フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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Vanitas vanitatum (なんという空しさ), et omnia vanitas.(すべては空しい)



そして誰もいなくなるか?《挿絵あり》

 

 

 

 住み慣れた地下室に戻るたび、ふと思う事がある。

 

 此処はこんなにも薄暗い場所だっただろうか。何故、こんなにも広く感じてしまうのか。

 心地良く感じていた筈の静寂が息苦しい。考えれば考えるほど頭が掻き乱される。

 

 心底くだらない。

 

 最強最悪の吸血鬼フランドールよ。

 何を狼狽えている。お前はこれほどまでに脆弱な小娘であったのか。何故そのような醜く無様に成り果ててしまったのか。何故だ、何故。

 

 その疑問に対する答えを考えようとしなかった。

 心が理解を強く拒んでいた。だって分かってしまえば、後戻りできない事に薄々気付いていたから。

 

 破壊とは絶対的な一方通行なのだ。私の手で壊した物は二度と元へは戻らない。

 

 もう何度目になるかも覚えていない『フォーオブアカインド』のスペルを唱え、暗闇に浮かぶ自分へと何度も問い掛ける。その都度、分身は的確な答えを用意してくれた。

 

 ああ、駄目だ。

 

 壊れてしまう。

 心に負けてしまう。

 全てを、諦めたくなってしまう。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 

 答えは既に、己の掌中にあった。

 

 そうだ、ニッヒをこの手で破壊してしまったからだ。それ故の孤独。虚無感。

 

 この惨めな有様は全て自分の弱さが招いた代償だ。月人に負けたから──いやそれ以前に、幼稚な我儘をニッヒに押し付けてしまったから。

 

 未来永劫壊れない物なんてこの世には無いと分かっていた筈なのに、失う事に耐えられなかった。

 たとえその時が数百年後の事であったのだとしても、それを私は受け入れられなかった。

 私と共に永遠を生きるべきだと、本心を伝えないまま破滅の運命に引き摺り込んだ。

 

 全てが終わってしまった今なら迷いなく言える。

 どうせ滅びてしまうのなら、せめてゆっくりと、倒木が徐々に朽ちていくような安らかなものが良かった。そんな最期を用意してあげたかった。

 

 この苦しみは、虚無は、孤独は、罪の形として一生私を蝕み続けるのだろう。

 

 

 

 いや、違う。

 

 破壊しか能の無いこの手で、あんなものを生み出してしまったからだ。それが間違いだった。

 アイツさえ生まれて来なければ、私は弱くならなかった。苦しむ事など無かった。私はこの地下室で、ずっと強いままでいられた筈。

 

 ニッヒという存在を知れば知るほど、触れ合うたび穏やかになっていく自分。ニッヒと一緒に居る時の優しい私が一番好きになっていた。

 

 それがどうしても許せなかった。そんな弱い自分を認められるわけがない。アイツが生まれた時から、この憤りが私の中に巣食っていたのだろう。

 

 だから『ニッヒ(Nihility)』と名付けたのだ。所詮は私の気紛れで生まれた虚無でしかないと、自分に言い聞かせるために。

 でも結果として、私はニッヒを拒絶できず、絆され、今では途方もない虚無を味わっている。こんなの、とんだ笑い話ではないか。

 

 ああ……こんな苦しみを味わうのなら。アイツと出会わなければ良かったのに。出会ったあの日に、殺しておけば良かったのに。

 

 

 

 

 心が二つある。

 

 ニッヒが残してくれたものを大切にして、一生苦しみ続ける事を望む気持ち。贖罪を気取った醜い自己満足に浸る傲慢な気持ち。

 

 私を雁字搦めにする厄介な繋がりを全てを断ち切って、元の強い自分に戻ろうとする気持ち。付き纏う苦しみから逃れたいと願う弱い気持ち。

 

 相反する二つの考えが私の頭で堂々巡りを繰り返す。

 お姉様が言っていた。私の今の状態は精神分裂に近い、と。それに加えて、破壊の矛先を異なる自分に向け合うなど正気の沙汰ではない、とも言った。

 

 どちらが本物のフランドールの気持ちなのか、頭がぐちゃぐちゃになった私には分からない。矛盾した在り方はニッヒの死とともに境界を無くしてしまった。

 

 ならば、なるようになるまで待つしかない。

 時が経てば自ずと『本物』が定まる。それを『フランドール』とするだけだ。

 そのために敢えて己の心を割った。他でもない自分を守る為に。

 

 心が壊れてしまってもいい。迷いが晴れたその時こそ、私は元のフランドールに戻れるのだから。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

