Mirror of the golden witch 作:フラット・ホームズ
「トリックについてはわかった。
では期待したリアクションを含めた事件の流れはどう言ったものだったんだ?」
「第2のゲームの分岐は“ハロウィンのお菓子”だと考えられる。
楼座親子の親族会議へと向かうルートが定まっているならば、朝食を摂るために入る可能性のある店は有限。
どの店に入るかは気紛れの偶然だけど、その中にハロウィンカラーでレイアウトした店があることは事前に虱潰しに調べておけば把握できるよね」
「楼座たちがその店に入るという偶然を想定していたということか」
楼座たちが入店する可能性がある店を全てピックアップすれば、後はルーレットを回すだけ。
どの目が出ても満足する体制になっていればそれでいいと。
「真里亞は魔女趣味で、それに関連してハロウィンに食いつくことは簡単に予想できる。
そして母親である楼座とトラブルになり、楼座が真里亞と仲直りするためにハロウィン関係のお菓子を買ってあげる可能性も想定できるよね。
……つまり、ルート上にある店に打っているハロウィンのお菓子を準備しておくことが可能だということだよ」
「用意していたお菓子の中から、同じお菓子を取り出して、お菓子を蘇らせる魔法として見せたわけだな」
犯人はあらゆる偶然を想定し、真里亞がハロウィンのお菓子を持ってくる偶然も期待していた偶然の中の1つだったと言いたいのだろう。
「礼拝堂のハロウィンの飾り付けは事前にしておけばいい。
この分岐が選ばれれば礼拝堂を使用し、そうでなかったら礼拝堂を使わないようにすれば中はそのままで構わないからね」
「次の第3のゲームで礼拝堂は使用されてるじゃないか」
「あれは例外だよ。詳細は次でやるけれども、第3のゲームに分岐するポイントが親族会議の日よりも前にあれば、礼拝堂を飾り付けないようにすればいいだけだからね」
事前に準備できたということは、事前に分岐が確認できれば準備を取りやめることも可能だったということだろう。
“事前に”ということから推察するに、それは“事前に金蔵が死亡している”ことではなかろうか。
スイセンによれば第一のゲームの犯人の一人は金蔵だという。
なら第三のゲームで金蔵が事前に死亡しているのは偶然ということになるのだ。
「楼座が“ハロウィンのお菓子”を買い与えれば、真里亞はそれを嬉しがって他の人に会う度にトリックオアトリートで逆にお菓子を与えることになる。
そして薔薇庭園で弱った薔薇を真里亞が見つけて落ち込むと、元気付けるためにハロウィンの話題を出すことをベアトリーチェは期待していたのだろう。
その話題が出ると真里亞は饒舌になり、楼座に怒られることまで期待できるだろうね。
これでいつもより早く真里亞を薔薇庭園で釘付けにすることができる」
スイセンはまるで予定調和だとでも言うようにそう語った。
「ちなみに、真里亞が弱った薔薇を見付けるのは必然の出来事だから、犯人は真里亞が見つけやすいところの薔薇を弱らせているのだと思うよ。
ついでに言えば、印を付けた真里亞の薔薇がなくなるのも必然だから、犯人は強い意思でその薔薇を摘んでいるのだろうね」
『ひぐらしのなく頃に』によれば、複数のカケラを俯瞰して同じことが起こるなら、それは強い意思によるものだという。
そうであるならば、真里亞の薔薇は典型的な強固な意思によるものとなるのだろう。
「真里亞が薔薇庭園で叱る時間が早まれば、当然、楼座がそれを思い出す時間も早まることになるよね。
真里亞が早い段階で薔薇庭園にいることを把握することで、ベアトリーチェは来客として楼座と真里亞に会うという演出を披露するという手を打つことができるというわけ。
……ちなみに、真里亞はベアトリーチェと会う約束があると言っていることから、楼座にハロウィンのお菓子を買ってもらうという偶然が起こり、薔薇庭園で楼座にそこに居なさいと言われたらそこに後で会いに行くという約束をしていたのではないかと思う。
この約束をしていたら、真里亞に対して楼座に買ってもらうお菓子を“ジャックオーランタンのマシュマロ菓子”にしてもらうことが可能になるから、他のお菓子まで用意する必要はなくなるね」
「そんな偶然が起こることに賭けて用意周到に準備していたというのか?」
「あらゆる偶然に対して準備していたなら、こんな小さな偶然でも対応可能だろうね」
「……言うは易しだな」
起こるかどうかもわからない偶然1つに対して、用意するものが多い。
これはつまり、用意したものが無駄になることすらも織り込んでいるということになる。
よく無駄になるもののために労力を費やすことができたものだ。
「そうだね。こんなのは机上の空論。
……だけどこれは現実に行われたものではなく、物語の中で起こったことなんだ。
…………つまり、机上の空論そのものなんだよ」
「……………机上ならぬ、紙面上の空論か」
物語を記してそれを海に流した。
全ては紙面上の出来事で……。
だからこそ、どんな低確率な偶然だろうと紙面上に描くことが可能なのだ。
「これはアピールだよ。見てもらえればそれでいいのさ。
逆に事件を起こして皆殺しにしたとしても、物語化されずに誰にも見てもらえないのであれば、何の意味もないだろう」
「……見てもらうことに意味があるということか」
「その通り。見てもらい、何か考えてもらい、何かリアクションしてもらう。
