フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

41 / 59

いつもとちょっと違ったテイスト


ルナティックシスターズ

 

 月面を張り巡らすように構築された結界は、都の安全保障を担う姉妹、その姉である綿月豊姫によって常に管理されている。

 

 外界からの侵入者を遮断する目的で用意された結界であるが、万が一これを踏み越える不届きな穢れ者が現れた際は、豊姫が即座に感知できるようになっているのだ。

 

 故に都への侵入は容易でなく、実動部隊となる妹と並んで難攻不落の異名を形成する主な要因となっている。

 

 昔、無謀にも都へと攻め込んだ地上の穢れた者共を殲滅した事件。アレが起きた時もそうだ。

 結界内に足を踏み入れた途端に軍勢は豊姫に捕捉され、全ての情報が筒抜けとなった。

 

 かつて水江浦嶋子(浦島太郎)が静かの海に流れ着いたのを一番に見つけて保護したのも、地上の妖怪が放った偵察役の式神を感知と同時に表の月面に放り出し殺害したのも。そういうカラクリである。

 

 後は自身の裁量で対処するのみ。能力を使用して地上へと強制的に送り返すのもいいし、秘密裏に処分してしまってもいい。全ては豊姫の掌の上にある。

 

 

 

 だからこそ、今回のように完全な後手後手に回るのは極めて稀なケースであると言えよう。

 

 咽せ返る程の穢れを纏った地上の者達が都を射程に収める地点へと雪崩を打つように出現したのだが、それを一切感知することができなかったのだ。

 何の前触れもなく発生したある種の災害である。

 

 しかも、その者達のタチの悪さは前回を遥かに上回るかもしれない。

 

 砂浜に拠点を構えるや否や大事な桃の木を根こそぎ伐採したり、地上から死穢を纏った動物の肉を大量に持ち込みBBQを楽しむなどやりたい放題。

 この目に余る狼藉に心臓と肝の弱い上層部の者などは卒倒しかけたほどだ。

 月に大量の穢れが持ち込まれたのは言うまでもない。

 

 ならば実動部隊である妹の方──綿月依姫に早急な殲滅を命じるのが道理である。それが最適解。しかし、物事はそう単純には運ばなかった。

 

 なにせ侵入方法、軍勢の正体、その目的。全てが謎なのだ。これが分かるまでは動くに動けない。

 

 特に自分達の把握していない侵入経路。これが非常に厄介。

 それこそ夢の世界を経由する槐安通路や、浅間浄穢山のような月と地上を繋ぐ道が密かに存在し、それを把握できていないのだとしたら大問題である。

 

 経路を解明できない限り、月の都は地上からの侵攻と、それによって齎される穢れに怯え続ける事になってしまう。それは是が非でも回避せねばなるまい。

 

 故に、不用意に相手へ仕掛ける事ができなかった。それは前回の教訓に則った動きである。

 便宜上『第一次月面戦争』と呼称される限定的な抗争にて、月の民は地上の妖怪に寸土すら踏ませず完勝した。それは揺らぎようのない事実。

 

 だがその裏では、下手人の()()()()()なる存在にまんまと逃げられてしまい、自分達の管理が及ばない月と地上の経路が残されてしまうという問題が浮上。

 この一点で綿月姉妹の功績など帳消しになるほどの失点となってしまっていた。

 

 だから今回は自分達が出陣する前にそれらを把握し、問題なければ確実に一網打尽とするのである。それが豊姫と依姫の考案した方針。

 

 しかし組織は必ずしも合理的に動く訳ではない。外患と内憂は常にセットなのだ。

 

 そもそも月の上層部から綿月姉妹へ疑念の目が向けられている如何ともし難い状況が、二人の円滑な動きを阻害している面があった。

 

 かつての謀反人である八意永琳の弟子だという経歴。豊姫が今回犯した水際作戦の失敗。強力故に警戒を招きやすい姉妹の能力。

 謀反を疑われる、というより恐れられるのも無理のない状況であった。

 

 そのためここ数日の間は手下の玉兎達を無為に戦わせ、相手の出方を窺う他にできることがなかった。積み上がった玉兎の死体で捻出した時間を、内憂との暗闘に費やす他なかったのだ。

 

 地上の妖怪が打った謎の一手。これにより綿月姉妹は敵と戦わずして窮地に追い込まれていた。

 

