フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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フランちゃん生存説

 

 しごきは続くよどこまでも。

 今日も今日とて横暴な主人からの責苦に怯えつつも、淡々と職務をこなす従者の鑑な私。我ながら超絶不憫過ぎて泣きそうになる。そろそろ何かしらの救いが恋しくなってくる頃合いである。

 

 しかしそんな悲痛な胸の内など知った事かとばかりに、マイロードはいつもの仏頂面で、何と無しに私への死刑宣告を行うのだった。

 

 

「そろそろお前も仕事に慣れてきたでしょう?」

「まったくそんな事はないですけど」

「私もね、いい加減お前を作った成果を実感したいの。だから今日中に部屋を隅から隅まで綺麗にする事。少しでも行き届いてない所があったら解雇(解体)するから」

「無理だと思いまぁす!」

「それじゃ私は寝てるわ。終わったら起こしてね」

 

 答えは聞いていないとばかりに私の訴えを踏み潰し、棺桶の中に入ってしまったマイロード。今のうちに上から釘でも打ちつけて封印してやろうか。

 

 でも私は賢いから全部無駄だって分かるの。

 並大抵のバリケードなんか腕を振るえば粉砕してしまうだろうし、何かの奇跡でオリハルコンを用意できたとしてもキュッとすればドカーンである。マイロードは最強だ。私の反抗心は数秒で息を引き取った。

 

 貴重な反骨精神さんの突然の死を悲しみつつ、明日は我が身という事で泣く泣く掃除を再開する。

 

 この数日間ひたすら片付けに奔走したのにまだまだ床が見えないほどに部屋を埋め尽くしているガラクタの山。壁に深く染み付いてしまっている頑固な血痕。

 見れば見るほど、その圧倒的な物量に押しつぶされそうになる。ゴミ屋敷なのか拷問部屋なのか、ハッキリしてほしいものである。

 

 

「まったく何をやったらこんなに散らかせるんだか」

 

 思わずぼやきが漏れてしまうのもしょうがない話だろう。『フランちゃん』はもっとこう、メルヘンチックな可愛らしい女の子部屋に住んでるものかと。

 だが実情はこの有様だ。

 

 フランドール495歳。

 社会性、なし。

 生活能力、なし。

 暴君の素質、あり。

 

 

「こんなんじゃ嫁の貰い手なんか出てこないよねあはは──嘘ですごめんなさい」

 

 棺桶の方から鈍い音が聞こえてきたので慌てて口を閉じる。そういえばデビルイヤーは地獄耳だった。もっと変なことを口走る前で良かったね。

 就寝中であろうが何かムカつく事があれば殴ってくるマイロードに陰口は自殺行為。よし覚えた。

 

 さて、何にしてもまずは積み上がったガラクタをどうにかしなければなるまい。

 吸血鬼ボディのおかげで重い物も楽々持ち運べるのは不幸中の幸いだった。完全に破損している危険物も自分で処分できるし。

 中には凄まじい力でぐにゃぐにゃに捻じ曲がってしまった鉄塊なんて物もあった。何やったらこんな事になるんだろうね。怖いね。

 

 ここに積まれているガラクタは全て暴君に散々痛め付けられて今があるのだろう。そう考えれば私と同類のような気がしないでもない。同情しちゃいそうだ。

 

 

「取り敢えず多分いる物、確実にいらない物、よくわからない物で分けますんで、後はお願いしますよー?」

 

 マイロードに聞こえるようにわざと大声を張り上げる。先ほどのような分かりやすいリアクションは無かったものの、多分聞いてくれている筈だ。

 

 私の独断でゴミ出しなんかしちゃったら、どうせ「後で必要なものだった」とか難癖付けて殴ってくるに違いないもんね。最終チェックだけはちゃんとしてもらわないと。

 

 それにしてもマイロードは仮にも館の重鎮な筈なのに、なんで私以外に部屋を片付ける人がいないんだろうか。それこそ十六夜咲夜さんとかがやってくれてもいいだろうに。

 もしかして嫌われてるのかな……。可哀想にマイロード。ひとえに貴女が横暴すぎるせいだが。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「おはよう」

「おはようございますマイロード! いやぁゆうべはお楽しみでしたね!」

「あんまり大きい声出さないでくれる?」

 

