Mirror of the golden witch   作:フラット・ホームズ

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来客ベアトという駒を置いた理由。


マスターキーの行方

「さて、前置きはこれくらいにして、事件についてやろうか。

 まずは第一の晩の礼拝堂の密室だけど、これは一先ず戦人が提示した「寝ている間に真里亞に預けた礼拝堂の鍵を取り出して使い、その後に戻した」でいい。

 問題は次の第二の晩の朱志香の部屋の密室だよ」

 

 朱志香の部屋の扉を施錠できるのは、使用人の持つマスターキーと朱志香の部屋の鍵だけ。朱志香の鍵は密室内にあったから、疑わしいのはマスターキーを所持している使用人たちってことになる。

 

「これについては「使用人が犯人なら自分たちを疑わせるようなことはしない」という戦人の思考は至極真面だよね。よって使用人は疑わないことにする」

「そうすると鍵が問題になるぞ」

「そうだね。疑えるのは朱志香の鍵と嘉音のマスターキーの2つ。

 その内、朱志香の鍵は楼座が使用して確かめている。

 だとすると、使用して確かめていない嘉音のマスターキーが疑わしいことになる」

「嘉音のマスターキーは朱志香の遺体のポケットから出てきて、源次がそれを見て確認したんじゃなかったか?」

「そうだね。でも源次が見ただけで、使用して確認したわけじゃない。

 なら嘉音のマスターキーが偽物だった可能性が否定できない」

「……となると、ポケットから鍵を取り出した南條か、それを見て確認した源次が疑わしいことになるな」

 

 嘉音のマスターキーを怪しむのであれば、疑うべきはこの2人に絞れる。

 だが使用人を疑わないとなると途端にハードルは高くなる。

 

「南條がポケットから出したふりをして嘉音のマスターキーを提出した場合、その鍵は楼座に没収されるからその後の密室で嘉音のマスターキーを使用できない。

 それに比べて源次の虚言だった場合は、犯人はその後もマスターキーを所持できるの」

 

 使用できるマスターキーさえあれば、第2のゲームの朱志香の部屋以降の密室は全て解ける。

 畢竟、犯人はどうやってマスターキーを手に入れたのかというのが第2のゲームの核だ。

 

「源次が怪しいと。源次が嘘を吐いたということは、源次が共犯者だということか?」

「いいえ。使用人を疑わないという観点から出発したのだから、当然共犯である可能性も考えない」

「じゃあ何で源次は嘘を吐いたんだ?」

「逆だよ。“何で源次は嘘を吐いたのか?”じゃなく、“どうやって源次に嘘を吐かせたのか?”と考えるの」

「……嘘を吐かせる?」

「物語の書き手は、朱志香のポケットから出てきた鍵を源次がマスターキーだと保証したことを記述した。

 つまり、源次がマスターキーだと嘘を吐くことを期待していたということなんだよ。

 ……どんな手を打てば、源次は嘘を吐くのか?

 そもそも朱志香のポケットから出てきた鍵はどこの鍵なのか?」

 

 個別の部屋の鍵のほとんどは使用人室のキーボックスの中に収められている。

 そこにないのは在島者が使用している部屋の鍵と礼拝堂の鍵だけ。

 なら、朱志香のポケットから出てきたのは、犯人が使用している部屋の鍵ということになる。

 

「…………朱志香のポケットから出てきた鍵。それが犯人の打った手だと言うのか?」

 

「訊くけど、源次が犯人を庇うとして、誰だったら庇うと思う?」

「それは金蔵じゃないか?」

「そうだね。源次にとって金蔵は第一だ。

 ……でも実はそれだけじゃない。来客ベアトリーチェも金蔵と同格の扱いなんだよ」

「………………()()()()()

「正解。源次は朱志香のポケットから出てきたのが貴賓室の鍵だったから、マスターキーに間違いないと嘘を吐いたんだ。

 忠誠心の塊である源次には主人である金蔵を告発することはできない。

 それは金蔵と同格に扱うベアトリーチェに対しても同様だったんだよ」

「そして犯人である来客ベアトリーチェは、それを期待して貴賓室の鍵を朱志香のポケットに入れた……」

「その通りだよ」

 

 源次が金蔵と来客ベアトリーチェを同格として扱うというのは、エピソード2でしっかり記されている。

 そして、なぜ第2のゲームで貴賓室が登場したのかも、これで綺麗に説明が付く。

 人間の心理を巧みに操る、実にスマートで見事なトリックだ。

 

「次の使用人室の密室は、犯人がマスターキーを所持していれば謎でも何でもない。

 客間の密室の手紙も、夏妃の部屋の密室も、犯人がマスターキーも持っていれば簡単だよ」

「後はどうやってマスターキーを楼座に回収させたかだけだな」

 

 赤き真実で“あとは5本のマスターキーしかないが、それは全て“楼座”が持っているッ”と宣言されている以上、その時点で楼座の手に嘉音のマスターキーがなければならない。

 

「夏妃の部屋で楼座が回収した鍵は、使用人の所持していたマスターキー以外では、譲治が持っていた夏妃の部屋の鍵のみ。

 ……ならそれが実は嘉音のマスターキーだったということになるね」

「なら本物の夏妃の鍵はどうなる?

