フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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ありがとうありがとう博く麗しい(カット)

あと本日はむきゅーの日(6月9日)らしいです


烈戦 パチュリー!《挿絵あり》

 

『確信したわ。お前って戦闘を舐めてるでしょ?』

『こ、これでも自分ではけっこー頑張ってるつもりなんですぅ……ぐすん』

『大した足しにもならなかったね出来損ない』

『あの、もっとニッヒちゃんに優しい言い方があると思うんですよ……!』

 

 そんな辛辣な言葉を以て、マイロードとの訓練は一つの区切りを迎えた。

 いつものようにマイロードの指定した無茶振りメニューに打ちのめされ、一秒でも長く休んで次に備えようと床に這い蹲っていた矢先のことだ。

 

 恐らく、この時点で私の戦闘センスに一定の見切りを付けたのだろう。蹴りの代わりにくどくどと説教めいた批評(悪口)が垂れ流されていく。

 もしや精神攻撃に切り替えたのだろうかと私は身構えた。やめてくれマイロード、その方法は私に効く。やめてクレメンス。

 

 

『まあ文字通り死ぬ気でやっても結果を伴わないのなら、そこから先は才能と性分の問題ね。不良品のお前にはとんと縁のない物よ』

『でもやる気はありますよ! ぬんぬん!』

『黙れ。お前の扱う暴力は本来(吸血鬼)のものから程遠い紛い物。本気で相手を屠ってやろうとする殺意の無い、脆弱な闘争心なんて不純もいいところに決まってるじゃない』

『に、憎しみがあれば何とか……』

『暴力に理由と納得を求めるな。気に入らない相手は路傍の石を蹴飛ばすように叩き潰す、敵は全て殲滅する。それだけの動機でいい』

 

 思考回路が博麗霊夢(紅い通り魔)そのものではなかろうか。平和主義なニッヒちゃんにはなかなか理解し難いね。私はどちらかというと主人公の皆様とかマイロードに轢き潰される役の妖怪だと思うから。

 身体はEX、心は二面ボス! それが私なのだ。

 

 

『うーん……やっぱりどう考えても、私ってその被害者側にしかなれないと思うんですよねぇ』

『だろうね。お前みたいな貧弱な心の持ち主は強い奴に喰われるのがオチよ。戦う前から明確な上下関係が決まっているんだもの』

『そういうのなんて言うんでしたっけ。さでずむ?』

『しらない』

 

 何はともあれ、マイロードやレミリア閣下のような吸血鬼として模範的な戦闘スタイルに向いていない事が明白となったので、もしやこれでこの地獄の日々も終了かと期待に胸を膨らませる。

 そして、それを見透かしたようにマイロードは倒れている私の胸ぐらを掴むと、砲丸投げの要領で壁へと放り投げた。壁のシミさんお久しぶり。

 

 

『という訳で方針転換よ。これからはお前の得意を伸ばしていく』

『私の得意? もしや、戦闘要員から飯炊係へジョブチェンジですか!』

『違うわ。嬉しそうにするな』

 

 いつぞや話したが、厄介なことにマイロードは暴君であっても愚かではない。私の得手不得手を的確に把握し、持ち味の活かし方をしっかり考えていた。

 

 まあ教え方は相変わらずなんだけども。

 

 

『相手の意表を突く小賢しい戦法ははっきり言って吸血鬼として失格もいいところだけど、それがお前の明確な強みでしょ? 暴力で屈服させるより、奇策を用いて相手を驚かせ勝利に結び付ける。そこに関してだけ言えば、紅魔館の誰よりも優れている』

『そうですかねぇ。えへへ』

『言っておくけど褒めてないよ』

 

 たまには付け上がらせて欲しいなって。

 

 

『なるほど何となく分かりました。つまるところ、マイロードは私に第二部主人公的な活躍をお望みという事なんですね。奇策や戦術を駆使して相手の思考の裏をかいたり、不利になると敵前逃亡したり!』

『……言い回しが相変わらず意味不明だけど、理解できてるならまあいいわ。あと敵前逃亡したら殺す』

『はぁい』

 

