Mirror of the golden witch   作:フラット・ホームズ

8 / 17
夏妃の遺体が持っていた銃は夏妃のものか、それとも犯人のものかどっちだろう。


ホールでの決闘と無限の魔法

「じゃあ次はホールでの決闘だ。犯人は夏妃をどうやって一人で来させたんだ?」

「それについてはまず客間での死体発見時の立ち位置から説明しよう。

 あの時の立ち位置は書斎の時と同じだよ。

 子供が前で夏妃が後ろ。子供たちを守るために夏妃な一歩下がって銃を持って見守る立ち位置にいたはず。

 そこからだと子供たちよりも冷静に周りを見渡すことができるわけだけど、部屋の中に手紙が現れるという前例を書斎で経験したことから、夏妃は手紙がないか軽く客間の中を見渡したと考えられる。

 ……つまり、死体と真里亞に釘付けになっている子供たちが気付かず、下がった一から部屋の中を見回した夏妃には気付かれるところに犯人は手紙を置いたはず。

 ……前例を考えればテーブルの上に置いた可能性が高いね」

 

 真里亞を壁際に立たせたのは、戦人たちを壁際に引き寄せるため。

 ひいては室内の大半を死角にするためだったということか。

 

「そして手紙を見た夏妃は決闘を受けて一人でホールに向かったと?」

「そのために金蔵は夏妃の心に片翼の儂を刻んだんだ」

「…………夏妃が決闘を受けることを期待して?」

「そう。目的を与えられた駒はそれに沿って動くことになる」

「……駒? 犯人にとって……いや、出題者にとって夏妃は駒だと?」

「エピソード1はあくまで紙面上に描かれた事件だよ。現実に起こったことじゃない」

 

 現実ではなく、虚構。

 虚構とは人の心が生み出したもの。

 紙面に物語が描かれたならば、その向こう側には人がいるのだ。

 

「駒を紙面上で動かす。それは即ち、棋譜。

 …………シミュレーテッド・リアリティ。それがゲーム盤だと?」

「犯人は頭の中に仮想の現実を作り、そこで自身の犯行のシミュレーションを繰り返した。

 犯人がした期待は、甘い期待程度じゃない。

 深い洞察と予測を積み重ねた末に生み出された限りなく現実に近い世界だ」

「……一手二手先どころか、最後まで読み切るとか人間に可能なこととは思えないけどな」

「人間を超えている。だからこそ魔女ということなんだろう。

 それにベルンカステル卿のご助言からするとそれどころではないよ」

 

 奇跡の魔女、ベルンカステル。

 エピソード1の最後にはベルンカステルからヒントを貰ったんだったか。

 

「確か……一人を百殺す力だったか?」

「1人を百殺すということは、百通りの異なる殺し方をシミュレートするということ。

 期待するリアクションのことも組み込めば、悪魔のルーレットの全てのポケットに対して、期待したリアクションを基にした殺人計画およびその計画が成功した世界を生み出せるということになる。

 ……つまり、ルーレットがどの目を出しても満足する」

「最初から最後まで全て読み切った棋譜をいくつも用意している?

 ……それはもはや人間ではないな」

 

 無数の棋譜を残したベアトリーチェは、人を超えた存在、即ち魔女である。

 

「話を戻そう。犯人は夏妃の心に片翼の鷲を刻むことで、残された右代宮家を背負い、守るべき右代宮家の子供たちを巻き添えにせず、一人で決闘を受けることを期待していた。

 高潔な夏妃ならそうするとね。だから夏妃の銃を予め空砲にすることができたというわけさ」

「夏妃の銃が空砲だから犯人は夏妃の前に姿を現せたわけだな」

「そして夏妃の銃が空砲であるということは、夏妃が銃を手にした第一の晩の直後にはすでに空砲にされていたということだよ。

 ……つまり、第一の晩の時点で夏妃と決闘することは決まっていたんだ。

 夏妃の空砲こそが、犯人が第1のゲームの棋譜の最初から最後までを読み切っていたという根拠になるのさ」

 

