フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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千/4年幻想郷

 

 紅魔館の内装を初めて見て、私が抱いた感想は「こんな目に悪い場所で弾幕STGやるのはなぁ」なんてどうでもいいものだった。

 どこを眺めても目がチカチカするし、装飾品は気味が悪いし、窓が少なくて薄暗いし、マイロードは相変わらず乱暴だし、私はボコボコだしで散々だ。これは難易度ルナティック。

 

 なお私は現在進行形で首根っこを万力のような力で掴まれ、そのまま廊下を引き摺られている。ペット以外でそういう持ち方をするのは非常に良くないと思う。折れる千切れる助けてえーりん。

 

 でも文句を言ったら殴られるからね、私はされるがまま厨房まで耐え切るしかない。ただそれだと私の心があまりにも救われないので、館をディスる事で溜飲を下げるのだ。世知辛いね。

 

 

「なんというか、どこを見ても真っ赤で落ち着かない気持ちになりますねぇ。もっとこう、目に優しい設計にした方が良かった気がします。センスを疑いますね!」

「そんなに文句が言いたいなら、その設計者のところに今からでも連れて行ってあげるわよ。多分今の時間なら部屋で寝てるから」

「またの機会でお願いします! あとさっきのは全て冗談なので設計者さんには言わないでくださいね。むしろめっちゃ褒めてたって伝えてください」

 

 当主様たってのご希望だったか。

 レミリア閣下の下へ連行される未来が見えたので、マイロードの申し出を丁重に辞退させてもらった。ただでさえマイロードからフルボッコなのに、その姉君まで敵に回すのは下策も下策だ。

 

 この暴帝フランドールと互角に相対できて、なおかつ私の活動範囲でギリギリ会えそうなのはレミリア閣下くらい。つまり、私が二人の間を上手いこと行ったり来たりする事で絶妙な均衡状態を生み出せる可能性がある。これぞまさに蝙蝠外交ってやつだ。上手いこと言った。

 

 なので私はマイロードの従順な部下として過ごしながら、レミリア閣下へと媚を売らなればならない。両方こなさなきゃならないのが蝙蝠の辛いところである。

 

 

「よくよく見たら素晴らしいセンスですよね、紅一色って。並々ならぬ風情を感じます。いやぁ凄いなぁ私には真似できない。レミリア様万歳! いぇいいぇい!」

「うるさい。黙れ」

「はい黙ります」

 

 一睨みで私はフランドール派への転向を余儀なくされた。まあ姉君には沢山の従者と友達がいるけど、マイロードはぼっちだからね。誰かが側にいてあげないと更にとんでもない怪物になってしまうかもしれない。なので泣く泣く我が身を捧げるしかないのだ。全人類の為の押し蓋なんて勘弁してクレメンス。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ん、ここが厨房だと思う」

「本当ですか? なんか凄いヤバげな臭いがするんですけど。正直入りたくない……」

「関係ないわ。さあ美味しい物を作りなさい」

 

 投げ出された先は屠殺場みたいな所でした。マイロードが食べている謎肉や謎スープを作っている場所なだけあって、異様な雰囲気と臭いを醸し出している。

 あからさまに謎肉の原材料が置かれているなんて事はなかったが、臭いが強いので多分何処かに例のブツを保管するスペースがあるのだろう。

 

 あんまり強くイメージし過ぎると泣きたくなってくるので、深く考えないようにする。漂っているヤバ臭は何かが熟成された結果なのだろう。決して死臭とか腐臭とか、そんなものではないのだ。

 

 

「まともな食材あるかなぁ。ちなみにマイロードの希望とかってあります?」

「美味しければ何でもいいよ」

「はぁ……それが一番困るんですよねぇ。その言葉は主婦の敵ですよマイロード」

「お前と結婚した覚えなんかないわ。従者は従者らしく自分でメニューを考えなさい」

 

 亭主関白のような事を言ってのけたマイロードは厨房の椅子に腰掛けると、そのまま図書館から調達した本を読み始めた。地下室にいる時と全く変わらない行動に呆れるしかない。まるで本の虫だ。紅魔館で本の虫といえば別の人だったと思うんだけども。

