フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

46 / 59

章分けを追加しました。


「おやすみなさいマイロード」

 

 

 まず()()()()()()()()()()()()

 

 綿月豊姫の持つ扇子は月の都が誇る最新兵器。一度扇げば浄化の風を巻き起こし、広大な森林をも素粒子レベルに分解してしまうらしい。かの八雲紫さんを土下座に追い込んだクソアイテムである。

 なにより厄介なのが、一度使用されてしまえば防ぐ手立てがないことだ。

 

 あの風に触れただけで吸血鬼の強靭な肉体も意味を成さず粉々に溶けてしまう。依姫さんとの戦いで終始余裕を保ち、私達を鼓舞してくれたレミリア閣下が一瞬でやられてしまった。

 

 と、絶命の寸前でレミリア閣下の姿が掻き消えた。どうやらパチュリーさんが転移魔法で手元に呼び寄せたらしく間一髪で救出できたようだ。良かった。

 しかし安心している暇はない。浄化の風はこちらにも迫っている。不可視の破滅ではあるけれど、風の流れとともに砂がより細かく分解されているので大体の位置は分かる。もはや目と鼻の先だ。

 

 

「お二人とも、下がってくださいッ!」

 

 ボロボロの身体を引きずって盾になろうとする美鈴さんだが、あの攻撃の前には自己犠牲も意味がない。何も為せずに消えてしまうだけ。彼女の献身も、想いも、全て無に帰すのだろう。

 駄目だ。何もできない。思い付かない。

 

 絶望に打ちひしがれ、思わずマイロードを振り返ってしまう。何もできずにごめんなさいと謝るためだった。

 でもマイロードは……嗤っていた。その瞳に諦めなんて一欠片も無かったのだ。

 

 

「マ、マイロード……?」

「全部私が破壊してやる。お前達は役に立たないから下がってなさい」

 

 そんな事を呟くと、私と美鈴さんの首根っこを掴んで後方へと投げ飛ばし前へ進み出る。どんな足掻きも時間稼ぎにすらならないのに、何故。

 するとマイロードは両手を前に突き出し、さらに両翼を目一杯に広げて己を守るシールドとした。前面に押し出した部分に凄まじい量の魔力が集中している。恐らく、マイロードに残された余力の殆どだ。

 

 

「分かり易い、武器の性能頼りの攻撃。いくら強力でも術式がこんなに単調なんじゃ意味はないわ。さっきの奴の方が格段に面倒ね」

「……へえ」

「私の前では貴様らの言う一方的な浄化なんて意味を成さないのよ。あるのはただひたすらに純然な力の押し合いのみ!」

 

 そして衝突。

 私の目にも分かった。抵抗も許さず全てを無に帰す破滅の風が、マイロードの前で押し留められている。味方である私達ですら恐れ慄いてしまう程の超魔力と、理解の範疇を遥かに逸脱した超科学の殺し合い。

 

 何がどういう原理で拮抗が実現しているのか、私にはちっとも分からない! インフレ加速する原作に対抗すべく、将来的に実況解説役に居座る事を画策している私にとっては由々しき事態だ。

 

 しかし何はともあれ、マイロードが一方的な虐殺から力勝負に持ち込んだ事だけは明らか。

 やはりあの方に日常生活や部下のマネジメントを除いて不可能な事なんて一つもないのである。もう少しそっち方面も鍛えてクレメンス。

 

 

「うおおお何が何だか分からないけどマイロード頑張れぇぇ! ファイトぉぉぉ!」

「黙れ! 気が散る!」

「はい黙ります!」

 

 凄まじい集中力だった。表情も苦悶に歪んでいて、相当な負担が掛かっているのだろう。こんな顔のマイロード見るのは生まれて初めてだ。

 見ればマイロードの指先が消失していて、次に掌、次に膝先と、徐々に飲まれていく。

 

 かくなる上は、と。私が行動を起こそうとした瞬間、マイロードから怒号が飛んでくる。

 

 

「邪魔だから何もしなくていい! 座ってろ!」

「で、でも……」

「お前はとことん、私のことを舐め腐ってるみたいね。いい加減、学習しなさい……!」

 

