蒼き雷霆ガンヴォルト 環解   作:灰の熊猫

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・硝子の楽園

「……ねえ、GV。ちょっと聞きたいんだけど……これ、悪夢?」

「あー……きりん。悪い夢じゃあないんだけど……夢ではあるよ」

 

 ある日、きりんはいつもの様にガンヴォルトと共に夜の街に立っていた。

 ……いつかの様に、()()姿()をしたガンヴォルトと。

 

「よし、自覚あるんなら話は早いわ。どういう事よ、キリキリ吐きなさい」

「ま、待ってきりん! 首! 首根っこ掴むのはやめて! 締まるから!」

 

 思い立ったが即行動。何か知っているらしい、かつて犬だった――たった今何故か犬に戻っている相棒の首の後ろをきりんは掴み、その小さな体をぶらぶらと振り揺らす。

 ガンヴォルトはメビウスの力により、安定した状態のまま人として帰ってきた。きりんの記憶はその事実を間違いなく覚えている。そしてそれ以前の昔の事を夢に見ているにしては、肌を撫ぜる空気までを意識して感じられる程に現実感があり、それを”違和感”と自覚出来ている。

 ただ自分が明晰夢を見ている可能性もある。しかし何にせよ、ガンヴォルトが”知っている”と言うのならばさっさと話を聞けば分かる事だ。

 

「きりんは、寝る前の事を覚えてないんだね?」

「え? うん」

「一言で言うと、これはシロンとシアンがきりんの為にやってる事だよ」

「……どういう事?」

 

 きりんはぺいっと蒼い犬を地面に放り投げ、ガンヴォルトはくるりと小さな身を翻し着地する。

 寝る前の事。きりんは頭を捻るも、どうにもハッキリ思い出せない。いつも通りであれば治龍局のオフィスで寝た筈だが、その”いつも通り”という記憶すら今はモヤっとしている。

 頭に靄がかかって、イマイチ巡りが働かない。どうにもふわふわした感覚だ。

 

『――ふっふーん! この感じだと、完全に()()()みたいだね、きりんちゃん!』

「……シロン? え、どこ?」

 

 そんな時、()()()()()()からシロンの声が聴こえてくる。姿も何も無い、通信機も何故か持っていない。なのに、シロンのやけに喜んだ声はクリアに受け取れていた。

 夢。犬になったガンヴォルト。姿が見えないシロンの声。シロンとシアン。点と点が揃っていき、揃うだけ揃って点同士が繋がらない。

 どういうことなのコレ。きりんは頭をからっぽにして、シロンの声がする夜空を見上げた。

 

『これぞぼくとシアンちゃんによる新技、”夢幻門(ドリームゲート)”! 増幅させたぼくの力で、ぼくが考えた通りの夢を相手に見せる、って技だよ!』

「……つまり、また何か変な事考えたってワケね。っていうか、なんで実験台がよりによってわたしなのよ。仲間に幻覚見せてどうすんのよ」

「きりん、これは普通の幻覚能力とはちょっと違うんだ。さっき言ったよね、”きりんの為”って」

 

 夢幻門(ドリームゲート)。きりんが現在進行形で喰らっているのは、シロンの超速演算(オーバークロック)第七波動(セブンス)電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力により拡張された、そんな技であった。

 完全に現実としか感じられない幻覚。頬をつねっても普通に痛覚はあるし、自分が夢から覚める感じは無い。喰らった時の記憶も思い出せない辺り、例によってかなりヤバい感じの技である。

 が、目の前の犬公(あいぼう)曰く、これは自分の為に使われた能力らしい。その真意を聞く為、きりんは一旦静かにシロンの説明を待つ事にした。

 

『きりんちゃん、最近――っていうか、半年以上もずっと戦い詰めで疲れてたよね。ことあるごとに、だありゃーっ! とか叫んでたし』

「まぁ、それはそうだけど……叫んでたのはただストレス発散の勢いで仕事しようとしてただけで、そこまで心配される事じゃないわよ」

「きりん、それが疲れてるって言うんだよ」

 