 

 取り敢えず、まともそうな材料を幾つか見繕い、それらを使う料理を考える。紅魔館にオーブンやレンジがある筈もないので、なるべく簡単な作業で作れるものがいい。なかなか厄介な条件である。

 まあ私は賢くて家庭的だから、そんな無理難題もこなしてしまうのだ。

 

 口元に巻かれていた布を頭に巻き直して三角頭巾にする。髪の毛なんか入ってたら二、三発は剛拳が飛んでくるだろうから気を付けないと。

 

 調理中ふとマイロードを見ると、本を読みながらも合間合間にこちらを確認しているようだった。毒を入れられないように警戒してるのだろうか。忠臣たる私が毒殺なんてする筈がないのに。仮に仕込むとしてもニンニクヤサイマシマシアブラカラメくらいだから安心してほしい。存分に苦しめ。

 

 そういえば、と。先ほどの『本の虫』というワードである事を思い出したので、鍋に火をかけつつ、なんて事ない風を装いながらマイロードへと話し掛けてみる。

 

 

「ところで、マイロードはパチュリー・ノーレッジさんって知ってます?」

「誰それ。聞いたことないわ」

 

 図書館にいた時から感じていた嫌な予感が的中した瞬間だった。紅魔館にまだパチュリーがいない事が確定してしまった。でないとフランドールがパチュリーの存在を知らないなんて状況が成り立つ筈がない。

 引き攣る顔をなんとか抑えながら、続けて問う。

 

 

「……いまって西暦何年くらいです?」

「ふふ、お前ったら、そんなことも分からないのね」

「笑わないでくださいよぅ。私ってまだ生まれて間もない子供みたいなもんですし。……あっ、もしかしてマイロードも分からない感じですか? 引き篭もってばかりだと時間感覚とか狂いますもんねー」

「お前と一緒にするな」

「お゛う゛っ!!! 火を扱ってる最中は危ないからやめてくださいよー!」

「なら余計なことを言わないの」

 

 料理中でもお構いなしにお尻へと蹴りをぶち込んでくるマイロードには参ってしまう。これで焦げ付いても文句は言わないでほしい。

 

 結論から言うと、いま私たちの存在するこの世界は、私が想定していたよりもずっと昔だった。

 

 つまり今の紅魔館にパチュリーさんは勿論のこと十六夜咲夜さんもいないし、そもそも幻想郷すら誕生していないし、マイロードは495歳児じゃなかったと。

 

 どのくらい昔かといえば、日本ではお侍さんが街道を練り歩き、御前試合で流れ星やら無明逆流れを披露しているくらいの時代。幻想郷が創造されるまで250年くらいありそうだ。

 

 だとすると紅魔館の外はリアル世紀末みたいな世界になっているかもしれない。ヨーロッパのどこにあるのかは知らないけど、どの時代も良い印象は皆無だ。魔女狩りとかやってる気がする。

 もしやマイロードはそれを見越して引き篭もりを選んだのだろうか。これは賢人フランドール。

 

 それはそうと正直待ちきれないので八雲紫さんや摩多羅隠岐奈には是非とも計画の前倒しをお願いしたい。「甘ったれるな」ですって? はい……。

 

 

「ところで私も聞こうと思ってたんだけど」

「はい。なんでしょう」

「さっきから卵入れたり牛乳入れたり、それを小鍋に注いで……何を作ってるの?」

「プリンですよ。みんな大好きプリン! マイロードも好きでしょ?」

「……知らない。食べたことない」

「えっ」

 

 そっぽを向きながらそんな事を言うマイロード。私は私でビックリだ。プリンといえばスカーレット姉妹の大好物だという知識があったのだが、またガセを摑まされたのだろうか? 

