フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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当主代理フランドール代理ニッヒちゃん

 

 

 名前が付いて心機一転。何も変わらず七転八倒。

 今日も元気に世界一可愛いミンチをやってます、分身ちゃん改めニッヒちゃんと申します。

 

 無事レミリア閣下との超決戦を制した事で、しばらくは比較的平穏な日々になるんじゃないかと踏んでいた。マイロードは何か大事を起こした後、行動が低調になる傾向があるからだ。今回もそうだとばかり思っていた。

 

 マイロードが穏やかになる事は私の幸せとイコールだからね。それに期待してしまうのは仕方のない話である。私だって明日への希望を持ちたいのだ。

 

 まあ所詮は儚い希望。あっという間に裏切られたんですけどね。

 

 

「いつまで地べたに這い蹲ってるの? 休憩の時間はとうに過ぎてるけど」

「死、これ死死死……!」

「最後にもう一度だけ言ってやる。立て

「はい立ちました! 私まだまだいけます!」

「汚いッ」

「あぎっ!!! 理不尽!!!」

 

 床の汚れと同化する事で僅かな休息を得ていたものの、スクラップまでのカウントダウンが開始したので震える身体に鞭打ち立ち上がる私。そして汚れに塗れた私を見て顔を顰めたマイロードから蹴っ飛ばされる。

 

 息もつかせぬ責苦に私の身体と精神は崩壊寸前だ。というか少なくとも身体の方は崩壊済みだった。なお心にまだ余裕があるとバレたら大変な事になりそうなので、涙を流して誤魔化している最中である。

 

 こんな事になってしまった経緯は私にもよく分からない。マイロードの気紛れと言ってしまえばそれまでだろう。これまでと違うのは、今回のそれは通常の折檻と少々趣きが異なるという点。

 

 どうやらレミリア閣下との戦いに備える目的での戦闘訓練が、何故かその後も継続しているっぽいのだ。いや、むしろ更に苛烈になったと言わざるを得ない。

 

 とんでもないスパルタ指導。なんという時代錯誤な昭和的価値観だろうか。でもそれって今から見ると未来を先取りしてるって事になるのか。流石はマイロード、恐れ入ったわ。解放してクレメンス。

 

 

「続きよ。限界まで魔力を練り上げて相殺しなさい。消し炭になりたくなかったらね」

「うぎ、うがぎぎ……! ぁぁぁも、もうダメっ! それ以上はムリムリ! やめてっとめてっ!」

「ふんッ」

「うわらば!!!」

 

 今やってるのはマイロード曰く魔力の放出訓練。手を繋いで魔力を相手へと送り合う押し相撲のようなものである。互いの魔力量が拮抗していれば掌の間で安定し、綺麗な火花を散らすとのこと。

 なお今のように片方の魔力量に天秤が傾くと、もう片方の身体へと一気に魔力が流れ込みキャパオーバーによって爆発を起こす。火花どころか汚ねえ花火そのものになってしまうのだ。

 

 これまでに一度も拮抗現象が起きた事はなく、今回で通算二十二度目の爆死を遂げた。多分斧を片手に暴れてるモヒカン雑魚でもここまで酷い目には遭わない筈だ。

 そして世紀末覇者拳王ことマイロードは、つまらなそうに握っていた私の手首を放り投げると、椅子に座って私の再生が完了するまで読書を開始する。

 

 延々とこの繰り返しだ。マイロードが「約束通りに魔法の使い方を教えてやる」って言い出した時はほんの少し期待したんだけどね。蓋を開ければこれだ。

 さては教えるの下手過ぎか? 

 

 

「まだ初歩中の初歩なんだけど、いつまで同じ事を繰り返すの? 私が学習能力皆無の馬鹿が嫌いなことくらいお前なら容易に想像できるでしょうに」

「無理なものは無理なんですよ〜! これ絶対ステップ間違えてますって!」

「黙れ。自分の無才を私のせいにするな」

「あのぅ、足蹴にするのはせめて再生が終わってからにしてくださいお願いします。イテイテ」

 

 

「はぁいフランドール。お忙しいところ邪魔するわ……ってなんじゃこりゃ」

 

 部屋に入るや否や、床に散らばった私を蹴っ飛ばしている妹を見たレミリア閣下の心境は察するに余りあるね。ドン引きもドン引きである。

 

 しかし流石は悪魔が巣食う紅魔館の主人。スプラッタな場面にも慣れっこなようで眉間に皺を寄せるに留まった。このくらいの耐性が無いとマイロードの姉は務まらないのだ。

 