 ガンヴォルトの帰還まで約半年間、きりんは唯一の暴龍の封印担当者として奔走していた。制圧こそ他のメンバーに任せる事が出来たが、暴龍から人に戻す作業だけは必ずきりんが手づから能力を使う必要がある。

 暴龍能力者の暴走を止めるだけでも一苦労な為、きりんが単独で出撃する任務も決して少なくなかった。戦巫女として鍛えられたきりんのタフっぷりがなければ、余裕で過労でダウンしていた事は想像に難く無い。

 こんな事を続けていてはいずれダメになる。治龍局メンバーはこれまで常にそう考え、しかし何も出来ずにいた。

 ――だが、今は違う。

 

『レム睡眠とノンレム睡眠ってあるよね? 夢を見る眠りと、見ないで熟睡するの』

「そうね。……じゃあ今のわたし、熟睡出来てないって事? 昼寝中?」

『ううん! 夢幻門(ドリームゲート)は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が出来るんだ! だから現実のきりんちゃんは、ぐっすりスヤスヤだよ!』

「……それ、本当にノンレム睡眠って言えるの? 脳の機能に思いっきり喧嘩売ってるじゃない」

 

 夢幻門(ドリームゲート)の真価は、幻覚の夢を見せるなどシンプルな効果(ちから)ではない。電子の謡精(サイバーディーヴァ)の感応波を用いて相手を熟睡状態にまで落とし、その上でシロンの想像したイメージを擬似的な明晰夢として与える。つまり完全催眠ならぬ、完全睡眠の幻覚能力なのだ。

 が、それは本当に脳に安らぎを与えているのだろうか。夢というのは脳の機能の一つであり、夢を見させている時点で脳に負担をかけている事にならないのか。

 普通の能力ならばそうなる。だが生憎、今のシロンには普通を超越した手助けがあった。

 

「きりん、これはボクのABスピリットを参考にした上での応用でね。今見てるこの情景は、脳じゃなく()()()()されているんだよ」

「はぁ? 魂への投映って……脳で見るのと、違うの?」

『全然違うよー! 集合無意識とか、そういう理論があるでしょ? まぁぼくにはよくわかんないけど……とにかく、人の思考よりも更に深い不可侵の領域に、きりんちゃんは今いるんだよ! すごいでしょー!』

「現実感がありすぎて逆に現実感が無いわ」

 

 割ととんでもない説明を、きりんはドバッサリ一刀両断した。

 ABスピリット、ガンヴォルトが死後に残した魂の欠片。その存在は、”魂”と言える何か(スピリット)は人の内に実在しており、そして能力により干渉が出来るという事の証明である。

 自らの魂を分割・運用出来るようになったガンヴォルトの経験を活かし、シロンは肉体を超えた領域に自分の能力を届かせられないか。その考えから、ガンヴォルトと同じ体験をしているシアンの力を借り、そして見事実現させた。

 間違いなく能力研究の歴史に残る、凄まじい偉業。しかし実際その恩恵を受けているきりんには、現実っぽすぎて凄さが伝わっていない。高度な科学が魔法と見分けがつかない様に、高位過ぎる能力は日常と区別が出来ない代物であった。

 

「気持ちはありがたいんだけど……休ませてくれるんなら、別にそのままぐっすり寝させてくれてもいいじゃない。なんでわざわざ夢なんか見せてんの?」

『ふふーん! それはね、コレは()()()だからだよ!』

「ゲームぅ?」

『この夢は”きりんちゃんが超パワーを得た”っていう設定で世界(ステージ)を造ってあるの! その力で、いつもなら出来ないぐらいの大立ち回りが出来るんだ!』

 

 そうシロンが言うと、夜の街の奥からワラワラと皇神(スメラギ)製の人型ガードロボがやってくる。その数は悠に十を超えており、いかにきりんと言えど手間取る規模。

 その手の砲塔は既にきりんを狙っており、露骨なまでの敵意を見せてゆっくりと迫ってきている。普通であれば考えるだけでも億劫になる様な、そんな状況。

 