 

 

 以上がここ数日間──内憂を払拭するまでに要した期間の話。今は違う。

 一度話が纏まってしまえば早いもので、依姫は前線への参陣と権能の使用が認められると即座に行動を開始した。玉兎の大軍を率い海岸へと向かう。

 

 辛酸は舐めに舐めた。侵入経路も大体は解明できた。あとはこの屈辱を晴らし、今も半ば人質として軟禁されている姉の名誉を取り戻す。それだけが依姫の頭を埋め尽くしていた。

 

 

「敵は全て私が引き受けます。皆は発生する穢れの浄化のみに集中するように」

 

 基本、戦いは全て依姫単騎で行われる。単純な話が、何匹の玉兎が束になったところで彼女の補助にすらなりはしないからだ。

 兎達が不甲斐ないのもあるだろうが、やはり一番の要因はそれほどまでに依姫の力が突出している為である。下手に手を出さない方が好都合。

 

 実際それが効果覿面なのは、眼前で繰り広げられる一方的な制圧を見れば一目瞭然だった。

 

 欧州に名だたる魑魅魍魎が一切の抵抗すら許されずに消滅していく。質としては『第一次月面戦争』の妖怪軍団より幾分上であったが、依姫からしてみれば同じ有象無象でしかなかった。

 神の力を行使する必要すらなく、ただ一刀の下に斬り伏せる。飛ぶモノ、駆けるモノ、歯向かうモノ、逃げ出すモノ、喚くモノ。全てを平等に。

 

 都を狙わんと広く展開されていた軍勢は、波が引くように次々と無力化された。

 そして依姫の背を追う玉兎達は息も絶え絶えになりながら、必死に自分の役割を全うするべく奮闘していた。

 

 

「スゴい……やっぱり依姫様は圧倒的だ! 地上の奴らなんか目じゃないや!」

「口を動かす暇があったら手を動かしなよ。清蘭のミスで連帯責任なんて勘弁だからね」

「うっ、分かってるよう」

 

 殺している訳ではない。殺生に手を染めて浄土の世界を穢すなど本末転倒。ただひたすらに無力化を繰り返し、絶命前に後続の玉兎が専用の機器で浄化する。

 依姫や玉兎達にしてみれば、なんて事のないただの単純作業である。到底戦争と呼べる行為ではなかった。

 

 

 

 

()()()()()

 

 桃の木々を抜け、敵の(たむろ)する海岸へと辿り着いた時、思い出したのだ。

 これは決してキツい訓練の延長でも、面倒なだけの単純作業でもない。

 正真正銘の殺し合い。『第二次月面戦争』なのだと。

 

 海を背に依姫達を迎えたのは、紫色の日傘を携えた一人の紅い悪魔。

 星屑のように瞬く金髪。背中から生え出た異形の羽。真紅の瞳は滴る血のようで、穢れを嫌う月の面々に嫌悪感と恐怖を抱かせる。

 極め付けに小さな体躯から溢れ出る巨大な圧力は、果てが見当たらなかった。無尽蔵に立ち昇り、天体をも包み込もうとしている。

 

 兎達は眼中に無い。ただ依姫の姿を認めて、口元が弧を描く。敵意よりも愉悦。想定外の楽しみが転がり込んできてくれた事への感謝。

 

 と、幽かな嗤い声。

 

 

「馬鹿の眉唾物な予言も偶には役に立つ、か。お姉様を斃すってのも満更有り得ない話ではなさそうね」

「……?」

「見直したよ。この星に住んでいる連中はウサギをけしかけるだけの臆病者だとばかり思っていた。でもこうして、最後にわざわざ遊び相手を寄越してくれるなんてさ。随分と気が利くのね、おたくら」

「娯楽に留めたいのなら、相応の態度を取ることをお勧めしますが?」

「大量虐殺も娯楽のうちでしょ?」

「なるほど。そういう態度ですか」

 

 地上の蛮族が月に攻め上ってくる理由は大体分かっている。それは月への憧れであり、遥かに進んだ文明の利器を我が物としたいからだ。今回もそうだと思っている。

 

 しかし、目の前の少女は違う。目的がこれまでの連中と根本から大きく異なっている。

 コイツはただ文明を破壊する事に愉しみを見出しているのだ。生産性が感じられない。

 