 

「で、何事よこれは」

「従者とのなんて事のないスキンシップ」

「……ケテ……タスケテ……」

「なんか言ってない?」

「肉塊の戯言よ。気にしなくていい」

「お、おう」

 

 私への苛烈な体罰は虚しくも隠蔽されてしまった。

 

 

「それで。ノックも無しに入ってきて何の御用かしら、お姉様。もしかしてリベンジマッチのお誘い?」

「何を馬鹿なことを。王者に挑戦権などありはしない。ただ頂点に座して待つのみよ」

「あっそう。用がないなら追い出すけど」

「用はあるさ。そこの肉塊にね」

「私ですか?」

 

 ミンチのまま話すのは不敬になるかと思い、身体を一気に再生させてマイロードの側に控える。「まだまだ余裕あるじゃねーか」と言いたげな視線を隣から感じたけど気付かないふりをした。注意ヘイト諸々をレミリア閣下に肩代わりしてもらおう。

 

 

「ダミー、じゃなくてニッヒを貰おうかと思って」

「コイツは私の物だって言ったよね?」

「別に取り上げようって訳じゃないわ。少しの間だけ貸して欲しいのよ」

「……何に使うの?」

「当主代行としての役目を貴女の代わりにね」

「げ」

 

 過去一番の嫌そうな顔だった。

 

 つまり仮初でもいいからフランドール・スカーレットに表舞台に出てもらって、紅魔館のNo.2は健在であり、なおかつ当主と仲良好である事を示したいって話らしい。

 

 言われてみれば、マイロードがこんな調子だから対外的に色々と面倒臭い影響が出ているのは想像に難くない。それに先日の決戦で大広間が崩壊した事で動揺が広がっている事も踏まえて、マイロードの手綱を握っているアピールは必要なのだろう。

 レミリア閣下も苦労してるんだろうね。

 

 

「近いうち我ら紅魔の権勢を見せ付ける為の遠征が必要になる。その時までに紅魔館を預けられるよう貴女(フラン)の立ち位置を盤石なものにしておきたいの」

「却下。コイツは暫く特訓で忙しいの。上の政治に関わらせている暇はない」

「ならフラン自身にやってもらう他ないわ。分かってると思うけど、ニッヒに代役をやらせるのは私からの最大限の譲歩。この子が問題なく代わりを務めている間なら、私も貴女にとやかく言わずに済んで楽なんだけどね」

「興味の無いものには関わらないってずっと言ってるでしょ。いい加減諦めなよ」

「あっそう。ニッヒはどう思う?」

「え? 絶対にやった方がいいと思いますね。だって外から見たらマイロードって穀潰しの引き篭もりですもん。少しは働いた方がいいですよ。まあ実際に働くのは私なんですけど」

 

 答えると同時に横からヤクザキックが飛んできたけど怯む訳にはいかない。私にだって主人を諌める譲れない一線が存在するのだ。そのためなら右足の一本や二本くれてやろうじゃないか。

 

 こんなドン底のような生活が常態化してしまったら、幻想郷突入後もマイロードの根暗鬼畜マインドが続行してしまう。せめて主人公の方々と弾幕ゲームで遊べるくらいの余裕は身につけてもらわないとね。何かの間違いで殺しちゃったら大事だし。

 

 だからまずは心身を整えるために環境を変えなきゃならない。今こそ久々に『フランちゃん育成計画』を進める時である。

 

 

「マイロードの悪評改善のためなら私は何だってやります! 任せてクレメンスですよ!」

「自慢の忠臣もこう言ってるけど」

「……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あの子ったら凄い目で睨んでたわね」

「あそこまで不快感を露わにされるのは珍しいですよね。冗談抜きに眼力だけで殺されるかと思いました。この後を考えるとひどーく憂鬱です」

「亡命ならいつでも受け入れるわよ」

 

 マイロードの自立に向けた交渉は、やはり最後まで一筋縄ではいかず荒れに荒れた。よほどレミリア閣下の言う事を聞くのが嫌と見える。

 

 しかし現状のマイロードが如何に社会不適合でダメ吸血鬼であるかを根気強く説いた事が功を奏したのか、何とか替え玉の指令を受けることができたのだった。

 なお役目が終わって地下に戻り次第、さらに苛烈な訓練が行われる旨を伝えられている。うーん、そろそろ遺書を準備しておく頃合いかな。

 

 主人の尻拭いをしてるだけなのにとんでもないとばっちり。私といい美鈴さんといい、やはり忠臣とは報われないものなのだと考えさせられてしまうね。悲しいね。

 