『今のきりんちゃんは昔みたいに、しかも疲れ知らずに雷霆煉鎖が使える! それ以外にも、きりんちゃんがイメージした攻撃は大体そのまま叶っちゃうぐらいの、まさしく夢の力を振るう事が出来る! その力で、いつも溜めてる鬱憤を晴らしちゃってー!』

「……ねえ、コレ夢の中でまで仕事してるだけなんじゃないの? ホントにわたしの為になる、コレ? あれ全部制圧するの、普通に手間だと思うんだけど?」

「きりん。少し言いにくいんだけど、この夢はきりんの魂――無意識下における願望が反映される場所でもあるんだ。つまり、あれを倒していくのはきりんの望みの一部でもあるんだよ」

「えぇ……わたしって、魂レベルで暴れたがってるの? 知りたくなかったわ、そんな自分の本心(こころ)……」

 

 かつてきりんがZEDΩ(ジエド).やメビウスにすら対抗出来たのは、ガンヴォルトのアシストがあったからであり、今のきりん単独では昔使っていた力――雷霆煉鎖やイマージュパルスの行使が出来ない。

 しかし今この夢の世界においてきりんはその時以上の力を持つ、とシロンは設定していた。その圧倒的な暴力(パワー)で自分が作った夢の世界(ゲーム)を破壊する様に戦い、ストレスを発散する。

 体は深く熟睡する中、魂は思う存分暴れてスッキリ。隠れた願望を思う存分叶えながらも心身をリフレッシュする。それが夢幻門(ドリームゲート)の最大の真価であった。

 

『まぁまぁ、とにかく物は試しって事で! まずはあれ全部、バーッとぶっ壊しちゃおー!』

「あのねぇ、いくら雷霆煉鎖が自由に使えるからって、護符の狙い定めるの、結構難しいのよ? あんな数、いちいち札当てていくのも――」

「面倒、でしょ? なら、”()()()()()()”って思いながら札投げてみたらどう、きりん?」

「えぇ? ……えーと……こんにゃろっ!!」

 

 ガンヴォルトに言われた通り考えながら、きりんはヤケクソ気味に札を投げつける。

 次の瞬間、()()()()した。

 

「は?」

 

 数え切れない程に分裂した無数の札が、十を超えるロボ達へ吸い寄せられる様なカーブ軌道を描き、一つの漏れもなく必中・封印の力を発揮する。

 結果。一投にして、()()()()()()()()()された。

 

「は??」

 

 激しく困惑しながらも、きりんはそれまでの戦闘経験のままに抜刀。条件反射的に雷霆煉鎖を発動する。

 

「くっだけ、散れぇーっ!!」

 

 瞬時、まるでバターを割く様な軽すぎる感覚で剣が振るわれ。

 刹那にしてその場に集まっていたロボ達は瓦礫と化していた。

 

「……は???」

 

 下手人たるきりんは、剣を振り抜いた姿勢のまま瓦礫の中心で立ち尽くす。

 手応えが全く無かった。自分が考えた通りの動きが、自分の考えを超越する程の力で振るわれた。さっきまで多少は苦戦すると思っていた筈の状況が、二拍で終焉してしまっている。

 今のきりんの姿を見れば、コンピューターゲームを知る者なら誰もがこう思うだろう。反則(チート)だ、と。

 

『どうどう!? 爽快でしょ、この力!』

「……いや、まぁ……スカッとした、けど」

 

 超越的な力、破壊の余韻。苦境を特に苦せず乗り越える、成功体験感。

 辺り一面に転がる自分の戦果がそれを確かな実感とする。現実では味わえないまさに夢の力に、確かにきりんはスッとした感覚を覚えた。

 

『イマージュパルスの力も使い放題、願えばなんでも叶う夢の戦場(ステージ)! さぁきりんちゃん、世界で一番現実感のある無双ゲーを楽しんでいってね!』

 

 この世界の最も優れた所は、現実と一切感覚が変わらない事である。駆け抜けた風すら感じられ、自分の力に疑いを抱く事すら出来ない、夢と一切区別がつかない夢の現実感。

 ――今なら、全てが斬れる。そう考えた瞬間、自然と剣を握る力が篭った。

 

「……まぁ……ちょっとぐらいなら、いっか」

 

