フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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レミリア・スカーレット暗殺計画(前)

 

 世界に冠たる吸血鬼の女王レミリア・スカーレットは、地下室にて妹と数年ぶりとなる顔合わせのようなものを行った後、その足で医務室を訪れていた。美鈴を見舞う為である。

 

 首と顎を包帯グルグル巻きでベッドに寝かされながらも笑顔で出迎えた美鈴を見て、もう少し弱っているものかと思っていたレミリアは若干拍子抜けしながら、隣に備え付けられた椅子へと腰掛けた。

 

 

「随分と余裕そうじゃない。心配して損したわ」

「いやー実際死にかけましたね。日々の鍛錬の賜物と、妹様からの手心のおかげでしょうか」

 

 流石は気功術を修めた者の再生力というべきか、元来頑強な種族であった事もありフランドールの一撃で破壊された人体の修復は間近となっていた。

 むしろ、この場合は美鈴をして回復に時間が掛かっていると表現した方が適切かもしれない。

 

 

「無敵の門番がどこぞの侵入者に負けたって屋敷中大騒ぎよ? 実態は身内の暴走だけどさ」

「それでよろしいかと。妹様のことを触れ回って混乱を助長させるよりは断然マシですよ」

「怖がられてるからね、アイツ」

「私もあの方の恐ろしさを再確認しました」

「怖かった?」

「めっちゃ怖かったです」

 

 思わず身震いしてしまう。美鈴が優れた武術家だからこそ、フランドールから発せられる底無しの威圧感、そして恐ろしさを骨身に染みるまで理解できてしまった。

 

 と、そんな美鈴の姿を認めてレミリアは目を伏せる。

 

 

「悪かったわね。今回の件は私の想定の甘さが生んだミスよ。フランの思惑を見誤ってしまった」

「お嬢様! そんなやめてください!」

「正直、浮かれてたの。アイツがようやく前を向いてくれるようになったんじゃないかってね。だから理解できない行動も全て好意的に捉えるようにしていた」

 

 それが巡り巡って、どういう因果か美鈴に牙を剥いてしまった。期待と油断が生んだ隙。レミリアらしからぬ迂闊な判断だったといえよう。

 

 

「私が手を加えたら折角の転機を逃してしまいそうで、恐ろしかったのかもしれない。運命は不可逆的なものだからね。それで結局、貴女の優しさに甘えてしまった」

「大丈夫ですお嬢様。私は応えてみせます」

「ええ、これからも頼りにさせてもらうわ。だけど貴女だけに任せるフェーズはもう終わりよ。さっき地下まで行って会ってきたしね」

「会ったんですか!?」

「うん。美鈴を害した訳と、アイツの思惑を見極める為にね。でもますますアイツの事が分からなくなった。まるで別人と話しているようだったわ」

 

 思い当たる節は美鈴にもあった。言葉使い、雰囲気、その身から迸る圧迫感。外見を除いた全てが急激に切り替わる様は、あまりに異質だ。

 

 美鈴は迷いながらも、自らの見解を主人に伝える事を決意した。

 

 

「妹様は……二つの人格をお持ちなのかもしれません」

「ほう」

 

 その可能性を深刻に受け止めていた美鈴にとって、レミリアの反応はあまりにも淡泊で拍子抜けだった。まるで、その答えが出るのは想定内であると言わんばかりの態度。

 

 美鈴は思わず問い掛ける。

 

 

「もしや、ご存知でしたか?」

「いいや。でもフランドールを直に見て、そういう事もあり得るのかと考えていただけ。……むしろ、そうだったら話が楽で助かるんだけどね」

「もっと深刻だという事でしょうか」

「……考え得る限りの最悪は常に想定しておくものよ」

 

 

 

 

 レミリアはここ最近のフランドールの行動を歓迎する一方で、同時に酷く困惑していた。

 美鈴を介して観測するフランドールがあまりにも別人過ぎて恐怖を覚えるまであった。もしや何かの拍子にマジで気が狂ってしまったのかと気が気でなかったのだ。

 

