アリウスシロオオカミ 作:ふしあな
焼肉
それは万人に愛されるモノである。
なんかボリューミーなモノを食べたい時、とにかく満腹までガッツリと食べたいその時、お腹を空かしたその時に焼ける肉の匂いというのは途端に抗えない魔法になる。
そしてそんな魔法にかけられた少女が一人、デカデカと派手なネオンと電飾を輝かせて佇む店の前に立っていた。……そう、その少女こそ我らがアリウスの猟犬。白狼シロである。普段はピクリとも感情を露わにしない狼耳も、輝く焼肉の二文字に期待する様に忙しなく揺れている。
「………っ。ついた」
ここはゲヘナ某所。派手な喧騒とごった返す人波を掻き分けてシロがその店に着いたのはもう夕方…そろそろ晩飯を考える時間になっていた。道行く人の顔もどこか疲れが混じり、シロの顔もどこか疲労感が拭えない。
それもその筈、最近まではずっとトリニティとアリウスを何度も何度も往復する仕事。それもトリニティには見つかってはいけないという面倒くささを語るには1時間は必要。……だが今はそんな全てを飲み干して、焼肉だけに全集中するとシロは意気揚々と店の戸を開けた。
「いらっしゃいませー」
「ん、ひとり」
開けた瞬間伝わる熱気と活気。そして狼らしく鼻の良いシロに鮮明に浮かび上がる焼けた肉の匂いとイメージ。その瞬間、シロの脳内に抑圧されていた悩み、トリニティの事、辛み、アリウスの事、ヴァニタス……全て粉砕……っ!!
現れたロボットの店員に導かれるままに連れていかれた奥の席は四人がけの広い席。だがそんな事関係ないとばかりに広く腰掛けたシロはそのままの勢いで店員に注文する。
「この……全部食べ放題セット、ドリンクバー付きで…!」
「こちら120分コースですが、大丈夫ですか?」
豪勢に全てのメニューを注文できる食べ放題と、忘れずにドリンクバーも取りシロの準備は完了。既に喉の奥から食わせろ…早く食わせろ…と唾液が絶えずに出てくる。勿論、その欲求に逆らうほどシロは愚かではない。そう、注文用のパッドを手に取ってひたすらに肉を注文していく。
(カルビ…タン…ハラミ…ホルモン…はちのす、こりこり……!)
勿論、焼肉では肉が主役であることは間違いない。
だが、そんな焼肉にも名脇役たちがいる事をもはや語る必要もないだろう。
ツヤツヤに炊かれて白い輝きを迸らせる肉にも、そして肉から垂れたタレと共に食べても美味い主食…米!
肉だけでは口の中が脂っこい?そういう時は口直し。勿論それだけではなく肉と共に食べても美味い…キムチ!
いやいや口直しはキムチだけと思ってしまってはいけませんよ。サッパリと、そしてシャキシャキといくらでも食べられる旨さ…胡瓜!
米に惹かれる様にこいつも現れた。少し火の近くで炙って食うのがこれまた美味い。パリッとした食感と程よい塩味が特徴な…韓国海苔!
そしてやはり忘れてはならない隠れた名脇役。こいつの登場だ。肉と米、そしてこれを付けて食うだけで一味違った美味さを保証する…サンチュ味噌とレタス!
「ん…ありがとうございます」
お茶碗一杯に盛られた白米が届いたのは、肉が届き始めた時とほぼ同時刻だった。
盛りに盛られたカルビ。綺麗に並べられたタン。たれに漬け込まれたハラミ。そしてプルプル震えるホルモンに、白く光るはちのすとこりこり……
もう、シロは止まらない……!