 折角仲間が用意してくれたのだ、ちょっと楽しむぐらいなら良いだろう。

 そう思いきりんは、メイドインシロンによる夢の世界(ゲーム)へと歩を進めた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「――あっはっはっは! こりゃー良いわ! 目の前に敵がいるなら、ぜーんぶ叩き斬るまでよーっ!」

 

 数分後。夢の中の無数の戦場、そこではきりんが大活躍をしていた。

 クリスマスの街・電脳九龍街・メガフロート・弐陸府寺院・国防基地・ロストコンビナート・密林地帯・太陽宮。かつて駆け抜けた戦場の全てを、破壊的なまでの暴力でノンストップに突き進んでいく。

 投げた護符は分裂ホーミングして視界の敵を全て捉える。これまでガンヴォルトの手助け無しでは出来なかった雷霆煉鎖が、当たり前の様に自分の意志で出来る。少しでも隙だと感じた時にはイマージュパルスが薙ぎ払い、うっかり抜けてきた攻撃も無限の電磁結界(カゲロウ)がカバーする。

 無敵・無欠・最強。きりんは、完全に夢の世界とパワーにハマっていた。

 

「おりゃー! 迸れ蒼き雷霆(アームドブルー)っ! このインチキ攻撃、ちょっとやってみたかったのよねー!」

「ボクはそれをどんな顔で見守ればいいんだい? ……楽しそうなら何よりだけどね」

 

 果てには夢の中であるのを良い事に、護符を避雷針(ダート)と見立て、きりん自身が放電を放つ始末。実は前々から便利だと思ってた必殺技も、この夢は叶えてくれる。

 素晴らしい、素晴らしいぞこの力は。無意識下の願望による世界という事もあってか、かつて皇神(スメラギ)に所属していた旧型宝剣を使う能力者の様な能力ハイにきりんは半ば酩酊し、すっかり楽しんでしまっていた。

 なお、その傍ではアシスト一切無し・ただのマスコットとしてついてきているだけの犬状態ガンヴォルトが生暖かい目で常に見守っている。

 

「はー、気っ持ち良いーっ! ……でも、昔戦った所抜けるだけってのも、味気ないかな」

『そう言うと思って! シロン特製、SP(スペシャル)ステージもしっかり用意してるよ!』

「スペシャルステージ?」

 

 かつて苦労した戦場を難なく駆け抜ける爽快感はあった、しかしそれは古びた過去を美化してなぞるだけ。更に上を望み始めたきりんに応える様に、シロンは次手を予め用意していた。

 きりんの夢の世界は、きりんの魂に刻まれた経験や記憶を超速演算(オーバークロック)で干渉・改変する事で成り立っている。故に記憶の中でも特に印象的な戦いだった半年前の暴龍事変が、ゲームのステージとして用意されていた。

 しかし、そのまま過去と戦うだけではきりんの記憶の焼き増しでしか無い。その程度で終わるモノが”夢のゲーム”など、シロン(ゲーマー)は言わないのだ。

 

『まぁ、コレはぼくだけじゃなくてガンヴォルトを巻き込む必要があったから、あんまり胸を張れないんだけど……昔のガンヴォルトが経験した難しい任務なんかも体験出来るんだ!』

「イマージュパルスの一つの応用だね。ボクの魂が覚えている事を、きりんの魂に重ねて映す。ちょっとうろ覚えな所もあるけど……まぁそこは、シロンが上手く補完してくれる筈だよ」

「ガンヴォルトが経験した任務って……テロリストやってたって頃のヤツ?」

「現皇神(スメラギ)社員としては耳が痛いけど、その通りだよ。まぁ、退屈はしないと思う」

 

 ここで出番となるのが、今夢に同行してきているガンヴォルトである。

 人の魂を演算して作る夢なら、誰かを同行させればその人の魂も夢として巻き込める。二つの魂を重ねるという前代未聞の、ぶっつけ本番で試すには危険な行為だが、その辺りは魂の第一人者であるガンヴォルトを仲介し調整する事で保険とする。

