Mirror of the golden witch   作:フラット・ホームズ

16 / 17
ベアトリーチェの薔薇と碑文の黄金

「次は第二の晩だね。薔薇庭園での楼座と真里亞の殺害について」

「あれは絵羽の仕業だろう。秀吉が絵羽のアリバイ工作をしていたのはそのためじゃないのか?」

 

 とりあえずジャブを仕掛ける。

 第四~第六の晩の際の霧江の行動式の赤き真実において、第二の晩の際に秀吉が絵羽が嫌いな煙草を吸っていたことから、秀吉が絵羽と同室していたという嘘を吐いていたことが明らかになったのだ。

 

「絵羽犯人説はそれが根拠なのかい?

 確定しているのは秀吉が絵羽のアリバイ工作していたということだけだろう?

 絵羽が楼座たちを殺害すること以外をしていた可能性は否定できないんじゃないかな」

「アリバイ工作をしておいて殺人をしていないだと? ……じゃあ何をしていたというんだ?」

「絵羽は隠し黄金を見付けていたんだ」

「……何を言っているんだ。絵羽が黄金を見付けたのは第二の晩の前だろう」

 

 それはつまり、絵羽が黄金を発見したシーンは幻想描写だとでも言うのだろうか?

 

「エヴァという駒が絵羽犯人説を主張するために用いられているならば、第三のゲームは全面的に絵羽犯人説を展開しやすいように描写されていることになるよね?

 なら戦人が見ていない絵羽が登場しているシーンだって疑わしいことになる」

 

 確かにその言い分には納得できる。

 絵羽犯人説を展開するために物語が紡がれたのであれば、絵羽を犯人だと解釈できるように作られていることになる。

 絵羽が黄金を発見し、その帰りに同じく碑文を解いた楼座と出会うというシーンは、絵羽が楼座を殺害する動機としてアピールするためもののである。

 読み手が絵羽を疑うというリアクションを返すことを期待しての一手であるのは間違いないのだ。

 なので問題なのは出題者である書き手の意図となる。

 

「明らかに物語の書き手は絵羽犯人説を基に解釈した物語を紡いでいるの。

 そして戦人視点では絵羽が黄金を発見したことは観測されていない。

 よってその部分は如何様にも解釈が可能となっている」

 

 そう、あくまでこれはスイレンの解釈に過ぎない。

 戦人が観測していない闇の中でのことを、書き手が絵羽犯人説を基に解釈して主張したことに対して、異なる解釈を突き付けただけなのだ。

 だがそれはゲームのルールに則ったものでもある。

 例えば、第一のゲームの第二の晩のチェーンの密室で、戦人が観測していない嘉音と源次が扉にチェーンが掛かっていることを確かめていたシーンを、なかったものと解釈するものと同等の行為であると言える。

 つまり、同様に有効なのだ。

 

「よって、秀吉が確実にアリバイ工作をした第二の晩の時点こそ、絵羽が黄金を見付けるためにゲストハウスを出ていた時間帯であったと主張できるの。

 絵羽も秀吉も無実であると信じるのなら、こう解釈すべきでしょう?」

 

 絵羽と秀吉を無実だと信じるのなら、秀吉のしたアリバイ工作について何らかの理由付けをしなければならない。

 霧江の行動式の時と同様だ。

 もし絵羽の行動式に“楼座を殺害しない=アリバイ工作しない”があるならば、“それでもアリバイ工作した=楼座を殺害する以外の目的で”ということになるのだ。

 

「“アリバイ工作した=ならば楼座を殺害した”ならその対偶は、“楼座を殺害しない=ならばアリバイ工作しない”となる。

 この2つを両立させるには、両方に楼座たちの死体が必要となるよね。

 ……つまり、辻褄合わせをする“誰か”がいるんだ」

「……それが19人目だと?」

「そうだよ。並び立つ2つの真実の内、どちらか1つだけしかないのであれば、どちらでもあり得る。

 ……でも、犯人が両方の真実を用意していたのであれば、辻褄合わせができる者がいる方の世界が正解だとわかるんだよ」

「絵羽犯人説にとって19人目犯人説は必要ではないが、絵羽犯人説と辻褄合わせをしている19人目犯人説にとって、絵羽犯人説は必要不可欠だからだな」

「その通り」

 