「えぇ〜!? 地下室を封印するんですかぁ!?」

「小悪魔うるさい」

「す、すみません。……咲夜さんからお引越しの話は聞いてましたけど、まさかそこまでやるとは」

 

 小傘を先に地下へと向かわせている間、当然のように大図書館で屯っているパチェと小悪魔に一言入れておく。後で文句を言われるのも面倒だ。

 

 思えば彼女らが大図書館の主人として振る舞うようになって随分久しい。恐らく、このまま紅魔館に永住してしまうつもりなのだろう。

 お姉様がそれを受け入れている以上、私から思う事は何もない。いつものようにアイツの顔を真似て、ただ善き隣人として接するだけだ。

 

 

「今回で必要な荷物は全部上に持ってきてしまうから、今後あそこを使う機会は二度と無いと思う。そんでもって他人を入れるのは憚られる。だから封印するの」

「そ、そうでしたか。いやぁ残念ですねパチュリー様。空き部屋になった地下室を物置として使うご予定でしたのに、計画が狂っちゃいましたね」

「別に。他の部屋をレミィに頼むだけよ」

 

 此方を見る事もなく本に目を通したままパチェが答え、その後少しして「それにしても」と付け加える。

 

 

「今回の件、レミィがよく許したわね。紅魔館は部屋が余りに余っているから、地下室の一つや二つを封鎖したところで何の支障もないだろうけど、訳もなく開かずの間を量産する気もないでしょうに」

「ふふ、二つ返事で承諾させたよ」

「……あんまり虐めないであげて」

 

 先ほど実際に行われていた交渉の風景を鮮明に思い浮かべたのだろう。可哀想なお姉様を想って気の毒そうに肩を竦めた。その様子に思わず笑みが深まる。

 

 もう少しパチェらと話したい気分ではあるのだが、先んじて地下室に向かわせたポンコツを待ち惚けさせるのは後が怖い。このあたりで切り上げる事にした。

 今日の会話はこれくらいでいい。十分だ。

 

 

 

 

 

 地下室へと続く階段を駆け足で降りていく。

 

 仄かな薄明かりしか無い、闇へと続く通路を眺めていると、様々な感情が湧き上がる。今日は些か悦びが強いように感じた。多分、お姉様のおかげだろうね。

 

 お姉様は今回の『引越し』に隠された目的に薄々勘付いているようだった。

 故に、いつものように何とかして私を止めようと、色々な言葉を尽くして制止していた。

 

 姉として威厳を保つため高圧的に、それが通じないと見るや死者の想いを代弁し、最後には縋るように私へと懇願していた。何度繰り返しても学習しやしない。

 

 

『呪縛に囚われちゃダメよ、フラン。ニッヒを悼む気持ちは否定しないけれど、残された者が立ち止まり続ける事は時として死者への冒涜となる』

 

『前を向きなさい。きっとニッヒだって貴女が今みたいになるのは望んでいない筈よ』

 

『……お前は本当に、愚かな妹だよ』

 

 

 その必死な様を見て、私は内から込み上げる笑いに似た衝動を堪えるのに必死だった。もう全部手遅れなのにね。それが私の現状含め、滑稽で仕方なかった。

 だから言ってやったのだ。今のお姉様を最も傷付ける言葉を。

 

 

『お姉様は良いよね。ニッヒを犠牲にして、代わりにあのメイドを手に入れたんだから』

『……っ』

『これからは今までみたいに似非占い師だなんて言わないわ。お姉様の能力は本物だもの。だから代わりに詐欺師って呼んであげる』

 

 

 皮肉混じりの恨み言は、本心ではない。その事はお姉様にだって分かっている。これには本心よりも更に強い悪意を混ぜてあげたんだ。

 レミリア・スカーレットの心をただ砕くためだけに、私は心にも無い事を言い放ったのだ。

 

 お姉様はニッヒの最期を看取るどころか、言葉を交わす事さえできなかった。アイツがどんな顔で死んでいったのか、それすら分からない。

 妹のように可愛がっていたのは知っている。なんなら私よりも真っ当な姉妹をしていた。それだけに、ただの従者の死として処理できなかった。

 

 せめて最後に手向けの言葉を残せていたのなら、心に区切りを付ける余裕も生まれたんだろう。

 例えば「貴女も妹のように思っている」とか? その一言だけで良かったのに、姉にはそれすら許されなかった。それが深い傷になっている。

 

 お姉様は深く、更に深く項垂れるだけだった。

 私達って、本当に愚かな姉妹だよね。

 

 

 

 