 ついでに言えば、ガンヴォルトの経験した任務は暴龍事変にも見劣りしない出来事もそれなりにある。上手く夢の難度(バランス)を調整すれば、今のきりんでも適度な緊張感で挑めるモノとなるだろう。超速演算の魔術師(マジシャンズオペレート)・ゲームマスターシロンの腕の見せ所である。

 

「ま、任務って事は全部昔のガンヴォルトがやり遂げた事なんでしょ? それならこのスーパー戦巫女きりんちゃんが、古びた思い出ごとまとめて縛り上げてあげる! アンタに、真の封印を!」

「封印される程の事じゃないんだけど。まぁ、その意気で楽しんでね」

『よーっし二人とも、いっくよー! アドバンスドステージ【ガンヴォルト・ストライカーパック】! プログラミング・インッ!』

 

 矢でも鉄砲でも能力者でも、なんでも持ってきなさい。完全に気分がノリにノッているきりんの返事を受け、周囲の光景が歪んでいく。

 ガンヴォルトの魂からシロンが過去を引き出し、覚醒された力で演算。今のきりんでも楽しめるだろう難易度の舞台(ステージ)を即興で作り上げ、現実感を失いかねない魂の揺らぎはガンヴォルトの力で制御する。

 高度な演算と高位の能力が、瞬く間に新たな夢の世界をきりんの周りに構築した。

 

「まずは現代と過去の雰囲気の差に慣れる為に、簡単な所から始めるね。ボクとシアンが出会った任務からになるかな」

「何それ。能力使ってまで新手のノロケ見せられるのわたし?」

「当時の皇神(スメラギ)が使ってた、能力者を利用する機械にシアンが拘束されてるのを解放した時の任務だね。今は丁度外の列車に乗って機械ごと移送されてる所なんじゃないかな」

皇神(うち)の過去の汚点じゃないの! のっけからそんなの追体験すんのわたし!?」

 

 チュートリアルからいきなり皇神(スメラギ)の歴史的汚点を紹介され、きりんは慌てて仮想世界のシアンを助けに行く事にした。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「うわあぁぁぁ!? 何よこの基地! ワープでいきなり飛ばされた挙句、なんで皇神(スメラギ)の兵士もいる所に水攻めしてくんのよ!? どんな倫理観してんのここの責任者は!?」

「ボクもこの時はビックリしたなぁ……いくら蒼き雷霆(アームドブルー)が海水に弱いからって、海底の基地一つまるごと沈めるとは思わないよね、やっぱり」

「能力者たった一人対処するのにやる事じゃないわよ! ここの弁償、皇神(スメラギ)のどこがすると思ってんのーっ!」

「……あの時は紫電が責任取ったのかなぁ……こうして皇神(スメラギ)の所属となった今だと、被害総額とか考えたくはないね……」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「機械に繋がれたシアンちゃんはなッ! サイコーに胸キュンなんだよ! テメェはその楽しみを……ッ!」

「うわぁ……何コイツ、変態……? 以前サーペンタインの第七波動(セブンス)でも見た顔だけど、こんな奴だったの……?」

「うん……やっぱりきりんも異常って思うよね。まぁ旧型の宝剣は精神に干渉する副作用があったらしいし、コレも仕方なかった、のかな?」

「火のない所に煙は立たぬ、って言葉があるでしょーが! 何も思う所が無いんならこの言葉は出ないわよ! こんな危険人物、さっさとふん縛って封印するわよ!」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「ギャーッ、虫!? 虫の第七波動(セブンス)!? こんなんどうしろってのよ護符が何百枚あっても足りないわよ!」

「きりんなら雷霆煉鎖で駆け抜けられるんじゃないかな。雷撃鱗とか使っても良いよ?」

「最初から蒼き雷霆(アームドブルー)をアテにするってのも、なんか負けた気分になるし……っていうか研究所内にあったさっきの巨大花といい、昔から皇神(スメラギ)の技術ブッ飛んでない?」

「確か、第七波動(セブンス)を強化する薬に使ってたんだっけ。当時でも能力研究の分野では皇神(スメラギ)が最先端を行ってたけど、その実態は手探りだったのかもしれないね」

