フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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博麗霊夢に怒られる


紅い通り魔

 

 

『紅い通り魔』……ですか」

「近頃麓の方で話題になってるでしょ? それについての記事を書こうと思ってるんだけど、犯人の足取り含めてまだまだネタ不足でねぇ。そこで目の良いアンタらなら何か知ってんじゃないかと思ってさ」

 

 忠勤の哨戒天狗である犬走椛は、旋風と共に突如現れた烏天狗の相手を任されていた。路傍の岩に腰を下ろし、怪訝な目付きで彼女を見遣る。

 

 駐屯地に留まっている白狼天狗総出で荷積みを行っている最中の出来事である。周りの刺すような視線から歓迎されない訪問者である事は明白だ。

 

 基本、白狼天狗と烏天狗は仲があまりよろしくない。

 常に最前線に出張り荒事から雑務まで幅広く任される現場の誇り第一な白狼天狗と、風見鶏に徹し上司に謙ること朝飯前の後方事務職である烏天狗に溝が生まれない訳がないのだ。それでいて烏天狗は現場を小馬鹿にしているのだから嫌われて当然。

 

 しかし腐っても一応の上司となる種族である。完全に無碍にする訳にもいかず、それでいて仕事を邪魔されては堪らないという事で、彼女の厄介払いの相手には大抵椛が振り分けられることとなる。

 理由は単純で、昔からその烏天狗とは腐れ縁があり、なおかつ歯に衣着せぬ言葉や物怖じしない態度が白狼天狗の総意として伝わるからだ。

 

 なお椛自身は毎回貧乏クジを引かされていると考えている。それだけ彼女の相手は面倒臭い。

 今回も案の定、碌でもない用事だった。

 

 

「私が管轄内で見聞きしたものは全て大天狗様に報告しています。お聞きしたければ其方に行かれてはどうですか? 見ての通り、ウチは繁忙期なものでして」

「ああ上納品の運搬警護。もうそんな季節なのね。いつの時期も馬車馬の如く働いてるから気が付かなかったわ。毎度毎度お疲れ様」

「言い方を変えましょうか。邪魔だからさっさと出て行けって言ってるんですよ」

「まあまあ時間は取らせないわ。情報が有るなら『有る』、無いなら『無い』でいいの」

「……有る」

「有るじゃないの。ほらはよ言え」

 

 あからさまに嫌そうな顔をしても意に介す様子はない。むしろ嫌がっている様を面白がっている節まである。

 そんなだから白狼天狗を始め、幻想郷の皆々から嫌われるのだ。鬼と一緒に地底へ引っ込んでくれたなら世界はどんなに美しかっただろうか。

 

 ともあれ相手するのがいい加減面倒になってきた椛は、少しだけ情報を漏らす事にした。機密保持に厳格な椛らしからぬ特例である。

 口元を耳に寄せる。

 

 

「山の境界手前でそれらしき二人組は見ました。領域に踏み入ってこなかったので特に何もせず、そのまま見逃しましたが」

「へぇ。なんでその二人が野盗だと?」

「貴女方のばら撒いた紙面に載っている特徴と合致していたからです。金髪の幼い少女で、服装や被り物、可笑しな羽まで同じでした」

「被害者からの証言通りって訳ね」

 

 ここ最近、幻想郷を俄かに騒がせている野盗コンビ。闇夜に乗じて妖怪や人を見境なく襲い、完膚無きまでに叩きのめしたのちに身ぐるみを剥ぎ、食料を奪って何処へと霧の如く消え去るのだという。

 

 世間からは『紅い通り魔』として認知されているが、これはあくまで天狗達が勝手に面白半分で名付けて拡散した呼称である。

 本人達は別の通り名を名乗っているらしいが、そちらはちっとも認知されていない。

 

 さて、幻想郷において野盗の存在は大して珍しくない。食い扶持に困った人間が賊に身を落とすケースはそこそこ見受けられるし、それ紛いな事をするのが生き甲斐な妖怪も居る事には居るだろう。

 

 しかし今回の野盗は少々毛色が違った。

 

 

