Mirror of the golden witch   作:フラット・ホームズ

17 / 17
存在しない人間

「ついに出題編最後となるエピソード4をやるよ」

「やっと第1から第3のゲームのお預けされた部分をやるんだな」

「ええ。待たせたね。話す順番はどうしようか?」

「だったら戦人とベアトリーチェの議論を追う形で頼む」

「わかった。じゃあ最初は戦人の青き真実から」

 

 右代宮金蔵はすでに死亡している! よって島の本当の人数は17人! そこに未知の人物Xが加わることで18人となっている。この人物Xの存在の仮定によって、17人全員にアリバイがあっても犯行は可能になる。これにより、人間の数18人を満たしつつ、にもかかわらず、一見、18人全員にアリバイがあっても、犯人Xの存在と犯行は可能になる!!

 

「これには言うことはないね。第3のゲームの南條殺害の赤き真実を潜り抜ける2つの内の1つであり、私の19人目犯人説に沿うものだよ」

「1ラウンド目の第1のゲームはこれで突破だな」

「続いて第2のゲーム」

 

 マスターキー全ては楼座が管理した!

 楼座叔母さんは犯人Xに何らかの方法で鍵を渡し、密室殺人を幇助した! そしてその後、同様の方法で鍵を回収したんだ!

 

「戦人の攻撃は雑で困る。安易に共犯者を増やすのはいただけないね。

 全てのマスターキーを楼座が管理したのであれば、逆に言えば、楼座が管理する前であればマスターキーを自由に使えたということ。

 考えるべきはどうやってマスターキーをすり替えて、その鍵をその後、楼座の管理下に移動させたのかよ」

「嘉音のマスターキーを貴賓室の鍵とすり替えることで、源次にマスターキーだと虚言で庇ってもらったというヤツだな。

 その後、譲治の死体から夏妃の鍵だと誤認させることで楼座に回収してもらったんだったな」

「ええ。そうよ。

 続けて第3のゲーム。連鎖密室」

 

 絵羽伯母さんを犯人に仮定することで説明可能だ。

 

「戦人のこの推理もいただけない。

 19人目を犯人だと想定したなら、全ての事件をできるだけ19人目が犯人で説明しないとね」

「連鎖密室は、最後の礼拝堂に置かれた封筒の中身が、客間の鍵と他の個別の鍵がすり替えられていたというトリックだな。

 その鍵だけ使用されずに確認できていなかったことが根拠だった」

 

 南條先生殺しも18人目の未知の人物Xで説明可能。

 

「これには言うことはないね。

 次はゲストハウスから譲治がいなくなったことだ」

 

 譲治はゲストハウスの階段を降りてはおらぬ。

 外部へ通ずる窓も扉も全て内側より施錠されていたぞ。しかもそれらの施錠は全て、外側からは不可能!

 ならば譲治の兄貴が窓より脱出後、誰かがそれを施錠すればいい!

 