「あんな花本当に製薬に使えるの? ただのバケモンでしょアレ」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「どえええ!? 星!? 星が落ちてきてんのコレ!? 嘘でしょ、昔の能力者がやっていい能力の規模じゃないでしょこんなの!? 紫電って奴、強すぎない!?」

皇神(スメラギ)の人工衛星を念動力(サイコキネシス)で引き寄せる技だね。宝剣を三本も使ってる上に、この時の紫電はシアンの力も取り込んでたからなぁ……うん、凄い能力者だったよ、本当に」

「いやいやいや”凄い”の一言で片付けて良いのコレ!? なんかビームとかも降ってくるんだけど! こわっ! あっぶな!」

「当時はボクも必死だったなぁ。電子障壁(サイバーフィールド)も厄介だったし、死闘だったよ」

「死闘っていうか、死ぬ! 死ぬわ! 流石に夢でも衛星丸ごと一個落とされたんじゃ、生き残れる気がしないわよーっ!」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「なんでこんな地下水道の水ん中を突っ切らないといけないの!? 大分嫌なんだけど! 夢の中なのに不快感しか無いわよ、このミッション!」

「そう言うと思って嗅覚は少し調整してもらってるんだけど……ゴメン、やっぱりこの任務(きおく)は抜いた方が良かったかな」

「……本当に苦労してたのね、昔のGV……のわーっ!? 何この水の竜巻!? ちょ、飛ばされ――あわわわ!」

「……服、乾かそうか? その位は良いと思うんだけど」

「はぁー……うー、ごめん。お願い」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「都市一個まるごと凍結ぅ!? え、どんな効果範囲してんのよ! 本当に暴龍とかじゃないのよね、エデンの能力者達って!?」

「パンテーラが皇神(スメラギ)の技術を盗んで、しかもシアンの力まで奪ってた状態だったからなぁ。ボクもシアンの力を借りて、暴走した飛空艇を蒼き雷霆(アームドブルー)で持ち上げた事があったし。電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力は本当に悪用しちゃいけないって改めて思い知らされるよ」

「……はっ? いや……なんて? 飛空艇を……持ち上げ、たぁ?」

「何そのおぞましいバケモノを見るような目。紫電の方がよっぽど凄かったでしょ?」

「あんたは当時宝剣とか使ってなかったでしょうが! 暴龍になる前からそんな力持ってたら、そりゃ封印されるわよ! 怖いわ蒼き雷霆(アームドブルー)!」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「……あの、GV? このパンテーラって娘の能力、どう考えても暴龍クラスなんだけど。シアンの力を奪われた上でコレと戦って勝ったとか、嘘でしょ?」

電子の謡精(サイバーディーヴァ)普遍化(ノーマライズ)しての能力の進化。”夢想境(ワンダーランド)”……これも第七波動(セブンス)を超えた次の段階(ネクストフェーズ)の一つだったのかもしれない。ここで倒せなかったら、今の世界はどうなっていたんだろうね……」

「あんたが神妙な顔しなくても、絶対悪い方向に転がってたわよ! 自分の分身や死んだ能力者達の完全な複製・物質化だの! こんなホントに夢みたいなトンデモ能力、冗談じゃないわよ!」

「まぁ今のボク達が言ってもなんだけどね。夢の中で、夢の力を使ってるし」

「やかましいっ!」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「おっ、うわっ、ひゃあーっ!? 何このスピードと攻撃のバリエーション!? え、コイツが前話してた無能力者!? 絶対なんか盛った嘘だと思ってたのに!」

「アキュラ、か……今のボクなら、彼と別の向き合い方が出来るだろうか……。彼も戦って、大事な人を失って……。この時はどんな言葉も届かなかっただろうけど、それでも同じ様な思いをしたボクには、もっと寄り添う事が出来たんじゃあ――」

「あーあーあー、そういうどうしようもないネガティブ思考は禁止! ってか本当に速すぎでしょコイツ、こんな縦横無尽に飛び回って――あれ? ……なーんか、見覚えがあるような、無いような」

