フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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入院で遅くなりました(n回目)


無休無給(むきゅーむきゅー)

 

 出会いはいつも突然に。

 

 地上に出てすぐ、目の前をふよふよと浮遊していた小悪魔さんとばったり邂逅した。

 見つめ合うこと数秒、口元が震え出す。

 

 

「うわ出た!!!」

「あ、生きてた」

 

 そして開口一番の言葉がこれである。

 まるで破壊しか能がない制御不能の化け物に見つかったような物言いには流石の私もムッとなるね。まあ半分事実だから甘んじて受け入れるけども。

 

 取り敢えず半べそをかきながら必死に命乞いをする彼女に、私が無害である事を伝えておく。

 

 

「怖がらなくて大丈夫、私は悪いフランドールじゃないよ! ほら貴女とは同じ壁を舐めた仲でしょ!」

「あっ、パチュリー様から滅多打ちにされてた方の吸血鬼様ですか。なるほど、確かに貴女様ならまだ多少は話が通じそうですね」

「うんすごく話通じるよ! カモンカモン!」

「それはそうとあんまり近寄らないでくれます? 落ち着かないので……」

 

 言葉の節々から大変な苦労の痕跡が見て取れる。どうやら私が昏睡&謹慎してた間に相当な修羅場を経験したらしい。ようこそ紅魔館へ。

 

 しかしざっと見た感じ、彼女に目立った外傷はない。頭に包帯を巻いているけど、あれは私の悪質吸血鬼タックルによる負傷だろう。

 拷問やら処刑やらは私の杞憂だったらしい。

 

 ひとまず辺りを見回して、そこらに転がっていた備え付けの椅子に二人して腰掛けた。

 図書館は相変わらず荒廃しているけども、決戦時のような穴だらけヒビだらけの状態からは脱し、なんとか部屋としての体裁は保っている。天井もツギハギだらけだけど一応塞がってはいるしね。

 

 

「随分酷い目に遭ったんじゃないかと思って心配してたの。見たところ無事みたいで良かったね」

「無事なもんですか。現在進行形で酷い目に遭ってる最中ですよ」

「そういえば何してたの?」

「破壊から逃れた本の集計と管理です。実はこの度、強制的に此処で司書として雇われる事になりまして。無理やり働かされてるところなんですー。とほほ」

「おお、就職おめでとぉ!」

「めでたくないぃ」

 

 流石は人材蒐集家の気があるレミリア閣下、勧誘チャンスをしっかりと物にしていたようだ。

 彼女の実務的な能力の如何は兎も角として、コミュニケーションに飢えているニッヒちゃん的には大変嬉しい加入である。これで紅魔館がより一層賑やかになるね。

 

 社畜仲間が増えた事で私への当たりが軽くなるんじゃないか、という昏い希望があるのは内緒。

 

 

「右も左も分からないうちは後輩ちゃんも大変だと思うけど、上司の機嫌の取り方から紅魔の社畜心得まで分からない事があったら何だって私に聞いてくれて大丈夫だからね! しっかりサポートしてあげるから!」

「そんなこと知りとうなかったです……」

「辛い事とか痛い事はいっぱいあるかもだけどさ、まあ乗り越えてしまえばほんの一瞬だからね! 一緒にキビキビ元気に働こうね!」

「故郷に帰りたい……」

 

 心なしか老け込んでしまったように見える小悪魔後輩の背中をバシバシ叩いて活気付けてあげた。彼女の雇用形態がどんなものなのかは分からないけど、マイロード直属の私よりは待遇が良い筈。下には下がいるのでめげずに頑張って欲しいものである。

 

 あと先輩風を吹かしてみた訳だが、これが案外気持ち良かった。癖になっちゃう。

 

 取り敢えず今後は同僚になるということで、互いに軽く自己紹介。

 それによると小悪魔後輩は現世に召喚されるまでは魔界神なる存在の庇護の下、魔界でぬくぬくと暮らしていた名も無き一般低級悪魔だったらしい。

 しかし人生初めての悪魔契約でとんでもない地雷(パチュリー)に引き当てられてしまい、今に至ると。ちょっぴり幸薄系な小悪魔ちゃんである。

 

 それはそうと魔界って聞くと良いイメージは無いよね。奥地にS級妖怪がゴロゴロ居そうだし、怪僧ヒジーリ様が封印されていたりで、まさしく魔王のお膝元って感じ。

 あと魔界神ってアリスママの事なのかな。変な羽を持つ同士、仲良くなれないかな。

 

 

「次は私の自己紹介──と言っても、ニッヒって名前とフランドール様の分身であること、あとめちゃくちゃ優秀なこと以外は中身皆無なんだよねぇ。悲しみ」

「いやいや普通に濃い内容なので安心してもらって大丈夫だと思いますよー」

「そっか。他に何か気になる事があったらじゃんじゃん聞いてくれていいよ!」

「なんで本体と比べてこう、胸が大きいんですか?」

「うーん器の違いかなぁ」

 

