に、雷撃はコンクリートの床に弾かれ空気へと散っていった。

 

「……バリア、なの?」

『ご明察! カミオムが生んだ力場にわたしの電子障壁(サイバーフィールド)を合わせた事で、範囲内を完全にバリアで保護する技だよ!』

「うむ! コレは凄いぞ、何せオレが変身して本気で殴っても、ガラス一枚割れん程に強固だ!」

 

 本当に凄い技だった。ガンヴォルトは思わず言葉を失った。

 カミオムの喧嘩上等(タイマン)は相手の逃げ道を塞ぐだけの力場を生み出すモノである。その力場その物にシアンの電子障壁の力を与えた事で、カミオムが発した波動を受けた物を保護するという、全く別種の形態が生まれた。

 ガンヴォルトの雷撃や皇神(スメラギ)の変身能力者の攻撃でも揺るがない堅固なバリアを、逃げる事が出来ない領域(エリア)全体に付与する。”合体技”の名に恥じない、どう考えても有用な技だ。

 

「これで多少の無理をしても、周りには傷一つ付かん! さぁ()るぞ!」

「でもカミオム、流石にこんな強度のバリアを貼られたら、ボクでもかなり能力(ちから)を出さないと対抗出来ないよ」

「? ……勘違いしている様だがGV、オレにバリアなどという無粋なモノは無いぞ?」

「えっ」

 

 ――と思ったが、この技には割と致命的な欠陥があった。

 

『あー、GV。これもあくまでカミオムの能力の延長でね、”範囲内の物質()()を防ぐバリア”って感じなの。喧嘩上等(タイマン)は別にカミオム本人の力を上げる能力じゃないから……』

「漢と漢、一対一の喧嘩に隔たりなど無い! オレの真の力は、あくまでこの拳だッ!」

「……らしいと言えば、らしいけど……」

 

 この技は喧嘩上等(タイマン)の退路を塞ぐ作用を拡張した物であり、それ以上では無い。

 望んだ相手と一対一に持ち込み、物が破壊されるなどの心配をせずに戦い合うだけ。能力者(カミオム)本人は一切恩恵を受けられない、世の能力者が聞けば勿体無さの塊の様な技だった。

 自分は守らず、周囲だけを守る。雷撃鱗や電磁結界(カゲロウ)など、様々な防御手段で自衛するガンヴォルトの力とは真逆のアプローチとも言える。

 

「よし、GV! ではまずは、能力や変身抜きの組み合いと行こうか!」

「いやちょっと、周りが安全なのは良いけど。それでも石の床の上は危ないって」

『あ、大丈夫だよ。このバリア、上手いこと調節して畳ぐらいの反発力にしてあるから』

「……ホントだ、全然固くない。え、物凄く器用に調節したね?」

『気配りが出来るオンナって呼んでね!』

 

 気配りの方向性と能力の用途がとんでもなくおかしい。足から伝わるコンクリートに張られたバリアの絶妙な柔らかさに、ガンヴォルトはそう思った。

 全力の電子の謡精(サイバーディーヴァ)ってなんでも出来るんだなぁ。そう蒼き雷霆(アームドブルー)は自分の事を完全に棚上げし、そして逃げる言い訳が完全に閉ざされている事に気付いた。

 ビルの屋上全体は生半可な事では破壊出来ないバリアで保護されている。屋上の縁にまで張られている事から、落下の危険も無い。強い勢いで石床に叩き付けられても、畳やマット程度の痛みで済む。

 ダメだ、一分の隙も無い。”領域”の名に恥じない、安全性が保証され過ぎたこの空間より、ガンヴォルトは抜け出す口車を思い付けなかった。シアンも目をキラキラさせて待っているし。

 

「……はぁ。わかったよ、たまにはまともな運動をするのも悪くないからね。色々と鈍ってると思うから、手加減はして欲しいんだけど」

「大丈夫だ、オレの筋肉は全てを受け容れる! 安心してぶつかって来ると良い!」

「出来る事ならボクの言葉も受け容れて欲しかったかな」

『GV、ファイトー!』

 

  ◆  ◆  ◆

 

 ――かつての中国において。河川とは、龍に喩えられた事があるという。

 氾濫する大河は、多くの村を滅ぼす龍のうねりの如く。静かな大河は、あらゆる全てを優しく受け入れ人の助けとなる。だから治水を為した者が国を治めるに足る王と認められた。水流を制する事は、龍を治める事と同義である。

