アリウスシロオオカミ 作:ふしあな
あけおめです。
生きてることが虚しい…みたいな闇深系少女に、美味しいモノ食べてるだけ幸福!一緒に食べよ!と闇深系少女の手を引く光属性の少女に光堕ちして行く闇深系少女が大好物です(突然の性癖展開)
つまり、今回はそういう話
エデン条約・調印式
かのトリニティとゲヘナの間で締結されるエデン条約。近頃はどこもかしこもその話題一色だと、シロはどこか不満げに鼻を鳴らして砂に埋もれて久しい住宅街を抜けて歩いていく。
「ひぃん……辛いですね。苦しいですね……」
「暑い……ヒヨリに姉さんもシロの言ってた通りにすればいいのに」
「いや……だ、いじょ……うぶだ……」
後ろから着いてくる4人の姿と一緒にシロはこの場所…かつては最も栄華を誇っていたとまで言われるアビドスの地について思いを馳せていた。何を隠そう。ここはシロが最初に目を覚ました時に立っていた場所である。だがこんな荒廃した砂漠の中で十分な食料や水が集まることもなく、気がついた時にはもうアリウス自治区の中にいたのだ。
「……………」
「ん、どうしたのアツコ?」
そんな過去へ物思いに耽っていたシロの肩を叩く1人の少女の姿。そう、今日この場へと連れてきたのはシロの同僚であるアリウススクワッドと名付けられた小隊のメンバーである。特にその中でも今シロの肩を叩いた姫…アツコを少しだけシロは護衛していた過去があるから、仲は悪く無いとシロは思っている。
だがそんなアツコはアリウスでは標準装備のガスマスクを付けたままこんな炎天下の砂漠に来ているものだから必死に手話で暑い、取っていい?とシロに訴えている。
「……………」
「……熱中症になる前に取ったら?別に見てる人いないんだし」
もちろんその問いにシロは何故こんな蒸し暑いとわかっている場所でわざわざそんな呼吸を遮って排熱を邪魔するモノを付けているのか甚だ疑問だと言いたげに首を傾げる。シロが護衛していた時はそんなの付けてなかったというのに謎だと言わんばかりの表情に、アツコは迷うことなくガスマスクを外してシロの後ろを歩き出した。
「くっ……そ、んな勝手は……」
「サオリも辛いんだったらマスク外したらいいのに」
だが、勿論そんなマダムの命令に反する様なアツコの行動に反意を表したのはやはりスクワッドのリーダーであるサオリだった。だが、そんなサオリの顔はすでに汗だくでフラフラと力なく歩く姿にシロは当たり前の様に呼吸を遮っている黒マスクを外せばいいのにと口にする。
この集団の中で一番排熱に関しては問題なさそうなサオリのヘソ出しノースリーブだというのに一番辛そうだとシロは首を捻る。わざわざここからは戦いに行くわけじゃ無いと言っているのにサオリだけメイン武器であるアサルトライフルを担いできてるしやはりそこはリーダーとしての心構えなのだろうか、群れは護るけど最低限自分の身は自分で守れ的な思考であるシロにとっては納得しても理解し難いと少しだけ首を横に傾けた。
「………そういうところって姉さん頭硬いよね」
「ですよねー」
「くっ……!ミサキにヒヨリも……!」
だがそんなサオリとは一転変わって、ミサキはいつものパーカーの様な姿ではなくサオリの様な黒のヘソ出しノースリーブに消えかけだがまだ残っている腕の傷を隠すリストバンド、そして護身用のリボルバーだけを左足のガンホルダーに入れてちゃっかりサングラスと日傘装備でフラフラのサオリを見る。
もちろんその隣でサングラスだけを付けたヒヨリが同じ様にサオリを見る。そんなヒヨリの服装も袖が折られて半袖になっているし何故かメイン武器であるスナイパーライフルだけ置いてきて、雑貨が入っているリュックの中に護身用武器を入れて持ってきている。
この2人だけを切り取ってみると本当にただの観光客にしか見えない。まあ確かに虚しいことには虚しいが、それでもこうして妹分が塞ぎ込んでいるよりは良いかとサオリは“この考え”の脆さを教えてくれたシロに少しだけ感謝……しつつも、尚更自由人になった姫やミサキなどを見てやっぱり(感謝の気持ちは)幻覚だったと首を横に振る。
「ん、そういえば日焼け止め大丈夫?汗で落ちるよ」
「………ああ、助かる」
