とっても可愛らしい姿でこんにちは。今日も元気にフランドール様の従者、兼パーティーの饗応役をやっております、ニッヒちゃんでございます。
本日はレミリア閣下の待ちに待った真・紅魔館落成パーティー。大体の流れは私が差配する事になっているので、今回だけマイロードの影武者を休業して正体不明の辣腕メイドとして活躍しているのだ。
よっていつものマイロードと同じ装いは封印。紅魔館支給のメイド服と三角頭巾でお茶を濁しているというわけだ。基本的に何を着ても似合うんだよね、私──もといマイロードって。
ちなみにサイドテールは解いてるし、背中の羽も小悪魔後輩に千切ってもらった。後輩ちゃんはドン引きしてたけど正直慣れたものである。クッソ痛いけどね。
しかしそんな苦労の甲斐あってか、いらっしゃった来賓の方々からの受けは良い感じである。応対の作法に関してもレミリア閣下からお褒めの言葉を頂いている。
まあ私は可愛いからね。おっぱいも大きいし。
と、そんなオープンな場にも関わらず聞き慣れた怒声が響き渡る。
「ニッヒ!」
「はいはい参りました! こんなクソ忙しい時に何の御用ですかマイロード」
「グラスが空よ。お前の目は節穴か?」
「あーすみません当パーティーのドリンクはセルフサービスとなっておりまーす」
「このボケナスが!」
「ぎゃーっ!!!」
手元にあったワイン瓶を私の脳天へと躊躇なく振り下ろし破壊する様は、現代日本の悪しき風習そのもの。しかもワイン塗れになった私は流水で大ダメージ! うごご!
会場全体が紅魔館当主その妹の暴挙に唖然としている中、それを一切気に留めず隣のメイン席で何やら雄大な演説を身振り手振り行っているレミリア閣下の声だけが力強く響いていた。
悪い意味で私とマイロードの関係に慣れてしまったんだろうね。良くないね。
パリピなレミリア閣下を楽しませることを第一に開催された本パーティーだが、実は月への侵攻計画を外へ大々的に発表する以外に隠しテーマが存在する。
それは現在の紅魔館が瑕疵なき体制である事の証明。つまり、マイロードとパチュリーさんの御披露目の場でもあるのだ。
マイロードという最大の内憂を制御し、さらに『西方の魔女』という最大の外患を幕下に加えた事をアピール。それによりスカーレット家の東欧圏における覇権が完成した事を印象付ける狙いがあるのである。
まああくまで月制覇の前座って位置付けらしいけども。
よって二人はメイン席のレミリア閣下の両サイドに配置されている訳だが、正直これは失敗だったなーって、色々差配したニッヒちゃんは思うんです。というのも、二人とも自分が悪目立ちしている事を全く気にしてない。
マイロードは先程の通り滅茶苦茶だし、パチュリーさんはパチュリーさんで来賓の方々からの挨拶をガン無視して読書に夢中だし。
要するに社会性皆無! もう一同ドン引き!
やっぱり私が影武者してた方が良かったんじゃないかな。ニッヒちゃんは訝しんだ。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。そろそろレミリア閣下が指定してたメインの時間だから、会場を暗くして良さげな雰囲気にしてもらえる? 魔法でぼやーっと」
「了解でーす。……ところで先輩、頭大丈夫です?」
「中? 外?」
「今回は外ですかね」
頭からだらだら流れてるのは果たして赤ワインか、はたまた血液か。小悪魔後輩の反応を見るに多分後者なんだろうね。しかし多忙な私にはそれを拭う暇すらないのだ。
しかしまあ、これも紅き館の住人らしい良いアクセントなんじゃないかと一周回ってアリだと思うようになった。まさにスカーレットデビルって感じ。
ただここにきて漸く余裕ができそうだ。パーティーの峠は越したと見ていい。
なにせここからはレミリア閣下の独壇場。彼女のありがたいお言葉と壮大な計画を傾聴する以外は全てが許されない超窮屈時間と化すからだ。
そんな訳で、演出の一環として会場全体を暗くして、レミリア閣下の周辺のみ私の『光の屈折を操る魔法』により光源を集中させ明るく照らす。擬似スポットライトだね。
と、ここで案の定パチュリーさんから苦情が入る。
「小悪魔、分身。暗くて文字が見えないんだけど」
「はいはい蝋燭立てておきますねー」
「まだ暗い……」
「鳥目を治す魔法とか持ってないんです?」
「そんなものはない」
こんな時くらい読書をやめればいいのにと言いたいところだが、仕事と訓練によって日々半殺しに追い込まれながらも必死に読書時間を捻出している執念を知っている身としては、中々切り出しづらいものがある。
パチュリー・ノーレッジにとって読書とはイコール空気のようなものなのだ。