 真実の犯人が幻想の犯人を生み出すためには、一手余分に手を打たなければならない。

 今回の件では絵羽のアリバイを奪うことだ。

 そのための方法として絵羽による碑文の解明がある。

 そういうことをスイセンは言っているのだろう。

 

「スイセン。犯人はなぜ絵羽が碑文を解くと予想したんだ?」

「それは第一の晩で金蔵が死んだからだよ」

「金蔵が死んだから?」

「金蔵が死ねば、右代宮家の当主は次期当主である蔵臼のものとなる。

 当主になりたかった絵羽が、当主に成れるチャンスは親族会議の間に碑文を解くことしかなかったのよ」

「だから他のゲームとは違い、第三のゲームで絵羽が碑文を解いたのか」

「無論、絵羽を追い詰めたとは言え、確実に碑文を解くとは限らないよ。

 だけど犯人は……いや、物語の書き手はそう期待していたからそういう物語を紡いだわけだね」

 

 確かに絵羽が金蔵の死を観測したのは第三のゲームのみだ。

 だから蔵臼が当主にさせないために本気で碑文を解いた?

 

「じゃあ、絵羽が隠し黄金を発見するためにゲストハウスを出たのに合わせて楼座たちを殺すことができたんだ?」

「それは使い魔の出番さ。

 第三のゲームだけに起こったことと言えば、消えた真里亞の薔薇をベアトリーチェが蘇らせて印を付けたこともそうだろう?

 あの時に翌日薔薇庭園で会う約束をしていたとしたら?

 例えば、絵羽と秀吉が部屋に引っ込んで暫くして薔薇を見に行きたいと訴えろ、とか」

「……真里亞がタイミングを見計らって薔薇庭園に行ったと?」

「真里亞は便利な使い魔だよ。約束さえすればそれを律義に守ろうとする」

 

 使い魔。真里亞はそういう駒だと?

 

「なら真里亞の薔薇を蘇らせた魔法は?」

「そんな魔法なんて現実にあるわけない。異なる薔薇に印を付けて、真里亞に蘇ったのだと信じさせただけだよ」

「ではどのように楼座たちを殺したんだ?」

「おそらく真里亞たちが印を付けた薔薇のところに来たのを確認して犯人は登場したのだろう。

 楼座は現れたのが自分が死なせてしまったベアトリーチェだったことで驚いたにちがいない」

「待て。九羽鳥庵のベアトリーチェは死んでいるはずだろう?」

「間違いなく死んでいるだろうね。だから現れた人物は別人だよ。

 ……そもそも20年近く前に一度会ったきりの相手の容姿を正確に覚えているわけがないじゃない」

 

 確かにその通りだ。

 一度会っただけなら容姿はあいまいだろう。

 金髪でドレスを着ていたという特徴くらいしか覚えていないのではなかろうか。

 

「そこに金蔵がこれがベアトリーチェだと言って肖像画を掲げれば、それが自分が死なせてしまったベアトリーチェであると信じてしまってもしかたないでしょう?

 そして肖像画に描かれていたのは19人目の犯人だったってこと」

「どうして19人目は肖像画に描かれたんだ?」

「共犯は金蔵だよ。金蔵が19人目をモデルに描かせたんだろうね。

 ……いや、大枠は金蔵が思い描いていただろうから、肖像画に関しては金蔵は主犯と言うべきか」

「どういうことだ?」

「第二のゲームの来客ベアトリーチェがベアトリーチェだと扱われるのは、肖像画と同じ容姿だからだよね。

 つまり、来客ベアトリーチェという駒を盤面に置くには、2年前に肖像画という布石を置く必要があるの」

 

 肖像画が先にあり、それに似せて変装したのか。

 それとも人物が先にあり、それをベアトリーチェの肖像画にしたのか。

 金蔵が共犯であれば、後者の可能性が出てくる。

 ……いや、後者の方が自然であるように思えてくる。

 

「そして、肖像画と碑文が同時に設置したことを考えれば、碑文の見立て殺人をするための布石として碑文を設置したと考えられる。

 ……さらにその考えを推し進めていけば、そもそも碑文の内容自体は碑文の仕掛けを作った時には作られていたことになるから、極論すれば屋敷を作った時には碑文の見立て殺人のことを計画していた可能性すら見えてくるの」