そうこうして砂山を越えて歩いているとふと突然後ろを振り返って、遅れているサオリにシロは手を貸した。ここに来る前にシロは全員に抱きついて日焼け止めを塗りたくって来たが、それでもここまで汗をかいていたら効果も落ちるだろうとビルの日陰で全員で腰を下ろして、日焼け止めを塗った。
「……く、くすぐった……!」
「ん、我慢して。シミはできたく無いでしょ?」
その中でもよく鳴くのがミサキだとシロはふと自分でも気が付かぬ嗜虐心に身を任せてミサキの腕を、太腿を、お臍を手当たり次第に日焼け止めと共に撫でていく。ミサキは肌が敏感なのか特に良い声を上げてくれるとシロは耳さえもゆらしながらミサキを撫でていく。ちなみにミサキの次に反応がいいのはサオリであることは内緒だ。
「はわわ………」
「………ふふっエッ、だね」
「姫!?」
そんなイチャネチョ(日焼け止め)…を目の当たりにしたヒヨリは顔を赤くし目を両手で塞ぐ様にしているが、指と指の間からガン見していることに関しては触れないでおこう。そうしてその隣では、アツコが両手で親指と人差し指で丸を作って、その丸を重ね合わせているのは気のせいだろう。
「ん……じゃあ行こう」
「……ああ、そうしようか」
では、ここでシロとアリウススクワッドたちは何故アビドスを歩いているのだろうか。
それは、もちろんその名目は明日に迫ったエデン条約・調印式での調印の奪取、並びに〈戒律の守護者〉を手に入れるためにアリウスは調印式を襲う。その作戦の主軸となるのがこのアリウススクワッドたちであるためシロはその明日のための激励会を行うということで、わざわざアビドスの辺境にあるラーメン屋。【柴関ラーメン】を目指して歩いているのだ。
「………着いたここ」
「こ、こが……」
「ひえぇぇぇ、大きい店ですねぇ……」
砂漠を抜けて、住宅街を抜けてたどり着く先は、大きく店の上に【柴関ラーメン】と書いてある文字と共にある店主らしい顔の絵を前にアリウススクワッドだけでなくシロも立ち尽くす。
ちなみにこの店を選んだのは、この前のゲヘナの友人であるカヨコからおすすめだと教えられたからである。アビドスといえば少し前話題になっていたシャーレの先生が活躍したのだと黒服のおじさんが楽しそうにしていたのを思い出した。
…まあ今考えることでも無いか、とシロは立ち尽くすスクワッドたちの背中を押してその暖簾の奥に入る。
「いらっしゃいま……せ?え゛、シロコ先輩?」
「ん、5人」
どうやら店員らしい黒髪猫耳の生徒。おそらくアツコと同じ一年生らしい子がシロたちを席に案内する。ラーメン屋というだけあって豚骨の匂いが濃いのかと思ったが、キチンとその辺り対策をしているのも好印象だとシロは出て来たおしぼりと冷たい水を飲んで、店への評価を上向きに修正する。
「え、えー…っとご注文をお聞き、しま…す?」
「…………任せる」
「えへへ、お腹いっぱい食べたいですねぇ……」
何故かそんな店員はシロの顔を見てなにか言いたげだが、そもそもが図太いシロはなんかこっちチラチラ見てるな〜としか気が付かない。そしてそれよりシロにとっての問題はあまりにも俗世に慣れておらず、無料サービスの水で感激しているスクワッドたちをどうにかしないといけない。特にサオリ。
とりあえずメニュー表を見せても何が何だか分からないアツコとミサキはシロと同じのにしようとしているし、ヒヨリは満腹になるまで食べたいというある意味この中で一番わかりやすい反応をしているが、その中でもサオリはまだ処理落ちしている。これではどうしようもないとシロは口を開いた。
「ん…じゃあこの柴関ラーメン大盛りを5つ」
「は、はい!柴関ラーメン大盛り5つ、ですね!少々お待ちくださーい!」
最悪アツコたちが食べきれなくてもここにはヒヨリもシロもいる。食べ切れるだろうという判断に、渋々ながら納得して待つこと数分。5人の前に配られた白い深皿の中で湯気を立てているその香ばしいスープの匂いに、圧倒される。
「はい!柴関ラーメンです。ごゆっくり!」
「ひえぇぇぇぇ……!これ、食べていいんですか!?」
「うん、暖かいうちにいただこう」