 私の渾身のボケは顰めっ面で受け流された。いつもなら私が巫山戯た事を言えば即鉄拳が飛んでくる筈なのだが、今回は睨まれるだけ。寝起きのマイロードはテンションが低いみたいだ。低血圧なのかもしれない。

 

 一方の私はテンション高め。そう、社会人お得意のからげんきというやつである。このテンションを維持しておかないと一晩で掃除をやり切るのは不可能だった。私はジェバンニではないのだ。

 

 

「……思ったよりも片付いてる」

「それはもう! マイロードの為ならえんやこら!」

「へぇ、やるじゃない。無茶な命令も言ってみるものね」

「えへへ」

 

 無茶を言ってる自覚はあったらしい。この安定の鬼畜ぶりに私は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。初めて褒められたような気がしなくもないが、それよりもマイロードへのドン引きが勝った。

 

 そんな私の心情などつゆ知らず、マイロードは早速粗探しを開始する。分別されたガラクタの山を一瞥し、次に壁へと目を向ける。

 

 

「まだ汚れが残ってるけど」

「流石に何百年もこびり付いてた血痕は落ちないですよぅ。やり過ぎて壁を削る訳にもいきませんし。できる限り薄くなるよう念入りに掃除いたしましたので、後日壁紙を貼り替えるか塗り潰すかしましょう」

「……まあいいわ」

 

 殴られるんじゃないかと気が気じゃなかったが、どうやらお目溢ししてもらえたようだ。中性洗剤もないのにアレを手拭きで落とすのは無理がある。このあたりは流石の暴君も理解していたらしい。これは未来の名君。

 

 そんな安堵も束の間、暴君が眉を顰めた。

 

 

「魔導書を始めとして幾つか必要な物が無くなってるみたいだけど、もしかして処分したの?」

「ひぇっ違います!」

 

 嬉々として指を鳴らし始めたマイロードに対し慌てて弁明する。絶対私を殴る事を楽しんでるよね。これは紛れもない暗君。暗い……あまりにも……。

 

 

「取り扱いに憂慮する貴重な品や書物は本棚に収納して階段前の廊下に並べてますので、ご自身で図書館に返却するなり保管するなりしてくださいねー」

「本棚? そんなのあったっけ?」

「あ、私が作りました」

 

 いま明かされる衝撃の真実。私、どうやら手先がめっちゃ器用らしい。

 日曜大工の感覚で軽く作ってみたのだが、予想以上の仕上がりで我ながら驚いてしまった。もしもマイロードに放逐されて無職になっても大工で暮らしていけそうなくらいにはね。

 

 マイロードは一瞬固まって私の言葉の意味をゆっくり飲み込むと、廊下の方へと歩いていく。そして仕上がりを確認したのだろう、早歩きで戻ってきた。羽の宝石みたいなのがぴょこぴょこしてて可愛い。

 

 

「お前、そんなことできるの?」

「材料さえあればそのくらいは。今回は使い物にならなくなった廃材を使いました」

「そう。そうなのね。なるほど」

 

 妙に好感触な様子で、一周回って不気味だ。また何か良からぬ事でも企んでいるのだろうか。「人間の死体でオブジェを作りなさい」なんて言われたら泣いてしまう。

 

 いや、もしくは物作りに興味があるのかもしれない。本来の『フランちゃん』といえば純粋無垢で好奇心旺盛な女の子というイメージがある。長い幽閉生活を送ってきた故に新しい物事に興味津々なのか? 

 

 もしや私の知るフランドールとしての一面が出てきたのかと思い、ならば押してみるが吉と判断した。

 

 

「ふっふっふ、作り方は簡単ですよ? どうです? 今度一緒に作ってみましょうか」

「ふんっ」

「ひでぶっ!!! な、なんで!?」

 

 マイロードの拳が腹に突き刺さる。腹パンは初めての感覚だったので思わずえずいてしまった。吐き出したらまた殴られそうなので我慢我慢……。

 

 状況を飲み込めない私に対し、マイロードは呆れた様子で世の無情を理解させてくれた。

 

 

「私の鼻を明かしたと思って調子に乗ったでしょ? それで苛ついたのが一つ」

「誤解ですよぅ」

「次に、主人たる私に労働を勧めたこと。昨日も言ったでしょ? まだまだ従者としての心構えがなってないわね」

「そ、そうでしたっけ」

「鳥頭め」

 

