フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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オリエンタルミステリー

 

 

 私の名付け宣言が行われてからそれなりの月日が経ったが、一向にその日は訪れない。まるでそんな話など始めから無かったかのように、マイロードは普段通りに引き蝙蝠ライフを過ごしている。

 

 まあ気が向いたら考えると言っていたので、マイロードにとっては早急の話という訳でもないのだろう。私への施しなんて優先度最底辺だろうし。

 

 名前は考える……! 考えるが……今回、まだその時と場所の指定まではしていない。つまり……マイロードがその気になれば、名付けは10年後20年後ということも可能だろう……ということ……! 

 

 なので私はあまり期待せずに、今日もまた『フランちゃん』への祈りを捧げながら、野望に向け邁進するしかない。要するにいつも通りの日々である。

 

 

「タラッタラッタラッタ、可愛いダンス~♪」

「……」

「そそらそれそれ、兎のダンス〜♪」

「歌うか手元を動かすか、どっちかにしない? 落ち着かないんだけど」

 

 趣味の編み物の最中、静寂がどうにも居心地悪かったので歌って盛り上げてたらマイロードから苦言を呈された。まるで耳障りと言わんばかりの顰めっ面。さては私の美声に嫉妬しているのだろう。そうであろう。

 

 調子に乗った私は更なる追撃を仕掛ける。

 

 

「ふっふっふ、甘い。ハチミツより甘々ですよマイロード! やろうと思えば多分踊りも追加できます! よろしければご覧にいれましょうか?」

「やったら殺す」

「そんなぁ」

 

 披露する気満々で腰を浮かせたところ、強烈な拒絶をいただいてしまった。陰気なマイロードにアメリカンパーティースタイルはキツかったのだろうか。この程度で根を上げていたら、クラウンピースと邂逅した際にショック死してしまうんじゃなかろうかと心配になる。

 

 それはそうと今明かされる衝撃の真実。私ってどうやらマルチタスクが頗る得意らしいのだ。四肢と五感を別々に運用することができるし、自分で言うのもなんだけど、情報処理能力に長けているようだ。こんくらいできないとマイロードの無茶振りに応えられないしね。

 

 多分十人同時に喋りかけられても対応できると思うので、東方界の聖徳太子を名乗っても良いかもしれない。

 

 ただまあ、そんなに大それた事はできないので、世に言う器用貧乏というやつなんだろう。何もできない不器用ちゃんじゃないなら全然良いと思うけど。

 

 

「むむむ、ここをこうしてこうやって……うん、こんなものかな! どうでしょうマイロード。初めて作ったにしては中々の出来だと思いませんか!」

「これはどういう用途で使うの?」

「えっと、これはマフラーと言いまして、首に巻いて使う防寒具ですよ」

 

 毛糸で一から編んだマフラーを腕いっぱいに広げて、次に自分の首へと巻いてみる。そしてくるりと一回転してマイロードに見せつけてみた。これぞ可愛い女の子ムーブの見本である。存分に見習って欲しい。

 

 というか、マイロードったらマフラーを知らないのか。引き篭もりだから使う機会に恵まれなかったんだろう。そう勝手に推測した。

 

 

「……まあ悪くはないんじゃないかしら。よく見たら所々ほつれてるし粗も目立つけど、お前に完璧を求めてもしょうがない。形になってるだけ上出来ね」

「マイロードの私に対するハードルって、高いのか低いのかよく分からないです」

 

 ちょっぴり微妙な気分だが、ギリギリ褒め言葉だと思うのでありがたく受け取っておこう。

 

 マイロードの言う通り、確かに拙い所が多々あるとは思うが、少なくとも機能性に問題はないはず。道具を使うにあたって一番大切なのは使えるか否かである。見てくれは関係ないのだ。

 

 

「うんうん。紅い館の住民にはやはり赤いマフラーが似合いますよねぇ。木枯らし吹く寂しい季節のプレゼントにぴったりです」

「一応考えはあったのね」

「ええ。美鈴さん、喜んでくれるといいなぁ」

「……」

「どうかしましたか?」

「私のは?」

「え?」

 

 何とも微妙な空気が流れる。というのも、マイロードの発言の意味がいまいち分からないからだ。

 

 数瞬を思考に費やし、私は一つの結論へと辿り着く。

 

 

「ハッハッハ! マイロード、従者をからかっちゃいけませんよ!」

「は?」

「マイロードは外に出ないから必要ないじゃないですか! ご存知だと思いますけど、そういうのって『豚に真珠』って言うんですよマイロード」

「死ねっ!」

「ミ゛!!!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 図書館へと続く階段を登りながら、顔と首を撫でて具合をチェックする。塵から再生するのは初めての事だったので、ちゃんと機能するか不安だったが問題なさそうだ。ここまで来ると自分の不死身っぷりが怖くなってしまう。

 

 丈夫な身体に産んでくれてありがとうマイロード。手心を加えてクレメンス。

 いや、この場合感謝すべきはマイロードのパパママに対してなのか? 霊圧すら感じないけど。

 