「あっ! フラン様やっと来たぁ〜!」

「待たせたわね」

「うぅ……こんなお化けが出てきそうな場所で一人だなんて、わちきはもう怖くて怖くて!」

「出そう、じゃなくて、出るのよ此処は。なんなら今も私の目の前に一匹いるし」

「ひぇぇっ!?」

 

 別に揶揄っているつもりも無いのだが、勝手に恐怖して隅の金床の後ろに縮こまった頼りない唐傘お化け。その姿を見ていると毎度ため息が出る。

 こんなザマでよくも私の従者になりたいなどと世迷い言を宣えたものだ。

 

 ……やっぱり違う。小傘はニッヒじゃない。

 

 最初、私に託された例の紫傘が突然自律した妖怪に変化した時は流石の私も狼狽した。だって、散見される特徴があまりにもニッヒと似ていたから。

 

 でも長く見ていれば気付く。やはり別物だ。

 料理はできない。鍛冶で針一本すら作れない。腕っ節は貧弱で、スタミナ皆無。性格も似ているところはあれど、完全に同じとまではいかない。

 

 私は小傘が何か新しい事を始めるたびに訳の分からない期待を抱き、そしてそれを毎度のように裏切られて、私は勝手に失望し、深く憎悪した。

 小傘に対してでは無い。この手で確実に終わらせた命がまさか戻ってきたのではないかと期待してしまう、弱く醜い私に対してだ。

 そして、()()()()()()()()()()()()()と、その度に安堵してしまう私にも。

 

 

「フラン様? どうしたの?」

「……なんでもない。さっさと始めましょ」

 

 施錠を解き、扉を開け放つ。

 当然ながら部屋はあの時から全く変わっていない。月面戦争以前のままだ。

 

 いや、床に埃が積もり、カビの臭いが復活した事で少し生活感は薄れたかもしれない。でも、それでも、私にとってはあの時のままなのだ。

 

 

「地下室ってこんな感じになってたんだぁ。もっとおどろおどろしいのを予想してたんだけど」

「ぼーっとしてないで、働きなさい」

「はーい。ちなみに持って上がる荷物は予めリストで確認したんだけど、相当数の物が地下室に残るみたいですね。もしかして処分するの……?」

「しないわ。まだ使える道具を処分するなんて言ったらお前に怒られるもん」

「おお……ありがたや! フラン様はやっぱりわちきの女神様だよ!」

 

 一頻り喜ぶと上機嫌で作業を開始する。本当に調子が良くて扱いやすい奴。

 小傘の言う事はいつも大袈裟だ。一々真に受けていては話にならない。適度に流すのがいい。

 

 そもそも私に勿体無い精神なんて高尚なものはない。物を捨てないのには別の理由がある。

 それだけではない。今回地下室を引き払うのも、ニッヒの生前をなぞるような動きをするのも、全部同じ情けない理由だ。

 

 

「フラン様って料理できたんだ! 意外!」

「何の話?」

「えっと、大事に使われた形跡のあるキッチンがあったから、てっきりフラン様が使ってたんだと思ってたんだけど……違いました? ほらあそこの天井には焦げ跡が」

 

 山積みの魔導書を抱えてふらふらしながら、危なっかしく指差す。その先には主人を失った簡易キッチンがあった。戦争から帰ってきた後に何かを作ろうとしていたのだろう、中身の無い調理器具がセットされている。

 

 私はあれらを片付けるどころか、動かすことさえできなかった。故に、全てがあの時のままだ。

 

 

「……あれを使ってたのは別の奴。私じゃないわ。天井の焦げ跡もその時のものだよ」

「へぇー」

 

 頭の奥底に埋没していた記憶がまた一つ蘇る。さっきまで忘れていたのに、実物を見た後なら昨日のことのように思い出せてしまう。本当に懐かしい。

 そう、あの焦げ跡はニッヒが妙な新料理にチャレンジした時にできたものだ。立ち昇る炎がアイツに引火して大事になったんだっけ。

 

 

 ◆

 

 

『ふっふっふ、見てくださいマイロード。私のお料理スキルは遂にこの領域にまで達してしまいました! ほらほらフランべでございます! フランドールだけに!』

『黙れ』

『……ん? おわああぁぁあ!? 炎が燃え移っちゃったぁ!!! マイロードタスケテ!!!』

『こっちくんな!』

 

 

 ◆

 

 

「ふ、ふふ……」

 

 暗闇で目を閉じれば、ぶつくさと文句を言いながら、それでも楽しそうな鼻歌混じりで簡易キッチンの前に立つアイツの姿が思い浮かぶ。

 