 なので今回の事件は美鈴には悪いが、ようやくフランドールらしい事件を起こしてくれたかと安堵に胸を撫で下ろしたものだ。

 

 そして勢いのまま直接フランドールを見極めようと意気込んで地下室を訪れた結果、出てきたのがアレである。

 

 アレが分身(ダミー)である事は一瞬で見抜いた。話し方の雰囲気や物腰、魔力の質に至るまで全てが別物であったから。それに背後の棺桶から感じた強烈な魔力のうねりは、あれこそフランドールのものだろう。

 

 腐っても姉妹だ。そのくらいの判別はできる。問題はフランドールの意図がますます読めない事である。

 何故自分にダミーをぶつけてきたのか。何故ダミーをあんな仕様にしたのか。何故ダミーの胸は膨れているのか。

 

 もしやアレが自分の素であると、遠回しに訴えかけているのだろうか。

 

 疑問は尽きない。日々の激務を終えて棺桶に入った後も、レミリアの思考は堂々巡り。安らぎの時間は消え、代わりに上の空な時間が増えた。

 

 

 レミリアは寝不足だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 どうも皆さんごきげんよう。人生初の対決相手がラスボスになりそうな分身ちゃんでございます。助けて……助けてクレメンス……。

 

 レミリア閣下といえば幻想郷の中でも特に強い妖怪として度々言及されるほどの強者。その前情報が無くとも、あのマイロードの姉君というだけで高水準の強さは担保されている。間違ってもチュートリアルで戦うような存在でないのは確かだ。

 

 六面ボスが一面で登場するなんて無法もいいところ。こんなのが原作に実装された日にはもう大炎上だろう。それくらい私の置かれた可哀想な現状はありえない事なのだ。なお東方神霊廟は見ないものとする。

 

 とまあそんな後ろ向きな今日この頃ではあるが、マイロードがやる気満々である以上、その従者たる私に『やる』以外の選択肢はない。悲しいね。

 

 

「そもそも単純な疑問なんですけど私って戦力になります? 確かに私は優秀でハイスペックな従者(道具)ですけども、戦闘経験皆無ですよ。マイロードと姉君の高度な争いに介入できるとは思えなかったり……」

「それは雑魚の思考ね。お前の精神が如何に軟弱であろうが、それに甘んじていいような安い性能の身体ではないし、この私の手札として存在する以上は生半可な役割なんて許さない」

「そ、それでもマイロードの前では誤差では?」

 

 私の言葉にマイロードは顰めっ面になった。それに伴い私お手製のケーキを口に放り込む速度もどんどん早くなっていく。いつかストレスと血糖値が爆発して倒れたりしないかな……大丈夫かな……。

 

 

「アイツを相手にする以上、どんな分野でどれほどの誤差だろうが、上回ってさえいればそれが勝負の分水嶺になり得る。そういう次元の話だからね。お前程度でも居ないよりは断然マシなのよ」

「あ、そこそこ拮抗してるんだ。まさしく猫の手も借りたいってやつですねなるほど。……というかマイロードったら、そんなに私のことを頼りにしてたんですね! そっかぁ、ならしょうがないなぁ!」

「自惚れるな肉壁が」

「ひどい!?」

 

 流れるように私がやらなきゃならない役割が開示されてしまった。確かに身体はそこそこ頑丈だとは思うので、盾として使うならうってつけかもしれない。私の気持ちを無視するなら、それが現時点での最良の使い方だろう。考えたわねマイロード。

 

 

「つまり今の私にはプリンを持ってマイロードの前に突っ立っているだけの利用価値しかないって事ですね! 納得しました。正直めちゃくちゃ嫌なので何とかなりません?」

「肉壁が嫌ならいつもみたいに私へ価値を示せ。お前ができる事、隠している事の全てを戦闘力に還元すれば、肉壁以上の役割を担えるかもしれないわね」

「とは言いましても、私って本当に戦闘の素人ですし……。美鈴さんから武術を習えてたら話は違ったかもしれませんけどぉ」

「ふむ」

 