 夏妃に空砲を撃たせることを目的としていたのであれば、確かにそれは最初から目論んでいたことになるだろう。

 

「……でも、決闘の前に夏妃が1発でも銃を撃っていただけで破綻するんじゃないか?」

「ふふ。高潔な夏妃が犯人だと確信もなく銃を撃つわけないじゃないか。

 犯人はそう信じていたんだよ。

 ……逆を言えば、犯人だと確信すれば撃つと信じていたということになるのだけどね

 。犯人は夏妃が必ず空砲を撃つと信じていたのさ」

「…………そしてお前も、犯人が全てを読み切って空砲にしていたと確信しているわけだ」

「犯人の意図を読んだ結論がこれなのだからね。

 犯人の思考、意思、それをこそ私は信じているんだよ」

 

 犯人が誰かを特定するのではなく、犯人の思考を先に特定する、か

 

「先に犯人が誰を特定しようとすると、そいつが犯人だった場合の思考、あいつが犯人だった場合の思考と、その度にブレが生じる」

 

 悪い言い方をすれば、駒たちを犯人としてあてがう度に、犯人という枠に収まるように駒たちの心を歪めていることになる。これでは幾度もゲームを繰り返した後、駒たちの心が最初とどれほど乖離していることか。

 

「だったら先に犯人の思考を特定しておけばブレることのない軸ができる。

 その軸を基に無限のゲームを戦っていこうってことだな」

「ふふ。……くっくっくっ。あっはははははっはははは!

 その通りだよ! 何と言っても相手は、あらゆる偶然に対応する策を用意して無限を生み出し、その全てに満足するという化け物だよ!

 続くゲームで手を変え品を変えこちらの推理を否定してくるだろうことは十分予測できる!

 なら、強く確信するレベルにまで推理を固めるのは当然のことだろう?

 少し揺さぶられたくらいで意見を翻すようじゃあ翻弄されて負けるのは目に見えているんだからさ!」

 

 スイセンの目には、スイセンが想像する「無限の魔女」が見えているのだろう。

 スイセンはそれと本気で戦うとしているのだ。

 ……思えば、本気でゲームができないのは、対戦相手が誰だか分からないからではないだろうか。

 対戦相手の姿かたちも、思考もわからない。

 だからどう戦えばいいかわからない。

 戦い方がわからないから本気で戦えない。

 

「ラムダデルタ卿は1人を必ず殺す力を持つ。

 それは絶対の意思が絶対の運命を作り出すことを表したルールだよ。

 そしてベルンカステル卿の力は、0でない限り必ず成就させる力。

 それはどんな小さな可能性だろうと諦めない限り叶えることができるというルール。

 ベルンカステル卿は異なる運命を鑑賞し、それによって運命を形作っている“意思”を読み解く。

 ……であるならば、ラムダデルタ卿の作る“絶対の意思による絶対の運命”は素直で読みやすいものと言える」

 

 スイセンは朗々と魔女たちのルールについて語っている。

 

「……だけど、ベアトリーチェの“無限”は気紛れなる偶然を基盤とする。

 そこには“絶対の意思”は存在しない。前のゲームで拘った殺し方をしたとしても、次のゲームではその拘りを捨てて別のこだわりをみせたりする。

 他にも、複数のゲームで同じ結果を見せた出来事があったとしても、その結果に至る過程が異なっていたりするだろう。

 それは複数のゲームに跨った強い意思がないということ。

 ……それはつまり、複数のカケラを重ね合わせて必然から強い意思を探るベルンカステル卿とは相性が悪いということ」

 

 絶対の運命と、無限のゲーム盤。そして奇跡のカケラ。

 

「サイコロを振った際、ベルンカステル卿には出した目がある。

 言われなかったけど、ラムダデルタ卿にも出したい目がある。

 同じ6の目が出したい者同士だから理解が可能。

 ……だけどベアトリーチェはどの目が出ても満足する。

 そこには強い意思がない。即ち、0しかない」

 

 強い意思がないなら、気紛れだから意思を読むことはできない?