「じゃあ一人だけさっさと図書館に帰ればいいじゃない。お姉様に義理立てして此処に留まってるんだろうけど、もう十分でしょ」
「む」
「当の本人は変な世界に浸っちゃってるし」
演説に熱中して周りが見えていないレミリア閣下を挟んで、マイロードからまさかの助け舟。私の頭で砕いたワイン瓶を傾けグラスに注ぎながらのアドバイスである。
実のところ、マイロードとパチュリーさんの関係は険悪でこそあれど、そこまで極端なものでもない。案外互いに一目置いている部分があるのだ。
マイロードの態度の節々からもそれを感じる。同種を相手にしているような、私や美鈴さんへの対応と少し毛色が違う。魔法を使う者として通じ合う部分でもあるのかな。
まあパチュリーさんはなるべくマイロードと関わらないようにしたいみたいだけど。
確かに、出会い方が最悪かつ、今もあんな無茶苦茶な訓練をやらされている身としてはこれ以上関わりたくないと思う方が自然ではある。残当。そのせいで私まで避けられるのは納得いかないけども。
「……いやいい。レミィの無駄話が終わるまでは此処に居るわ」
「物好きね」
「だって可哀想でしょ? 二人とも居なくなったら」
「まあ無様ではあるか」
くつくつと喉を鳴らして嗤うマイロード。小悪魔後輩は何のことやらと首を傾げていたが、私にはその意味が分かった。要するにマイロードは誘いを掛けてたんだろうね。
で、パチュリーさんはマイロードの戯れに付き合うのを嫌い、ついでにいつの間にやら愛称で呼び合う程度に仲良くなったレミリア閣下に義理立てしたと。
「ニッヒ帰るよ。こんなつまらないパーティーなんて抜け出してしまいましょ」
「まあマイロードにしては長く我慢された方ですよね。ところで私もご一緒するんです?」
「お前はいつから姉の従者になったの」
「えー抜けて大丈夫かなぁ。後輩ちゃん後はお願いしていいかな? 美鈴さんにも伝えておくから」
「了解ですー。なんなら妹様を連れ出してくれた方が私たち一同助かったりします!」
「確かに!」
小悪魔後輩も大概怖いもの知らずである。私なんて背後のマイロードの顔が怖くて見れないもん。
という訳で、襟足を掴まれズルズル引き摺られながら私たちは会場から退室。ついでに出入口で警護している美鈴さんに一言謝っておく。
「お疲れ様です。フラン様、ニッヒ様」
「美鈴もお疲れさまー。取り敢えず見ての通りだから、姉君をお願いね。あと様付けやめてね」
「……」
美鈴さんは無言でにっこり頷くだけだった。素直に返事してくれないというのは、つまりそういう事である。エアプフランドールとして騙してた事を根に持っているのかもしれない。許してクレメンス……。
それか私もスカーレット一族判定されてるのかな。畏れ多いからやめようね!
「いやー賑やかなパーティーでしたねぇ。どうでしたか、初めての社交場デビューは」
「なんて事ない虚無の時間だった」
「全部私と姉君に押し付けましたもんね。来賓の方々もビビって必要以上に近付いて来なかったですし。ダメですよマイロード、もっと愛想良くしなきゃ!」
「ふん、くだらん。とんだ酔狂な馬鹿騒ぎに付き合わされたわ」
「お気持ちは分かりますけどぉ、やっぱり人付き合いのやり方は覚えておいて損は無いと思うんですよ。そんなんだから友達が一向にできなへぶっ!!!」
程よく装飾された真紅の廊下を練り歩きながら、二人で今日の反省会を行う。
正直、私としてはあのパリピ空間に長時間耐え切ったマイロードを褒め称えたい気持ちでいっぱいなんだけど、吸血鬼の令嬢としてはやはり色々と問題大有りなので心を鬼にして指摘する。
これを機にどんどん社会の明るみに出てくれたら良いのになぁ、なんて事を私は鼻血を拭いながら思うのであった。やっべ止まんない。
「あんなくだらない集まりに時間を使うくらいなら、こうしてお前とそこら辺をほっつき歩いてた方が幾らか有意義ね。癪だけど」
「私とはいつでも話せるじゃないですかやだなー」
「……最近は地獄に行ってたり、訓練続きで私的な事は何も話してなかったでしょ」
「むむむ言われてみれば」
確かに、私が紅魔館のアレコレに顔を突っ込むようになってからというもの、マイロードと馬鹿みたいな話をする機会も随分減っていた事を思い出す。
「じゃあお喋りしてもいいですか? 私だってマイロードにお伝えしたい事が沢山あるんですよ!」
「へぇ言ってみなさい」
「まず初めて外に出た感想なんですけどね」
地獄でのルナティックな出来事は報告済みだったので、短い期間ではあるけど地獄の入り口に到達するまでに触れた自然について話してみる。
山、海、空……情報では頭の中で存在していても、かつての私には遠かった世界の産物。それに直に触れた事で感じた想いも添えて、身振り手振り大袈裟に。