焼肉に、いや一人焼肉にルールは存在しない。目についた奴からひたすら焼き続けて、火の通った肉から引き上げて口の中に運んでいく作業。そこにあるのはただ肉を食うという欲望のみ。いや、それでいいのだ。
(……タンは焼けた。カルビ、ハラミはひっくり返していいかな)
そんな中シロが選んだ手段こそ、満遍なく焼いていくという方法。奇しくも一人という事もあり焼き網を広く使う事が出来る。乱雑にそれでいて肉が重ならず、そしてほとんど同じ量が網に乗って焼かれている肉の姿はシロの粗野な振る舞いの裏にある確かな几帳面さを表しているかのようだ。
ヒクヒクと鼻を小さく鳴らすシロにはどれほど肉が焼けているかというのが匂いで分かる。やはり比較的火が通りやすいタンが焼けるのは早く、すぐにシロの皿に引き上げられていく。
「……いただきます」
両手を厳かに合わせて食材への感謝は忘れない。いうならこれはシロにとって厳格な儀式である。自らの腹を満たすために肉を食うその食事に一切の感謝を欠かす事なくシロはその手に箸を持ち、タンをレモンたれにそっと通す。
勿論、タンが全部浸かるまで通すわけではない。半分ほどたれに漬け、そのまま口の中に通す。その瞬間舌が感じる熱さと旨み、そして良いアクセントとなっているレモンだれの味に思いを寄せる。
(ホルモン系はまだまだ…カルビよし)
程よく焼けたその肉を引き上げる。ここから先は肉と私の対話だ。五感全て……そう考えていたシロの思考は吹っ飛ばされ、真っ白に流された思考は肉を食べるだけの肉食獣になりきる。
そう。その無言、ただ動物の様に肉を貪り続けるだけの時間に会話も長い独白も必要ない。ただひたすらに肉を貪るこの時間に何の理由も必要ない。食べたいから、食べる。食べれるから、食べる。……ただ肉を食うのにこれ以上の理由は必要ない。
「綺麗な食べ方ですわね。シロさん」
「………ん、その声は」
そうする事数十分。背後からシロの席に寄ってくるひとつの影を見た。
尻尾と左側の翼。軍服の様な服装と帽子。その姿にシロは見覚えがあった。
「美食研究会………」
「相席、よろしくて?」
ゲヘナ学園では悪名高き危険組織“美食研究会”その会長である黒舘ハルナが立っていた。どうやらシロに親しげに話しているところを見ると顔見知りの様だが、間違いないのだろう。相席の誘いにシロは小さく頷いた後、端による様に身体を寄せる。
「久しぶりね。シロ」
「シロちゃん会いたかったですよ〜!」
「お久しぶりです〜」
乗り込んできた美食研究会の面々に、シロは嫌な顔ひとつせず抱きついてきたイズミを引き剥がして網の取り替えをオーダーする。そろそろ焦げついた脂が火の勢いを遮るところだったから丁度いい。
やはりゲヘナの店とだけあって美食研究会の危険性をよく知っているのだろう。オドオドと警戒しているロボットにシロがため息混じりに交渉を持ちかける。
「美食研にこの店爆破させない代わりに、相席に伴う諸々の問題片付けて?」
「は、はい。た、た、ただいま上のものと交渉してまいりますぅぅぅぅぅ」
悪名高き店破壊魔として有名な美食研究会を抑える代わりに、相席とそれに伴う時間制限だとか色々の問題を良いようにして欲しいというシロの交渉、もとい脅迫は無事に通ったみたいだ。どうやら店側の判断として美食研に爆破される時の被害そして予想される被害総額と、あくまでシロ1人分がここから食べる量を天秤にかけたら圧倒的に後者の方が、被害が少ないと考えるのはある意味で当然だった。
「おや。ですが私たちが止まるとお思いで?」
「…………めんどくさい押し問答は好まない」
だがそれはあくまでシロの意思。美食研究会は関係ないということでハルナは黒い笑みを浮かべながら先ほどのシロの契約は、実際はただ店を騙したに過ぎないと突き付ける。そんなハルナにシロはまた焼いた肉をジュンコとイズミの皿に乗せながら小さく呟く口調ながらも断固とした意志を込めて返した。
「ほう?その心は?」