「お前の主人は最強なのよ!」

 

 瞬間、マイロードの魔力が爆発的に跳ね上がる。一人の妖怪から発せられているとは到底思えない、規格外の規模。そのあまりの巨大さに、豊姫さんでさえ驚きで目を見開いている。

 滲み出る漆黒が無色の破滅を塗り潰し、自らの力へと変えていく。

 

 魔力の高まりに応じて勝負の天秤が大きく傾いた。絶妙なバランスの下で保たれていた拮抗はマイロードの手によって破壊され、浄化の風を破壊の力が押し返す。

 マイロードの力が月の文明力に勝利したのだ。

 

 

「……してやられたわね」

 

 浄化の風を伴ったマイロードの破壊の力が豊姫さんへと跳ね返り、着弾と同時に滅茶苦茶に砂浜を蹂躙していく。指向性を失った破壊の暴風が竜巻のように眼前で渦巻いていた。

 

 と、マイロードが崩れ落ちるように突っ伏したので慌てて支える。だけど私自身も満身創痍で、美鈴さんの手を借りなければ立つ事すらできなかった。

 

 

「ハァ……ハァ……っ! ぐっ……ニッヒ」

「は、はい!」

「奴は……殺せたか?」

「いえ、多分生きてます。綿月豊姫は瞬間移動に近しい能力を持っていますので、寸前で離脱したんだと思います。見れば兎達もいなくなってますし……無事ではないでしょうけど」

「そう、か。仕留められ、なかったか」

 

 大粒の汗を流していて、呼吸が一向に安定しない。疲労によって身体が痙攣を起こし、膝先を再生する力も無いようだった。本当に、死力を尽くして戦ったのだろう。

 依姫さんとの連戦で深傷を負って、それでなおこの消耗である。いくら天下無敵のマイロードといえど命に関わる。すぐ安静にさせないと。

 

 普段なら気にならないような微弱な日光でも今のマイロードには致命傷となり得るため、愛用の紫傘を持たせておいた。帰還まで持っておいてもらおう。

 

 みんなボロボロだった。戦える者のいない現状が、月面戦争の終わりを静かに告げていた。

 

 

「パチュリーさん! 後輩ちゃん! 今から地上への帰還ゲートを開きますので、集合してください!」

 

 もう私達に歩み寄る力はない。

 どうやらパチュリーさん達もそれを見越していたようで、パチュリーさんは胸から上だけになってしまったレミリア閣下、小悪魔後輩が咲夜ちゃんとついでに鈴仙さんを抱えて此方に走ってきているのが見えた。

 

 ようやく掴めた小休止。

 恐らく、マイロードが作り出した破壊の竜巻が暴れ回っているうちは豊姫さんが再襲来する事はないだろう。この僅かな時間が最後の撤退チャンスだ。

 

 

「パチュリー様急いでください! 私の方がいっぱい荷物持ってるんですからね!」

「ぜぇ……ぜぇ……ちょ、ちょっと待って……」

 

「美鈴、マイロードのことをお願いしても大丈夫? 頼めるのが貴女しかいなくて」

「お任せください。ところで、ニッヒ様は」

「私は介助無しでも大丈夫だから」

 

 都への潜入から一日も経っていない筈なのに、久々に紅魔館フルメンバーが集まったような気がするね。まあ到着時にはいなかったメンバーが二人増えているんだけども。

 

 鈴仙さんの処遇については迷ったんだけど、そのまま地上に連れ帰ってもらう事にした。

 本来の歴史と大分ズレが生じてしまったから、彼女が原作通り地上に来てくれるか分からない。ならもう地上で穢れ漬けにするしかないよね! 地上に降りてしまった以上、鈴仙さんには八意永琳を頼る以外の選択肢は無くなるだろうし。

 ちなみに一応の建前は戦利品兼捕虜である。

 

 

 さて、晴れて全員集合できたので後はゲートを開くだけなのだが。ここでとある問題が生じている事に気付いた。あまりにも致命的な誤算。

 