そもそも私が地獄行きを決めたのも、マイロードに「外の世界も悪くない」って事を伝えるためって側面があったしね。
「一番感動したのは、草原で感じた風ですね。そよそよと草木とともに風に揺られていると自分も自然の一部なのだと実感させられるんです。命ですよ命!」
「随分と牧歌的な感想ね」
「私もマイロードと同じく、情報でしか世界のモノを知りませんからね。どんな名所や絶景を拝んだ時よりも、こういう当たり前が特別に感じました!」
「そうか」
マイロードは興味なさげに、だけどそれとなく窓の外を眺めながら呟く。
「なので次があるなら、もう少し特別なものを見に行きたいですね!」
「たとえば?」
「うーん……海は月で観れるだろうから、虹ですかね! 虹が観たいです! 運が良くないと中々出てきませんから、そこそこレアなんじゃないでしょうか」
「貧相な願いね。あんな実体の無いものを観て何の足しになるのかしら。偶発性を有り難がるなんて滑稽でしかないわ。無駄よ無駄」
「むっ、その考え方はダメですよマイロード」
「あ?」
「無駄こそが美しさ。予定通りの人生は悪夢のようなものですよ。道具だって機能だけじゃ美しくないですもの。無駄な部分こそが妖怪たる……」
「黙れ。お前の説教なんか聞く気はないわ」
珍しくニッヒちゃん的にいい事を言おうと思ったのに無念、キャンセルされてしまった。この概念はマイロードやレミリア閣下にこそ聞いて欲しいんだけどね。
「虹を観られたらとっても幸せな気分になると思いますよ、きっと。マイロードや私の羽みたいに七色で綺麗なんだろうなぁ」
「……」
「いつか一緒に観られるといいですね♡」
「何で私も一緒なのよ」
「二人で観た方が楽しいからに決まってるじゃないですか。記憶に残る体験っていうのは、大切な人と何かを共有する事だとニッヒちゃんは思うのですよ」
「へぇ、それなら門番かお姉様と観に行ってくればいいじゃない。私でなきゃいけない理由がない」
「初めてはマイロードと一緒が良いんですってば。理由や理屈なんて必要ありませんよ」
「……分かった。虹くらいお前と観てやる」
「はえ!?」
ダメ元でのお願いだったのは否定できない。私の望みをマイロードが叶えてくれるなんてハナからあり得ないと思っていたから。どうせいつものように願いを一蹴されて終わりだとばかり思っていたのだ。
ところがどっこい、まさかのオッケー!
ついに我が世の春が来たのかと、胸が高鳴ってしまう。いやあ何でも言葉にしてみるもんだね。
マイロードが心を開いてくれたなら、これから先の私の人生はベリーイージーモードも同然である。
「そ、そそそそそれではマイロード! いつ観に行きましょうか!? 明日!? 明後日!?」
「煩い黙れ。私は虹を観るとは言ったけど、観に行くとは一言も言ってないわ」
困惑する私を睥睨しながら、マイロードは嗤う。相変わらず愉しそうに、加虐的に。
「お前が虹を出す魔法を覚えて、屋敷の中からでも見えるようにすればいい。それで万事解決よ」
「えぇ……虹を出すってことは、つまり雨を降らせる魔法って事ですよね? 無理無理、絶対無理です!」
「前にも言ったけど水魔法に関しては私も専門外よ。だから天候操作のやり方はパチュリーにでも聞きなさい。虹が出せるようになったら一緒に観てやる」
「て、天候操作なんてそんなヤバげな魔法を使えるんですかね? ……ああ使えましたね」
勝手に自己解決。原作でパチュリーさんが紅魔館の周りだけに雨を降らせて『フランちゃん』の外出を阻止した件を思い出した。
なんだかんだでやっぱりあの人も規格外である。
「取り敢えず月から戻ってくるまでに覚えておきなさい。駄目だったらお仕置きだからね」
「そんなぁ……」
「私に誘いを掛けておいて無責任にすっぽかすなんて、そんなの許さないわ。私も相応の罰を考えておくから、嫌なら死ぬ気で習得しなさい」
ただでさえ戦争中は激務が予想されるというのに、とんでもない任務が追加されてしまった。しかも私が紅魔館で唯一あまり上手くいってない、同じく激務のパチュリーさんに教えを乞わなければならないという地獄。
私はただメルヘンな願いを口にしただけなのに……。助けて……助けてクレメンス……。
次回から月面戦争開始です。
ニッヒ「できらぁ!!!」
フラン「いまなんて言った?」
ニッヒ「月面戦争中に天候操作の魔法を覚えてやるって言ったんですよ!」
フラン「なら月面戦争中に天候操作の魔法を覚えてもらおうか」
ニッヒ「え!?月面戦争中に天候操作の魔法を!?」
今回のとある原作台詞オマージュは、作者が東方の中で一番好きな考えであるものとする。