ヒヨリの歓喜混じりの悲鳴にシロは微笑み肯定する。一部のセルフを除いてこういう出された時の状態が一番美味しい事をシロは良く知っていた。それによくマダムから金を貰い好き勝手学区外まで出て食べに行っているシロに比べて、スクワッドたちはずっとトリニティの辺境で潜伏していたからかアリウスからの味気ない補給品が殆どだったのではないかというシロの考えは非常によく当たっていたみたいだ。
「………!おいしい」
「「「!…………!!」」」
アツコがまだ味に楽しむ余裕があるのに対して他3人は一口食べて、まるで丼に齧り付くかの様な勢いで麺を啜り始めた。シロの見立ては正解で、アリウスで配布されるレーション系は無味が殆どなので正直に言うと不味いのだ。今まではそれでも良かったがシロに唆されるように美味しいものを食べているとそれでは逆に虚しくなってくるという最悪のドツボにハマっていたのは事実であった。
(ん……それではいざ実食)
そんなスクワッドたちの内心を置いてシロは目の前にある麺をチャーシューを、そしてその他具材を視覚で、聴覚で、そして嗅覚全てを使い吟味していく。麺は中細麺…スープは濃厚な豚骨醤油仕立て。そしてチャーシューは分厚く切られている。この時点でシロのハードルは超えている。
(まず分かるのは、濃厚なスープと麺の絡み)
この第一印象だけでシロがリピートする店かどうか殆ど決められるとシロは目を閉じて小さく咀嚼を始める。チャーシュー、メンマ、そして卵。それぞれの具材がお互いのポテンシャルを引き立て合いながらくどくない麺の硬さ。そしてこれら全ての個性ある丼の中を纏めて抱きしめるかの様な母の如き包容力を持ったスープ……
(……うん、美味しい)
シロにとっても満点の満足だ。この店は間違いなく知り合い兼友人である美食研究会のメンバー…特にハルナは同意してくれそうだ。…とそんな事を考えていた手前、基本的に食える時にはお腹いっぱいまで食べる健啖家であるシロにとって少し物足りないぐらいだ。
「すみません、替え玉ひとつ」
「あっ!はい!」
そうしてやはり麺がなくなったところで壁を見るにあった“替え玉一杯まで無料”の壁紙。そう、やはりラーメン屋にはあるのだ。この“替え玉”という麺を更に追加できるという悪魔的な手法が。
「………なに、それ?」
「ん、麺だけ追加で頼めるメニュー」
不思議そうに首を傾げるスクワッドたちにシロは説明する。そんな更に麺が食べられるというシステムに驚きながらもソワソワと意外と乗り気なサオリに、シロはいい経験だからと直接サオリが店員に頼む様にアイコンタクトをした。
「す、すまない…この替え玉?とやらを頼みたいのだが……」
「はい。替え玉ですね!……えーっと皆さん全員で大丈夫ですか?」
アツコやヒヨリが輝く目で見ている手前、サオリはその期待を無碍にする事は出来ないとどこか覚束無いやりとりではあったがキチンと替え玉を頼めた様だとシロは人知れず安堵のため息を吐く。……だがしかし、驚きだったのが食が細かったであろうミサキまで乗り気だとはやはりラーメンとは素晴らしい食べ物だと首を縦に振る。
(………やはり敵わないな。シロには)
そんな満足気にこっちを見て、小さくサムズアップして頷くシロの姿を見てサオリもふと微笑みが溢れてくる。少し前まではこうしてミサキが、ヒヨリが、アツコが笑っている姿なんて想像できなかった。
──────全ては虚しい。
それが世界の真実なのだと思っていた。それがこの世のすべてだと教えられていた。事実サオリは、いやスクワッドの全員がその通りだと信じていた。いやアリウス全てがそうなのだとずっとここまで過去のアリウスを弾圧したトリニティを恨むことで、マダム、ベアトリーチェの元に集まった。
実際、アリウスがあの地へと追いやられても戦いは終わらず、内乱という形でサオリも、ヒヨリも、ミサキも毎日を生きるのに必死で精一杯だった。
─────どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。
だけどこの少女…マダムの猟犬。いや白狼シロだけは違っていた。アリウスの中で誰よりもベアトリーチェの信頼に厚く、そして誰よりもアリウスの中で気高く強いシロにきっと私は嫉妬していたんだと思うのだ。