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 こうしてマイロードは、相手の意表をつく小技や嫌がらせに特化した魔法を私と一緒に考案しては、無理やり詰め込み習得させていった。もうニッヒちゃんの技スペースはパンパンである。

 

 なおマイロード考案の戦法は殆どがいやに高度だったり残虐だったりで実現が難しく、完全な実用化についての回答を差し控えさせていただく旨を伝えている。私は殴られた。参考にはなるんだけどね……。

 

 何はともあれ「私もこっちで強くなり過ぎた」と筋肉モリモリマッチョマンのB級妖怪が如くイキリたくなる程度には色々できるようになったんじゃないかな。

 パチュリーさんに向けて放った『スターボウサイクロン』もその中で習得した技の一つ。対魔法使いを想定したマイロード考案の反則技だ。

 

 

「そいそいそいそいッ!!!」

「……!」

 

 愛用の紫傘に魔力を纏わせ、傘回しを披露するかの如く高速回転。それに伴い発生するマジカルストームへと大粒の水滴を乗せることで、攻防一体の必殺技が炸裂する。

 

 とはいえ所詮は私の使う魔法。マイロードのそれに比べれば威力は遥かに劣る。妖怪相手ではまともに当たっても致命傷とはなり得ないだろう。

 しかしこの技における最大の強みは撹乱にある! 

 

 私の作り出した魔力嵐はベクトルこそ違えどマイロードと同じ破壊の力が極少量宿っているらしい。それが術式の指向性を乱し、目標を狂わせる。

 いわば掟破りのアンチマジック! 

 

 それはパチュリーさんの放った、雪崩のように押し寄せる大量の火球も例外ではなく、魔力嵐に呑まれたことで対象物を見失い、見当違いの場所を爆撃している。

 私の技量不足故に攻撃へと転用することはできなかったが、十分な戦果だ。

 

 私、無傷! パチュリーさん、無傷! 戦っている相手を無闇に傷付けてはならない縛りを負うニッヒちゃんにとっては最高の結果だ。

 なお流れ弾で相当数の本棚が吹っ飛んでいる事については見なかったものとする。

 

 

「酷い有様ね。まだ読んだことのない本が山ほどあったのに……一体どうしてくれようかしら」

「そっちが図書館でそんな物騒な魔法を使うからだよ! 火気厳禁!」

「うんうん。一理ありますねー」

「使い魔風情が。無駄口を叩く暇があったら結界で本を守ってなさい」

 

 ちょっぴり不機嫌な様子のパチュリーさんだが、怒りたいのはこちらの方である。私の地獄のような日々を更なる地獄へと誘う行為は断じて許されない! 少しだけ痛い目を見てもらおう、そうしよう。

 

 さてさて、あとはこの調子で魔法を掻い潜って悪質吸血鬼タックルをぶちかますだけだが、パチュリーさんにその隙が生じるような油断や焦りはない。というか、椅子から立ってすらいない。舐め腐ってる。

 私の必殺技を目の当たりにしても至極自然体のままだ。

 

 だからといって無理に近接戦を仕掛けても勝ちの目は少ないように思える。多分、鴨がネギを背負って来たと言わんばかりに集中砲火を浴びて終いだ。

 

 ならばもっと派手に彼女の魔法を踏み越えて、削りに削る。なにせ事前知識によれば、パチュリーさん最大の弱点はスタミナにあるのだから! 

 

 

「水は吸血鬼の弱点じゃなかったの?」

「何故か使う分には得意なんだよねー。ほら人間だって各種アレルギー持ちでも蟹とか海老は美味しく感じるし、犬猫を可愛く思うでしょ?」

「それとは別の話な気がするけど」

「うーん私もよく分かんないや」

「……本で見た吸血鬼の知識と、貴女は随分異なるようね。果たして本の著者が誤っているのか、はたまた貴女が特別なのか」

「後者かな。私は優秀だから!」

「そう。……どのみちこれから分かる事ね」

 

 パチュリーさんの魔力の高まりに呼応し、消えるだけだった残火が再燃を開始する。優秀で賢くてとっても強い私に同じ魔法は通用しないのだが、もしや侮られている? 