 それにしても本当に酷い目に遭った。冗談かと思って気軽に対応したらこの仕打ちである。

 引き篭もりにマフラーを渡したところで置物になるのは明白なのに。使われない道具を闇雲に作るのは道具たる私の信条に反する。

 

 ただ流石に私も、豚って例え方は悪かったかなと反省した。馬の耳に念仏の方が良かったね。

 

 取り敢えずマイロードには後日更にクオリティを追求した逸品を用意すると伝え、なんとか機嫌を直してもらった。所詮美鈴さんに渡すマフラーは試作品! 本命はマイロードなのさ! ってロジックだ。

 

 まあ、もしかするとマフラーを欲したのは外出への意欲が高まった無意識の表れかもしれない。んな訳ねえだろって思う気持ちはままあれど、奇跡は信じる者にしか起きないというサナエンジェルの教えに従おう。

 

 

「能ある鷹は何とやら、あんまりマイロードの前で特技をアピールしない方がいいのかなぁ。でも私は優秀な従者だからなぁ、無理だよねえ」

 

 迸る才覚は隠そうとしても自然と露見してしまうものである。それにちゃんと有能アピールしておかないと不意に処分されてしまうかもしれないし。

 

 そんな事を考えながら図書館の扉を開いたところ、予想外の先客がいた。

 

 

「お、おはようございます妹様」

「うわっ美鈴!? ビックリした!」

「奇遇ですねー。たまたま休憩中、図書館に立ち寄ったら妹様に会えるなんて」

「それは何というか、すごく運命的ね」

 

 いつも私やマイロードが座っている座席に美鈴さんが居た。例のバッドコミュニケーション以来の邂逅である。テーブルには何冊か分厚い本が置かれていたが、ジャンルに統一性がなく、更に手を付けた形跡もない。

 

 美鈴さんと読書という異色の組み合わせ。正直、致命的なまでに似合ってない。

 

 

「美鈴って本とか読むんだ。ちょっと意外」

「読書は好きですよ。身体を動かしてる方が性に合うのは確かにその通りですけども」

「へー……動けるインテリさんなんだね」

 

 よくよく考えたら、この時代の異国の地で異種族のコミュニティに入り込み、特に軋轢も起こしていない美鈴さんは凄い妖怪かもしれない。複数ヶ国語をマスターしてるってことだろうし。ちなみに私はなんか最初から文字が読めたのでもっと凄い。

 

 

「そうそうちょうど良かったわ! はい、これあげる! 寒くなった時に使ってね」

「……これは暗器ですか?」

「あら美鈴も知らないの? マフラーって言ってね、首に巻いて使う防寒具よ」

 

 文化圏が違う美鈴さんには馴染みのない物だったようだ。暗殺道具として見られるのは予想外だったけど、まあ達人は武器を選ばないという事なのだろう。

 そう、美鈴さんならきっとマフラーから波紋を流せるに違いない。そして岩盤の下敷きになったレミリア閣下を前にして私と一緒に泣き叫ぶのだ。ちなみに最後はマイロードを宇宙まで吹っ飛ばしてフィニッシュである。

 

 取り敢えず美鈴さんにマフラーを受け取ってもらい、流れでそのまま着用してもらった。私の見立て通り、美鈴さんには赤いマフラーがよく似合う。

 

 そういえば妖々夢の咲夜さんも同じように赤いマフラーを巻いているので、奇しくも同じ装い(ペアルック)である。なるほどこれが世に名高い『めーさく』の波動か。

 その時はまだまだ先だが、実現の際には私も後方腕組み幼女になる他あるまい。

 

 

「わ、私にこのような貴重な品は勿体ないです! そ、それに妹様から施しを受けてばかりで、まだ何も奉公できていないのに」

「わざわざ仕事をサボって此処に来てくれたんでしょ? フランに会う為に。それだけで十分だよ」

「あ、お気付きでしたか」

「流石にね」

 

 美鈴さんは私が図書館に向かっている事を察知し、偶然を装って私に会いに来たのだろう。出会った時の状況があまりにも不自然で都合良すぎるからすぐに分かった。

 

 美鈴さんも前回の別れ方を気にしていたのだろうか。だとしたら気を使わせてしまって申し訳ない気持ちになる。私が一方的に彼女へ要求を突き付けて、挙句に勝手に消沈してただけなのに。

 

 

「貴女が一緒にお喋りしてくれるだけで、とても救われる気持ちになるの。だからそのお礼」

「そんな……」

「それだけって思った? でも大切なことなの」

 

 要するに接待料というか、お友達料金というか……。これからも色々あげるからフランちゃんを嫌いにならないでね、という暗黙の懇願である。悲しいけど、これが陰気少女の生き方なのだ。

 

 ボロを出さずに、それでいてなおかつマイロードが地上進出しやすい環境作りも同時に進める。同時にこなさなきゃならないのが分身ちゃんの辛いところだ。

 

 

「妹様は──」

「うん?」

「レミリアお嬢様とは話されないのですか?」

「……」

 

 返答に困ってしまった。マイロードとレミリア閣下の関係性は未だ不明ではあるが、何度かマイロードに探りを入れた結果、何らかの地雷が存在する可能性が高い。

 そこにまたしても何も知らない(分身)を投入したら何が起こるか分かったもんじゃないのだ。というかレミリア閣下と接触するタイミングは私が選びたい。

 

