フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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命短し狂えよ乙女

 

 

 一途で有能な忠臣を記憶から捨てた愚かなマイロードを見返すべく、ニッヒちゃん動きます。

 来るべき吸血鬼異変に備え紅魔館支部を設立し、押しも押されもせぬ大勢力を作り上げマイロードやレミリア閣下の度肝を抜いてやるのだ!

 

 身の丈に合わない野望なのは百も承知である。しかし野望は大きければ大きいほど良いと、かのレミリア閣下もそう言っていた。上を見続けることが大事なのだ。

 私もそう思う。野望はいくらデカくても困らない。おっぱいと同じだね。

 

 しかしそんな決意を固めたのはいいけども、考えれば考えるほど課題は山積みだ。

 

 国家の三要素に倣うのであれば独立勢力として「領土」「国民」「主権」を満たさなければならない訳だが、ルーミアという右腕()以外なにも持っていない私にはどれもハードルが高い。

 というか私は紅魔館に所属する部下Bなので、作る勢力は自動的に属国になるんだよね。所詮私はマイロードの道具であり主権などあろうはずが無いのだ。

 

 他にも人間達との付き合い方をどうするかだったり、そも八雲紫さんを始めとした幻想郷の賢者なる方々を如何に打倒するかとか、先のヴィジョンは未だ見えてこない。

 なのでまずはできる事から始めていこう。マイロードみたく豪快かつ堅実に一つずつ積み上げていかねば。

 

 そんな訳で、やって来ました霧の湖。

 当然この時期に紅魔館なんて建物がある筈もなく、岬は空き地となっている。

 

 

「やはりこの地は良い。吸血鬼が住むのにうってつけの条件が揃っている!」

「そうなのか?」

「私は吸血鬼の中でも日光耐性がある方だけど、やっぱり日差しが照りつける中で活動するのは怠く感じるからね。一年中霧が立ち込めている此処は過ごしやすいんだ」

「ふーん。私も眩しいのは嫌いだから分かるよ」

「という事で、ここをキャンプ地とする!」

 

 二人揃って日陰者になる事を宿命付けられた種族ゆえ、居住場所は限られてくる。ならば原作通り、吸血鬼の居着いた場所に拠点を構えるのが筋というものだ。地盤をレミフラ姉妹様に譲り渡す時にも都合が良いしね。

 

 今日この日この地から、ニッヒちゃん率いる『神聖フランちゃん帝国』……もとい、紅魔館支部が始動するのである! 万歳万歳! 

 

 

「それじゃあ早速アジトを建てよう!」

「え、建てるの? 一から?」

「ふっふっふ、うんと素敵なのを建てるよ! ずっと野宿って訳にもいかないしね」

「ニッヒは野宿が嫌なのか。私は別に野宿でいいんだ。これまでもそうだったし」

「本当に家無き子だったんだね……」

「うん、生まれてからずっと」

 

 聞けばどこに定住する事もなく幻想郷をふらふら彷徨い続け、眠たくなったら生い茂る雑草を寝床にし、臭いが気になってきたら服ごと川に飛び込み、お腹が空いたら人間の死肉や小動物をそのまま口に放り込む。そんな生活を送り続けてきたらしい。

 私とはある意味対極なルーミアの悲しき半生にニッヒちゃんも涙ちょちょ切れである。悲惨度では地下に幽閉されていた私とどっこいどっこいではなかろうか。

 

 しかしこれで拠点を構える必要性がますます高まった。ルーミアには帰る家がある事の大切さと尊さを知って貰わねばなるまい。

 あとお風呂には毎日入ろうね。女子力、大切。

 

 

「ゆくゆくは本家紅魔館みたく立派な建造物を建てたいけど、今は人手が足りないし部屋を余らすだけ。なのでまずは簡単な小屋から作って、それを増改築していくことにしよう。勿論ルーミアの部屋も作るよ!」

「へーがんばって。私は湖で遊んでるから」

「いやいやルーミアも一緒に作るんだよ。まあ、貴女はこういう組み立て作業は苦手そうだから主に木の伐採と運搬をやってもらう事になるけど」

「私も? 面倒臭いなぁ」

「悲しい事言わずに、ねっ! 自分達の手で作るから尊いんだ。絆が深まるんだ!」

「……そーなのか?」

「そうなんです」

 

 結局、ルーミアは「そういうもんなのか」と呟きながら力仕事に手を貸してくれた。なんだかんだで流石は人喰い妖怪と言うべきか、人間とは規格外のパワーで大きな丸太を次々に運び出していく。