「だって貴女は私の…美食を傷付けるつもりは無いから」
迷いない真っ直ぐなシロの眼差し。美食研究会が起こしている騒動も、悪名も知った上で色眼鏡も無いその無垢な眼差しは信頼の証の様に思えると同時に外見に見合わぬ警戒心の無さ、幼さはまるで…と嫌な想像が幾らでも思いつく。
その上で美食研究会はシロにとっての美食というその信念は未だ形には成らず、されど間違いなくシロの中で育ち始めていると分かっている。上質も粗悪も善悪その両方を知り、己の色として刻むことでシロは初めて自分の美食を掲げる事になる。
その美食に私たち、美食研究会がシロを彩る色になるのなら。
きっとそれはひとつの素晴らしい美食の目覚めではないか。
「満点ですわ。シロさん…いいえ、シロ。流石は私の妹」
「ちがう」
感激の涙。いやもはや滂沱と言っても良いほどの涙を流しながらハルナは空を仰ぐ。かつてはただ飢餓を満たす事のみを考えていた料理の味も、美食の心得も知らぬ無垢というにはあまりにも面白みのない少女がここまで自らの色を引き出し、そして遂には美食の二文字に到達しようとしている。
遂には存在しない記憶までも流れ出してハルナはさもシロが自分と生き別れの妹かの様に親しみ、感動するその姿にシロは怯えた様に一言だけ否定の言葉を口にして座っていたソファーの奥の方に逃げるように深く座る。
「こらー!シロちゃんを怖がらせないでよ」
そんなシロの怯える姿を前に、隣に座っていたイズミが目の前のハルナから守る様に抱きつく。どちらかといえばイズミの方がシロの姉貴分として親しんでいる様にも見えるが、それは言わないお約束とばかりに大盛りの白米を口の中に運んでいるアカリとシロが皿に入れた肉を頬張っているジュンコは思っているのだが。
「ですがイズミさん。ここで否が応でも首を縦に振ってくれると早いのは分かっているでしょう?」
「それは重要だけど……怖がらせるのは違う」
あくまでシロが“生き別れの妹”である事が重要なのだと主張するハルナに対して、それは非常に重要なことではあるがシロを混乱させて訳の分からないまま騙し討ちの様にするのは違うとイズミは主張する。
一体なんの話をしているのだろう。そう首を傾げるシロの目の前で白米を大量に乗せた大きなどんぶりから顔をあげてこちらを見ているアカリがいた。どこか面白そうに笑うその顔にシロは首を傾げただろう。
「はい、あーん?」
「………ん、おいしい」
そんなシロの見上げる顔に庇護欲でも沸いたのだろうか。アカリが片手で皿を作りながらシロへと肉を食べさせようと前のめりになったのをそのまま受け入れてシロはまるで親から餌を貰う雛鳥のように口を開けて食べさせてもらった。
「や〜ん♡可愛い……シロちゃん、私の妹になりませんか?」
「アカリの妹になったらシロちゃん太っちゃうわよ!!」
「………失礼。私だって働いてる」
そんな人を疑う素振りのひとつもないシロの可愛さにアカリも魅了されたのかハルナと同じく妹にならないかと結構なガチトーンで聞いた。実は既にゲヘナ学園では知られざる美食研究会の一員として公然の秘密になっている事は内緒である。
そんなゲヘナでのシロの扱いは置いておいて、アカリの暴食を超えた爆食具合を知っている美食研究会の一員はまだハルナの方がマシだと口にする。アカリがあの食事でその体型を維持できているのは毎日風紀委員会に追いかけられている以上に本人の素質が大きいと睨んでいる。そんな中、シロちゃんが妹として同じ量食べ出したら……まあまんまる太った子犬もそれはそれで可愛いけど。
「それはこの前の乱痴気騒ぎの件で、ですか?」
「………仲が悪いと聞いていたんだけど」
明らかにシロが“どこ”の所属で“なに”を知っているか解った上でのハルナの発言。間違いなく、いつぞやかのトリニティでの騒ぎを知っている言い方にシロは肯定も否定もせずに首を傾げる。
「人の口に戸は立てられませんからね。…それに今のネット社会で噂にならないわけがありません」