 私の切実な訴えを聞いてか、マイロードは少し考えるように視線を落とす。

 

 

「ちょうどいい機会だし、お前の性能をチェックするわ。その結果から総合して、お前の最も効率的な運用方法を考える」

「えっと、身体測定でもするんです? 失礼ですけど、私とマイロードの違いなんて胸と内面を除けば何もないんじゃないかなって」

「それが本当かを確かめるって言ってるのよマヌケが。あと胸の事は金輪際話題に出すな」

「あ、はい」

 

 という訳で、急遽私の体力というかポテンシャルの調査が実施される事となった。とは言っても内容はマイロードと腕相撲をしたり、マイロードの放つ弾幕を回避したりして、腕力や動体視力をチェックするだけだ。

 

 その結果、私の腕はもぎ取られ、身体中に風穴が空いたのは言うまでもないだろう。

 ボロ雑巾になって地面に這い蹲る半泣きの私を尻目に、マイロードが淡々と事実を述べていく。

 

 

「結論から言って、身体の使い方は下手の一言。恵まれた能力も中身が伴ってなければ宝の持ち腐れってことが分かる良い例になったわね」

「弾幕の動きが見えても避けるセンスが無ければ意味ないですもんね!」

「私の身体を持ちながらそこまでの醜態を晒せるのは逆に才能よ」

 

 精神が身体に追いつかないと大きな力は出せない。漫画でありがちな理論だが、まさしくその通りであると痛感する次第である。悟空さの言ってた事は正しかったのだ。

 

 この時点で私は身も心も満身創痍のボロボロなのだが、マイロードによる晒し上げという名の性能チェックは終わらない。

 

 

「それじゃ次、魔法の適性を調べるわ。それによってお前に簡単な攻撃魔法を教え込むか判断する」

「おっと組み分け帽子でも被るんですか? 私は多分ハッフルパフですけど」

「また訳の分からない事を……。調べるのは属性(タイプ)よ」

「うーん、ノーマル・フェアリーだと思います」

「お前はさっきから何を言ってるの?」

 

 私はそこそこ真面目に考えているつもりなのだが、マイロードはお気に召さなかったらしい。色々と心躍るワードが聞こえた事で不覚にも浮かれてしまっていたかもしれないと、殴られながら反省しておいた。

 

 全てにおいて無知な私の為にマイロードが魔法について色々と説明してくれたのだが、それは私の原作知識とも合致する内容であった。

 

 魔法の適性とはつまり、五行思想に基づく属性分けの事だった。木火土金水の五つで、パチュリーさんお得意のアレである。これは自然の事象のみならず、人の性質にも現れるらしい。

 確か東方で判明している限りだと、魔理沙さんが水で、霊夢さんが木。だからこの二人の場合だと相性有利な霊夢さんの方が勝率が高いって話が原作であった筈。それに近い感じなのだろうか。

 

 

「ちなみにお聞きしたいんですけど、マイロードの適性は何属性なんです?」

「さあね。確認する前に色々弄ってしまったから元が分からなくなったの。まあ魔法を使う分には水を除いた全属性極めてるから問題ないわ」

「へーそうなんですねぇ。ふーん」

「……あのね、水は吸血鬼の特性上使用する意味がないから極めてないだけであって、別に使えないわけじゃないから勘違いするなよ」

「私まだ何も言ってませんけど」

 

 要するに自分は全属性使えると自慢したかったのだろう。マイロードが凄くて最強なのはもう分かってるんだから、別に慌てて補足を入れなくてもいいのにね。少しでも下に見られるのが嫌な性分なのかな。

 

 取り敢えず概要は把握できたので、早速マイロードに私の属性とやらを見てもらう事にした。何か道具でも使うのかと思っていたが、どうやらマイロードと手を繋いで魔力を流せば大体分かるとのこと。

 こういうふとした所で技巧派な面を見せてくるのはなんか狡いよね。普段はあんな大雑把なくせに。

 

 