 

 ──いや、侮っていたのは私。たった一つ魔法を砕いて良い気になるなんて、高次元に位置する魔法使い達にとってはただの笑い話だ。

 燃え上がる炎を制御しつつ、新たな詠唱が開始される。恐らくめちゃんこ高度なテクニック。ああいうのを二重詠唱って言うのだろうか。教えてマイロード。

 

 

אדמה זורמת(トリリトンシェイク)

「むむむ、炎の次は土塊!」

 

 なるほど、押し潰す気か。実体があやふやな属性で攻めても私のスターボウサイクロンに巻き込まれるのがオチだから、質量と密度で畳み掛けるべしと判断したのだろう。さすパチェ。

 

 というかあんまり土埃で汚されると掃除が大変になるからやめてクレメンス! 炎とか水とか撒き散らされておいて今更な話だけども! 

 

 

「吸血鬼のフィジカルを舐めないでよね! この程度の土塊なんか簡単に砕いちゃうんだから! オラオラオラオラぁ!!!」

「人智を超えた剛腕、大陸を一瞬で横断するほどの速度。これは本の知識通りか」

 

 迫り来る土塊を拳で粉砕! ニッヒちゃんは物理も魔法もいける両刀型なんだよね! 

 

 私の反則技が通じない時は、吸血鬼の流儀に則ったゴリ押しの出番である。とにかく無茶苦茶に手足を振り回して対象物を破壊し、目が慣れれば回避も混ぜ込む。

 側から見れば子供のグルグルパンチとなんら遜色はないだろうが、フィジカルは全てを解決するのだ。

 

 

「ふっふっふ……私って受けが得意なんだよね、しかもめっぽー打たれ強い。よってこの程度の魔法なんて何千発喰らおうが私は倒れないよ! やあやあパチュリー・ノーレッジ敗れたり!」

「……ガッカリね」

「はい?」

「貴女の底が見えつつある。לבה ענקית(ラーヴァクロムレク)

 

 粉砕した土塊、掻き消した残火。私に敗れ去った二つの魔法が互いに影響を及ぼし合い、放たれるは相生により昇華された新たな境地。先とは比較にならない規模の岩石が、炎を纏い私へと降り注ぐ。

 絶対ここが図書館だって忘れてるよね。

 

 こんなもの、マイロードの鉄拳に比べれば! 

 多少のダメージには目を瞑り、再び強引にフィジカル突破。熱波で皮膚が爛れるが、こんなもの常にボロボロな私にとっては怪我のうちには入らないのだ! 悲しいね。

 

 

「ぐきぎ……! き、効かないなぁ!」

「我慢強いのね。דרקון ברזל מפואר(シルバードラゴン)

「あイテ、イテテ!!!」

 

 でも痛いことには痛い。

 新たに展開された魔法陣から射出された鋼の鎖が役目を終えた岩石群を貫き、周囲に金属片を含む突風を引き起こす。斬撃によるお仕置きは少ないから新鮮な痛みだ。

 

 というかちとマズい。魔法と魔法の間に切れ目が無さすぎて反撃に転じる事ができない。

 パチュリーさんのスペルを打ち破っても、その残骸から相生して更に強力なものをぶつけてくる。この理不尽な手数の多さこそ彼女が大魔法使いたる所以。

 

 と、切り刻まれながらも魔力の流れと性質を身を以て把握し、スターボウサイクロンで無効化した事で何とか怒涛のスペル連発を断ち切った。

 血塗れだけど私的にはまだまだ軽傷! 故に互角! なんだか一方的にやられてるような気もするけど、負けてないったら負けてない!