 赤き真実で“夏妃自身の鍵は譲治のポケットに入って、室内に閉じ込められていた”とあるぞ」

「嘉音のマスターキーも、夏妃の鍵も、両方譲治のポケットにあればいいだけだよ。

 例えば、夏妃の鍵は取り出しにくいズボンの後ろのポケットに入っていて、マスターキーは取り出しやすい上着のポケットにでも入っていたのだろうね。

 1つ鍵を見付ければそれを夏妃の鍵と思い込み、もう1つの鍵を探すことはするはしない」

 

 確かに鍵についての赤き真実はこれでクリアできるだろう。

 だがそれだけでは説明できない。

 

「夏妃の鍵もマスターキーも密室内に閉じ込められていたのであれば、犯人はどうやって外から施錠したというんだ?」

「……外から施錠できないのなら、犯人は密室の中にいたことになるね」

「“隠された通行手段もなければ隠れる場所もない”。

 つまり犯人は隠れることはできないんじゃないのか?」

「いいや。“隠れる場所”というのは、行き止まりの隠し通路のことだよ。

 要するに隠し部屋の類なの。この定義についてはエピソード2にしっかり記されている。

 そして他の密室とは違い、夏妃の部屋では赤き真実で部屋にいる者を特定していないのよ。

 そして「隠れる場所」がないといっているだけで、「隠れた人物」を否定しているわけじゃない」

 

 赤き真実で“夏妃の部屋もまったく同じだぞ、いつもの通り”とあるが、これはその後に続けた、施錠とイカサマや細工がないこと、そして隠し通路と隠れる場所についてであって、記述されなかった在室者のことは含まれていないのだろう。

 だって朱志香の部屋と使用人室の在室者のメンバーは異なるのだから。

 そして当然、夏妃の部屋の在室者も異なっている。

 よって、それぞれの部屋の在室者はまったく同じでもなく、いつも通りでもないことになる。

 

「そうすると、犯人である来客ベアトリーチェも夏妃の部屋の中に隠れていてもいいことになるの。

 ……当時の部屋の状況はこう。

 夏妃の部屋は荒らされていて、部屋に入ってすぐのところに郷田の遺体、部屋の奥に譲治の遺体、化粧台の前に紗音の遺体があり、遺体の状況から紗音が「頭を抉りて」であると判断した戦人はすぐに紗音の遺体に近寄りうつ伏せになって見えなかった頭を確認している。

 楼座はそれをすぐに止めた」

 

 頭の中で夏妃の部屋の中を想像してみる。

 

「戦人は視線を誘導させられ、行動も誘導させられた。

 それに釣られて楼座の行動も誘導させられた。

 紗音の頭を確認するために化粧台の前に戦人と楼座を集めることで部屋の中に死角を作ったの。

 …つまりこういうこと。部屋の中に隠れていた犯人は、戦人と楼座が部屋の中に入ったのを見計らって部屋から出た。

 真里亞と源次はそれを黙って見過ごした」

 

 真里亞は魔女の味方であり、源次にとってベアトリーチェは金蔵と同格に扱うべき賓客である。

 ベアトリーチェにとって不利なことはしないのだ。

 つまり、黙っているようにジェスチャーでもすれば黙っていてくれるということ。

 

「いや、もしかしたら犯人は部屋から出る必要さえないかもしれないよ。

 その後に殺害する必要もないから、密室内に閉じ籠っていてもいいわけだしね」

「……いや、密室はもう一つ残っている。

 夏妃の部屋の密室の後、客間の密室の中に手紙があったじゃないか。

 夏妃の部屋に閉じ籠っていた犯人には、客間に手紙を置くことは不可能だ」

「……そうだったね。だけどあれは生存者側の視点から見た順番だよ。

 犯人側から見ると客間の密室を形成した後に夏妃の部屋の密室を作っているの」

「順番が異なっている?」

「時系列を整理しよう。まず源次が南條たちの遺体を発見し、客間にいる楼座たちにそれを報告。

 客間を出て中庭に移動。碑文の見立てが第七と第八の晩だったことから、第四から第六の晩がどこかで起こっていると考えて譲治たちが向かった夏妃の部屋へ。

 そこで譲治たちの遺体を発見。客間に戻るとそこに手紙が置かれていたという感じだね」

「そうだな」

「生存者が客間を出てから夏妃の部屋に向かうまでの間、犯人は自由に動けたんだよ」

「……生存者が中庭で南條たちの遺体を見ている間に、犯人は客間に入って手紙を置いたと?」

「そうだよ。犯人はマスターキーを持っているんだから客間に入ることは可能でしょ。

 その後に夏妃の部屋に戻って密室にして内側に隠れたというわけだね」

「確かにそれをする時間はあったことは認めよう。だがどうやってそれを成し遂げたんだ?

 中庭からすぐに客間に戻る可能性はあっただろう?」

「そのための第七と第八の晩だよ」

「第四から第六の晩を探しに夏妃の部屋に行かせるためか……」

「そのために南條と熊沢の遺体が必要だったの」

「使用人の密室から遺体を持って行ったのはそのためか……」

 

 後は定時に大爆発が起こり全滅するわけだから、犯人は夏妃の部屋の密室内に閉じ籠ったままでもいいわけだ。




TIPS:貴賓室の鍵を使ったトリック

 第2のゲームの密室の大半はマスターキーさえあれば構築可能。
 そのマスターキーをすり替えるには、他の部屋の鍵が必要となる。
 その部屋とはどこかと考えれば貴賓室が浮かび上がる。

 来客ベアトリーチェがいるからこそ出来るトリックとして、貴賓室の鍵とマスターキーを入れ替えるトリックは秀逸だと自画自賛したい。
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