 一目見た時から理解(わか)っていた。

 眼前の化け物は月にとっての『脅威』に値する。依姫の中での認識は、彼女を──フランドール・スカーレットを、実力の如何はともかく、月に仇なす仙霊に近いレベルの危険度ではないかと捉え始めていた。

 

 

「フラン様! 私も御供いたします!」

「引っ込んでなさい門番。お前の役目は使えないお姉様の警護だけよ。パチュリーは雲を出すなりして日光を遮れ。その後は手出し無用」

「……了解」

「し、しかし……」

「二度目はない」

 

 部下と思しき中華服を着込んだ妖怪に持っていた日傘を押し付けると、無防備に前進を開始する。

 

 それに呼応し数匹の玉兎が銃を構えるが、瞬間跡形もなく爆散した。断末魔を上げる間さえ無い。仲間だった物を全身に浴びた兎達は即座に恐慌状態へと陥った。

 依姫はそれを制するでもなく、フランドールから目を逸らさない。これ以上の間隙を与えるのは更なる被害の拡大を意味する。

 

 

「掌を握るだけか……」

「正解、目が良いね。でもこれ自体は大した技じゃない。魔法を覚えれば使える奴は使えるもの。破壊の真骨頂はここからよ」

 

 刀を構える依姫に対抗してか、フランドールもまた手元に得物を召喚する。

 右手には先端が曲がった剛鉄の塊。未来においてバールのような物と呼称される凶器。

 左手には未知の材質で構成された漆黒のステッキ。こちらは全体が緩やかに歪んでおり、先端にはスペード型の何かが取り付けられている。

 

 いずれも彼女の部下が一から叩き上げた業物である。様々な局面への対応を想定した、ニッヒ特製の万能ツール。その名もレーヴァテインシリーズ。それも二刀流。なおデザインが終わっているのは愛嬌か。

 

 

「片腹痛い。その妙な玩具で女神を閉じ込める祇園様の刀と張り合うつもりか」

「おふざけのように見えるでしょ? でもこれが案外使い物になるのよ。なんたって私の有能な従者が手塩にかけて作ったんだからね」

「そう」

「むしろそっちの刀が壊れても文句は無しよ。一応何かの神器みたいだけども」

 

 この時フランドールは武人を気取っていた。

 

 相手がチャンバラを望むならそれに合わせてやる、魔法を使うなら此方もそれに応える。パチュリーと戯れた時と同じロジックだ。

 相手の得意で殺り合って、完膚なきまでに叩き潰す。一切の言い訳を許さない徹底的な勝利を目指す独特で残酷なファイトスタイル。フランドールの悪癖である。

 

 そんな悪意に満ちた意図を、依姫は薄ら理解した。「愚か」の一言で終いだ。

 

 

「一つ、忠告しておきましょうか。私を剣士などと思わないことですね」

 

 切先の向かう先はフランドールではなく、足元の砂地。突き立てると同時に敵対する者の周囲を無数の刃が飛び出し、囲いを形成する。

 その対象はフランドールのみならず美鈴やパチュリー、更には半ば非戦闘員である小悪魔や分身レミリアも含まれている。この時点で戦争は終結したも同然だ。

 

 祇園様の刀が持つ力の本質は隔離である。この囲いに閉じ込められた者は如何なる干渉の術を失ってしまう。

 

 

「わああああ! めーりんたすけてぇぇ!!!」

「ついでに私も! ヘルプミー!」

「お二人とも動かないで。この刀、なにか良からぬ力を感じます」

 

「脱出しようなどと思わない方が身の為ですよ。動けば祇園様の怒りを買う事になる」

「小賢しい。何処の神だか知らんが、些事で私を止められるとでも──」

 

 忠告を無視して黒のステッキを依姫と同じく地面に突き立てた、その瞬間。

 

 

「あ゛?」

 

 眼前の景色が逆さまにひっくり返る。

 

 砂に足を取られたのか? 