 

 

「本当に頑丈な種族なのね。これだけやっても死なないなんて」

「あのー……もしかして私で色々実験してる?」

「吸血鬼と戦うのは初めてだもの。どうせ殺るなら試せることは全部実行しなきゃ勿体無いわ」

「うーん、カスの勿体無い精神」

「だって貴女達って、あと少ししたら地上から淘汰されそうじゃない。出会いを大事にしないと」

「カス度の最高値を一瞬で更新してくるなぁ」

 

 多分外では他所の同胞達が人間に退治されまくってるんだろうね。あれだけ弱点が多いのでは、どれだけ強くても数に勝る人間には勝てない。日本の鬼と同じような末路。

 

 ワシントン条約に吸血鬼が追加される日も近いのだろうか。世知辛い世の中だ。是非とも私を保護してぬくぬくの部屋に匿って欲しい。

 マイロードとレミリア閣下? 多分幻想郷(ゆかりんランド)彼岸島(雅様キングダム)で楽しくやっていけるだろうからノー問題。

 

 

「だけどそれもそろそろ終わり。長旅で身体が疲れているのもそうだし、何より早く読書に戻りたい」

「うんうん。不毛な戦いをこのくらいで止めにしたいのは激しく同意。ていうかこのままじゃ千日手だからいい加減和解しようよー」

「お構いなく。盤面は整った、次で詰み」

「まるで将棋だね」

「……チェスじゃなくて? נסיכה מתנדנדת על הים(ジェリーフィッシュプリンセス)

 

 ちょっとしたカルチャーギャップにほっこりしたのも束の間、会話の途中に詠唱を織り交ぜてくるという、これまた高度な技術で仕上げが始まった。

 

 ついにと言うべきか、パチュリーさんが使用したのは水魔法。自身を水泡で包み込み、同時にあたり一帯へと水をぶち撒ける傍迷惑な技だった。まさしく攻防一体。

 

 恐らく、私達(吸血鬼)を相手取る上で最も効果的な手段だろう。普通ならコレを繰り出された時点で吸血鬼に接近戦の選択肢が消滅する。そして遠距離戦は彼女が十八番とする領域。結果、導き出される答えは逃走オンリーになってしまう訳だ。

 

 しかし残念! 私は普通じゃない。

 反則魔法スターボウサイクロンさえあれば、このくらいの技なんて難なく攻略──。

 

 

 あれ? 

 

 

「え、なんで!? なんで出ないの!? スターボウサイクロンッ! スターボボボボボボッ!」

 

 詠唱は完璧、魔力もまだまだ有り余っている。なのに私の魔法は発動せず意味を持たない魔力が残骸として抜け落ちていくだけ。

 当然、眼前に迫る大量の水を防ぐ手立てはなく、なす術なく流されてしまった。

 

 全身を灼けるような激痛が走る。まるで身体中の皮を剥がされた後、海に突き落とされたような筆舌に尽くしがたい感覚だ。てゐちゃんの気持ちなんて知りとうなかった! 

 

 

「ぐぇぇ水だあぁぁぁ! 沁みるぅぅ!!!」

「馬鹿の一つ覚えみたいに同じ魔法ばかり使うからよ。根幹たる術式を敵に読み解かれてしまえば如何なる魔法も意味を成さない。勉強不足ね」

「そんなの習ったことないもん! マイロードのバカぁ! ボホッ! ボホッ!」

「……しぶとい」

 

 何やら私の敗因を解説してくれていたみたいだが、それに費やす思考は存在しない。頭の中で生命への警鐘が甲高く鳴り響いている。吸血鬼としての本能だろうか? 

 私の肉体が滅びるまでどれほどの猶予があるのかハッキリとは分からないけど、今はとにかく一秒でも早くこの窮地から逃れるのが先決だ。

 

 こんな時頼りになるのは、やはり私の未来知識。真偽の怪しい情報の多さは相変わらずだけど、ガセだのワザップだの、四の五の言ってる場合じゃない。

 

 

「あ、パチュリー様おわりましたぁ?」

「見ての通りよ。疲れたから後片付けは任せるわ」

「私ボロボロなんだけどなぁ。やりますけど」

 

 パチュリーさんは私の溺死を待つようで、それまでの監視を自分よりも疲労困憊な小悪魔さんに押し付けると読書に戻ってしまった。相変わらず舐め腐っているが、この瞬間こそニッヒちゃんが最も輝く時! 

