Mirror of the golden witch 作:フラット・ホームズ
これを議論できるのはEP3くらいまでなので、存在する派はそこまでできちんと自分の中で結論を出さなくては、EP4以降を戦っていくことはできない。
「次は地下ボイラー室だね。
生存者たちが客室から出るまで犯人はそこに隠れていたということは、生存者たちが客室から足し去った後に犯人は地下ボイラー室に向かったことになる。
客室の扉か窓かのどちらか。
廊下に生存者たちがいるとなると窓から出た可能性が高い。
2階なので気を付ければ飛び降りることはできるだろう」
「ぶら下がればそれだけ地面までの距離を縮められるし、ロープを使えばもっと安全に降りられるし。
2階の窓から出るのはできそうだな」
「中庭は屋敷の色々な所に繋がっているから生存者に見つからずに中庭から地下ボイラー室に先回りすることが可能だろうね」
「そして焦げた匂いで使用人を呼び寄せ、タイミングを見計らって扉を閉めた音で誘導したわけだ」
「あとは銃で嘉音の胸を撃ち、血溜まりに杭を投げ入れれば、胸に刺さった杭が抜かれたと思わせることができるよ」
「嘉音が先行するというのは、若者と体の節々が痛む視老人だと階段を降りる際にスピードで差がつくのと、両者の性格を把握した上でそれを期待したからだな」
「その通りだよ」
嘉音殺害については、犯人が客室の密室に閉じ籠っていたところからスタートするので、流れを想像するのは容易い。
「じゃあ金蔵の死体はどうだ。金蔵は犯人側だったんじゃないのか?」
「金蔵の言動を見ていればわかるだろう?
金蔵はルーレットに従い、自ら殺されに来たんだよ」
「……金蔵ならやりかねないな」
金蔵はある種の狂人だ。
自らの死すらも計算に入れた殺人計画くらいは実行できるだろう。
「まあとりあえず、犯人は金蔵の他にもう1人共犯がいて、後の犯行はそのもう1人が担っていたということになる」
碑文の儀式が金蔵の思惑で起こされたもので、死んだ金蔵よりそれを受け継いだ者がいるのではというのは、戦人が思考していたものだ。
「そのもう1人の犯人というのは誰なんだ?」
「まず犯人は客室に隠れていた時に登場した生存者たち、子供4人に夏妃、使用人の源次と嘉音と熊沢、医師の南條を除外。客室で死んでいた絵羽と秀吉も除外。
地下ボイラー室で焼かれている金蔵も除外。
よって残る容疑者は第一の晩の犠牲者である6人。……それと19人目だね」
「……19人目も勘定にいれるのか?」
「議論のまな板に乗せられている以上、外すことはできないだろう?
それに第一の晩の犠牲者が身代わりの死体を用意する場合、19人目の肉体は必要になるわけだし。
死体の経過時間が他と違い過ぎたら発覚しかねないから、19人目は生きたまま島に上陸していなければならないからね。
よってその場合は島には19人いたことになるわけだから、それならもう19人目が犯人の方が手っ取り早いだろう。
……ま、これは戯言だけどね」
一息吐いてからスイセンは再び喋り出した。
「私が19人目の根拠にするのは、ベアトリーチェの手紙とそれに対する霧江の結論だよ」
「確か……、19人目がいるなら完全に隠れ潜むことができるのに、なぜか真里亞の前だけに姿を現し、それでいて他の人間の前には姿を現さない。
そこからチェス盤を引っ繰り返して、ベアトリーチェは18人の中にいると結論付けた」
「姿を隠したい人物ならアピールするわけがなく、姿を現したい人物なら手紙なんて遠回しをするわけがない。
……これって第一の晩と同じだよね?
死体を隠したいなら魔法陣でアピールするわけがなく、死体をアピールしたいなら中途半端に隠すわけがない」
「……確かに、どちらも0か1かのはずなのに、小数点以下になっている」
「真実を完全に隠したいのであればメッセージボトルでアピールするわけがなく、答えを完全に明かしたいのであればメッセージボトルなんて遠回しをするわけがない」
「……とすると、0とは謎を提示しないことで、1とは答えを明かすこと。
……なら小数点以下の中途半端な状態は、猫箱の中で曖昧となっている真実になる」
「19人目は、18人と19人の間、その小数点以下の曖昧な状態の中にいる。
……いいや、そこにしか生きられない」
もし犯人がスイセンの言う通り、真実が曖昧となる0と1の狭間こそを居場所と定めているのであれば、犯人はそこから決して出ることはない。
自身の存在を猫箱に閉ざして物語を終えるのだろう。
「第一の晩が死体を隠すのとアピールするの中間になったのは、それに対して期待したリアクションを返してもらうためだった。
なら手紙の方も同様である可能性が高い」
「期待したリアクション……霧江の結論がそれだったと?」
「そうだよ。そもそも19人目をアピールした人物が18人の中にいるって推理は誰にでも至れる普通の推理だよね?
要は出題者が解答者をどのレベルだと想定しているかと言う話。
19人目をアピールする手紙を見たらそのまま19人目がいると鵜呑みにするレベルだと思われているのか、それとも18人の中にそのアピールをした人物がいるとあたりをつけられるレベルだと思われているのか。
出題者はどのレベルを想定して謎を作っているのかな?」
「19人目を鵜呑みにするのが安易なら、18人の中にいる。18人の中にいるという推理が安易なら、19人目がいる。……そう言いたいんだな」
「わかっているじゃない。これは対戦ゲーム。向かいには必ず対戦者が座っている。
解答者がチェス盤思考を使うなら、当然出題者だってチェス盤思考を使う。
その証拠に出題者が描いた物語の中に「チェス盤思考」が描かれているの。
出題者は解答者が推理することを前提に謎を作成している。
つまり、探偵の推理を筋書きに組み込んだ謎に仕上がっているんだよ」
「18人の中に手紙を出した人物がいるという推理がされることを前提として手紙が出されているなら、……それを上回る答えがある、と」
「出題者が解答者にどの程度を期待していたのか。
これを反対側から見ると、解答者は出題者にどの程度を期待するのか、というものになる。
……私は霧江がした推理を答えとする程度の出題者だとは思いたくないのよ。
私はそれ以上を期待している」
ベアトリーチェは100人中、99人が辿り着く物語と、1人しか辿り着けない物語を切り分けた。
そして、その1人を王子と呼んで待っていた。
ならその逆も言えるのだ。
100人中、99人が至れる物語では満足せず、その程度の物語しか用意しない作者ではなく、それ以上の物語を用意している作者をこそ期待する読者がいるのだと。
そう彼女は言っているのだろう。
TIPS:19人目の未知の人物Ⅹ
基本的にミステリーでは未知の人物が犯人だとアンフェアとなる。
ただし、推理可能な手掛かりがあれば例外的にフェアになるかもしれない。
だが、第1のゲームにおいては食堂で読まれた手紙くらいしか手掛かりとなるものはない。
あえて言うなら顔を損壊された遺体のアピールから、安易に死んだふりを疑わせようとする意図を読み、その逆側に19人目の可能性が浮上するくらいか。
端的に言えば、顔を損壊した死体を多く出すことで、19人目の容疑を薄めていることから、逆に19人目に疑いを持つことが可能。
とは言え、第1のゲームのみだと19人目の存在感は薄い。