Mirror of the golden witch 作:フラット・ホームズ
ストーリーに山もなければ落ちもなし。プロットもなし。
鏡面の魔女
ベアトリーチェは言った。
「妾の墓に参る者が仮にいたとして、唾を吐きかけるだけであろうがな」と。
だがベアトリーチェの墓とはどこにあるのだろうか?
土は土に。灰は灰に。幻は幻に。
果たして幻はどこに葬られるのだろう?
……それはきっと――。
――ごうごうと音がする。
これは雨と風の音?
そこに時折雷の音が混ざる。
ボクはまだ思考に囚われているのか……。
きっと再び嵐が訪れ、僕の思考を閉ざしたのだ――。
――ボクは目を開いた。
「ここは……?」
ぐるりと見まわすと、そこは薄暗い洋風の部屋の中だった。
人の気配のない静寂に包まれた洋室。
どうやらボクはソファに座っていたようだ。
目の前のテーブルにはチェス盤が置いてあった。
それは途中でゲームが止まり、そのまま放置されたかのようだった。
「ここは魔女の喫茶室」
その時、誰もいないと思った部屋の中に誰かの声が響いた。
見るといつの間にか少女がテーブルの対面のソファに座っていたのだった。
「誰だ?」
「私は魔女だよ」
「……魔女?」
少女の姿を見ると黒を基調として銀で縁取られた衣装を着ている。魔女と言われたらそのように見える格好ではあった。
「そう。魔女。鏡面の魔女。……そうだね。スイセンとでも名乗ろうか」
スイセン。……水仙?
ナルキッソスは水面に映った自身の姿に恋をして、水面から離れられなくて衰弱死したとも、水に落ちて溺れ死んだとも言われ、ナルキッソスが死んだ後そこに水仙の花が咲いたという伝承がある。
魔女が称する鏡面とは水面のことなのだろうか?
「その魔女がボクにいったい何の用なんだ」
「君の目の前を見れば分かるだろう?ゲームの続きをするためだよ」
「ゲームの続き?」
「『うみねこのなく頃に』」
『うみねこのなく頃に』。
右代宮家が所有する六軒島を舞台とする惨劇を、魔女の仕業かニンゲンの仕業かを争うゲームだ。
島にいたのは18人の人間で、そこに魔女が入り込む。
「……あのゲームは皆が認める明らかな犯人で決着したのではなかったか?」
作中では最終的に答えは明かされなかったが、ネット上ではほぼ1つの答えに集約され、それを皆が認めたはず。
「君はアレが真相だと信じているの?」
「…………」
「真相だと信じていたなら、君のゲームはそんな途中で止まっているなんてことにはならなかったんじゃないかい?」
「…………」
「……まあいいさ。君が何も語らないなら、私が勝手にゲームを進めさせてもらおう」
「……何?」
驚いてスイセンの方を見ると、彼女は口の端を釣り上げて意地悪そうに嗤っていた。
「ただ私の妄想を語るだけだよ。それともそれすらもしてはいけないとでも言うのかな?」
「…………いいや」
「ありがとう。魔女が妄想を語れないとか、存在理由がなくなってしまうからね」
スイセンは両腕を広げてお道化てみせた。
「これはただの思考実験さ。気楽に聞いてくれたまえ。……では物語を騙ろう――」
TIPS:ボク
物語の語り手。
ただそれだけの存在。
名前はどうでもいい。
物語は語られることに意味がある。
語られなければないも同然なのだから。
だが、世の中にはあえて語られない物語もある。
墓の中に埋められた物語。
魔女の墓はどこにあるのだろうか?