「……いや、まさか。そんなことがあり得るのか……?」

 

 屋敷を建てた時からとなると、六軒島を購入したのもそういう理由からということになる。

 金蔵が六軒島を購入して男の夢を実現したというのであれば、碑文の儀式によるベアトリーチェを蘇らせる、もといベアトリーチェを召喚することこそが金蔵の夢であり、それを実現するために六軒島を購入したということだ。

 

「……金蔵ならやりかねないとでも言うつもりか?」

「その通りだよ。金蔵ならやりかねないだろう?」

 

 孤島の殺人事件のために島を購入し、碑文の見立て殺人のために碑文で黄金の隠し場所を作った。

 いかにもな金持ちの遺産相続問題に、使用人との身分違いの恋。

 隠し子に19年前の赤子。

 期待した偶然を無数に積み上げて出来上がった舞台。

 その舞台で無限の惨劇のカケラを生成する悪魔のルーレット。

 ただそれらが無限の魔女を召喚するためだったとするならば――。

 

「金蔵は生涯をかけて実現させようとするんじゃないかな。

 ……まあ、この辺は好みだよ。どこまで許容できるかのね。

 とりあえず今回は、楼座に肖像画の人物を九羽鳥庵のベアトリーチェだと思い込ませる程度まで許容してくれればそれでいいよ」

「…………まあ、そのくらいなら許容範囲だ」

 

 金蔵が六軒島購入から仕組んでいたのに比べれば。

 

「話を戻そうか。

 楼座から見れば、薔薇庭園に現れた19人目は九羽鳥庵のベアトリーチェに見えた。

 楼座は驚愕したことに違いない。

 その際に、実は死んでいなかったとか、死んで蘇ったとか、何か言ったのかもしれない。

 楼座のことを恨んではいないだとか、赦すだとか言って再会を喜び、抱擁を交わそうとしたのではなかろうか。

 罪悪感を抱いていた楼座はそれを拒めなかった。

 そして、抱擁するふりをして、足でも刈って柵に突き刺さるように押し倒すように殺害したんじゃないかな。

 その後に真里亞を素手で絞殺した」

 

 九羽鳥庵のベアトリーチェ。肖像画。楼座の罪の告白。

 第三のゲームで明かされたヒントを繋ぎ合わせて、スイレンはまるで見てきたかのように語った。

 

「なぜ犯人は武器を使わなかったんだ?

 使った方がもっと簡単に殺せただろうに」

「じゃあ楼座たちが銃殺されていたというIFを仮定しよう。

 そうしたらその後の展開はどうなっていた?

 銃を持っている犯人がいるゲストハウスの外に出ようとするだろうか?」

「犯人が素手だからこそ、銃を持っている生存者たちが外に出ることができたと言いたいんだな」

「その通り。銃を持っていたとしても、犯人も銃を所持しているなら安易にゲストハウスの外に出ることはできなかったことだろう」

 

 犯人が楼座の持っていた銃を放っておいたのもそれが理由なのだろう。

 

「理由はもう1つ。内部犯を疑わせるためでもあるよ」

「銃を持っていた楼座が素手の犯人に殺されたのは顔見知りの犯行だからだな」

「その通り。霧江がこの後に絵羽の犯行を疑いアリバイ工作した秀吉を問い詰めるためにゲストハウスの外に出ることになる。

 それを期待していた犯人は、そのために内部犯を疑わせるように素手で殺害したんだよ」

 

 島の中にいる人物で楼座の顔見知りは、18人と九羽鳥庵のベアトリーチェ。

 だが九羽鳥庵のベアトリーチェは死んでいる。

 なら19人目が犯人だとしたら、九羽鳥庵のベアトリーチェだと誤認させればいい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()ものなのだ。




TIPS:ベアトリーチェの襲名

 絵羽犯人説によってベアトリーチェから絵羽に受け継がれることが注目されるが、私はワルギリアからベアトリーチェに受け継がれた方に着目した。

 即ち、九羽鳥庵のベアトリーチェから19人目の犯人に、ベアトリーチェの名が受け継がれた可能性だ。

 19人目の候補として九羽鳥庵のベアトリーチェが置かれ、すぐさますでに死亡しているとして取り除かれてしまったが、それを受け継ぐ者さえいれば19人目の駒は維持できるのである。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。