 ダブルミーニングなのは言うまでもない。まあ私のプロフィールなんてどうでもよいのだ。

 

 

「で、最初からずっと気になってたんだけど……ご主人様のパチュリー女史は何処に?」

「ああパチュリー様なら屋外で刑務作業中ですよ。そろそろ日に数度の休憩時間になりますので、血反吐を吐きながら戻ってくる頃だと思うんですけど」

「刑務……? 血反吐……?」

「あの糞餓鬼── ん゛ん゛、偉大なる空に輝く紅魔の星にして欧州の覇者たるレミリア様たっての裁量で、助命を許す代わりのペナルティですね」

 

 相変わらず、たくさんの幻想少女達が桃源郷でキャッキャウフフする世界観には似つかわしくない、物騒な言葉のオンパレードである。

 

 一体全体どういうことかと、言葉の意味を噛み砕くこと数分。答えの方からやって来た。

 

 図書館の扉を弱々しく開けるなり、土埃だらけの床に崩れ落ちる大魔法使いが一人。

 

 

「あっパチュリー様。お勤めごくろー様です!」

「み、水……」

「ただいまお持ちしますねー」

「げほげほっ、がはっ!」

 

 パチュリーさんは文字通り血反吐を吐いていた。顔は真っ青、息も絶え絶え、マイロードに痛め付けられてた時よりも死に掛けているように見える。もはや自分で水魔法を使う余力すら残っていないのだろう。

 

 初登場時の冷徹で絶対的な大魔法使いとしての像は完全に崩壊してしまった。これはもう一種の尊厳破壊と言っても過言ではない。流石の私もドン引きである。

 

 

「パチュリー様は紅魔館の修繕を申し付けられているんです。しかも私達が来た時より何倍も豪華に建て増ししろなんて言われてます」

「レミリア閣下の言いそうなことだ!」

「しかも完全無休で可及的速やかに完成させろなんて無理難題を押し付けられまして、抗議しても『私の部下は不眠不休で毎日働いてるけど?』の一点張りで」

「マイロードの言いそうなことだァ……」

 

 スカーレット姉妹の我儘っぷりと、紅魔館の杜撰な労働環境。交わってはいけない二つが出会っちまった結果、地獄が顕現してしまったのか。

 

 あとマイロードの中での従者像が私で固定されているのは地味に由々しき事態かもしれない。私が特別優秀かつ特異的なだけであって、普通の人は不眠不休で働くと死んでしまうのだ。しかもパチュリーさんは体が弱い。

 

 生殺与奪の権を握られているパチュリーさんに、二人からの無理な要求を跳ね除けるだけの立場は無かったのだろう。可哀想なパチュリーさん、無謀にも悪魔の館に突っ込んでしまったばかりに……。

 

 

「じゃあパチュリーさんも形はどうであれ紅魔館に雇われたってことなの?」

「いえ、雇われたのは私だけですね。パチュリー様は、その、人の下に(かしず)くような性根や能力を持ったお方ではないので……」

「じゃあ再建が終わった後は」

「レミリア様の詳しい考えは分かりませんが……多分放逐?」

 

 悲報。パチュリーさん、非正規雇用だった。

 小悪魔後輩は言葉を濁しているが、つまるところ自分に心服せず厄介であり、それも動かない知識人をレミリア閣下は欲さなかったんじゃないかって話だ。まあ確かにあの人(レミリア)は陰気なマイロードと違って体育会系だし。

 

 おかしい、東方の中でも超大手である筈のレミパチュが息をしていない。

 

 ちらりと。床に這い蹲りながらも霞む目で書物を読み漁っている大魔法使い様を見遣る。貴重な休み時間を必死に貪っている故に私の存在にすら気づいていない。

 

 生きていたのは良かったけれど、どのみち原作の流れからは弾き出されそうなパチュリーさんに涙を禁じ得ない。このままでは紅魔郷四面ボスとEx中ボスを私が務める事になってしまうね。なんとかならないかな。

 

 

「後輩ちゃん的には、一応のご主人様と離れ離れになるのは不味いんじゃないの?」

「まあそこは恐らく契約次第なので、レミリア様が内容を塗り替えてしまえばどうとでもなるんですけど……パチュリー様を捨て置くのは気が引けますよね、やっぱり」

「だよねぇ」

「できれば一緒にいたいんですけど、どうにかなりませんかニッヒ先輩」

 

 上目遣いでそんな事をお願いしてくる。むぅ、仄かに香る魔性の匂い。彼女がどういう類いの悪魔なのかは知らないけど、もしかするとサキュバスとかそういう系統なのかもしれない。