 

「つまり、全てのゲーム盤において必ずこの殺し方をしたいということはない。

 なら殺せればなんでもよかった?」

「いや。殺せればそれでよかったなら、最善手は死体を隠して「起」を起こさないことになるよ。

 さらに言えば、深夜に全員を殺した方がいい。

 わざわざ生存者のリアクションを起こさせる必要はないからね」

 

 リアクションを起こさせないことが最善手。

 ならリアクションを返させようとするのは遊び、即ちゲームとなるのか。

 

「つまり、リアクションを返して欲しかったってこと。

 またこの論点に戻ってきたね。

 戦人はこう思考したことがある。

 “犯人にとっては下手すると、殺すことよりも、あそこに6人の死体を用意する方が意味があったってことになる”と。

 殺しは目的じゃなく手段なんだ。

 死体を見せつけ、事件をアピールし、謎を提示すること。

 それこそが目的だよ。……それも無限に」

「…………犯人は、謎に対してリアクションが欲しかった」

 

 提示した謎に対してリアクションが返されることでゲームとして成立するから。

 

「それもゲーム盤内にいるニンゲンに対してじゃない。

 第1のゲームの事件だけじゃなく、無限に事件を用意しているのであれば、複数のゲーム盤を観測できる存在に対してだね」

「犯人はどうやって複数のゲーム盤をアピールするつもりだったんだ?」

「それについての手掛かりはエピソード1の時点ですでに提示されているじゃないか。

 ……メッセージボトルだよ」

「メッセージボトルが「起」だと?

 ……確かにメッセージボトルが提示されたからこそ、紙面上の事件の謎に挑むことができるようになった。

 ……だがエピソード1の時点でメッセージボトルの執筆者が犯人だと推理できるのか?」

「正直、当時の私には推理できなかったよ。

 ……でも、メッセージボトルの執筆者右代宮真里亞が9歳の真里亞でない可能性さえ思い付いていれば可能だったと思う。

 9歳の子供が自分の死後のことを考えるかな?

 自分が死ぬかもしれないのに悠長に文章を書いていられるとでも?

 しかし他の犠牲者が描いたのであれば、真里亞の名を騙るはずがない。

 であればメッセージボトルを書いたのは犯人で間違いない。メッセージボトルで謎を提示できるのは、謎を作った者のみ。

 ……そして無限に謎を作るのが無限の魔法であるならば、メッセージボトルも無限に作ることができるということ。

 ならば第二のメッセージボトルや第三のメッセージボトルがあっても不思議ではないどころか当然だと言えるの」

「…………この時点でそれが推理可能だった?」

「僅かな手掛かりだけどしっかりと物語の中にはあった。

 殺すことが目的ではなく、それをアピールすることこそが目的かもしれないと、そのようなことが。

 ……流石はベアトリーチェと言ったところだよね」




TIPS:金蔵超先読み説

 うみねこ発売当時、筆者が公式掲示板にて主張していた説の仮の名称。

 金蔵の語った魔法理論、ベルンカステルの助言、先を読んでいなければできないであろう犯行手口。
 それらを混ぜ合わせて生み出した仮説。
 1から10まで全て読み切った棋譜が無限に生み出されることから、「“超”先読み」と名付けた。

 EP1当時は、犯人2人組の内、魔法の思想がどう考えても金蔵の主張が色濃く出ていた為に金蔵が主導していたと考えていたことから「金蔵」の名が冠せられていたが、後に19人目が主犯だと考えるようになって、名と実が乖離する羽目になった。

 標語は、「金蔵ならやりかねない」。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。