 それはそうとレミリア閣下の物言いが若干挑発気味だったのも気になる。私を置いてけぼりにしてマイロードと何やら小声で言い争ってたしね。

 

 もしや私たち主従の仲を引き裂くための離間工作だったりするんだろうか。そんなに私が欲しいのかな? 困っちゃうよね、優秀すぎるのも考えものだ。

 

 という訳で、レミリア閣下に連れられやって来ました執務室。

 

 

「フランは毎日あんな調子なの?」

「概ねそうですね。今日に関してはいつもより二割増しくらいで酷かったですけど」

「ニッヒも大変ねぇ」

「物使いの荒い方ですので」

 

 取り敢えず最初は見て覚えようとのことで、書き仕事をするレミリア閣下の隣に座って内容の決裁確認を手伝う事になった。まあ指摘する事なんて何もないんだけども。

 

 その合間にマイロードの近況を色々と聞かれたのでマイルド風味に調理して伝えている。ありのままを伝えたらドン引きして疎遠になっちゃいそうだもん。

 

 そして途中から私の身の上話に。

 

 

「なんというか、生まれて間もないのに無茶苦茶な経験ばっかしてるのね」

「なので今回ようやく文明的な役割が与えられそうで正直ホッとしてます。拳と蹴りの飛んでこない職場は初めてなものでして! いやぁワクワクしますねぇ!」

「マジで亡命しなくていいの?」

 

 残念、道具は主人を選べないのである。悲しき宿命というやつだ。

 

 というか物凄い頻度で憐れまれている。大変惨めだけど、同時にクセになってしまいそうでもあるよね。どういう形であれ優しさには違いないもん。

 生まれてこの方ネグレクトを受け続けた身には些細な優しさが大変染み入るのである。あったけぇ。

 

 

「まあ当主代行といっても今みたいに私の隣に座って大人しくしてるだけで良いから、そんなに気負わなくても大丈夫よ。最低限のコミュニケーションは取ってもらう必要があるかもしれないけど、何かあれば私が支えるわ」

「そのくらいならお任せください! ふっふっふ、私はマイロードのように陰気じゃないので何の滞りもなく遂行してみせますよ!」

「そ、そう。……今更だけどあの子の姿でそういうキャラをされるのは違和感が凄いわね」

「お気に召さないですか?」

「そういうわけじゃないんだけどね……あり得ない未来図を見せつけられてるようで寒気が」

 

 褒め上手のレミリア閣下もマイロードに対してはそこそこ辛辣である。まあ可愛い顔と明晰な頭脳と腕っ節以外は褒めるところないもんね、仕方ない。

 

 

「でも私みたいにってわけじゃないですけど、もっと明るく陽気になってくれてもいいと思うんですよね、マイロードって。外見はあんなに可愛いんだから、ちょっと社交的になって、ついでに姉君みたいに優しくなってくれればいっぱい友達ができる筈です」

「アイツに友だちねぇ。無理じゃない?」

「まあ世の中広いですし、探せばマイロードと馬が合う変人が見つかるんじゃないですかね」

 

 具体的に言うとこいしちゃんとか、ぬえちゃんが候補かな。『フランちゃん』と仲の良い人と知識内を検索すれば真っ先に該当する人たちである。きっと将来の仲良し三人組なのだろう。そうであろう。

 

 ただ現在のマイロードの性格から考えると、どうにもあの子達とは反りが合わなそうなんだよね。特にこいしちゃん。ああいう電波系の女の子と屁理屈ガン詰めタイプのマイロードは衝突する未来しか見えない。

 彼女らの安全のためにも、やはりマイロードの『フランちゃん化』は必須なのだ。

 

 まだ見ぬエクストラな少女たちに想いを馳せていると、唐突にレミリア閣下の筆が止まった。低い声で笑いながら肩を振るわせている。

 

 

「その魂胆で今回の話に乗ったってわけ?」

「そうですね。私の第一目標はマイロードに幸せでなおかつ穏やかに暮らしてもらう事ですので、そのためなら我が身を粉にしてでも変化を促していく所存ですよ」

「ほう。まるでその変化した先にある未来が幸せだと分かっているような物言いね」

「はえ?」

 

 仄暗い空間に浮かぶルベライトの瞳が真っ直ぐ私を見据えている。でもその光の先は私ではなく、レミリア閣下にしか見えない何かへと向けられているようだった。

 滲む感情はきっと良いものではない。

 