 当初はマイロードの分身を月に残しての帰還を予定していた。地上の紅魔館にも分身が一人待機しているので、一度月に到着さえしてしまえば行き来は楽になる筈だった。

 でも今、マイロードには分身を作り出す力も、ゲートを維持する力も残っていない。

 

 

「っ……! 出ろっ……!」

「え、ヤバくないですかこれ」

「不味いわね」

 

 現在進行形で『フォーオブアカインド』のスペルを詠唱しているけれど、分身を構成する前に魔力が霧散してしまっている。なんだかんだであの魔法は莫大な魔力を必要とするのだ。

 しかも度重なる酷使で身体中の魔力回路がズタズタになっており、仮に魔力が復活してもマトモな魔法の運用はかなり難しいだろう。

 

 どうにもならないか。

 

 私は一つの決心を固めマイロードに歩み寄る。そして抱きしめる事で詠唱を中断させた。こうでもしないとマイロードは止まってくれないから。

 

 

「……分身ならここにいるじゃないですか。別に新しく生み出す必要なんてないですよ」

「黙れ……!」

「どうか無理なさらないでくださいマイロード。そんな弱々な状態で魔力を使ったら死んじゃいます。貴女はもう十分がんばりました、後は私に任せてください」

「やめろ!」

 

 私はマイロードの制止を振り切り、魔法を行使した。

 

 少しして紅魔館に残してきたポータル役の分身と魔力を繋ぐことに成功、無事にフランちゃんゲートが開通した。私自身とポータル役の魔力はまだ十分に残っているので、みんながゲートを潜り抜けるまではなんとか維持できそうだ。これで一安心だね。

 

 やったやったと、喜びながら主人を差し置いて我先にゲートに入ろうとした小悪魔後輩だったが、何を思ったかこちらを振り返る。

 

 

「先輩はどうやって帰るんですか? 確か、先輩自身はゲートを通過できないんじゃ……」

「おお知ってたんだ。さすこあ!」

「やっぱり。それじゃあどうするんです? 月の奴らに殺されちゃいますよ」

「そうなんだよねぇ。残念だけど」

 

 ヘカーティアさんから制約について強く注意されたのを思い出す。

 この魔法の使用には入口と出口を維持する同一個体の術者が必要となる。つまり、術者自身がゲートを使用できるようには設計されていない。紫さんの『スキマ』のように便利な代物ではないのだ。

 

 私は今日、ここで役目を終える事になる。

 

 その場にいる全員の視線が私に集中した。驚きと憐憫に満ちた目だった。

 

 

「さらっと言う事ではありませんよニッヒ様! なにか……なにか方法は無いのですか?」

「ちょっと思い付かないや。考えたら何か名案が出てくるかもだけど、敵は悠長にいつまでも待ってくれるわけじゃないし。ゲートも長くはもたない」

「しかし……!」

「美鈴だって私の立場だったら同じ事をするでしょ? 今回は私の番だったってだけの話だよ」

 

 そう言うと、美鈴さんは顔を歪めて項垂れてしまった。

 

 意地悪な返答だと自分でも思った。こんな事を言われたら美鈴さんは何も言えなくなってしまう。本当に優しい人だよね、やっぱり好き。

 でもそんな気持ちの籠った対応をされると色々名残惜しくなっちゃう。辛いね。

 

 そういう点ではパチュリーさんくらいの反応が一番助かる。僅かに考えるような素振りを見せた後、どうにもならないと判断し私の命に見切りを付けてさっさとゲートの中に消えていってしまった。流石は私と同じ紅魔館のインテリジェンス担当である。

 

 ただ別れ際に、後ろ姿のまま手を振ってくれた。彼女にしては情を見せてくれた方なんじゃないかな。私も手を振り返しておいた。

 勿論、気絶したまま抱えられているレミリア閣下に対してもね。いっぱいお世話になったのにお別れを言えなくて申し訳ない。実の妹のように可愛がってもらえて、本当に嬉しかったって伝えたかったんだけどなぁ。

 

 

「もうパチュリー様ったら薄情だなぁ。……じゃあ私も行きますね先輩。今までお疲れ様でした」

「これから色々大変だと思うけど頑張ってね後輩ちゃん! 社畜根性を忘れちゃダメだよ!」

「先輩みたいにはやれませんってば」

 