 私は未だに、アイツが居てくれた時の幻影を無意識に追い続けていた。

 あの頃を想うと、猛烈に恋しくなる。今の惨めな私とは違う『私』が羨ましくて仕方ない。

 

 ……寂しいよ。

 

 

「きゃあっ!?」

「ッ……!?」

 

 小傘の悲鳴で意識が覚醒する。全てが無意識下で行われたことだった。

 気付けば目の前には、粉々に爆散した簡易キッチンの残骸が散らかっていた。内部から破裂したことが一目で分かる特殊な破壊痕。

 側では小傘が怯えた目で私を見ていた。

 

 この破壊は私が齎したものだ。『破壊の目』を握って、今後二度と使えないようにした。もはやかつての面影は微塵も残っていない。

 また一つ、ニッヒの居た証拠が消えた。

 

 私は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 これが地下室を封印する理由だ。

 

 

『自分を忘れて欲しくない』と、ニッヒは死の間際まで頼み込んでいた。だから私は、それに応えてあげようと決意した。忘れられる筈がないと思っていた。

 

 でもね、日が経つごとに薄れていくの。

 アイツの姿が思い出せなくなっていく。頭が勝手に、辛いから思い出したくなくて、記憶に蓋しようとしている。忘れ去ろうとするの。

 

 地下室だって、きっとこのままだと私自身の手で滅茶苦茶にしてしまうと思った。自分が制御できない。むしろこっちが正しい『私』なのだと主張している。

 だから部屋を出る事にしたのだ。ニッヒの居た痕跡が残っているうちに。

 

 最低だと思う。

 アイツが生きてた時、手を上げるばかりで何もしてあげなかったのに、最期の願いでさえ私は簡単に捨て去ろうとする。私はそれが恐ろしかった。

 お姉様達が気味悪がってる私の行動は、全て私を抑制する為のものなのだ。

 

 でもね、実は分かっている。

 全部全部、自業自得なんだって。

 

 

「あの……フラン、様」

「……作業に戻りなさい。これは私が片付けるから」

「は、はい」

 

 小傘は背筋を伸ばすと、魔導書を持って階段を駆け上がっていった。今あの子の顔を見てしまうと、抑えが効かなくなると思った。

 実際小傘が生まれて間もない頃は、ニッヒと瓜二つのオッドアイが気に入らなくて小傘の事を何度も殴っている。どうしてもニッヒを想起してしまって辛いから。

 

 幼稚で身勝手な衝動を振り払うように、片付けに没頭した。余計な事を考えずにいられる僅かな時間だけが、私にとっての安寧だ。

 

 と、一番大きな残骸を横にどかしたら、キッチンとは別の残骸を見つけた。木材で出来ているようで、周りと明らかに材質が異なる。多分、壊れる前は小鳥箱のような形をしていたのだと思う。

 

 そういえば昔、アイツが簡易キッチンのシンク下に祭壇なる妙なモノを作っていたのを思い出した。また性懲りも無く再建していたのだろうか。

 

 何気なく拾い上げてみると、残骸の中から数枚の紙切れが舞い落ちた。私は脳裏を掠める嫌な予感を自覚しつつも、気になる気持ちを抑え切れず、紙へと目を通す。

 

 

 

*◆*

 

 

 

マイロードへ。

 

この手紙を見ているという事は、恐らく私はもうこの世には居ないのでしょう。現実でこんな文面を書くことになろうとは、人生何があるか分からないものですね。

 

あっ、もしも私が生きてて、偶然手紙を見つけてしまったのならどうか見なかった事にしてください。恥ずかし過ぎてニッヒちゃん本当に死んでしまいますので。

 

……ではマイロードの幻の良心に望みを賭けて、続きを綴ります。

 

 

 

さて、マイロードにおかれましては如何お過ごしでしょうか? 私は現時点では元気です。今日もしこたま殴られて健気に働いております。手加減してクレメンス。

 

今回こうして遺書を残そうと思った理由は、パチュリーさんと戦った時のあれこれにあります。実はあの時にも遺書を書いてたんですけど、燃え尽きてしまったんですよね。ついでに死に掛けましたし。なのでこうして改めて用意しておこうと思ったわけなのです。

要するにノリと勢いですね。

 

私の死因は分かりませんが、恐らく高確率でマイロードが「もう要らない」と判断して、廃棄または破壊したのだと予想します。だらしない道具で申し訳ない。

私は最期の時までマイロードのお役に立てるよう頑張るつもりですけど、ご期待に添えなかったのなら仕方がないと思います。私はちっとも恨んでいません。

 