 よって沈黙! それが正しい答えなんだ。

 難しい顔で黙りこくってしまった私を見て、美鈴さんは小さく頷いた。どうやら私の話したくないという意思を汲み取ってくれたらしい。

 

 

「承知しました。私でよろしければ、これからも話相手になりましょう」

「ホント!?」

「ただそれはそれとして、これまでの御恩には報わせていただこうと思います」

 

 そう言って和やかに笑う美鈴さん。

 何故だろう、いつもなら整った顔から繰り出される爽やかスマイルにテンションアゲアゲになる筈が、違和感の方が先行した。謎である。

 

 

「前にも申した通り、妹様の期待されるような本格的な『武』は私の力量不足故にお教えする事はできません。しかし、心身の強化を目的とした簡単な修行ならば」

「心身の強化! なんかそれっぽい!」

「ご期待に添えるかは分かりませんが……」

「門外不出!? 一子相伝!?」

「そこまで厳格ではないですけどね。我流ですし」

 

 流石は美鈴さん、子供心の掴み方を心得ている。東洋の神秘! ニンジャ、シュギョー、ゲイシャ、ハラキリ! 

 

 美鈴さんからの師事は既に諦めていたので、その喜びは一入だ。先程までの違和感も何処へやら。私は美鈴さんに言われるがまま、早速実践してみる事になった。

 

 話を聞いたところ、どうやら瞑想や精神統一といった動作を下地にして、美鈴さんが気の巡りを補助することで心身に何か良い変化を促すらしい。

 恐らくヨガ的な感じか、ナメック星人的なアレだろう。

 

 この技術を私が習得すればマイロードも喜んでくれるだろうか。強化マイロードなんて殆ど究極完全生命体みたいなものだから想像したくもないけど。

 

 

「ではまずを目を閉じて」

「うん!」

「次に心を落ち着けて、大きく深呼吸──……」

「ひっひっふー……」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 フランドールは頭を悩ませていた。

 

 難解な術式をも容易く解読し、如何なる高度な魔法をも仕組みさえ理解すれば一瞬で会得する。そんな比肩なき天賦の才を持つ彼女を苦しめる難問。

 それは配下の名付けに関する事だった。

 

 最初は「ポンコツ」だの「デコイ」だのと適当に候補を考えていた。しかし研究が進むにつれ分身の特異性が次々と明らかになり、扱いもまた変化した。

 

 分身が当初の想定を遥かに超える挙動を示している現状、廃棄の予定もかなり先になりそうだったので、どうせならと本腰を入れて名前を考える事にしたのだ。それがこの結果である。

 

 中途半端に名付けてしまえば、またぐちぐちと舐め腐った事を宣ってくるのは明白だ。

 現に名付けをする旨を伝えた時、アレはフランドールのネーミングセンスをあからさまに疑っていた。名前が気に入らなければ、ほら見たことかと増長するに違いない。

 

 だからといって立派な名前を与えてしまえば、それはそれで調子に乗るだろう。あの馬鹿はそういう奴である。フランドールをして未だに謎である分身の思考回路だが、一転して性格は酷く分かり易かった。

 

 

 

 こうしてフランドールの思考は沼に嵌ったように、ぐるぐる巡る事になる。今もまた、就寝の間際に棺桶の蓋を凝視しながら名前の候補を考えていた。

 

 そんな矢先の事である。部屋の外からドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。

 

 地下室へと繋がる階段をこんなに慌ただしく降りてくる馬鹿(命知らず)はアイツしかおるまい。随分と早い帰還だが、また何か妙な事をしでかしたのかと、フランドールは大きな溜息を吐いて第一声を待つ。

 

 

「マイロード! マイロード! 大変な事が起こりました! これを見てください!」

「うるさいわね……。何が──」

 

 寝起きを装いながら視線を向ける。

 

 

「瞑想してたらおっぱいが大きくなりました!」

「……?」

 

「まさしく東洋の神秘! 人体ってすごいですねっ!」

「???」

 

 そこには胸の膨らみをこれでもかと強調する、自分と同じ姿をした馬鹿の姿があった。

 

 コイツはどうやら毎度人を驚かさないと気が済まないらしい。というか図書館に行って何故瞑想をしているのか、そこからして謎である。

 

 退屈な日々からの解放を期待して分身スペルを開発したのだが、こんなのが無から発生するとは夢にも思わなかった。これも数奇な運命を辿った結果なのかと、姉を問い詰めてみたい気分だ。

 

 それはそうと、明らかに自分のそれと比較し誇示するような態度が癇に障ったので顔面をぶん殴っておいた。

 ちょっとスッキリした。




分身ちゃん「ウオオオおっぱいが凄いことになってる!美鈴!これは一体……!?」
めーりん「知らん……何それ……怖……」

マフラーが実用的に使われ始めたのは17世紀後半。
また、分身ちゃんの身体が変化したのは九割分身ちゃんのせいである事を美鈴の名誉のために明言しておくものとする。
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