 さも憂鬱だと言いたげな態度で私の離脱を惜しむ小悪魔後輩。確かに暫くの間は紅魔館の庶務を彼女が担当しなければならないのか。可哀想に……強く生きて。

 もっとも少し経てば咲夜ちゃんが立派な『咲夜さん』になって支えてくれる筈だからそこまで絶望的という訳でもなかったりするんだけどね。

 

 

 

 こうして月面には私と美鈴さん、そして彼女に抱えられたマイロードだけが残った。

 

 他のみんなゲートに消えていく間、マイロードは一言も喋らなかった。ただただ、無表情で私のことをジッと見つめるだけ。目が真っ赤に充血していた。

 沈黙は続く。背後で吹き荒れる破壊の嵐の轟々とした音だけが場を支配していた。だがそれも徐々に弱まってきている。もう時間がない。

 

 結局、私から口を開く事になった。

 

 

「誠に勝手ながら、お暇をいただこうと思います。ごめんなさい……もっともっと、たくさんお仕えしたかったんですけども。ここまでみたいです」

「そんなの認めない」

「マイロード……」

「嫌だ、いくな。私の下から去るな」

 

 マイロードは私に向けて手を伸ばす。だけど膝から先が無いから空振ってばかりだ。

 私はそのあまりの有様に見ていられなくなって、伸ばされた腕を両手で握った。

 

 堰を切ったように言葉が次から次に溢れ出る。話すのも辛いはずなのに、私をなんとか繋ぎ止めようと「死ぬな」「残るな」と、同じ言葉を連呼していた。

 

 

「私は使い捨ての分身……いや、それにすら満たない不良品です。でも今はこうして──」

「そんな事、どうだっていい。どうだっていいの」

「……」

「お前を、失いたくなかったの。ずっと一緒に、私の側に居て欲しかった。……なのに死ぬのか。私の許可無しに、残して逝くのか」

「っ……!」

 

 私だって死にたくない。これからもずっとマイロードにお仕えしていたいよ。

 紅魔館の皆さんともやっと仲良くなれてきた。これからだったんだ。……それにマイロードと二人で幻想郷を巡りたかった。外の世界が如何に美しい場所なのかを知って欲しかった。今からでもやりたい事は尽きない。

 

 でも本音は言っちゃダメ。デキる従者は主人に呪いの言葉なんて残さない。立つ鳥跡を濁さず、というやつだ。私は完璧な従者(ニッヒ)を遂行しなければ。

 

 マイロードを落ち着かせるために、帰還後も黙っておこうと思っていた話をする事にした。

 

 

「私、知ってたんです。マイロードがわざわざ地下室から出てきて月まで来てくれた理由も、いっぱい傷付きながら戦ってくれた理由も。──全部、私を守ろうとしてくれたから、なんですよね?」

 

 二人行動の際にレミリア閣下が教えてくれたのだ。マイロードが月面戦争に参加した本当の理由を。

 

 運命の定まらない私を掌中に収めて永遠とするために、これだけの犠牲を払ったそうだ。無から生まれた偽物の私ひとりの為だけに。

 ああ思い返せば、戦争の最中だって、日常生活だって、ずっと守られてばかりじゃないか。

 

 私は大切にされていたんだ。

 

 その事実を再認識したら自然と頬が緩んでしまう。死を前にして、私は多幸感に包まれていた。

 ニッヒは世界一の幸せ物だ。

 

 

「ねえマイロード。道具にとって一番の幸せってなんだと思いますか?」

「分からない。分かりたくない」

「……それはね、こうして持ち主に惜しまれながら役目を終える事なんだと思います」

 

 想えば想うほど胸が張り裂けそうになる。この胸いっぱいの不思議な気持ちの分だけ、私はマイロードから沢山の物を貰えたのだろう。

 長い時を共に過ごせば過ごすほど、この切ない想いは伝わり難くなってしまったけれど、土壇場でようやく通じ合えたような気がする。

 

 

「ありがとうございますマイロード。その気持ちだけで、私はこの世に生まれ落ちる事ができて良かったと、心からそう思えるのです」

「……っ」

 