 その事をカミオムは知識では知らない。しかし、身体で感じ取っていた。水とは龍であり、龍とは水なのだと。

 

「凄いね、捌くので手一杯だ。やっぱりパワーなら全然歯が立たないや」

「ぐうッ……!」

 

 既にカミオムは変身しており、ガンヴォルトに対し全力で殴りかかっていた。そうしなければならなかった。

 全力で腕を振り抜けば、いつの間にか添えられていた掌で軌道を変えられる。両手の拳で乱打の壁を作れど、左右の最低限の体捌きで躱されて、生まれた僅かな隙間を縫って振るう腕の内側へと潜り込まれてしまう。

 それを拒もうと右脚を振り回す。しかし相手の胴を狙った筈の蹴りは虚空を切り、狙った相手は羽が舞う様に脚の上をふわりと飛んでいた。

 ならば。背中を向けて振り抜いた右脚を地に打ち込み、楔とした反動で左脚を槍の様に突き出す。空中にいるのなら、蹴りを躱せる筈も無い。

 

「……ううん。流石にこれは、流すのが難しいね。電磁結界(カゲロウ)に頼ってたツケかな、動きの組み立てが良くなかった」

「なん……だと……!?」

 

 完全に捉えて蹴り抜いた筈が、感触が軽い。振り向いて左脚の先を見る。

 カミオムの左脚裏に、ガンヴォルトが両掌で()()()()()いた。

 

「ごめんカミオム、少し能力を使っちゃった。そっちも変身してるから、これぐらいは許して欲しいな」

「……ッ」

 

 パリパリと、ガンヴォルトが張り付く左脚から微細な電気の刺激が伝わってくる。ガンヴォルトが乗っている筈の左脚からは、殆ど重みを感じられない。

 恐らく電磁場の斥力をクッションとし、左脚の勢いを殺しつつ磁力で張り付いているのだろう。ガンヴォルトの力ならば電磁結界(カゲロウ)を使うどころか反撃も出来るだろうに、最低限の防御で済ませている。

 明確な手加減だ。殆ど体術の延長だけで、カミオムが誇る力は全て水の如く受け流されてしまっていた。

 

『わーGV、すっごい! プロの格闘家みたい!』

「躱すのに専念してるからなんとかなってるだけで、反撃が出来ないから勝負になってないよ。雷撃を使ってないだけで、身体強化はしてるし」

 

 どの口が言う。カミオムは思わずそう言いそうになった。

 パーリング・ブロッキング・スウェー・ダッキング・ウェービング。あらゆる体捌きを用いて、ガンヴォルトはカミオムの攻撃を捌いている。能力による強化があると言っても、洗練された動きは嘘をつかない。

 これは、”技”だ。力ばかりが先行している自分が持ち合わせていない、正しい型と実践の反復でしか培われないだろう、達人(マスター)の動き。

 ここまでの手合わせの中、ガンヴォルトは息一つ乱していない。その揺るぎなき存在感は、まさしく龍の如し。思わずカミオムは歯噛みした。

 

「くっ……まさか、これ程とは……! やはり、オレの目に狂いは無かったか……!」

「こんなので満足して貰えたなら良いんだけど……ボクは能力で動きを誤魔化してるから、気にしないで良いよ?」

「いいや! オレ達は互いに身一つで勝負している、そしてオレの拳がお前を捉えられない事は揺るがない真実だ! 武において最も肝要な心・技・体……オレの拳には、まだ足りていないモノだ……!」

「ボクはカミオムの力が足りていないと思った事は一度も無いんだけど」

 

 ガンヴォルトの人型モードのリハビリとして能力抜きで格闘した後、少しずつ興が乗ったカミオムはギアを上げてゆき、途中から能力と変身を解禁してほぼ実践形式の試合を求めた。

 流れと雰囲気でなんとなく決まった暗黙のルールとして、雷撃などの遠隔攻撃は無し。蒼き雷霆(アームドブルー)による肉体強化有りの、総合格闘技(バーリトゥード)という形式。

 が、ガンヴォルト自身も想定外な事に、身体強化の幅が昔よりも上がっていた。恐らく第八波動(エース)を宿した事による影響だろう、無意識に五体・五感が異様な動きをする。