ある時、いつものようにスクワッドが叩きのめされたそんな日、サオリは苛立ち混じりにシロに吐き捨てた。曰く、何故お前はそこまで強い。何故お前は虚しくないのか。……何故そこまで気高くあれるのかと。それにシロは少し考えたあとにこう答えた。
『ん…全てが虚しいというのなら、なんでサオリは今もミサキやヒヨリの面倒を見ているの?』
そのシロの問いを今も鮮明に思い出せる。何の悪意もないシロの心からの疑問。そこまで虚しいというのなら、サオリは早く妹分を見捨てたらいいのにと言うシロの無垢な問い掛け。事実、そうすればいいのだろう。虚しいというのなら放っておけばいいのだ。先ほどの模擬戦でもヒヨリを狙ったシロの一撃をわざわざ何故サオリは庇ったのか。
『………わから、ない』
そのシロの問いにサオリは出せる答えなど持っていなかった。虚しいと教えられた。虚しいとずっと思っていた。なのに…何故今もこう、まだ昔のあの廃屋での暮らしが脳に染み付いて止まないのか。実の血の繋がった姉妹でもないのだ。なのに何故今も私はこうしてスクワッドという形になっても尚、姉妹に固執しているのか。
『………これは誰かの言葉、だからあまり真に受けないでほしいけど』
そんな頭を抱えて苦悶の表情で悩むサオリを見かねたシロがこう声をかける。曰く、虚しいというのはあまりにも分かりやすい指標なのだということだ。自分はこれほど虚しいから、なにもしなくていいんです。自分はこれほど不遇なので虚しいままでいいんです。
………それは結局のところ。それはただ何もかも諦めて、死んでいるのと大差ない。
今ここに生きて、鼓動を打って、そしてまだまだ自分たちでさえ想像もしていない様な世界を知らずに全てを知った気で虚しいと言い続けるのは【傲慢】だとシロはサオリに突きつけた。
『長くなったけど…言いたいのは』
生きてるんだから、愚直に自分の幸せぐらい見つけてみなよ。そんなシロの言葉は一字一句間違える事なく今もサオリの心に残っている。だからこそきっとこの問いも必然だったのだとサオリは思う。
『なら、ならお前の幸せはなんなんだ。白狼シロ……!』
『ん、美味しいものを食べること?』
そんなサオリが想定も、想像もできないシロの素朴な幸福。生まれてこの方、サオリにとって美味しいと思える様な食事を摂った事はない。……ああ、でも確かにあの廃屋で少ない食料を分け合って柄にもなく美味しい美味しいと言い合って食べたあの日を幸福というのなら、きっとシロのその夢は何よりも尊いモノなのだろう。
「………ようやく明日まで迫った」
そんなラーメンの湯気がいつの間にかサオリを過去への追憶に誘っていたと、食べ終えて満足した幸福を噛み締めてサオリは今一度スクワッドたちに向き合った。ここまで着いて来てくれた妹分…いや、仲間たちを見渡して今一度声にする。
「確かに私たちは虚しいのかも知れない……だが、それでも」
サオリたちの生まれは決して幸福とは言えない。シロの手で外の世界との交流が生まれたからこそ、そう思う。きっとあの日のままのサオリなら憎悪と怒りでトリニティを審判するつもりで明日を待っていた。だが今は違う。
「
全ては虚しい。それでも私たちは明日の幸福を求めよう。
そう少女たちは虚しくてもそれが何もかもを諦める理由にはならないのだと立ち上がる事になった。
【調印式・当日】
「……………」
既にアリウスの人員の配置は終わっている。ミサキとヒヨリが両校の治安維持部隊の強襲を行い、姫とサオリがその混乱の最中、調印を奪取する。その間にシロがシャーレの先生並びに各校の最強格“空崎ヒナ”と“剣先ツルギ”を鎮圧することになっている。
「………ああ、総員戦闘準備」
─────ここまで、長かった。
「すまないな……だが、それでも」
姫も、ミサキも、ヒヨリも、そして私も。トリニティには優しい人がいる。それを知った上で私たちはそれを踏み潰す。アリウスの怒りの名の下に、我々の幸せだけを追求するエゴをどうか許したまえ。
「最後に笑うのは我々、アリウスだ」
そうしてサオリは引き金となるボタンを押した
──────閃光と共に、大きな揺れが起きた。
その場に…いや〈古聖堂〉に集まっていた多くの生徒は、そして先生はそうとしか感じることが出来なかった。遂に今日へとなったエデン条約の調印式、その舞台となるのがここトリニティでも長い歴史がある〈古聖堂〉で行われるはずだった。神聖な場所であるとシスター・ヒナタに案内されて、その時を先生は待っていたはずだった。