「問題は誰が窓の鍵を施錠したかよ。

 玄関の鍵であれば、蔵臼たちが隠し黄金を見付けに行った際に絵羽が施錠したでしょうけど、絵羽には窓が開いていたことは知らなかっただろうしね」

「エピソード3で話を保留にしていたのはこれだな」

「ええ、そうよ。譲治が窓から出た以上、誰かがそれを中から施錠しなければならない。

 それも誰かが偶然気が付いて気紛れで施錠したとかじゃなく、必然的に、ゲストハウスを密室にすることを目的として施錠するものじゃなくては」

「ゲストハウスの密室は、外部犯を否定するためのもの。

 だから外部犯が意図した形で施錠されなければならないわけだな」

「その通り。だから窓を施錠したのは犯人である19人目本人である可能性が出てくる」

「おいおい、外部犯は施錠できないんじゃなかったのか?」

「ゲストハウスの玄関は絵羽が施錠してくれる。

 だから蔵臼たちが内緒でこっそりと外に出て、絵羽が玄関を施錠するまでの間、外部犯がゲストハウスの中に入り込むことが可能なのよ」

「…………馬鹿な。だとすると、譲治の前に現れたベアトリーチェは……」

「ええ。幻覚でも幻想描写でもなく、現実の人間として現れた可能性がある」

「大胆不敵過ぎるだろう……」

「私から見ても、ここが一番の綱渡りだったと思うよ。

 譲治が叫んだりしたら一発でアウトだったのだからね。

 ……でも、譲治の精神状態はベアトリーチェという魔女を受け入れたいという状態だった。

 紗音が蘇らせることができるなら、魔法を信じるという。

 その辺は戦人たちとの会話でそのような心境になると期待していたのだろうね」

「現実の事件じゃなく、紙面上に描かれた事件だからこそだな。

 執筆者が思い描いたとおりのことが、物語として描かれるわけだ」

「これで譲治を紗音のもとに誘導することもできるから、譲治を客間で殺害することが可能だったと言えるでしょうね」

「一応納得した。最後は第4のゲームだな」

 

 親族会議に居合わせた全員が、金蔵の存在を認めた!

 その祖父さまは別人の替え玉だ。親族たちが祖父さまと見間違えた別人だ!

 全ての人物は右代宮金蔵を見間違わない。いかなる変装であったとしても、右代宮金蔵を見間違わない!

 お前は第1のゲーム時では、5本以上存在することになっていたマスターキーの本数を、第2のゲーム時に赤き真実で5本と宣言することで、以後のゲームの設定変更を行なっている。同じことで、第4のゲームにおいて、金蔵の生死の設定が変更されている可能性がある。

 よって、第4のゲームの金蔵の存在をもって、それ以前のゲームでの金蔵の存在を証明することにはならない…! よって、食堂での6人殺しは、祖父さまが自ら執行したと仮定しても何の矛盾も生じない!

 4つのゲーム開始時の金蔵の生死設定は全て同一である。第4のゲームのみ設定が異なることはない…!

 

「私にとって痛手だったのは、ゲーム開始時の金蔵の生死設定は全て同一だということ」

「第3のゲームのみゲーム開始時に金蔵が死んでいると考えていたからだったな」

「そう。……だけど、次の戦人の推理を取っ掛かりにすることでクリアできたの」

 

 金蔵の名は右代宮家当主の称号として引き継がれているという仮説だ! 右代宮金蔵はすでに死んでいる。そして“その名”を誰かが継承した! 全員が承認した!! それにより、“親族会議に居合わせた全員が、金蔵の存在を認めた”!!

 祖父さまの変装をする必要さえもないのさ。一同が新しい“金蔵”を認めたのだから! よって“見間違えるわけもない”!! 以上の仮説が否定されない限りッ、お前が死んでいるという事実はッ、変わらない!!!

 

 右代宮金蔵はすでに死亡しているッ! そうさ、あんたは気の毒だよな、その死体が見つかる場合、いつも丸焼けだ。それは、死後が経過している死体であることを悟られないための工作なのさ!! そしてその名を誰かが受け継いだ!! 以上の仮説で“てめえ”は死亡しているにもかかわらず、“金蔵”は親族会議に登場することが出来るッ!!!

 どうだよ、これでッ、チェックメイトだああぁあああ!!

 

「戦人はベアトリーチェの名前が継承されることをヒントにして、金蔵の名が継承されているという推理を展開した。

 でも、名前の継承は、ベアトリーチェからエヴァにだけじゃなく、ワルギリアからベアトリーチェにという例があるのよ。

 つまり、金蔵の後に金蔵の名を受け継いだ人物があるのであれば、金蔵の前に金蔵という人物がいた可能性だってあるということね」

「本物の金蔵がいて、その金蔵から金蔵の名を受け継いだのが、ボクたちの知る金蔵だと?」

「その通り。これならゲーム開始時の金蔵の生死設定は全て同一だと言えるの」

「なぜなら金蔵は本物の金蔵ではないから、というわけか。

 これなら金蔵が復唱要求“全人物の中で、異なる複数の名前を持つ人物は存在しない”に反論できなかったことも頷ける」

 

 第4のゲームにおける譲治の兄貴と朱志香の死もXが犯人で説明できる!! 地下牢から逃げて殺された5人も、園芸倉庫の2人も、最後の真里亞も! 全て18人目のXで説明できる!! 何もおかしなことはないッ!!