 ピンチはチャンス。相手が勝ちを確信した時、私へ勝利の女神は微笑むのだ。

 

 

 いつから吸血鬼は泳げないと錯覚していた? 

 魅せてやる──私の超絶美技な近代的バサロ泳法を! 

 

 

「うわぁ!? パチュリーさま前、前見てください!」

「あん? ……っ!? מחסום אמרלד(エメラルドメガリス)!」

 

「せいやああああ悪質ドルフィンタックルぅ!!!」

 

 水面を泳いだのでは飛沫の跳ねる音で容易に接近に気付かれてしまう。ならば潜水して近付けばいいという当たり前の発想である。その時役に立つのが、このイルカの如き動きで水中を高速移動するバサロ泳法なのだ! 

 

 間髪を容れず小悪魔さんから注意が飛ぶがもう遅い。眼前に迫った私を認めるや否や詠唱を即座に完了させたパチュリーさんも流石だが、私の前で隙を見せたのが運の尽き。

 

 召喚された緑柱石の障壁ごと図書館の床をガリガリ削って、パチュリーさんを後方へと押しやっていく。吸血鬼の突進力の前にはなんのその。

 

 

「おかしい、有り得ない。身を滅ぼす程のダメージを継続して受けているのは分かっている。なのに何故、即死せず泳げているの? どういうカラクリ?」

「死ぬほど痛いけど我慢して泳いでるのッ!」

「え、なにそれ怖い」

 

 先ほどの親切な解説へのお返しに、問いに対してありのまま答えたのだが謎は深まってしまったようだ。正直私もよく分からないけど、まあ生きているなら別に良いやの精神である。俗に言う死ななきゃ安いというやつだ。

 

 恐らく遊泳世界新記録を遥かに超えるタイムで私とパチュリーさんは終着点へと到達した。沢山の本棚を巻き込んだ勢いそのままに、図書館の壁へとブツを叩き付けてやるのだ。

 名付けて──。

 

 

「必殺! えーっとヴワルサンド!!!」

「むぎゅあ!」

 

 パチュリーさん、障壁、私の順で図書館の壁に突っ込んでいく。そして蛙をダンプで轢き潰したような声で冷静になった。ついでに後悔した。

 

 普通の人間なら多分ミンチになっているだろう。人外とはいえ紫モヤシの異名を持つパチュリーさんに耐え切れるだろうか? やらかした後で安否が心配になってきた。

 だ、だって手加減できるような相手じゃないし……。

 

 ていうか私も限界。

 パチュリーさんの墓標になるかもしれない緑柱石へと頭を打ちつけ、ずるずると水浸しの床へと倒れ伏した。あ、痛い! 水が痛い! 

 

 

「うわぁ大変なことになってる……」

 

 と、ここで小悪魔さんが到着。場の惨状を目の当たりにしてドン引いていた。

 取り敢えず謝っておこう。

 

 

「ご、ごめんね。なるべく穏便に済ませようと頑張ったんだけど、もしかしたら貴女のご主人様を殺っちゃったかも……」

「ああ大丈夫ですよ。私との間に結んだ契約が切れていないので確実に生きてますね。多分、咄嗟に風魔法を使ってクッションにしたんだと思います」

「そうなんだ。良かった〜」

「パチュリー様を心配してくれてありがとうございます。じゃあ、トドメ刺しますねー」

「あっそこは容赦ないんだ」

 

 当然といえば当然だけど、なんというかこう、手心というか。そんな悲痛な想いも悪魔である彼女には届かない。ニコニコ笑顔で手元に木の杭を召喚すると、私を仰向けにひっくり返して心臓へと当てがった。

 

 流水に叩き込まれるのとどっちが痛いんだろうかと、そんな事を呑気に考える。

 毎日ミンチになってる私からすれば心臓に穴が開くのなんて慣れっこだから、弱点といえどあまり痛みが想像ができないのだ。水浸しになったせいで思考力が落ちてるのかもしれないね。

 