トリニティで突如発生したクーデター。そしてその主犯であったパテル派首長にしてティーパーティー所属の聖園ミカの逮捕。そんな中、クーデターに参加させられていたとある生徒の保護のための情報。美食研究会として日々情報収集を怠らないハルナたちだからこそ気がついた今回のトリニティの騒ぎとシロの関係。
「ですので、貴方を保護しようと。これがゲヘナ学園の総意です」
そして皮肉な事に日々美食研究会と共にいる姿を見せ、美味しそうなモノであればかの風紀委員長と共に買い食いしたり、かの万魔殿の愛し子と共にプリンを食べている姿だったりと割とゲヘナでシロの扱いというのは本当に公然の秘密であった。
そんな無垢…というより警戒心が皆無な姿と、聞き分けの良いお利口な姿も相俟って例え学籍が無い子であったとしてもゲヘナで引き取る事に割と前向きに進んでいたのだ。そうしてそんな交渉役としての立場を勝ち取ったのが美食研究会であった。
「……とても、嬉しいけど。あの人は裏切れない」
だがシロの答えは否であった。それもそうだろう。割と好き勝手生きてるし、たまに美味しそうな食事に釣られてゲヘナ学園に転校しそうになるが今のシロにはマダムに多大な恩がある。それはあの日、拾ってここまで育てて強くしてくれたという恩。その恩を返すまではシロは忠実なマダムの猟犬だし、命令には必ず従うべきだとシロは野生に似た厳格なまでの主従関係故の服従を芯に据えている。
「…………………」
「………難しい問題ですね〜」
そんなシロの芯を知っているからだろうか。難しそうな顔で、泣き出しそうな顔で美食研究会はシロを見る。本来ならこの子狼はもっと自由で、もっと気高く、そしてもっと誇りを胸に抱いている筈だったのだ。
それを支配という行動で主従という言葉の首輪を掛けて、彼女のあり得たはずの可能性を、成長を全て阻害した。1人の人間を、ひとつの人形にまで貶めた悍ましく、そして自分勝手にシロを塗り替えた何某がいるのだと分かっている。
「そうですわよね。貴方にとっては、親みたいなモノですものね」
それが気に入らない。それが我慢できない。1人のゲヘナ生として、自由と混沌を愛するゲヘナ生として絶対に見殺しにする事など出来ない。ハルナは表面上はシロに同意しながらも、内心は激情に駆られていた。
「けど、いつかは同じ美食の道を選んで貰いますよ」
「……ん。その日が来るのを楽しみにしてる」
「“……やあ、今いいかな”」
トリニティでの一件に一区切り付けた先生は、その足でゲヘナの風紀委員会の所へと向かっていた。案外簡単に風紀委員長である空崎ヒナとアポイントを取れ、先生が委員長室についた時には、そこでヒナがもう待っていた。
「……先生、突然どうしたの?」
「“うん、ちょっと聞きたいことがあってね”」
強い疲れが焼き付いた顔に、どこかその本来ならモフモフしている髪もシナシナに萎びている。これは来る時期間違えたかなと先生も一瞬考えたが、こればかりは口頭で伝えないといけないと手短に口を開く。
トリニティとゲヘナの間に結ばれる条約、エデン条約。それを邪魔しようとする組織がこの度正式に見つかったのだ。その名前はアリウス。かつてトリニティにあった分派のひとつ。本来なら気をつけようで済む話が、アリウスには1人、キヴォトス最上級に位置するであろう特別戦力がいるのだと。
「…なるほど。私、ひいてはトリニティの戦略兵器並み……ね」
「“うん。気をつけてほしいんだ”」
「ちなみに先生、その子の名前は?」
なんというか。今のヒナの内心は嫌な予感がヒシヒシとしているというべきか。いやーまさかね?と脳内でとあるヒナの友人のポケーとした気の抜ける可愛い顔した友人の顔が浮かび上がってきている。うん、偶然のはずだ。その子が謎にトリニティに詳しくて、謎に公式的な学籍を持ってなくて、謎にエデン条約について知っているのは全て偶然……で、あったらいいなぁ……と既にヒナは半分認めていた。
「“その子は……白狼シロ、と名乗っていたよ”」