 

「第4のゲームは金蔵が生きていれば、金蔵と19人目のXが犯人で説明できる。

 金蔵が命じたのであれば、皆で狂言殺人を演じるのも無理はない。

 そして、その裏で犯人たちが実際に殺人を犯していたで説明できる。

 死体が二種類、額を撃ち抜かれたものと顔面が片側を破壊されたのがあるのは、犯人2人が別の銃を使っていたというヒントでしょうね」

 

 全ゲームの開始時に金蔵はすでに死んでいる!

 妾はこれまで、この島には19人以上の人間は存在しないと宣言してきた。それを、金蔵の分、1人減らす!!

 この島には18人以上の人間は存在しない!! 以上とはつまり18人目を含めるぞ。つまり、18人目のXは存在しないッ!! これは全ゲームに共通することである!!!

 

「2ラウンド目だね。

 金蔵の死亡は、金蔵の前に金蔵がいたでクリアできる。

 だけど人数制限をクリアするのは至難の業だ。

 こうなると屁理屈しかないだろうね」

「どんな屁理屈だ?」

「“存在しない”と言っているが、“存在しない”の定義は何?

 物理的に肉体が“存在しない”?

 なら死体があったらだめでしょ。

 だったら生きた人間として“存在しない”?

 なら死んだ人間になら可能じゃないの。

 他にも、戸籍が“存在しない”人間は? 認識上“存在しない”人間は?」

「本当にただの屁理屈じゃないか」

「確かベアトリーチェは、“妾は6年前には顕現しておらぬ。そなたと面識など、あろうはずもない。そなたという世界において、存在しないも同じだ。”と言ったはずだよ。

 この定義であれば、面識がない人物は戦人という世界において“存在しない”も同じということになる」

「……認識する世界において、18人目のXは“存在しない”というわけか」

「18人目のXは“存在しない”人間として島の中にいる。屁理屈だけど、これなら18人目のXが存在する余地を僅かなりとも残すことができるの。

 そして金蔵も同様。金蔵は認識上、死亡していることが確定しているから、“存在しない”人間としてゲーム盤上にあることができる」

「……まあいいだろう。それを仮定しなくては話は進まない以上、それを前提に話を聞くしかないからな」

「ありがとう。じゃあ次は再び第1のゲームだね」

 

 最初の園芸倉庫で見つかった親族6人の殺人に不審な点はない! アリバイのない誰にでも犯行は可能だった!!

 

「第一の晩、18人目のXにはアリバイがないから犯行は可能だった」

 

 第二の晩。

 二人は他殺である! 密室構築後に片方を殺害の後に自殺したのではない! また、殺人は執行者、犠牲者が共に同室して行なわれた! 執行者が室外から殺害する手段は存在しない!

 犯人には、アリバイのない人間を想定する。それは死者だ! 最初の6人の死体の中には、顔面粉砕による身元不明死体が含まれる。これが実は偽装死体で、犠牲者のふりをして姿をくらました犯人Xが二人を殺したとの仮説は可能だ! そして犯人は密室殺人構築後、ベッドの下に隠れ、俺たち全員をやり過ごしたんだ!!

 

「死者以外にも“存在しない”という定義を満たす人間なら可能だっただろう」

 

 

 第四の晩。

 全ての生存者にアリバイがある! さらに死者も含めようぞ!! つまり、島の如何なる人間にも死者にも、嘉音は殺せなかった!

 誰にも殺せないなら、自分で殺したということはあるかもな!! なら嘉音くんは自殺かもしれない。

 嘉音は自殺ではない

 嘉音くんは自殺でも他殺でもない理由で死亡したんだ。状況は不明だが事故死というわけさ。

 胸に杭がブチ込まれて死んでしまうような、どのようなドジを踏んで事故死に至ったかについての説明は、悪魔の証明により説明拒否ッ!!

 

「ついでにラムダデルタが追加した赤き真実も加えよう」

 

 嘉音は事故死ではない!