 暴力からの流れるような罵倒は見事という他ない。人の心がないくせに人を傷付ける方法をよく熟知している。私の中で芽生えた『フランちゃん』生存説が打ち砕かれた事も加えて大ダメージだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その後はいらない物をマイロードが淡々と能力で消滅させていく時間だった。本当に便利な能力だと思うが、私も扱えたりするのだろうか。仮に使えてもその場面をマイロードに見られたら殴られそうだからやめておこう。

 

 こうしてガラクタの山は半分ほどが片付けられ、次に私が「多分いるだろう」と判断した物を確認する段階となる。物を手に取っては鼻で笑うマイロード。私はビクビクしながら相変わらず後方で待機している。

 

 

「使えないガラクタばかりじゃないの。いらない物だらけなんだけど」

「断捨離って苦手なんですよねー。ほらその傘なんてまだ使えると思いますよ」

「どこがよ。汚いし、穴が空いてるし……あと私は雨の日に外出なんてしないわ」

「やだなぁ雨の日じゃなくても外に出ないじゃないですかー」

「だまれ」

「ぐぇ!!! す、すいませんでした……出してもらえないの間違いでしたね……」

「くたばれ」

「ぎゃぴ!!!」

 

 両頬を殴られたのは初めてだ。

 左右にフックを一発ずつ。これはボクシングで言うところのデンプシー・ロールというやつか。マイロードならきっと世界を獲れるだろう。

 

 それはさておき、レミリア閣下はよく日傘を持ち歩いているイメージがあるから、マイロードも傘を持ち歩けばお揃いでいい感じになると思った。

 

 そういえばマイロードは姉君のことをどう思っているのだろうか。俗に言う『レミフラ』は東方屈指の人気コンビだったと思うんだけども。気になるけど聞いたら殴られそうだから観察に留めておこう。

 

 と、傘をへし折ろうとするマイロードを慌てて止める。

 

 

「あのぉ、その傘、いらないなら貰ってもいいですか? ほらお給金代わりに」

「別にいいけど、お前は頭だけじゃなくて趣味嗜好も終わってるのね」

「いやいや良い傘じゃないですかー。バイオレットの染色がイカしてますよ」

「あっそ」

 

 どうやら紫色はお気に召さないらしい。スカーレットとバイオレットってなんかマイナーチェンジ感があるし、それが気に入らなかったのかもしれない。

 

 この傘は片付けの途中で見つけた時から、できればマイロードに使ってもらうか、それがダメなら私が貰おうとも考えていた。

 なんでこれが目に留まったのかは分からないけど推測できる部分はある。私の謎の知識はどうも日本の出来事を中心に構成されているらしい。

 前世というものがあるなら、私はきっと日本人だったのだろう。ならば和紙と竹でできた和傘に関心というか、懐かしさを覚えても不思議ではない。

 

 と、しみじみ感傷に浸る間もなくマイロードから新たな指令が入る。

 

 

「取り敢えずいる物は仕分けしたから、適当に収納しておいて」

「分かりました。……あの、マイロード」

「なに?」

「コレはいる物じゃないんですか?」

 

 私が指差した先にあったのは少し汚れているが可愛らしいクマのぬいぐるみ。これこそフランドール・スカーレットにとっての必須アイテムだろうと思って最優先に確保しておいたのだ。

 そう、フランドールといえばぬいぐるみである。どんなイラストにも高確率で可愛らしいぬいぐるみがセットになっていたと把握している。

 

 しかしそんなぬいぐるみが、無造作にいらない物ゾーンへと放り投げられていた。

 

 

「……はいはい、それも欲しいなら勝手に持って行っていいわ」

「いや私じゃなくてマイロードに必要な物ですよ」

「はあ?」

「ほら待ってみてください」

 

 ぬいぐるみをマイロードに抱えさせてみる。するとどうしたことだろう、理想の『フランちゃん』が現れたではないか。思わずトキメキが込み上げてくる。大天使『フランちゃん』は死んでいなかったのだ。

 

 私は熱くなる目頭を押さえた。

 

 

「お似合いでございます、マイロード……!」

「チッ」

 

 舌打ちと共にぬいぐるみは爆散し、ついでに私の腿にローキックが叩き込まれた。

 





東方界隈の集団幻覚その一
クマのぬいぐるみを抱えるフランちゃん

Q.「なんでフランドールは使わない傘やぬいぐるみを取り寄せてたの?」
A.「その物に眠る魔力を抜き出すため。実は曰く付きの品々」

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