 こうも丸太を軽々扱えるだけの力があるなら吸血鬼とも戦えそうだね。なんたって丸太は吸血鬼特効武器だからね。レミリア閣下は否定してたけど。

 

 こうして運び込まれた丸太を水魔法のレーザーカッターで綺麗に切断していき、地面に描いた図面通りに組み立てていく。

 ここで半壊した紅魔館をみんなで修繕、増改築した経験が活きてくるんですね。美鈴さんが建築術のノウハウをやけに知ってたのは、つまりそういう事なんだろう。経験が物を言うとはこの事だ。

 

 そんな感じで、今は亡き紅魔館の皆様との思い出に浸りながら作業を進めていたところ、材料を集め終えて暇そうに見物していたルーミアが声を上げる。

 

 

「ねえ、妖精達がこっち見てるよ。このままだと多分悪戯を仕掛けてくるけど」

「んー……適当に相手しといてくれる? ただし恨みを買いすぎないように」

「分かった。ほどほどに蹴散らしてくるね」

 

 湖面の上に何匹か妖精を確認した。見たところチルノちゃんや大妖精ちゃんでは無さそうなので、ルーミアに対応を任せる。

 

 幻想郷で暮らす上で最も厄介なのが妖精の存在だろう。彼女らは恐らく、私以上に命を軽視している特攻野郎Aチームなのだ。

 なにせ基本格上にも平気で挑んでくるし、凶暴な個体ともなれば平気で暗殺を仕掛けてくる。ほのぼの幻想郷で有名な東方三月精でも、光の三妖精が霊夢さん相手に包丁やら爆弾を用意してたし。危険危険、マジで危険。

 

 ……仮に滅ぼせるなら先制攻撃で容赦なくやっちゃうけど、残念ながら彼女らは残機無限。幾ら相手してもしょうがないので泣き寝入りである。

 

 恨みを買ってゾンビテロアタックを仕掛けられても困るし、私達が外出から帰ってきたら家が刃牙ハウスみたく落書きだらけになってる、なんて事もあり得る。

 故に妖精は事勿れ主義で放っておくか、もしくは仲良く付き合った方がいいだろう。

 チルノちゃんは幹部第一候補だしね。

 

 

 

 

 

「できたぁ! どうかなルーミア、これが私達のアジト……名付けて『紅魔庵』だよ!」

「ガタガタだね。妖精の弾幕一つで倒壊しそう」

「し、仕方ないじゃん。釘なんて一本も無いから頑強な造りになんてできないし」

「嵐が来たら屋根吹っ飛ばない?」

「藁葺き屋根だけど、頑張って作ったんだもん! わ、私だって本当は紅魔館みたいな立派なのが作りたかったんだ……! うっうぅ……」

「ごめんね言いすぎた。泣かないで」

 

 ルーミアに慰められながら、改めて我らがアジトを見る。そうすれば自然と涙も引っ込むというものだ。

 

 本居小鈴ちゃんから訴えられそうな名前だが、やはりこの小屋には『庵』という呼び名が相応しい。

 その出立ちは、古代から脈々と受け継がれる人の営みを質素かつ素朴に体現している。壁と屋根さえあれば、それは紛れもなく家だ。誰がなんと言おうと家なのだ。

 

 しかし縄文人でももうちょっとマシな家を作ると言われればまあその通りなので、ニッヒちゃんは泣きながら素直に頷くしかない。

 

 

「さて何はともあれ、アジトが完成したらまず一番にする事は決まっている。お風呂の時間だ!」

「ごゆっくり。私は湖で水浴びしてるね」

「なに言ってんのさ、私と一緒に入るんだよ。身体の隅々まで綺麗にしちゃうよん」

「……水が弱点じゃなかったっけ?」

「ルーミアとのお風呂の為なら我慢する!」

 

 それでいいのかと戸惑うルーミアの視線を振り切り、無理やり服を剥ぎ取って湯船へと放り込んだ。水魔法で丁度いい温度のお湯を出せるので準備の必要も無し。ニッヒちゃん温泉を存分に堪能してもらおうではないか。

 

 続いて私も湯船へお邪魔させてもらった。僅かな痺れと不快感が身体中を駆け巡るが、やはり耐えられない訳じゃない。まあ流れる水じゃないからね。

 というか何気に私も初お風呂だ。私って代謝が皆無というか、身体の状態が殆ど変化しないから気にならないんだよね。なおマイロードのお風呂事情については察してクレメンス。

 

 同じく初めてのお風呂にポカンとしているルーミアの肩へとお湯を掛けながら、ふと感想を聞いてみた。

 