 やはり、当初の見立ては間違っていなかった。レミリア閣下とマイロードの根っこの部分は、かなり似通っている。冷徹で残酷。

 むしろそれを普段奥底に仕舞い込める彼女の方が潜在的には恐ろしいと言えるのかもしれない。

 

 マイロードの圧に慣れている私にとっては今更な話なんだけどね。

 

 

「優しさや甘さがあるに越した事はない。それが人を惹きつける要素たり得るのもその通り。でも、非情で苛烈な思考を捨て去ってまで手に入れるべきかどうかは、考えものじゃないかしら」

「そうなんです?」

「連綿と続く争いの日々を生き抜く力が今のフランドールにはある。群れずともあの子は独りで強くなれる。そんな修羅として理想の形を無理やり崩してしまうのは恐ろしい事だと思わない? なにせ私やフランが歩む道から闘争が消える事はないからね」

 

 レミリア閣下は私の考えが非常に甘ちゃんであると遠回しに言いたいらしい。

 なるほど、納得した。レミリア閣下の言い分は正しいと思う。

 

 そもそもの大前提として私たちの生きるこの時代は血で血を洗う乱世であり、強さこそが全てだ。地下室に引き篭ってるからあんまり実感がないけどね。

 そしてそれは幻想郷に辿り着いても暫くは変わらない。確か幻想郷来訪直後に全ての勢力を敵に回して暴れ散らかすイベントがあった筈だ。吸血鬼異変だっけ? 

 

 私の知る『フランちゃん』とマイロード。どちらの方が幻想郷に適応できるかと聞かれれば、やはりどう考えてもマイロードになるだろう。

 あの人なら実力でも性格の悪さでも、幻想郷のヤバい連中と張り合えるからね。他ならぬ私が保証する。

 

 ただマイロードは愛と悲しみを知って腑抜けになるような人じゃないとも思うんだよね。むしろ散っていった強敵(とも)のヴィジョンを背負う方に強化されそう。私がヴィジョン側になるのは断固拒否だけども。

 

 

「私はそうは思いません。だって他者を慈しむ心は何にも代え難いんですから。友だちにしてもそう、手が届く範囲にあるなら全て手に入れるべきです」

「その結果、フランが不幸になるのだとしても?」

「私がさせません。させてなるもんですか」

「へえ。言うわね」

「持ち手を守るのが道具の役目ですから。それに、何を捨てて何を得るかは全てマイロード次第。──だからせめて、マイロードには薄暗い地下室以外の選択肢を教えてあげなきゃいけないと思うんです」

 

 真っ向からバチバチに意見が食い違っているように見えるが、実情は違うと思う。

 私とレミリア閣下は至極冷静である。二人揃って相手の出方を窺っている状態なのだ。少なくとも私はそう。

 

 まあそれとは別に、私とレミリア閣下を突き動かす思想の相性があんまり良くないっぽいのは確かだけども。考え方は人それぞれだからね。

 

 

「態度を改める気はなさそうね」

「はい。私はマイロードに変化を促し続けます。そしてあわよくば優しくて可憐で従者に優しいマイロードが生まれてくれるといいなぁ、なんて」

「だから無理だってば」

「奇跡は諦めない者にしか微笑まないんですよ……!」

「お、おう」

 

 サナエンジェルの教えは本当に偉大だ。いつだって私に希望と蛮勇をもたらしてくれる。

 乙女にだって決して譲れない夢があるのだ。

 

 

「はぁ……お前もフランドールほどじゃないけど結構面倒臭いヤツだって事は分かったわ」

「それって褒めてます? それとも貶してます?」

「両方よ」

 

 そう締め括ると、レミリア閣下は書面の方に目を移してしまった。取り敢えず私に向けてマイロード関連で少し牽制というか、探りを入れてみたんだろうね。

 先程の話振りやマイロードの態度から鑑みるに、どうもスカーレット姉妹の間には何らかの地雷が存在するっぽい。こういうのには触れぬが吉である。

 

 折を見てマイロードが引き篭もりになった経緯とかを聞いてみたかったんだけどね、日を改めるとしよう。どうせ碌な理由じゃないのは目に見えてるけど。

 

 

 

 

「ところで美鈴さんはどちらに? 先ほど窓から見た門にはいませんでしたけど」

「そういえばまだ帰ってきてなかったっけ。結構遠くまで飛ばされたみたいだから、まだ国境辺りを彷徨ってるのかもね。まあそのうち帰ってくるわよ」

「えぇ……」





なお登場人物全員、面倒臭い女であるものとする。またこの時期のスカーレット姉妹は鎌倉武士マインドであるものとする。

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