Mirror of the golden witch 作:フラット・ホームズ
「さて、続いて第二の晩と行こう。
絵羽夫妻が客室に行くことまで期待したリアクションなら後は流れで説明できるだろう。
絵羽夫妻が客室に向かうのが犯人の期待通りであれば、犯人は客室で待ち伏せることが可能だったということになる」
「犯人は絵羽たちの先回りをしたと?」
「客室の密室はどうやって犯人は密室の外に出たのかが注目されがちだけど、犯人はどうやって客室に入ったのかも地味に難問だったりするんだよ。
絵羽たちは警戒していたから、室内に他人を入れるはずがない。
何よりも男手である秀吉が入浴中に室内に招き入れるのはたとえ共犯者だったとしても絶対にありえない。
例外は家族である譲治くらいだろう」
「中から招き入れられたのではなく、外から無理やりチェーンを切って押し入った……というのは言うだけ無意味か」
「まあね。それができるのは使用人たちだけで、そんな安易な推理はチェス盤思考の観点から否定したいところだ。
私としては絵羽たちが完全に無防備な状態で殺されたことを根拠に、犯人が室内に隠れ潜んでいたと主張しよう」
「秀吉が入浴していて絵羽がベッドで寝ているというタイミングを見計るのは、室内にいなければほぼ不可能だからだな。
だが犯人はどこに隠れていたというんだ?」
「それについてのヒントはすでに示されているよ。
密室内に誰もいないと思わせるために金蔵がベッドの下に隠れたのではないかと戦人が推理したじゃないか」
戦人は一度書斎の密室脱出トリックとしてベッドの下に隠れてやりすごすというものを提示している。
なら他の密室で同じ方法が使われた可能性は否定できない。
手掛かりとしてちゃんと提示されている以上、フェアな推理とさえ言える。
「……犯人はベッドの下に隠れ潜んで待っていた」
「秀吉が入浴して絵羽が一人でベッドで寝転がっているのを見計らって犯人はベッドの下から出て、まずはベッドの上の絵羽を射殺。
続いてバスルームにいる秀吉を射殺したんだ。
そしてベッドで寝ている絵羽に靴を履かせた」
絵羽が履いていた靴は発見者である嘉音も疑問に思っていたことだ。
「……偽装工作だと?」
「そうだよ。絵羽が靴を脱いでいたら、ベッドで寝ているところを殺されたことがわかってしまうじゃないか。
犯人が外から入室したと思わせるためには、絵羽は靴を履いて扉を中から開かねばならないからね。
……そもそも浴槽内とベッドの上で死んでいたという状態自体が不自然なんだよ」
絵羽が扉を開けて犯人を招き入れたなら、絵羽は扉付近で殺されているはずだ。
すぐに殺さなかったとしても、絵羽は部屋の奥に逃げるはずである。ベッドに寝転がるはずもない。
絵羽を脅してベッドに寝転がせたとしても、その間秀吉は何をしていたのかということになる。
絵羽がベッドで寝転がっていた時に部屋に無理やり押し入ったとしても、鍵を開け、チェーンを切断している間に、絵羽も起き上がっているはずである。
「それを先回りして部屋の中に隠れ潜んでいたことで説明したと。
……いいだろう。なら密室脱出はどう説明する?」
「同じだよ。ベッドの下でやり過ごせばいい」
「……確かに客室の中は調べてないしな。その可能性は否定できない」
「それに根拠もある。最初に密室となった客室に訪れた時、チェーンを破れなかったから犯人が中にいる可能性があった。
でも次に客室に来た時には魔法陣が出現していた。
魔法陣は部屋の外側に描かれていた以上、犯人が部屋の中に隠れていたとしても一度部屋の外に出たことになる。
その後、まさか密室を一度出た犯人がまた逃げ場のない密室に戻るとは思わないだろう」
「……つまり、魔法陣を描いたのは密室の中にいないというアピールだと?」
「その通り。客室はチェーンによる物質的な密室であると同時に、心理的な密室でもあったんだよ」
あのタイミングで魔法陣を描くのは無駄な一手だ。
魔法陣をアピールするだけなら最初から描いておけばいいだけなのだから。
そこにミステリーとしての意味があるとすれば、あのタイミングでアピールするだけの意味が何かしらあることになる。
スイセンの説はそれをとりあえず説明するものとしてはありかもしれない。
「じゃあ、もはや些細な点だけど、短い時間で魔法陣を描いた方法は?」
「型紙を使ったか。もしくは描き慣れていたからだろう。
……個人的には後者だと思っているけどね。一応手掛かりがあるし」
「手掛かり?」
「魔法陣を描き慣れていた真里亞は、ノートにさらさらと魔法陣を描いてみせたじゃないか」
「まぁ、ありえなくはないか……」
TIPS:絵羽の履いている靴
ベッドの上で死んでいる絵羽が靴を履いていた。
第1のゲームの第二の晩における最も不自然なポイント。
であるにも関わらず割と無視されがち。