「…………………………」
うん。まあお察しの通りである。むしろヒナはでしょうねと諦めて机に額を打ちつけた。ここまで条件が揃っていて、逆にヒナの想像していた人では無かったらどうしようかと思ったぐらいだ。…え?て事はつい先日にトリニティで騒ぎ起こしておいて、今日ゲヘナの焼肉食べにきてるの?マジで??とヒナは混乱してしまった。
「“ど、どうしたの!?”」
「……………………先生」
目の前で突然シロの名前を聞いた瞬間、ヒナは力を失ったみたいに机に額をぶつけた姿を見て慌てる。突然どうしたのか狼狽える先生を前にヒナは冷静にシロの対処法を口にする。
「もし敵になったシロと会ったら、焼肉食べ放題奢るからって言ったら手加減してくれるわ」
「“………………????”」
先生の優秀な脳みそが処理落ちした稀有な例である。それもそのはずで先生はシロが戦っている時の冷酷で、まるで捨ててはならないものさえ捨てて戦うかの様な痛々しい姿しか知らない。そんな所にまさかの人から食いしん坊であるというなんとも可愛らしいタレコミが来たのだ。今の先生の脳内は情報が完結しない。
「“えー………っと、知り合い?”」
「誠に遺憾ながらそうね友人よ。……ほらモモトークも」
先生は色々と言いたいことを飲み込んで恐る恐るヒナとシロの関係性を聞く。多分相当シロがゲヘナに来ているということなのだろう。そう考えたらもしかしてトリニティでも上の方に名前を連ねる子たちではなく割と楽しく部活動をしている普通の生徒に聞いたら意外と情報が集められるかもしれないと先生は考えた矢先だった。
ヒナが見せたスマホの画面。キヴォトスで一番使われている連絡アプリであるモモトークの中のひとつのメッセージ欄を開いたそこには確かにシロの顔写真が乗ったアカウントが登録されていた。
「“わァ………あ……”」
「あとちなみにシロは甘いモノも好きよ。キャラメルとか飴玉でも上げたら少しは制御できるわ」
ヒナからスマホを借りてログを遡っていくと、何度もシロが食事に誘っているメッセージがそこにはあった。どうやらヒナが忙しくて行けない日なんかは風紀委員会の手伝いをしているかの様なメッセージも残っている。あとやはりシロコと同じ狼のスタンプを多用しているのが見て取れる。
もう先生の脳みそはボロボロである。戦っている時の姿しか知らないと思ったらオフの時はこうも満喫している姿を見ると、あまりにもオンオフが激しすぎないかと先生は混乱するしか無い。これは某TSCもびっくりの脳破壊である。
「“………でも、シロはまるで命令に従っている様だった”」
「そう。それについても、よ」
アリウスのトップであるマダムその女にシロは絶対服従をしている或いは洗脳か。その危険性を訴えようと口を開いた瞬間だった。それにヒナも気がついているのだろう。
先生も知っているなら巻き込んだほうがいいでしょうしとヒナは鍵を掛けていた机の棚から書類を何枚か出してきて、先生に見せる。どうやらそこに書かれていたのはシロの詳細な情報であった。そこにはまさかのアリウスについての情報まで纏められている。
「“これは…一体どこで!?”」
「少しばかり情報部とツテがあったから、今回の一件は万魔殿も乗り気だったのよ」
マダムと呼ばれているアリウスの生徒会長。どうやら赤いドレス?を着ている事や、アリウスの一番奥にいる事など。少なくともアリウス自治区の場所と、人員。そして使っている武器種や兵力などおおよそ基本的な情報全てが丸裸になっている。
尚、情報部のツテやらなんやら言っているがこれは風紀委員会と万魔殿が組んで密かにシロに盗聴器やGPS発信器を付けたからである。近年、この二組織はいがみ合っていることが殆どだったがこの一件に関しては全力で互いにバックアップしたという歴史的快挙があったことは秘密である。
「“不当に軟禁されているゲヘナ生奪還作戦?”」
「ええ……簡単にいうとシロ奪還作戦よ」