それらは見てもらわなければ始まらないのよ」
「逆に言うと、見なかったことに、知らなかったことにされたりすることに弱い、と」
「第一のゲームで指摘されたように、リアクションが返されないこと。
そして第二のゲームで指摘されたように、知らなかったことにされること。
それらが魔女にとっては致命的なんだよ。
だから極低確率の偶然だろうとも物語として描いてみせることに意味がある」
見て、知って、考えてもらうために。
現実ではたった1つしか実現しないが、紙面上では無限に実現できる。
現実では極低確率のことだろうと、物語に描いてみせれば、見て、知って、考えてもたうことができるのだから。
「脱線してしまったね。話を戻そう。
19人目の来客ベアトリーチェは“ジャックオーランタンのマシュマロ菓子”を用意することができて、約束通り薔薇庭園で真里亞と会うことができた。
第二のゲームで重要なのが来客ベアトリーチェという駒。
この駒を置いたことで、楼座の前で真里亞に礼拝堂の鍵が入った封筒を預けて第一の晩の礼拝堂の密室の布石とすることができた。
それから来客ベアトリーチェは第二の晩の貴賓室の鍵を使ったトリックの布石でもある。
他にも朱志香を誘き出すための布石でもある」
「疑わしい容疑者としてか」
礼拝堂の惨状を見た朱志香は、最も疑わしい外部の人物である来客ベアトリーチェを犯人だと断定して、ベアトリーチェが泊っている貴賓室に向かった。
「その通り。それは朱志香が突撃した貴賓室に置かれていた手紙からもわかる通り、朱志香がそこに来ることを期待していてのものだよ。
そしてその手紙を読めば激高して喘息の発作を起こし、朱志香の部屋に行くことも見越していたのだろうね」
「朱志香の喘息は本当なのか嘘なのかどちらなんだ?」
「私はどちらでも構わないよ。
後から明かされたからと言ってそれが本当かもわからないしね。
喘息が本当だったら激昂の果てに発作を起こしたことになるし、嘘なら普段の演技通りにしただけで結果は同じになるのだし」
朱志香の喘息が本当か嘘か、ボクにもどちらなのかわからない。
嘘だと後出しされたからそれが真実っぽいというだけで、真実を塗り替える手法として後出ししたという可能性も否定できないのだ。
真実とは塗り替えられるものであり、よって後に出されたものほど信憑性が出てくる。
真実を明かすにしても、幻想で塗り潰すにしても、後出しこそが有利であるという点は変わらないのだ。
「重要なのは朱志香と嘉音が朱志香の部屋に向かったことが期待通りだということだよ。
第二の晩の後、朱志香の部屋の鍵は朱志香の部屋のサイドテーブルから見つかったよね。
その際、朱志香が普段島の中にいる時は自室に鍵を掛けずいるという証言がされた。
つまり、犯人は朱志香の部屋の中で待ち伏せることが可能だったということになるの」
「つまり、油断したところを奇襲したということか」
「そう。だからこそ朱志香の背中を撃つことができたというわけだね」
「そうなると嘉音は朱志香の後に殺したのか」
「嘉音には失踪してもらうから、背後から銃撃でなくても構わないからね」
後は嘉音の遺体を隠し、朱志香のポケットに入っていたマスターキーと貴賓室の鍵を入れ替えて、入手したマスターキーで施錠すれば密室を作り上げられる。
「続いて使用人室の南條と熊沢殺しだけど。
郷田の証言からすると、最初は嘉音だと思ったけど嘉音ではなかったということ。
これを19人目で説明するとなると、顔が隠れてないとならないだろう。
怪我をしていたようだから、例えば頭から血を流し、顔が血で染まっていたり、顔を抑えていたりして、最初は誰であるか判別できなかった可能性が考えられる。
背格好が嘉音に似ているなら、怪我をして逃げてきた人物を嘉音だと一瞬思ってしまうこともあるだろうね」
まあ一応それなりに説明付けられたのではないか。
この辺はそんなに突っ込む必要はないだろう。
「南條たちを殺したらいったん使用人室を出て、生存した使用人たちが客間に報告に向かったら使用人室に戻って死体を運び出した。
そして、自身がが霊鏡を壊したから惨劇が起こったのだと信じている紗音のために、譲治が夏妃の霊鏡を取りに来ると期待した犯人は、夏妃の部屋の中で待ち伏せすることができた」
「それも全て犯人の読み通り、と」
「譲治たちを殺したら南條たちの死体を中庭に運び、いつも通りに源次が屋敷を見回りに来て死体を発見するして客間に報告に行くことを期待して、戦人たちが客間を出るのを見計らって手紙を置き、夏妃の部屋を密室にして中に隠れた。
それで犯人の行動はお終い」
全て予測していたなんて人間には不可能だと言いたいが、メッセージボトルは予測して全てを描いていたのは確かなことなのだ。
ならばそう納得するしかないのだろうか?
「これでエピソード2は終わり。
次はエピソード3だけど、少しの間休憩を挟もうか」
「ありがたい。頭を少し整理したかったんだ」
「じゃあお茶を入れてくるね」
そう言ってスイレンはこの場から消えた。
TIPS:来客ベアトリーチェ
エピソード2のみ現れる19人目の人物。
少人数の前にしか姿を現さないことから、存在しないと考えられることが多い。
19人目の存在を信じさせたかったということは、裏を返せば、19人目の存在を信じさせたかった人物の存在を信じさせたいということでもある。
即ち、ヤスの存在を信じさせたい人物がいたという可能性がある。