「お前の適性は──……水ね」

「水」

「吸血鬼で水魔法に適性がある奴がこの世に存在するなんて、流石の私も驚いたわ」

「それはその、良い意味で?」

「悪い意味で」

 

 水魔法を得意とする水弱点の吸血鬼なんて、存在自体がギャグそのものである。生まれも育ちも性質も恵まれない悲しきモンスター、それが私なのだ。これには涙がちょちょ切れるのを禁じ得ない。

 

 ただし、属性が水だったからといって他系統の魔法が使えない訳ではないのは注意が必要だ。同じく水属性の魔理沙さんが水とは無縁のマスパを元気にぶっ放しているように、時間をかければ習得できる可能性はある。まあその時間が今回はないんだけども。

 

 

「じゃあ当初の予定通り、お前は肉壁ね」

「粉骨砕身、頑張ります……ぐすん」

「……まああれよ、お前が生きて帰れたら何か簡単な氷結系の魔法とか教えてあげるからさ。そうウジウジ落ち込むな、見苦しい」

 

 慰めてるのか貶してるのかよく分からない言葉をいただいた。

 

 まあ気化冷凍法とか空裂眼刺驚(スペースリバースティンギーアイズ)みたいな技を習得すれば吸血鬼としての面目は守れるかもしれないので、そこはそこで頑張ろう。なんなら咲夜さんと合わせて絵面的に映える展開になるかもしれない。

 

 さて、私がとことん使えない奴だということが明らかになったのでマイロードは私から興味を無くしてしまった。このまま対レミリア閣下打倒集会はお開きになりそうだったので、ここで私からも意見を出しておく。

 

 

「ふと思ったんですけど、私よりもマイロードの強化を優先した方がいいんじゃないでしょうか。どのみち姉君とメインで殺り合うのはマイロードなんですから」

「そうは言っても数百年の研鑽を経て今の私があるわけだし、それに比べたらたった三日間でできる事なんか限られてると思うけど?」

 

 確かに、日々の引き篭もり生活で培われた知識や技術の更なる底上げは一朝一夕では至難だろう。今のマイロードに鍛える余地は殆どないのかもしれない。

 だからこそ、伸び代があるかもしれない私の育成を方針の候補としていたわけだし。

 

 でもそれはあくまでマイロード自身の話であって、私を始めとした『外付けの強さ』はちょっと話が違ってくると思うんだよね。

 

 RPGと同じ理屈だ。レベルが頭打ちになったなら、次に重視すべきは装備である。

 

 

「ふっふっふ……お任せくださいマイロード! 決戦の日までにとっておきの武器を私が用意いたしましょう!」

「お前が作るの?」

「はい!」

「まさかプリンが武器とか言い出さないでしょうね」

「いやいやちゃんとした武具ですよぅ」

 

 マイロードの中で私は一体どういう存在なのか気になる今日この頃。プリンを作ってくれる置き物みたいに思われてたら嫌だなぁなんて。

 

 

「で、どうやって作るの?」

「それは勿論鍛冶で作りますよ! 材料さえ用意していただければ問題ありません!」

「……自信満々だけど、お前鍛冶の経験とかないでしょ」

「でも本で大体の知識は得ました。多分なんかいけるような気がします!」

「もういいや好きにして」

 

 マイロードは投げやり気味に言い放つと、私から視線を外していつもより分厚めの本に目を通し始めた。期待を微塵も感じないのはちょっぴり悲しいけど、あそこまでの醜態を見せた後だと仕方ないか。

 

 落ちた評価は他で挽回する! それが私流のできる従者(道具)像なのである! 私の鍛冶技術でマイロードの度肝を抜いてやるんだから! 

 

 まあそれはそうと、何の根拠もないのに鍛冶に適性があると信じている自分に変なものを感じるのも確かなんだけどね。つくづくよく分からない不思議生物である。

 





マイロードはホグワーツだと恐らくレイブンクローかグリフィンドールに組み分けされるものとする。(分身ちゃん予想はスリザリンのあく・かくとうタイプ)
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