トリニティがアリウス解放作戦を立案中にゲヘナは構わん、潰せ。と言わんばかりにアリウスを一度更地にしてからゲヘナに入る気概があるものを受け入れつつゲヘナ生であるシロは絶対に保護すると言ったエデン条約が締結され次第、
「“え?シロってゲヘナ生なの?”」
「違うけど、そうなのよ」
なぜシロがゲヘナ生なのか。それは少し前にシロをお肉で釣って、愛用のおもちゃ代わりなのか分からないがモフモフだとよくシロが抱きつくヒナとイロハでシロの警戒心を0にして、後はイブキがシロの手を誘導して入学届にサインさせるという卑劣な作戦が成功してしまったからである。
ちなみにその詳細を聞いて先生は額を覆った。何故どうしてこうもゲヘナの子は思い切りが良いのか。自分に素直に生きているからとは言え流石に全速前進過ぎて止まれと言いたくなる。……まあ、悪い様にはなってないから良いけど。
「“………ま、まあ無理だけはしない様にね”」
「ええ、安心して」
ちなみに、余談だがもうゲヘナではシロの学生証の発行も制服の準備も終わらせている。シロが勝手に根回しをしている事になっているから、既にゲヘナ生の多くはシロをゲヘナ生だと思っている節がある。
じゃあ後はあのシロの自由を奪う邪悪なマダムという女を排せば終わりだ。エデン条約の締結さえ終わればトリニティからも戦力が借りられる。潰したアリウス自治区の取り扱いもトリニティに面倒ごとと共に丸投げできる。実は今わりとトリニティのゴタゴタでエデン条約が破棄すれば面倒だからさっさと一丸になれと心から祈っているのがゲヘナ生だとはなんとも皮肉である。
「あの子は風紀委員会が貰うから」
「“………そっか!”」
最初からシロは自分の部下だったんだと澄んだ目をするヒナに流石の先生も何も言えなくなってしまう。なんというかゲヘナの意外な一面を見てしまった先生であった。……いや、でも……うん。アビドスにはなんて説明しようか。先生はこれに気がついた時、久々に胃が痛む音がしたという。
「そう……シロは、私の親友なのよ」
先生が去った委員長室で1人ヒナはスマホに撮ってあるシロとの写真を一枚一枚、撮った場所と時間とどんな事をしていたのか全て脳内で鮮明に再生しながらつぶやいた。
撮った写真はのべ200枚以上。そこにはシロとヒナが同じモノを口に咥えながらピースして撮った写真や、シロがヒナに抱きついたままの写真(加工でシロに尻尾の絵が書かれている)。そして共に抱きつきながら寝ている写真など、全てヒナの美しい思い出だ。
「こっちは…そうね。この時……」
ヒナとシロの出会いは、いつからだろうかといつものようにヒナは会った日の事を思い返す。美食研究会の一員として追いかけていた時?ゲヘナで迷っていたシロを道案内した時?それとも……
『あ、ヒナ。見つけた。一緒に食べよう』
『………私、今パトロール中なんだけど』
ある日の事だった。私はいつものようにパトロールをしていた時のこと。とある店の前にて立ち尽くすシロを見かけた。その時の私のシロの印象は美食研究会に巻き込まれる哀れな生徒だったり、学外からわざわざゲヘナに来ている変わり者だったりした。
そんなシロが私を見かけた途端、手招きして私を呼んだ。そうなってしまっては無視するわけにもいかない。シロの隣に立って張り紙を見るにどうやらこの店の限定メニューは2人かららしい。どうやら私はそれに付き合えとのことらしい。
『奢るから。食べよう?』
『……美食研究会とか、他の人はいないの?』
最近はどうやら万魔殿の戦車長とも一緒にいる姿を見たことがある。そっちを誘えば良いのにどうやら今日は奇跡的に誰とも予定が合わないらしく、シロは今日食べたいのに肝心の一緒に食べてくれる人が居なかったから急遽通りかかった私を呼び止めたらしい。
『……はぁ。少しだけよ』
『ん!やった』
本当にただそれだけという無垢なシロの目に私は毒気が抜けてしまった。全く、警戒するほうがバカらしいと思えるほど純真無垢なその姿はゲヘナでは決して見ることのできないこの子だけの輝きだ。