 まあニッヒちゃんは魅了耐性MAXだから効かないんだけどね! 色事にうつつ抜かしてたらマイロードから「不純!」って言われて殺されちゃうのは想像に難くない。

 

 それはそれとして、純粋にパチュリーさんを慕っているようでもあるのが彼女の良いところなんだろうね。パチュこあだね。

 

 しょうがない。ここは頼りになる先輩として、ニッヒちゃんが一肌脱ぐ事にしよう。ほら私って一応腐っても紅魔館当主代理の代理だし。

 

 パチュリーさんに対して思うところが無い訳でもないが、今回の件は恐らく私という存在によって本来在るべき流れが捻じ曲がってしまった結果だ。そのせいでレミリア閣下の不興やマイロードとの因縁が生じてしまったのなら、私がなんとか挽回しないと。

 

 取り敢えず、一度レミリア閣下とパチュリーさんの件含めて色々話しておこうと心に決めるのであった。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

「我ら吸血鬼とは不変の象徴。永劫に近い時が過ぎようと、この身体も、我が名も、朽ちることはない。変わらない事が力の最たる証明となる。──だからこそ、過度な変化は身を滅ぼす毒となりかねない」

「そうね」

「でもニッヒは違う、あの子は不変でいられない。変化を許容しないと生き永らえる事ができない。器と心が合致せず、歪んでいるから。とことん皮肉な運命よね。そういう点では貴女の生き写し、正しく分身ね」

 

 その言葉は余命宣告に等しかった。

 厄介なのは、それが詭弁でないことを最も高い次元で理解しているのがフランドールその人であるという点。レミリアはあくまで考えを補強したに過ぎない。

 

 フランドールは頬杖を突いたまま、黙して紅茶を喉へと流し込む。

 

 

「あの子の右目は()()()()()()()。それが直近での一番分かりやすい変化になる。そして様々な契機を経てやがては、吸血鬼ではない何者かへと成り果て、結局滅びへと向かっていくんでしょうね」

「当のアイツはそんなの気にしないだろうけど」

「そう。貴女(フラン)に捨てられる以外なら、嫌々言いつつも何だって受け入れちゃうのがニッヒの美徳であり、同時に危うさでもある」

 

 献身にはいつだって破滅が付き纏う。

 今回のパチュリーとの一件は、それが如実に現れた結果である。持ち前の頑丈さと耐性、そして幸運で危機を乗り越えたが、その代償として右目を差し出す形となった。

 

 自分の身を滅ぼすような真似は止めろと釘を刺しても、ニッヒは承服しなかった。まるで自分を壊したがっているような、そんな態度。

 

 吸血鬼で無くなってしまえば、これまでのような無茶が命取りになる。それでも彼女は生き方を変えないだろう。そういう宿命の下に生まれたのだと、無意識に考えているから。

 それがニッヒという名の怪物なのだ。

 

 

「今のような状況を『親の心子知らず』っていうのかしらね。胸に秘めた想いはちゃんと言葉にしないと伝わらないわよ、フラン」

「そういうんじゃないわ」

 

 くだらぬ憶測であると、言葉と共に投げ捨てられたカップが壁に当たって砕け散る。どのみち部屋を掃除するのはニッヒである、何も構う事はない。破壊したいから、壊した。たったそれだけ。

 

 

「私はね、自分の意思に反して所有物が勝手に壊れるのが我慢ならないの。破壊のタイミングは私が決める。全ては我が意のままにってやつよ」

「はぁ……」

 

 相変わらず捻くれてんな、と。レミリアは呆れたように溜め息を吐き、攻守交代とばかりに紅茶を飲み干した。

 

 

 

「一つ」

 

 レミリアは人差し指を立てる。

 

 

「一つ、面白い作戦を考えたの。上手く事が進めば我らスカーレット家は永世に続く栄光と繁栄を享受するであろう、会心の作戦をね!」

「興味がない。もしかして、そんなくだらない話を聞かせるために私を叩き起こしたの? 殺すよ?」

「まあ貴女にとってはここからが本題よ。──その副産物、あくまで覇道のオマケとして、貴女たちの主従関係もまた永遠にでき得る方法があるわ」

 

 疑念を、或いは期待を湛えた緋色の瞳が交錯する。

 

 

「私がニッヒを助けてあげる。だからフラン、貴女も私の覇道に手を貸しなさいな」

「……何を考えているの?」

「最高の暇潰しを本気で楽しんでやるのよ」

 

「宙に浮かぶ煌々とした黄金の箱舟。光も闇も隔てなく、宵闇を支配する為に欲する神秘的で穢れなき大地」

「……」

「あの輝きは、夜の支配者たる私の手に収まるのが最も相応しい」

 

「月を獲りに行くよ、フラン」

 

 




小悪魔の言う魔界神とはアリスママ(アリスのママではない)であるものとする。
また何らかのタイミングで章分けが作られるかもしれない事を申し添えておくものとする。
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