 

「嘉音は他殺でも自殺でもなく事故死でもない。なら残るは死んだふりとなる。

 ……でもこれは誰もが思い付く安易な答えでしょう?

 それしか答えがないなら、そこでチェス盤を引っ繰り返すのよ。

 出題者の立場から考えるの。残りは死んだふりしないのだから、出題者はその答えを取ってもらいたくて仕方がないということ。

 …………出題者が負けたがっているなら説明が付く。

 ……でも、もし、出題者が勝ちたがっているのなら、死んだふりはミスリードだってことになるのよ」

 

 解答者からすれば、壁に穴が見つかればそれを正解だと思い込むことだろう。

 だが出題者からすれば、穴を開けるのはそこを解答者に通り抜けさせるためだ。

 つまり、その穴が正答である可能性と誤答である可能性が重なり合っている。

 よって、穴を見付けた解答者は、その穴がどちらであるかを見極めなければならないのだ。

 

「……残り1つになったのはラムダデルタが事故死を否定したからだろう。

 ならベアトリーチェは事故死だと信じて欲しかったということにならないか?」

「その反論は無駄だってわかっているでしょうに。

 出題者とは物語を書き記した者を言う。

 出題者にとってベアトリーチェもラムダデルタも出題のための駒に過ぎないの。

 よって、ラムダデルタの赤き真実は出題者が出させたものになるのよ」

「……なら、出題者は負けたがっていたんじゃないか?」

「それだとゲームにならない。勝ちと負けが両方存在して初めてゲームになるの。

 ゲームは神聖なもの。それを疑ったらゲームにならない。

 私はベアトリーチェにとっての勝ちの目が存在すると信じている」

「だから必ず死んだふり以外の答えがあると信じているわけか……」

「ええ、その通り」

「……いいだろう。なら死んだふり以外で説明してみせてくれ」

 

 スイセンは18人目のXで説明するだろう。

 だがそのためにどのようなロジックを描くのだろうか。

 

「赤き真実で全ての生存者のアリバイを認め、さらに死者もそこに含めた。

 ……でも、死者のアリバイを認めてどうするの?

 アリバイの有無に関わらず死者なら犯行は不可能であるのは確定でしょ。

 まるで死者が動き回る可能性があるかのようじゃない」

「それは死んだふりをしていた場合を想定しての赤き真実だからだろう」

「ええ。だからつまり、“死者”とは物理的な死者ではなく、認識上の死者のことを指していることになるの。

 そうなると対となる“生存者”も認識上のものとなるよね」

「認識していない生存者も含むのであれば、“生存者”の可能性のみを否定すれば他殺の可能性は全て否定できるわけだしな」

「“生存者”も“死者”も認識上という定義であれば、“存在しない”も認識上のことである可能性が出てくるでしょう?」

 

 確かにその通りだ。

 ロジックは使い回すことができるのだから。

 

「“生存者”のアリバイを認め、そこに“死者”も含め、その上で“島の如何なる人間にも死者にも、嘉音は殺せなかった”と宣言した。

 つまり、“人間=生存者”となる。

 よって、認識上の生存者以外は“人間”ではないことになる。

 “存在しない人間”は“人間”以下の存在。……即ち、“家具”なのよ」

「…………認識上存在しない人間は、魂が1を満たした人間ではないということか」

「生きた人間だろうとも、忘却の深淵に沈んでしまえば存在しなかったことになるのだろうね」

「ニンゲン以下の家具がニンゲンになることを目指してゲームを作ったとなれば、その動機は……」

「推して知るべしだろうね」

 

 ニンゲンだと認められていない者が、自身をニンゲンだと認めさせることが目的……。

 だからこそ、殺して終わりではなく、メッセージボトルを流して謎とした……?

 確かにそれなら動機に説明が付く。

 ……だがそれだけだろうか?

 それだけでは全てを説明できていないような気がする。

 

「以降の第1のゲームは全て“存在しない人間”が犯人で説明が付けられるから省略するよ」

「ああ、そうだな。じゃあ次は第2のゲームだ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。