Mirror of the golden witch   作:フラット・ホームズ

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客観的真実か、主観的真実か。
誰の主観が重要なのか。


無限の主観から何を選び取るのか

「まずは……そう。君の言っていた、衆目の一致から崩していこうかな。

 多少の誤差はあれど1つの真実が衆目の一致を見せた。だからそれが真実だと決まるのだろうか?」

 

 魔女が大仰にそう尋ねてきたので、ボクは答えた。

 

「全員の意見が一致しようと、それが客観的な真実であるとは限らない」

「そう! どれだけの人数で一致しようと、それはあくまで人間の主観でしかない。

 個人の主観を超えて、集団の、社会の真実には成り得ても、客観に昇華することはありえない!」

 

 スイセンの言っていることはこのゲームの前提だ。

 客観的な真実がわからない以上、全ては主観的な真実にしかなりえない。

 主観的な真実しか構築できないのであるならば、このゲームは互いの主観的な真実を争わせるものとなる。

 

「猫箱は閉ざされることで無限を内包できる。視る人によって真実は姿を変える。

 ……それは人の数だけ、主観の数だけ、真実が存在するということ」

「だが全てが真実となるのであれば、全てが真実ではなくなるということと同義。それでは考えるだけ無駄となる。

 ……ならば無限を1つに収束させればいい。全ての人間の意見を一致させることで、もっともらしい真実を作り出すことができる」

 

 全員が信じた嘘は真実となる。

 それがニンゲンの社会というものだ。

 

「そうだね。それがつまり「衆目の一致」だよ。

 ……だけどその考え方は傲慢だ。それは数の暴力によって儚い真実を駆逐するものだよ」

 

 多数決の論理。少数派への差別。異端を駆逐する魔女狩りの業。

 ゆえに魔女は辺境へと追いやられた。

 

「畢竟、衆目の一致した真実が、魔女が抱いた本当の真実であるとは私には思えないんだよ」

「…………。それは君の主観じゃないか」

 

 その思いは理解できなくもない。

 だがそれはただの個人の感想だ。

 多数派に対する反感。または少数派に対する判官贔屓。

 あるいは思想信条の一致や不一致。はたまたただの好悪なのか。

 いずれにせよ個人の感想でしかない。

 ……だが、このゲームは、主観こそが強く反映されるのだ。

 

「うん。これは私の主観に過ぎない。……ただ、戦人も言っていたでしょう?

 “誰でも至れる推理。…それがどうしても納得できねぇ。”って。

 皆の意見が一致しているからといって、私がそれに賛同しなければならないというわけではないと言っているだけさ。」

 

 スイセンは自嘲するようにそう言った。

 だから僕はこう返すことにする。

 

「……どんなに儚い真実だろうと、それを主張することが許されるのが魔女のゲームだろう」

 

 むしろ、このゲームはそのためにあると言える。

 猫箱の外の世界の常識に押しつぶされることなく、どんなに荒唐無稽な真実だろうと存在することが許されるのだから。

 

「…………ありがとう」

 

 気を取り直したようにスイセンはまた口の端を釣り上げて笑った。

 

「スイセン。無限を収束させる「衆目の一致」を否定するなら、真実は無限に向かって拡散することになり、答えはなくなる。それはミステリーの否定になるのでは?」

 

 無限に想像を許すのがファンタジーなら、その無限を収束させるものこそがミステリーである。

 そして誰もが信じた幻想は、真実に昇華する。

 猫箱が閉ざされ答えが明かされぬのであれば、それこそが誰もが納得できるベターな選択だろう。

 

「いいえ。無限を収束させる方法は他にもある」

「それは?」

「無限を殺す1だよ」

「……無限を殺す1?」

「「衆目の一致」とは、無限という数の暴力によって儚き真実である1を圧殺するというもの。

 そしてその「衆目」とは猫箱の外の人間。ゲームの、問題の回答者側のプレイヤーなんだ。

 解答者が無限にいたとしても、出題者側は1人のみ。……それが無限による1の圧殺」

「…………」

 

 出題者が黙っているなら、真実は解答者たちの多数決によって決めることができる。

 スイセンはそれを圧殺と形容したのだろう。

 

「ゲームは解答者と出題者の1対1。

 自分以外の解答者が無限にいようとも、それはただの外野の意見に過ぎない。

 解答者は他の解答者のことを見るのではなく、出題者のことを見るべきなんだ。

 解答者による無限の答えを殺すのは、出題者の提示する1なる答えなんだよ」

「…………出題者」

 

 出題文となる物語を提示して、後は黙っているだけの存在。

 姿を隠し、自らの代理となる駒を送り込んでくる者。

 即ち、Ⅹ。

 

「そう、出題者。客観がないゆえの無限に存在する主観の中で、唯一絶対の主観。

 猫箱の中に無限の真実を放り込むのは解答者たちだ。

 だがそれら無限は有象無象の真実に過ぎない。

 出題者が猫箱に入れた真実こそが真に重要なんだよ。

 ……解答者たちが好き勝手に答えを書いたとしても、それを正解とするのは出題者なんだ。

 だから出題者の意図を探る必要があるんだよ」

「出題者の意図。……チェス盤思考。……魔女の棋譜を探る。…………そういうことか」

 

 それは第1のゲームから繰り返し言われていたこと。

 

「真実が無限にあるならば、何を考えてもいいということで、それは逆に何を基準に考えればいいかわからないということでもある。

 そこを抜け出すには思考の杖が必要になる。

 ……そして私が使うのは「出題者の意図」というわけだね」




TIPS:スイセン

千年を生きる鏡面の魔女。
鏡は真実を映し出すものではあるけれど、左右を反転させて映し出すものでもある。

鏡の中に真実を覗き込もうとしていても、貴方が見ているのは貴方自身の姿なのかもしれない。
つまり私は貴方かもしれないし、貴方は私かもしれない。
わかる?

好きな物は真実と幻想。
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