「? ボクがいない間に、空を飛び回る能力者とでも戦った、とか?」

「……いや、多分気のせい。とにかく今は、この速さを超える! 行くよ、八十八式ッ――!」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「――はぁっ、はぁっ、はぁっ……! や、やってやった、やりきったわ……! なんか、達成感と疲労感が程良くミックスされてて、良く晴れた夏の日にマラソン走り切った直後みたいな、そんな気分よ……!」

「あれ、夢の中だから疲れはしてないと思うんだけど」

「心! 心が削れるの! あんたの過去の戦い、いちいち歴史の闇が垣間見えるし! そういう鬱憤もまとめて叩き切ってやるってモチベでやり抜いたのよ!」

 

 数え切れない程の戦場を乗り越え、ガンヴォルトの歴史を変則的な形で追体験し。圧倒的な力で全てを叩き伏せながらも、あれこれ気疲れする数々の事を知ってしまったきりんは、所詮夢や幻の事だと口が裂けても言わない程の充足感に満たされていた。

 思った十倍ぐらい戦いの密度が濃かった。超パワーを得て余裕があったとか、そういう問題ではない。こなしてきた任務一つ一つに、聞き流せない程無数の歴史的ツッコミポイントがあるのだ。きりんは元来の律儀さや実直さもあって、その全てに反応してしまう。

 長く苦しい戦いだった、いやホントに。どんだけ戦ってきたんだこの男は。きりんはとてつもなく同情的な視線を、目の前の犬の姿をした相棒へと向けて――

 

「――ねえ。ここ、わたしの夢の中だけど、GVも一緒に入ってるのよね?」

「ん? まぁ、今は夢幻門(ドリームゲート)の能力でボクの魂も重ねてる状態だからね。夢に何か問題が起きた時を考えて、ボクが傍にいるのもあるけど」

「って事は、これはあんたの夢でもあるんでしょ? ……GVもストレス解消にいくつかぶっ飛ばしてみたら? この夢のミッション」

「いや、ボクは良いよ。……きりんとこうして思い出を分かち合う事が出来た、それだけでボクにとっては本当に嬉しかったから」

「うーん……」

 

 よく考えたら、こんな過去の鬱憤を晴らすべきは、過去の持ち主たるガンヴォルト本人であると思った。

 きりんは溢れる力の勢いにより、ゲーム感覚で過去を駆け抜けた。しかしこんなぶっ飛ばしたい過去の持ち主たるガンヴォルト本人は、なんか犬の姿のまま傍で見守ってきただけ。

 好き放題戦っても許される場所なのだ、たまには最強の能力たる蒼き雷霆(アームドブルー)を全開にしても良いだろう。きりんの立場としてはそう考えるのだが、ガンヴォルトからしたらかなり満足していた。

 きりんは自分と同じ過去(ゆめ)を駆け抜けてくれた。噛み締めてくれた。シアンとはまた違う形で自分に寄り添ってくれたという、ただそれだけの事が本当に嬉しかったのだ。

 

「……ん?」

 

 そこできりんは、極めて今更ながら一つの疑問を抱く。何故、目の前のガンヴォルトは犬の姿を取っているのか。

 完全にスルーしていたが、これまでの話の流れでガンヴォルトが犬モードになるべき理由は何一つ無かった。きりんとしてはこの状態で傍からアシストしてくれるのが当たり前みたいな物だから違和感を抱けなかったが、改めて考えるとこれは決定的なまでの疑問点である。

 この姿のガンヴォルトに、きりんは何も違和感が抱けなかった。この――()()()()()()()()()姿に対し。

 

「……GV、ちょっと試したい事あるんだけど」

「ん? どうしたの急に改まって。この世界なら、なんでもやって良いよ?」

「じゃあ――えい」

「えっ?」

 

 きりんは錫杖を構え、()()()()()した。

 ガンヴォルトが犬の姿を取る理由は、自分の鎖環(ギブス)で縛り上げている、それ以外の理由が有り得ない。改めて意識すると、実際にそんな感覚があった。

 なので、ちょっと、なんとなく。自分が無意識にしていた封印から、ガンヴォルトを解放してみる事にした。

 

「……う、ぐ……!?」

「え? ちょっとGV、どうしたの?」

「いやっ……こ、これ、はッ……!?」

 