しかし心残りはあります。私が居なくなった後、マイロードがちゃんと一人で生活できるのか不安な点です。

私はもう死んでると思うので好き勝手書かせてもらいますが、マイロードって生活習慣が壊滅してるし、片付けもできない子供部屋吸血鬼だからまた元のゴミ屋敷に戻ってるんじゃないかと思ってます。それにコミュ障だし。

 

ただここだけの話なんですけど、後々『十六夜咲夜』という方が紅魔館に就職する筈ですので、彼女を頼るのが良いと思います。私は完璧で究極の従者でしたが、咲夜さんはそれを上回ります。頼って損はありません。ただし優しくしてあげてください。

 

 

そして実はもう一つ、心残り……というか、大丈夫かなーって思っていた事があります。

私に予知めいた謎の能力があるのは既にご存知だと思いますが、実のところそれで観測するマイロードの未来はそこまで良いものではないのです。

幸せとは到底呼べない人生を495年も独りで過ごした可哀想な女の子。それがフランドール・スカーレットでした。マイロードとは似ても似つきませんが、歴史の修正力なる見えざるパワーが働くかもしれないという不安があったのでございます。

 

しかし直近のマイロードを見ていると、そこに関しては大丈夫なのかなと感じています。

マイロードは身体と精神力共にとても強いお方で、窮状を自らの手で打破できる術を持っています。きっとこれから先、どんなヤバげな事が起きても、マイロードならなんとかできる。私はそう信じています。

 

それに私の主観で申し訳ないのですが、最近のマイロードは毎日に楽しさと幸せを感じているように見えます。相変わらずの仏頂面ですが、ニッヒちゃんには日々繰り出される拳から何となくそれが分かるのです。

満たされる事を知ったなら、もう昔には戻れません。あとは更に幸せを追い求めていくか、足る事を知るかの二択。どちらにせよ私は不要となる領域ですね。

 

ただまあ、強いてアドバイスを言うなら、もっとみんなに優しくしましょう。そして姉君とは仲良くして、パチュリーさんと美鈴さんを虐めない。少しだけ外見相応の幼さも出していければなおよしですね。うふふ、なんて可憐な笑い方をしてると高得点。

そうすれば更にみんなに愛されるフランちゃんになれると思います。頑張ってください。

 

あとは……お友達ですね。是非、紅魔館の外にも目を向けられてください。ちなみに私のおすすめは電波系不思議ちゃん妖怪と、金髪の魔法使いです。

逆に要注意なのは神や賢者を名乗る金髪不審者です。知らない人には付いて行かないように。

 

とまあここまで長々と書いちゃいましたが、今になって冷静に考えると、とっくの昔に廃棄した不良品からこんな手紙を受け取っても色々困るかと思いますので、ここらで筆を置かせていただきます。

 

 

どうかお幸せに。

ニッヒはいつまでもマイロードをお慕いしております。

 

 

P.S.短気は損気ですよ♡

 

 

 

*◆*

 

 

 

「お前は……本当にバカなんだから」

 

 このふざけた手紙のどこが遺書なのかと、あの世から引き摺り出して問い糺したい気分だ。自分の言いたい事を死に逃げで書き殴っただけではないか。

 しかもそのふざけた内容に反して字が無駄に達筆なのがなんだか腹立つ。

 

 でも、アイツらしいね。

 

 

「フラン様ー。次に上へ運ぶ荷物なんですけど……って、これは何事!?」

 

 上から降りてきた小傘が私の顔を見て驚いている。イライラしていたとはいえ、そんなに酷い顔をしていたかと、不思議に思って頬に触れてみる。

 

 指先が濡れていた。何度拭っても、次から次に止めどなく流れ落ちていく。

 少しして、これが涙だと気付いた。もう私には縁の無いものだとばかり思っていた。

 

 死してなお私を想う気持ちが、私の枯れた涙を呼び戻したのか。

 

 

 

 

 荷物を全て上へと運んだのを確認して、地下室の扉へと厳重な封印を施す。

 この扉が開かれる事は二度とないだろう。

 

 ずっと私だけの世界だった。硬直した時間を無為に過ごす、私だけの空間。でもアイツが生まれて、世界に彩りが生まれてからは、私だけのものではなくなった。

 

 そして今、この部屋は誰のものでもない。

 ニッヒは死んだ。私は変わってしまった。──否、自分の心を殺して、変わる事を望んだからだ。

 

 こうして部屋の住人は全滅してしまいましたとさ。

 とても詰まらない、残念な結末だ。

 

 





【挿絵表示】


そして誰もいなくなった。

悲しいお知らせですが、しばらくマイロードを始めとする紅魔館メンバーの出番は(多分)ないものとする。


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