 文字通り動きが止まって見える動体視力。電子の揺らぎで先読みする様に回避行動に入る身体。雷撃鱗程では無いが、相手の攻撃の勢いを反射的に軽減する電磁場。

 うろ覚えだったマーシャルアーツの体捌きを超一流にまで引き上げるそれらは、ガンヴォルト本人からしてズルなのではないかと思わせる物だった。

 

「やはり拳を交えなければ分からない事がある……感謝するぞGV、これ程の武を魅せつけてくれた事をッ!」

「まぁうん、ボクも久々に立ち回りを見直す良い練習にはなったから良いんだけど……ホントに良かったのかなぁ、これで」

『カッコよかったよー、GV!』

 

 カミオムは己の完膚なきまでの敗北を悟り、変身と能力を解除する。なんか勝った気がしないガンヴォルトは釈然としていなかったが、まぁシアンも満足してるみたいだし別に良いかなと思った。

 実際、ガンヴォルトの体術はフェザーに居た時に比べれば格段に雑になってしまっている。封印されていた期間で記憶が衰えているのか、頭の何処かで能力頼みになっているのか。動体視力で相手の動きを見切っていても、回避の流れに反撃を組み込めない詰めの甘さがあった。

 もう犬になる必要も無いし、本気で人間として鍛え直さないといけないかもしれない。その事に向き合えたのは、ガンヴォルトにとってもプラスだった。

 

「しかし、見た事も無い構えが随所に見られたが……その武術、どういった名なのだ?」

「ちゃんとした名前は無いよ、ボクを鍛えた人が考えたオリジナルのマーシャルアーツだから。一応、日本のどこかの空手形をベースにしたらしい、んだけど……」

「ふむ、空手か。どんな名前の流派なのだ?」

「……ごめん、覚えてないな」

 

 カミオムから質問されるも、ガンヴォルトは答えに詰まり渋い顔を浮かべた。

 ガンヴォルトが覚えた体術はアシモフ仕込みの格闘技である事は覚えているのだが、詳細を思い出すには流石に記憶(かこ)が遠すぎる。自分の動きすら曖昧になっていた今では、細かい所まで記憶が及んでいない。

 思わず蒼き雷霆(アームドブルー)で脳細胞を刺激して頑張って過去を思い出そうと試してみたが、いかに最強の能力でも無理な事はあった。というかこういう所でも能力頼みになっている事を自覚してしまった。

 

「シアンは覚えてる? 昔、シアンから同じ事を質問された様な気がするんだけど」

『……あー……そういえば確かに、GVから聞いた、ような……?』

「何! どんな名前なのだ、教えてくれ!」

『ぅえっ!? え、えと、えーっと……?』

 

 僅かに過った記憶の断片から、ガンヴォルトはシアンに話を振る。

 ガンヴォルトのうろ覚えの記憶が正しければ、シアンと一緒に住んでいた頃に似た様な話で盛り上がった事がある。そして長い間封印されていたガンヴォルトより、可能性世界から現代にやってきた分シアンの方が相対的に過去を覚えている筈だ。

 実際、シアンにもそんな事を話した様な記憶はある。しかしちょっとした日常の小話程度のそれは、ガンヴォルト同様に殆どうろ覚えの事だった。両手の人差し指を側頭部に当て、云々と唸る。

 

『なんだっけ……確か、チャ……チャー……』

 

  ◆  ◆  ◆

 

「ししょー! 今日もごはん作ってくれたのー!?」

「うむ! 今日もチャーハンだ! 漢の身体作りにはコレだからな!」

「……ねぇシアン。やっぱり間違ってないかな、”チャーハンヤタラクウ”って」

『うーん……でもなんかそんな感じの名前だったよ、たぶん?』

 

 その後暫くの間、うろ覚えの過去が招いてしまった美味しいチャーハンが、治龍局の毎日の昼食となった。

 




謡精領域開場(わたしのうたをきけッ!)】――
カミオムとシアンの合体技。喧嘩領域展開(タイマンはらせてもらうッ!)で指定した相手を逃がさず、それ以外の周囲全てを保護する特殊な力場を展開する。
物理的な干渉を受けないシアンを対象に指定する事で、崩落しそうになっている建物や、中にいる人間だけを保護するという抜け道的な応用が可能。
「火事に巻き込まれてもうダメかと思った時、救助の声と共にモルフォの歌が聴こえてきた」と、モルフォ・皇神(スメラギ)両方のイメージアップに繋がった。

「チャタンヤラクーシャンク」なんて演武覚えてるワケ無いだろいい加減にしろ!
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