 

 いやしかしだ。忘れもしない、私が生まれたあの日。

 私の他に生成されたマイロードの分身のうち一人が「甘い物が好き」と言っていたのだ。私の方向性自体は間違いではないと思いたい。なお他の「殺戮」や「闘争」だのといった物騒なワードは見なかったものとする。

 

 

「そっかー知らないんだ。へー、ふーん」

「……お前、いま私のこと馬鹿にしたでしょ?」

「ご、誤解ですよ! 私はマイロードみたく、相手の無知を嘲笑う性悪なんかじゃぐえぇ!!!」

 

 馬鹿にする気持ちは少ししかないのにこの仕打ち。とんでもない言い掛かりだ。

 というか、それよりもマイロードを憐れに思う気持ちの方が強かった。多分長年の幽閉生活でプリンすらも知らない環境に追いやられていたのだろう。……いや、幽閉はガセだったか。どちらにしろ可哀想な話だ。

 

 

「けほけほ……そ、それでは最後の工程に入ります。これにはマイロードの協力が必要不可欠なのでぇ、流石に手伝ってもらってもいいですか?」

「主人の手を煩わせるのは感心しないわね」

「まあまあ、お菓子作りは仕事じゃなくて趣味の範疇って事でいいじゃないですかー。ねっ、マイロードが手伝ってくれたらもっと美味しくなりますよ。ね? ね?」

「う、鬱陶しいわね。で、何をすればいいの?」

 

 渋々といった様子でようやく頷いてくれたマイロード。最初の頃からは想像できないほどの成長に不肖私、涙が止まらない。これは俗に言うところの「濡れた子犬を助けるヤンキー現象」というやつか。実際はプリンに釣られただけなんだろう。

 

 さてそんな訳で、マイロードには六個のコップに移したプリン液の冷却を任せた。私には冷気を扱う魔法なんて使えないからね、マイロードを頼るしかなかった。もし近くにチルノちゃんがいたら迷いなくそっちを頼ってたけど。マイロードに貸しを作るのは後が怖い。

 

 今回のプリンにはバニラエッセンスが入っていない分、厨房に漂うヤバ臭が移ってしまいやすくなってるので、早さ勝負である。

 マイロードはプリン液入りのコップを掴むと、一つずつ素早く、そして丁寧に冷やしていく。

 

 

「そうそう、そのくらいの冷気を浴びせ続けてください。いやぁ素晴らしいです。よっ、一家に一人マイロード!」

「私はそんなに安くないわ」

「じょ、冗談ですってば」

 

 程々にヨイショしてマイロードの機嫌を保たせつつ、冷却作業は最後の一個まで滞りなく進んでいく。流石は凄腕の魔法使いなだけあって、出力を誤ってプリンを凍らせてしまうなんてベタな失敗はなかった。ほっと一安心ではあるが、それはそれで面白くないと思う自分がいる。

 

 さあ、このまま何のハプニングもなく終えれそうだと気を抜いた、そんな時だった。やはり私は不幸な星のもとに生まれてきたのだろう。

 

 

「ねえ」

「はいはい、どうしましたかマイロード」

「誰かがこっちに一直線で向かってきてるわ」

「おっとデビルイヤー。いったい誰なんでしょうねぇ」

「見られる前に始末したいんだけど、コレって冷却を中断しても問題ないの?」

「うーん……ダメです」

 

 冷却を中断する分には問題ないが、始末云々は大問題だ。まず大前提として私はスプラッターな光景なんて見たくないのである。ただでさえ厨房に漂う死臭のせいで気分を害しているというのに。これ以上は私の口からスプラッターな物が飛び出すだろう。

 

 私の精神衛生的な理由以外にも、そもそも今こちらに向かってきているのがレミリア閣下だったら最悪だ。ここで殺し合いが始まれば私は消滅待ったなしである。

 

 

「うーん……」

「ねえどうするの?」

 

 この局面で誰にも被害を出さず、穏便に切り抜ける方法。それを為すにはやはり、私の動きが必要になってくるのだろう。要するに『フランドール』がこの場にいるとバレなければいいのだ。多分。

 

 ならば、と。私は腹を括った。

 ふふん。引き篭もりでコミュ症の主人を持つと、従者は苦労する。

 

 

「よし、マイロード! 今から跪きますので、私の顔を蹴ってもらえますか」

「は?」

 

 

 





プリンの初出は17世紀後半。なおフランドールは分身ちゃんの知識の出どころを怪しんでいるものとする

次回でようやくフランドール以外の紅魔館キャラが出てくるのかもしれません
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