Mirror of the golden witch   作:フラット・ホームズ

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真実はいつも2つ!


3つ目

 無意味な質問だが、一応訊ねておく。

 

「スイセン。君の指針はわかった。

 だが「衆目の一致」した真実が出題者の用意した真実と一致している可能性は否定できないんじゃないか?」

「確かにそれは否定できないね。

 ……それに私は別段、その真実が出題者の用意したものではないと言っているわけじゃない。

 どちらかというとそれが出題者の用意した真実であるということには賛同する立場なんだよ」

 

 多数派に賛成しながら反対する。実に矛盾した意見だ。

 

「……どういうことだ?」

「つまり、私が言いたいのは、出題者の用意した真実は1つだとは限らないということなの」

「…………出題者は真実を2つ用意したと?」

 

 ミステリーの解は通常1つだ。

 解が2つあるなら、それはアンチミステリーとでも言うべきものだろう。

 それは答えがないから考える意味がないという類のアンチミステリーとは異なる。

 解が1つであるとする通常のミステリーに対するアンチテーゼだ。

 

「客観の真実はただ1つしかないけれど、主観による真実は複数存在し得る。

 閉ざされた猫箱の中では複数の真実が並び立つのだから」

「だがそれは、幻想と真実。魔法説と人間説の2つなのではないのか?」

「いいえ。魔法説は言わば問題文に相当する。

 私が言っているのは人間説による解答が2つあるのではないかということだよ」

「……確かに主観であれば真実は複数並び立つ。

 だがそれは異なる人間が異なる真実を信じているという類のものだろう。

 1人の人間が相反する真実を同時に信じることは不可能なんじゃないか?」

 

 通常、1人の人間が同時に信じることができるのは1つのみだ。

 ……これでは伝わりづらいだろうか。言い直そう。

 1人の人間が同時に観ることができる世界は1つだけだ。

 複数の世界を同時に観ることができる人間はいないのだ。

 もう少し具体的に言おう。

 1つの物語を見て、同時にそこから2つの物語を読むようなもの。

 これが1つの物語から魔法説と人間説の2つの物語を読むのであれば、ベアトリーチェのゲームを潜り抜けてきたものであれば可能だろう。

 だがスイセンが言っているのは、1つの物語から魔法説と2つの人間説の計3つの物語を同時に読んでいるということだ。

 具体的に言えば、ある人物を犯人だと本気で信じて物語を読み進めながら、同時にその人物が犯人ではないと本気で信じて物語を読み進めているのである。

 つまり、右目と左目で別の世界を視ているということ。

 そんなこと、普通の人間には不可能なのだ。

 

「じゃあ1人の人間には1つの真実しか信じることができないとして。

 たとえば異なる人格を別々の人間として数えるのであれば、1人の人間の脳内に複数の人格が宿っていたのなら、1人の脳内で異なる真実を同時に信じることが可能になるのでは?」

「多重人格?」

「そう。脳内に召喚した仮想人格、分割並列思考。即ち、家具。または、駒」

 

 魔女は自らの眷属を作成することがある。

 姿かたちを想像し、性格を決め、会話をする。

 空想上の友達。イマジナリーフレンド。脳内に常駐する仮想人格。分割並列思考。パラレルプロセッサー。

 1つの脳に1つの人格しかない大多数の人間にとって、1つの脳に複数の人格を擁する人間はまさしく異端の魔女だ。

 

「自らの脳内に異なる目的を持つ2つの駒を作成し、それらを脳内のゲーム盤に置く。

 するとその2つの駒はゲーム盤上で争うことになる。

 2つの駒はそれぞれ人間説Aと人間説Bを展開して争うプレイヤーだ。

 そして駒の主は2つの駒を天秤の両端に乗せてバランスを取る調停者となる」

「……天秤のバランスを取るのは、勝敗を決めて敗者となる片方を消さないためだな」

「その通り。並び立つ真実は、いつまでも一緒にあるべきだとは思わないかい?」

 

 両目で視る表裏一体の真実。真実同士の結婚。永遠の結び付き。

 ……寄り添う二人を引き裂くのは、きっと無粋なのだろう。

 

「そうだな。一緒にいられるなら一緒にいるべきだろう。

 ……天秤のバランスを取って駒たちを結び付ける主は、さながら仲人。

 ……縁結びの神様と言ったところか」

「ふふ。どこぞの神様みたいだね」

「………………」

「さて、ミステリーの解が1つであるというのなら、1つの解が提示されたらそこで思考は終わりだよね。

 ……だけどミステリーを遊びつくそうとしたら、もしかしたら他の解も成立するのではないかと遊ぶこともできる。

 ……私は魔女だからね。思考し続けなくては死んでしまう。

 だから自身の魔女の性に則って異なる解を探しているだけなんだ」

 

 猫箱が閉ざされたのは、思考を続けさせるためだろう。

 なら彼女の言い分が正しいのだろうか?

 

「もう1つの異なる世界。

 それはさながら鏡の向こう側の世界。

 鏡に映った何かしらの要素が反転した世界。

 ……仮に名付けるなら『鏡面世界』」

「……それがお前が司っているものなのか? 鏡面の魔女」

「はははははっ。その通り。せいぜい私の暇潰しに付き合ってくれるかしら」




TIPS:どこぞの神様

 某寒村で祀られている神様。
 姿なき観測者。

 争いを調停し、縁結びをするという。
 きっと相反する真実たちの争いも調停し、縁を結び付けてくれるに違いあるまい。
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