 否、崩れたのはフランドールの体勢ではなく、眼球だった。視界の端から紅蓮に染まり、鉛の味を舌全体に行き渡らせていく。

 

 顔の穴という穴から血が吹き出し、ぐずぐずに溶けた眼球だったものと一緒に砂へと落ちていく。

 この時、漸く気が付いたのだ。五感の殆どが奪われ、身体が思うように動かない。

 

 

「こ、れは……」

 

 即効性の呪い。身体中の細胞が破壊されている。俗に言う天罰のようなものか。攻撃の意思を見せただけでこの仕打ちかと、フランドールは名も知らぬ神を嘲笑う。

 

 もっとも、それは正しい。フランドール相手にやり過ぎなどという言葉は無い。

 むしろ甘かろう。

 

 崩れる身体など知った事か。砂地に突き立てた黒ステッキを改めて握り締め、莫大な魔力を流し込む。すると端と端を繋ぐように輝く一本の魔力糸、弦が現れる。歪んだ形状も合わさり、その様相はまさしく弓。

 

 集約されるエネルギーの規模に、依姫は顔を強張らせた。祇園様の囲いの中にありながらここまでの反撃をしてこようとは、流石に想定外だ。

 この攻撃は不味い。大勢が死ぬ。

 

 

「馬鹿な……ッ! 総員、私の後ろへ!!!」

 

「死に晒せ、スターボウブレイク」

 

 極限まで引き絞った鉉から放たれる魔力の性質は、純粋な殺戮のみを目的とする広域破壊。

 水平に放たれた弾幕の嵐が前方に存在する限りの悉くを薙ぎ払い、消滅させる。依姫は防御の為にやむなく刀を引き抜き、迫る破壊を切り払った。

 

 眩い発光と身体が千切れそうな程の衝撃を経て、視界からはフランドール以外の全てが無くなった。

 豊かの海は原形を留めておらず、水面が叩き割られ滝となり、依姫の背後を除く一面の海岸線が消失して深い亀裂となっている。

 

 無事だった玉兎達は震えながらひっくり返っている。依姫が作り出した安全圏に運悪く逃げ込めなかった者達の末路は語るに及ぶまい。

 

 依姫はちらりと背後に目を向け、苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。相手のイカれ具合を見誤り、自分の隊どころか月そのものにまで被害を与えてしまった。

 

 もはや穢れなどと気にしている場合ではなくなった。早急な処分が必要であると結論付け、改めて意識を集中──させると同時に、眼前に炎剣を振りかぶるフランドールが現れる。依姫をして、目が追いつかなかった。

 身体が千切れ飛ぶのも気にせず、最高速で突っ込んできたのだ。

 

 受ける他なく咄嗟に振り上げた刀で鍔迫り合うが、骨と肉の軋む音が大きくなっていく。

 反則的な魔法を使いこなしながら素の身体能力は自分を上回るのかと。余裕のある涼しげな表情を変えず、しかし苦々しい内心と焦りを封じ込める。

 

 と、三本の得物が宙を舞う。

 拮抗を崩したのはフランドール。残った右手の得物で側面から殴打し、自分の得物ごと刀を依姫から引き剥がした。これで互いに丸腰。

 

 

「くたば、れェッ」

「今度は見切った!」

 

 間髪を容れず拳が飛び出し、これを掴まれると流れるように取っ組み合いとなり、互いの掌を握り締め真っ向からの力比べとなった。

 依姫は即座に『天手力男神』をその身に降ろし、膂力を最大限引き上げ圧殺にかかる。この状態の依姫は間違いなく月の都における最強の剛力使いである。

 

 だが捩じ伏せる事ができなかった。それどころか徐々に膨れ上がるフランドールの力に押され始めている。身長に勝る依姫の膝が折れ曲がっていく。

 

 

「う、うぐぅう……!!!」

「ガあああああああッッッ!!!」

 

 ボキボキ、と。青竹を握り潰すように依姫の掌がひしゃげた。完全なパワー負け。完全無欠の剛力が地上の卑しい妖怪に敗れるというあり得ない事態だった。

 

 堪らず『火之迦倶槌神』を降ろし腕を炎と化すことで取っ組み合いから脱し、難を逃れた。そしてフランドールは炎に巻かれるのだが、同じく身体を霧状と化し不定形とする事で宙に散らした。痛々しい火傷痕こそあるものの相変わらず堪えた様子はない。

 

 地上にて最高温度の概念を持つ神殺しの炎でさえモノともしないとは。この怪物は何度想定外を積み重ねれば気が済むのかと、愚痴りたくなる。

 

 というより、フランドールを相手にした際の神降ろしの効力が薄らいでいるように感じた。でなければこれまでの目を疑う事象を説明できないのだ。

 理由が分からない以上はそういうものである前提で動くしかあるまい。

 