 そうして人型に戻されたガンヴォルトは、何故か苦しみ出す。

 きりんは確かに自分の能力よりガンヴォルトを解放した、その感覚が確かにある。封印を外した筈なのに、何故苦しむのか。

 そう。確かにきりんは、()()()()の封印を解いたのだ。

 

「――ぐッ! ぐうッ……!!」

 

 夢幻門(ドリームゲート)はシロンの能力だが、きりんの無意識下に構築した夢の世界である。きりんの思考や認識をベースとして、きりんの意識と願望を反映・解消する世界。

 そんなきりんが、ガンヴォルトを意識的に解き放った。世界最強の能力者であり、無限の星詠(アストラルオーダー)を宿し――かつて自分の封印無しでは()()()()だった、そんな存在を。

 夢は、そんなきりんの意識を反映する。ガンヴォルト本人を無視し、きりんが()()()()()()()事を。

 

「――ガッ、アアアーーーッ!!」

「えっ」

 

 直後。ガンヴォルトが、()()()()()

 最強の暴龍。封印されし力。破壊と破綻の象徴。きりんがガンヴォルトを犬の姿とした、本来の理由。それをきりんは、意識的に解き放ってしまった。

 その結果、何が起こるかと言えば――

 

「――――ッッッ!!!」

「え゛ッ」

 

 世界が、破滅の光に包まれた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「――ん……んう~っ! あぁー……なーんか、よく寝た? 久々に、凄いスッキリした目覚めだわー……」

 

 きりんが仮眠室のベッドから起き上がる。清々しい目覚め、久々の快眠。

 いつの間に眠っていたのか、どうにも()()()()()()()()()()()()()()()が、とにかく忙しかった最近の中では最高の目覚めだった。

 まるで()()()()()()()()()()()()、そんな爽快感があった。

 

「あれ? ……シロン、シアン、GV? 何してんの、揃って床の上で倒れて」

「うぅーん、うぅーん……ぼ、ぼくの力が……ぼくの夢の世界がぁ……」

『やっちゃったなぁ……GVの力は本当に凄いって事、最近忘れてたよ……』

「……この技、ちょっと見直した方がいいね」

 

 そうして起き上がったきりんのベッドの傍では、何故かシロンら三人が揃って仰向けになっていた。まるで()()()()()()()()()()かの様な体勢で。

 夢幻門(ドリームゲート)は、無意識下にきりんがイメージしていたガンヴォルトの暴走状態により、完全に消し飛ばされた。能力を増幅したシロンが構築した夢の世界ではあったが、”完全解放状態のガンヴォルト”というきりんが抱いていた想像(ビジョン)の方が強かった。

 故に、夢想(ゲーム)は破壊された。無限の星詠(アストラルオーダー)がかつて垣間見た未来の様に、圧倒的な力が夢幻(せかい)を破滅させる形によって。

 

「……きりん、気分はどう? 何か違和感とか、無い?」

「え? ……変なぐらい爽やかな目覚めなんだけど……()()()()()()()()()()?」

『……記憶まで無くなっちゃったんだね、きりん』

「所詮は夢、って事なのかもしれないね」

 

 夢を破壊された張本人たるきりんはその記憶がさっぱりと失われた。不幸中の幸いか、後遺症はたったそれだけだった。

 脳ではなく魂の表面に構築していただけの、頭で考えるより深部の世界。きりんの蓄積されたストレスを解消する目的で創られた世界が消し飛ばされた事により、ストレスごと夢の中で経験した記憶も完全に消滅していた。

 夢は夢であり、覚めてしまえば残る物は何も無い。ある意味、本質的な事実である。

 

「うぅぅ……ぼくの夢が……シアンちゃんの力も借りてたのに、こんなあっさり、一発でぇ……」

「……なんか、ごめんねシロン」

 

 ただし、頑張って世界(ゆめ)を作った創作者たるシロンは、世界ごと自分の持っていた自尊心(プライド)を破壊されていた。

 




思い出に縋りただ浪費するだけの時間なら 消えて無くなれ

実質トライアングルエディションを夢の中で遊ぶだけの能力です。ください。
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