 その言葉が決め手だったのかもしれない。ついにマイロードの顔に『諦め』が浮かんだ。歯を噛み締めて悔しそうに唸っている。

 その様子を見て美鈴さんも辛そうにしていた。それはそうだ、あの絶対的だったマイロードがこんなに弱々しい姿を見せているのだから。

 

 もう時間がない。これが最後のやり取りになる。

 

 

「もしも最期に我儘を許していただけるなら、二つほどお願いをしてもいいですか」

「……言って」

「ゲートを閉じる時、どうか私に掛けられた術式を破壊していってください。その際に私の身体を構成する魔力を全て使って自爆し、追手を道連れにしてみせます」

「……」

「きっとこのまま生きていても酷い目に遭うだけだから。どうせなら最後の時まで役に立ちたいんです。派手にお願いしますね」

 

 月の民に捕まったら絶対ロクな目に遭わないもん。民衆の前で公開処刑されるか、最悪改造されてメカニッヒとして幻想郷に襲来する事になるかもしれない。そして東方紺珠伝一面で自機に破壊されてサヨナラ! 

 

 半分冗談だけど、気持ち的になるべく楽な方法で終わりたいという願いは本当だ。マイロードの従者として、尊厳を持ったまま最期を迎えたいのだ。

 

 そしてもう一つの願い。

 

 

「私のことをたまに思い出してくれませんか? 本当に時々でいいんです。そういえばあんな奴がいたな程度に思い出してくれれば満足なので」

「何を頼むかと思えば、つまらないことばかり……」

「ちょっと前にも言ったじゃないですか、私は寂しいのが嫌いなんです。忘れ去られるなんて死んだ後でも以ての外なんですよぅ!」

 

 これに関しては本当にただの我儘である。要するに「私は貴女の心の中で生き続ける!」みたいな漫画のようにベタな話だ。

 先ほど道具にとっての一番の幸せについて語ったけれども、逆に一番の不幸とは、まだ働けるのに存在を忘れられてしまって、最後は捨てられちゃう事だと思ってる。忘れられるっていうのは、本当に辛くて寂しい事なのだ。

 

 

「お願いしますねマイロード。忘れちゃったら化けて出ますからね! うらめしや〜って!」

「馬鹿ね……。簡単に忘れられるようなキャラしてないよ、お前は」

 

 

 

「来ましたね」

 

 大勢の気配を感じたので振り返ると、豊姫さんとその配下の玉兎達がずらりと立っていた。手には物々しい銃が握られており、全てが私達へと向けられている。

 破壊の嵐は完全に収まったのを見越して、再度瞬間移動してきたのだろう。今回も前兆が感知できなかった。本当に姉妹揃って便利な能力だよね。

 

 やはり豊姫さんは危険だ。下手すればゲートの座標を特定されて紅魔館に瞬間移動してくる可能性だってある。このまま生かしてはおけない。

 

 軍勢の姿を認めると同時だった。美鈴さんは私に向けて頷くと、マイロードを抱えたままゲートへと飛び込んだ。

 それに合わせて私を構成する分身魔法の術式が破壊され、身体が紅色の輝きを纏っていく。マイロードは約束をちゃんと守ってくれた。

 外郭を失い霧散するだけの魔力に、マイロードの破壊の力が入り混じる。

 

 この技を私は知っている。

 本来、莫大な魔力をリンゴサイズに一点凝縮して放つ、原作におけるフランドール・スカーレットの奥義とも言うべき最強必殺技だった。

 それが私という人型のサイズで放たれるのだ。その威力は想像を絶するだろう。

 

 私への手向けとするにはピッタリかもしれない。

 二人でスペルを唱えると同時にゲートが完全に閉じて、視界が真紅の閃光で埋め尽くされた。

 

 

「「『スカーレットニヒリティ』」」

 

 

 

 

 

 

「ばいばいマイロード。どうかお幸せに」

 

「……さようならニッヒ。私の最初で、最後の従者」

 

 別離の言葉は聞こえなかったけれども、心が通じ合っている今なら何を言ったのか分かる気がした。

 

 ニッヒちゃんは、それだけで満たされるのです。

 

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。