だが次に先生が目を開いた瞬間、五感に訴える異常な風景。先ほどまではなんとも見事なまでに美的感覚を擽ぐる教会風の建物はどこにもなく火の手が上がり、瓦礫と煙が視界を遮り、そこかしこ至る所で悲鳴が聞こえる。そんな地獄が口を開いて手招いているかのようだった。
「“一体……何が……!?”」
先ほど一瞬見えたシッテムの箱の中で必死に守っていたアロナが言ってた“古聖堂が爆破された”という言葉にこの惨状は嘘偽りないと直感的に感じるだろう。まさか、ある程度想像していたエデン条約の乱入者。だが、まさかこんな…舞台ごと無に還す様な強引なやり方で先手を打ってくるとは流石の先生も想像していなかったと立ち尽くす。
「げほっ……先生、ご無事ですか!?」
「“ヒナタ……!”」
そうしていること少し。後ろから小走りで走ってくるシスター服の少女の姿が先生の視界に映る。そんなヒナタの服は土煙と灰に薄汚れており、どれほど強い爆発が起きたのかと想像が難しいほどだ。
そうしてヒナタが合流すると、先生の脚が瓦礫に挟まっているのが見えた。そのせいで先生は動けなかったのだとヒナタはその持ち前の怪力があった事を今だけは感謝して瓦礫をどかしていた所だった。さらにその奥から、血だらけのハスミとツルギ。所謂トリニティでの治安維持組織…正義実現委員会のツートップが立っていた。
「先生!ご無事でしたか!?」
「“2人ともすごい怪我……!”」
瓦礫が掠ったのか、今だに出血が見えている場所もある。更には爆発の熱風で火傷したのか一部の皮膚組織が悲惨な事になっていてもこれぐらいはまだ軽症だと、この爆発で殆どの同僚が戦闘不能に陥った挙げ句、トリニティの権力者であるティーパーティーの面々が行方不明になっているとの報告が足早に行われたその直後の話で。
「………!!」
ツルギが煙の先に到着した大隊ほどの物音に目を細める。ただでさえゲヘナの大半もいない現状、明らかにこれはエデン条約を狙った何者かのグループであることが分かる。敵か味方かツルギが手に持った銃に力を込めたその時だった。
「こちらトリニティと接触…ああ、いるね。位置共有して」
目の前に立つ茶髪黒マスクの少女。その手にロケットランチャーを抱えて、耳にかけたマイクで何かを口にした後にこちらへと敵意を見せる少女。そしてその後ろからこちらを襲う気でいるガスマスクの、アリウスの少女たち。
なぜこの場へとアリウスが現れたのか。どうやってこの厳重警戒の場所へと現れたのか。その答えは簡単で、エデン条約の襲撃者はアリウスで、そのすべてはこの〈古聖堂〉の地下のカタコンベから現れたのだから。
「許しません……アリウス、その狼藉高く付きますよ!」
「落ち着け」
激昂するハスミを冷静にさせるようにツルギが静止する。昔からこうして幼馴染として2人でひとつだった2人にとって暴れる役はいつも私だったとツルギが猿叫をあげて敵陣に突っ込んだ。戦闘開始だ。
そうして戦闘が始まって尚、アリウス側を率いている将らしい少女はピクリとも表情を動かさない。攻撃しても全く手応えがない幽霊のようなあのガスマスクのシスター服を相手にし出した時、ようやくツルギが異変に、そしてシスターとして歴史に詳しいヒナタが恐れるようにその幽霊の正体を口にする。
「あれは……【ユスティナ聖徒会】、数百年前に消えたはずの【戒律の守護者たち】が何故いまここに!?」
そう。その幽霊こそ過去の亡霊。数十、いや数百ものかつての存在が先生含めて正義実現委員会に牙を剥く。こちらがどれほど攻撃しても相手はまるで効いていなかったかのように再生して襲ってくる。何度も何度もそれが繰り返されて……そして劣勢へと追い詰められていった。
「………はぁ。ようやく追いついた」
そうして逃げ場がなくなったその場で、ようやくアリウスの将らしい少女…ミサキが先生たちに顔を見せる。周囲にはアリウスの生徒だけでなく、その【戒律の守護者たち】まで先生を円陣で取り囲み、逃げ場などどこにもないと見せつけるかのようなもはや狩りにも似た攻勢。