 

「ふふ。その澄ました顔、苦痛に歪めてやるわ」

「……何故、その崩壊した身体で動ける? 貴女には痛覚が無いのですか?」

「さあね。死ぬまで試してみなよ」

 

 不死の吸血鬼とはいえ痛覚は当然存在する。普通であれば暫く動けなくなるだろう。

 さらにフランドールは余裕ぶっているだけで、ここまでのダメージを負うのは生涯初めての事だった。若干痩せ我慢しているのは否めない。

 

 しかし脳裏によぎるのは、やはりあの従者。今の自分より重傷でも、いつもピンピンして笑顔で働いている。痛がっているので痛覚もある筈だ。

 ならば主人である自分がこの程度の痛みで音を上げてどうする。とんだ笑い者ではないか。

 

 それだけはならない。特別で有能な従者に相応しき主人とは、同様に特別かつ絶対的でなければ。

 

 決して弱い部分は見せない。地面に膝をつく事も、倒れ伏して這い蹲る事も許さない。

 フランドールには敗北も後退もないのだから。

 

 

 

「屠る前に一つ聞かせてもらいたい」

「どうぞ。お前を屠る前に聞くだけ聞いてやる」

「……貴女が月を襲撃したリーダー?」

「違うわね。総大将は私の姉であり、戦略を描いたのは私の部下。お前が相手にしているのはただの一戦闘員よ。残念だったね」

「そう、ですか。道理で」

 

 衝撃と共に、ある種の納得があった。この戦闘狂がこの数日間なにもせず此処に待機し続けたのには何か相応の理由があると考えていたからだ。

 

 であれば何故その二人はこの場に居ないのか。フランドールへの態度からして後ろで戦いを見守っている妖怪達がそれに該当しないのは分かってる。頭を抑えてうずくまり「うーうー」唸っている奴は知らない。

 

 考えられるケースは三つ。その二人だけ先に地上へ帰還したのか。そもそも月にやって来ず地上で低みの見物をしているのか。もしくは──。

 

 

「……中入りか!*1

 

 別働隊が存在する可能性を考慮しなかった訳ではない。月の都の技術の粋が集結したレーダーである『穢身探知機』を稀神サグメから借り受け、逐一敵の怪しい動きはチェックしていた。

 この数日間、奴らの穢れの総量は間違いなく変わらなかった筈だ。

 

 そこまで考えて、依姫は首を振った。

 その天地開闢から今に亘って月人を支配し続けた地上イコール穢れの固定観念が誤りだったのだ。

 敵は自分達が穢れを元にして地上の存在を識別している事に気付いている。自分達を研究し尽くしている。

 

 恐らく、敵に穢れを一切持たない浄土の人間、もしくはそれに類似する者がいる。そいつが開戦当初から今に至るまで蠢動し続けていたのか。

 なればここまでの不可解な出来事全てに説明がつく。してやられた。

 

 しかし流石は八意永琳に鍛え上げられた俊英の努力家である。以上の可能性を一瞬で叩き出しながらも、動揺を顔に出すことはなかった。

 依姫が慌てたところでフランドールを喜ばせるだけだ。今の自分がやるべきは、この理解不能の破壊者をここで仕留めることである。

 もはや手加減は不要。八百万の神々の力を惜しみなく使わせてもらい、本気で屠る。

 

 それに万が一には備えてあった。

 

 綿月姉妹が独自に動かせる戦力の中で、ぶっちぎりの『最強』を月の都に後方待機させてある。豊姫が軟禁されている現状、月の都を守護する役目をその者に託す必要があったからだ。

 それほどまでに姉妹からの信頼は厚い。

 

 彼女なら……玉兎最強のソルジャーであり、自分達の可愛いペットである鈴仙なら、きっと月の都に迫る脅威を打ち払ってくれる筈──。

 

 

 そう考えていた時期が依姫にもありました。

 

 

*1
敵との対陣中、一部の兵を分けて敵の背後を攻める・脅かすこと。





やっぱり一度くらいは本気のマイロードを書いてみたかったものとする。
また今回フランちゃんが使っていた黒ステッキは原作のレーヴァテインと同じデザインであり、弓にも剣にも杖にもなる万能ツールであるものとする。(ニッヒちゃん作)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。