 

「悪くないね……気持ち良い」

「ふふん、お風呂は日本人の心だからね!」

「私って日本人なのかな。それにニッヒは……南蛮生まれなんだよね?」

「互いに諸説あるね」

 

 ここら辺の話はややこしくなる。

 

 

「水浴びよりお湯の方が気持ち良いでしょ? これから毎日お風呂に入ろうね」

「うん入る。……なんだろう、羊水の温度っていうのかな。これが何というか、心地良いね」

「ルーミアって胎生なの!?」

「いんや。昔に妊婦を襲」

「あっ、もう言わなくていいよ」

 

 隙あらばこういう血生臭い話をしてくるから、やはり彼女には注意が必要だ。

 前にも言ったような気がするけど、私にはグロ耐性が無いのである。スプラッターな光景なんて断固拒否! まあ自分のは良いけど。慣れっこだし。

 

 せっかくの良い気分が台無しなので、ルーミアの頭を洗う事で誤魔化す事にした。

 

 放出するお湯に小悪魔後輩から教えてもらった衛生魔法を混ぜ込んで、これで液体シャンプーの出来上がり。じゃぶじゃぶ洗っていこう。

 野山を縦横に飛び回ってきたルーミアの頭は色々と大変な事になっていると思うので、念入りにね。

 

 

「ニッヒって栄養価が高いだけじゃなくて良い匂いの泡も出せるんだ。なんて凄いお肉」

「そろそろお肉から格上げして欲しいんだけどなぁ……あいたっ!?」

「どうかした?」

「いや、頭のリボンに触れた瞬間静電気みたいなのが」

「触ったの?」

「ちょ、ちょっとだけ。ダメだった?」

「……別に。なんでも」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ、ルーミアの雰囲気が変わったような気がした。その内容までは把握できなかったけれど、異質な存在を相手している感覚だったのを覚えている。

 

 いいよね、ああいうゾクゾクする感じ。コキュートスのような冷たさがマイロードを思い出させてくれる。懐かしさで少し胸が暖かくなった。

 封印を解いたらマイロードみたいなのが出てくるのかな? ちょっぴり気になるね。

 

 でも取り敢えず、リボン封印の件は今のところ聞かない事にしておこうか。まずは目標に向けて頑張る事が一番だからね。こういうのはクリア後コンテンツとして楽しみに取っておこう。

 

 頭を流した後、再び湯船に浸かる。二度目ともなればルーミアも慣れたようで、神妙な様子でじっとしている。お風呂の凄さを思い知ったか。

 

 

「明日からも大忙しだから、今日の疲れは今日のうちに癒しちゃおうね」

「なにするの?」

「……バイキング、かな」

「ばいきんぐ」

 

 どうやら馴染みのない言葉だったようで、こてんと首を傾げている。多分マイロード達なら北欧の海賊を思い浮かべるだろうし、現代人なら食べ放題のレストランを連想するだろう。

 

 どちらも正しい。私の言ったバイキングの意味は、その両方である。

 

 

 

 このままだと、どんなに頑張って最良の未来を掴もうとしても、鬼人正邪ちゃんみたいな末路にしかならないと思う。つまるところ逃亡者ゲリラ生活。

 到底マイロードを始めとする紅魔館の皆様に認められるような結果は残せない。

 

 もっと力が必要だ。自分に無いモノを持った従者をカリスマでかき集めたレミリア閣下のように。相対する者全てを慄かせる絶対的な力を持ったマイロードのように。

 私が抱いた憧憬混じりの目標。その対象は、やはりあのお二方になる。

 

 その為にはやはり、私がもっともっと強くならなければならないのだろう。

 勿論、ルーミアもね。

 

 

 では妖怪が強くなる手段とは何か。

 それは実績作りであり、その実績によって人間達に恐怖してもらう事である。

 

 被害に遭う人数が多ければ多いほど良い結果となるだろう。そして一番のポイントとして、その為の犠牲者を人間に絞る必要はないという事。

 悪名という形でよければ、幾らでもやりようはあるのだから。

 

 では手っ取り早く悪名を稼ぐ手段とは何か。

 そうだね、山賊だね。





神聖フランちゃん帝国……神聖でもフランちゃんでも帝国でもない謎の勢力。

ニッヒちゃんの水魔法はパチュリーとの特訓によりかなりレベルアップしているものとする。基準として丸腰のにとりより結構上なものとする。
また本日はルーミアの定める『胸肉かぶり付きデー』であり、風呂に入っている最中に何故か即興で決めたものとする。理由は多分特にないものとする。
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