 しかしそれは無理やり中断された。

 

 

「そこまでよ」

 

 緑柱石が消滅し、その奥からパチュリーさんが現れる。壁を見ると叩き付けた場所を中心にして円形の凹みがあって、小悪魔さんの言った方法で衝撃を殺したのだろう。そういえば原作でも風に乗って移動したりしてたね。

 

 相変わらずの気怠げな表情だけど、先ほどと比べれば警戒の色が滲み出ている気がする。

 

 

「余計なことはしなくていいわ。……取り敢えずこっちにいらっしゃい」

「あら、何故この吸血鬼を庇うのですかパチュリー様。まだ何かお試しになるつもりで?」

「いんや。それやるとお前が死ぬから」

 

 パチュリーさんが徐に指差した先には、水に流されて折り重なるように倒れている本棚の山。

 そして、その上に()()()()()()が腰掛けていた。

 

 そうか、そうだったのか。

 既にタイムリミットは過ぎていたのだ。

 

 

「げぇっマイロード!!!」

「吸血鬼が二人!?」

 

 恐れていた最悪の事態に悲鳴をあげる私、状況を把握できないまま逃げ出す小悪魔さん、何を考えているのか分からないパチュリーさん。そして、そんな私たちを冷たい目で見下ろすマイロード。

 

 取り敢えず諸々の言い訳を考えていると、私の隣にマイロードが降りてくる。

 

 

「あは、ははは、おはようございますマイロード。えっと、あのー……何と言いますか、これには海よりも深ーい事情がありまして」

「お前、負けたの?」

「へ? そ、そうですね力及ばず……。でも結構いい線いってたと思うんですよ!」

「黙れ。敗北の程度に意味などあるものか」

「へぶっ!」

 

 動けないのをいい事に顔面を蹴られた。泣きっ面に蜂とはまさにこの事である。ただでさえ水浸しな私の顔はもう大洪水だ。慰めてクレメンス。

 

 でも勝敗以外で怒られなかったのは意外だった。図書館半壊やら水責めを許した事やらで八つ裂きにされるかと思ってたのに。マイロードは優しいなぁ。

 と、思い出したようにマイロードが振り返る。

 

 

「あとお前、さっき私のこと馬鹿って言ってたでしょ」

「やっべ、デビルイヤー!」

「ふんッ」

「ぐへぇ!!! 満身創痍なのに!!!」

 

 

 

 

「さて……やってくれたな小娘が。当然、私の相手もしてくれるんでしょう?」

「む」

「本来なら侵入者如き相手にしないんだけど、お前は私の眠りを妨げた。それだけの理由でお前を遊び殺してやる。ただそれだけの理由だ」

 

 マイロードはあくまで睡眠を邪魔されたことが不快感の原因だと強調する。つまり、パチュリーさんが地下に流し込んだ濁流については全く脅威にはならなかったと、そう暗に告げているのだ。

 

 こうやって言葉の節々で相手を脅したり牽制したりするのがマイロード流の話術。正直、滅茶苦茶性格が悪いと思う。マイロードはそうでなくちゃ! 

 でも殺すのはやり過ぎ! 

 

 

「まあ安心してよ。私はコイツみたいに(こす)い真似はしないし、大人気なく火力で貴様を撫で潰す気もない。学究の徒らしく、死してなお愉しませてやる」

「……」

「分からない? お前の得意な土俵でやってやるって言ってるの」

 

 悪辣な笑顔だった。

 これから始まるのは、マイロードの悪い癖。

 

 相手に一切の言い訳を許さず、徹底的に敗北を叩き込む為のプロセス。傲慢、驕り、悪意を以って行われる無慈悲な蹂躙である。

 

 私に、その遊びを止める術はない。

 

 

「魔法使いらしく、手数勝負といきましょう?」

 

 






【挿絵表示】

くるまさん(@kurumabu_bu_ )より素敵かわいいイラストを描いていただきました。どっちが本物なのかまるで分からないな……。

なおもう一枚イラストがありますが、こちらは然るべきタイミングで公開される事になります。お楽しみに♡
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