『……でもどうして私なの?』
『?……だってヒナは』
そうして私たちは店へと入りその限定メニューを頼んだ。ちょっと早い晩御飯だけどたまには良いかと私は納得したのを覚えてる。その時はちょうど非常に忙しかった時期だし、とりあえず食事だけでもとりたかったのかもしれない。
そう、待っている時だった。ふと気になった私はシロにこう聞いた。何故私なのか。きっとシロほどの人懐っこさがあればきっと誰でも捕まえられただろう。だというのにシロはゲヘナで最も恐れられる私を選んだのだ。
『とても優しい人だから、好き』
『……………そう、なの』
頼りになるとはよく聞く。恐れられながらも頼られている、信頼されていることも知っている。けどここまで真っ直ぐとした好意を言葉で、力ではなく私自身を見て好きだと言ってくれた人は居ただろうか。
なるほど。これは確かに美食研究会の面々が気に入っているわけだと疲れからかシナシナになっている髪に生気が宿る。そういえばとよくよく思い出せば戦闘状態でも私から何とかギリギリ逃げ切った上で、先に捕まった美食研究会を救おうと動いたりと実力者でありながらその心は善性である。
『貴方のことを、誤解していたかもしれないわね』
『?』
いや誤解するほどの興味もなかったなとヒナは自嘲しながら目の前のシロの髪を撫でる。狼耳がペタリと撫でやすい様に伏せられながらこちらを見上げる顔さえ愛おしく感じてしまう。
『食べ終えたら、少し手伝ってくれる?代わりにここの代金を払うから』
『んー』
悩ましそうに首を傾げるシロに私はこの時、何がなんとしても風紀委員会に連れて帰りたくてこんな事を言ったのだっけ。簡単にシロの実力と、あとはその素性を知るため。割と欲求に直球そうなシロなら釣れると思った結果があれだった。
『ん、妖怪脚なめられ太郎イオリ』
『待て今なんつった!』
ま、まあ何故かイオリを構いたがるシロという珍しいモノを見れたから良かったものの、2人の相性は非常に良かった。突っ込みたがるイオリとそのバックアップと他の子たちへの手慣れたフォロー。間違いなくあれは率いることに慣れたやり方。それに………だからかしら。アビドスでの一件でイオリがやけにやる気だったのは。いつも答えにくい事を聞かれるのはイオリだものね。
『そうですね。この死体の治療ですが』
『勉強になる。ちなみに先生、ここは』
あとは意外とシロとウマがあったのはセナだった。医療に携わる者として度々シロの事を気にかけていたみたいだけど。いつしかシロはセナに医学を教えてもらう先生と生徒になっていたのには驚いた。どうやらシロもやる気があるみたいで、セナも心なしか楽しそうにしていたわね。
「はぁ、全く何してるのよシロも」
少し前からマコトがなんかやらかしそうなのは察していた。大した被害が起きないか私が鎮圧すれば良いだけの話だから放置していたけど今回のシロの話といいきな臭くなっている。何か大きな事を起こしそうだとヒナは緩やかに動き出した。
「まあ、準備だけはしておこうかしら」
尚、ヒナのこう言った先手、先手打つ態度が余計に仕事を増やしているとは気がついても言ってはならない。
キャラクター解説
種族名:アリウスクウフクシロオオカミ
出現地域:ゲヘナシティ、アリウスシティ
性格:のんき
所持武器:不明
解説:
アリウスシティにて みつかったとされた新種
実はゲヘナシティにも いたことが確認された
食べものに 釣られやすい性格だが、一度決めた主人には絶対に従う
アリウスクウフクオオカミ「うん美味しい!……うぉっちょっとゲヘナに誘惑されるっ!」
ゲヘナシロモップ「……シロはうちの子ですが何か?(ガンギマリ)」
ゲヘナバカマコト「キキキ…別に(アリウスなど)潰してしまって構わんのだろう?」
ゲヘナアカモップ「まあ……シロちゃんはイブキのお気に入りですからね」
先生「いつまで経っても情報が完結しない…」
感想はいい文明、今までもそしてこれからも
貰えるとやる気が湧く良い文明