ここで将だけでも相打ちに持っていく覚悟でツルギが、ハスミが銃を構えたその瞬間だった。そんなミサキの後ろからジャンプして降り立つ1人の姿。そんな遅れて来たであろう大切な人にミサキはその背中を小さく叩いて、後を任せた。
「んじゃ、よろしく。シロ」
「ん、ミサキお疲れ」
背中合わせのその姿。この場に降り立ったのは我らがアリウスの猟犬にして、アリウスの中での最強戦力と名高い言うなら各校の最強格と渡り合えるほどの実力があるとまで言われた少女…白狼シロだ。
「“………シロ”」
「それでどっちがツルギ?」
先生がシロを呼ぶ声にシロは小さく手を振った後、目の前で満身創痍一歩手前の正義実現委員会の服装を着ている2人に問いかける。全く、本当によく似ているせいで誰が誰だか最後まで見分けが付かなかったとシロは首を傾げて目の前の2人に聞く。
「………ふざけてるのですか?」
「そういうわけじゃない。至って本気」
だがそんな質問、ツルギたちにとってはおちょくっているようにしか聞こえない。挑発にしては随分と拙い挑発だとハスミが目を細めるのに対して、シロは本当に分かっていなさげに首を傾げる。どうしてそこまで名前を言わないのか。しかしこれでは……
「どっちにしろ倒すんだから、名前を聞く事なんてできないし」
『────起動。神秘形成弾の装填を開始』
倒した後にラベルを貼ることも出来ないだなんて傲岸不遜な物言いで、シロは腰の両ポーチから青く光る近未来的な銃を引き出した。すでにその銃口には青い光が灯っており、いつでも殲滅できるとも言いたげな言葉にツルギも銃を構える。
「私の名前は白狼シロ。じゃ、倒れて?」
「きえぇぇぇえぇええええぇぇ!!」
どうやらそれでシロも正義実現委員会の委員長にして歩く戦略兵器と名高い剣先ツルギが誰かわかったのだろう。己の名乗りと、ツルギの猿叫が再度響いて今からここは真剣勝負の一対一がはじまるところだった──────!!
「“………待って!”」
【少し前、カタコンベにて】
そんな地上でシロとツルギがぶつかる少し前、地下のカタコンベにて姫と呼ばれた少女、アツコが少なからずアリウスの兵を連れてとある人物に会いにいった。だがそこに立つその人物とは人間とは到底言い難い双頭の木人形が立っていた。
「……無作法だな。だが【切り開く子】の手前、私を芸術への敬意を込めて『マエストロ』と呼ぶ事を許そう」
そんな恐ろしい人ならざるモノに怯える声を上げるアリウス兵に木人形…いやマエストロは不満げに口を開くが、どうやら【切り開く子】とやらが居るからその不敬を許すという態度にガスマスクをつけたままのアツコが手話でそのマエストロとの交渉を開始する。
「そなたらに芸術はまだ遠く、また理解し難きモノだろう。せめて私と交渉するのだったら【切り開く子】を連れてくるのだったな」
だがそんなマエストロは乗り気では無いようだと分かる。動く時に軋むその木人形の無機質な姿形は、知らず知らずのうちに少女たちの心に恐怖と怯えを覚えさせるほどだ。
「………………」
「ふむ、なに?……なるほど戻って来ている、と」
だがそんな中でもアツコは手話でそのマエストロとの会話を続ける。
「いいだろう。守護者たちの『威厳』の複製、そしてそれに対する私の傑作である“あれ”がどういう裁定を下すか、……ふむ面白い」
「では約束通り、この地下にある教義の元まで案内してもらうとしよう」
「“高級焼肉食べ放題!時間無制限パックを奢るよ!!”」
戦場の中で、先生の声だけが嫌に響いた。
キャラクター紹介
種族名:アリウスヌシロオオカミ
出現地域:アリウスシティ
性格:不明
所持武器:不明
アリウスシティにて みつかった シロオオカミのフォルムチェンジと考える
アリウス種を 纏める群れの主みたいな 動きをし
特にスクワッド種に 餌を分け与えている姿が確認されている
先生「自らの財布を生贄にした財力の制限解除…!」
ミサキ「やりやがった!マジかよあの野郎ッ!やりやがった!!」
アリウスシロオオカミ「(耳がピクリと惹かれる様に動く)」
マエストロ「シロが来てないやん!シロと話したかったのに」
アツコ「………(怒らないでくださいね。アリウスの最高戦力をわざわざ交渉に割くなんて馬鹿みたいじゃ無いですかの手話)」
感想は、いい文明。
いっぱい貰えると嬉しい