「……一番の特徴として、奴等は襲う相手に臆する事がない。どんな屈強な相手にも見境なく襲い掛かる。その証拠として、人間よりも妖怪の方に被害が偏っている。今のところ殺しに至った事例はないけど、時間の問題ね」

「よっぽど凶暴な個体なんでしょうね。えらく活発的ですし。幼い姿をしているというのは、つまりそういう事でしょうか」

 

 見た目幼い妖怪ほど凶暴性が増す、という話は幻想郷でも有名である。

 

 その理由として、幼い姿で獲物を油断させようとする狡猾さが故、もしくは本当に幼い為に加減を知らない、というものが挙げられる。

 そしてさらにもう一つ。肉体を変化させずとも相手を萎縮させる格と自信を備えているケースが該当する。

 

 前者であれば対処は容易い。所詮はそういう生存戦略を取らなければ生きていけない程度の有象無象だ。鍛錬を積んだ天狗の相手ではない。

 

 問題は後者であった場合である。

 自分の強さに圧倒的な自信を持ち、なおかつ本当に強い妖怪。ついでにちょっと頭が足りていなければ最悪の部類だ。そんなものは一つの協同体として纏まりつつある幻想郷にとって害でしかない。

 

 二人の脳裏に浮かぶ人物は共通していた。いつの間にか霧のように消えてしまった、元上司の酒狂いパワハラ鬼畜ロリ。ああいう手合いこそ厄介な事この上ない。万が一あんなのが野盗として在野で暴れ回っているのなら、紛う事なき悪夢である。

 ただアレはアレで幻想郷の緻密なパワーバランスや、他の大妖怪達との兼ね合いを意識していた節があるので、まだマシなのかもしれない。

 

 そんな危険性を加味した上での情報収集だというなら立派なものだ。もっとも、そうでないのがマスゴミがゴミと言われる所以なのだが。

 

 

「んー……なんだかなぁ」

「まだ何か?」

「いやね、本当に野盗なのかなって」

「略奪してるんだからそれ以外にないでしょう」

「日中に人間を襲わない理由が乏しい。妖怪を狙うよりも実入りは大きい筈だし、何より弱いんだもの。飢えているなら尚更」

「人間の反撃を恐れているのでは? 近頃ごたついているとはいえ、やり過ぎると博麗の巫女が動く可能性だってありますし」

「こんだけド派手に暴れておいて今更人間に臆するかしら? ……むしろ妖怪を積極的に襲わなければならない理由があるのでは……? ぐむむ」

「そんなに悩まなくても、文さん得意の捏造考察で理由付けすればいいじゃないですか」

「だまらっしゃい」

 

 うんうんと唸りながら、ブン屋は手帖にネタを書き留めていく。そして一定の情報が集まったと判断したのか、軽く頷いて椛に背を向ける。

 

 

「襲撃場所が徐々に山へ近付いてきている。万が一の事態になれば、間違いなく貴女達が火種に対処する事になると思うわ。備えておいた方がいいかもね」

「……どんなに愚かな妖怪であったとしても、我々天狗に喧嘩を売るような無謀を犯しますか?」

「組織はいつだって最悪を想定して動くものよ」

「似合わないセリフですね」

「ふふ、一度言ってみたかったの」

 

「我々白狼天狗は山をあらゆる外敵から守護る第一の瑕疵なき盾です。常在戦場、いつだって備えはできています。侮らないでいただきたい」

「その勇ましい言葉、貴女らしいわね」

 

 素面でよくそんなクサイ事を言えるものだと感心するが、これもまた犬走椛の美徳である。

 

 閉鎖的な妖怪の山といえど、時の流れには敵わない。緩慢ながらも時代と共に変化していく。

 しかし白狼天狗の愚直さだけは一向に変わらず、今も昔もその意志の強さを証明し続けている。

 

 ただでさえ大結界絡みの変革で幻想郷が不安定になっている最中の出来事である。少し発破をかけてやろうかと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

 きっと万が一が起きても白狼天狗ならば──椛ならば、まあ大丈夫だろう。

 

 

 そう考えていた時期が射命丸にもありました。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 紅い通り魔、襲来。

 

 射命丸文の退散から僅か数刻後の出来事であった。

 山の妖怪から集めた上納品を天狗の蔵へと運ぶ最中、一団は襲撃を受けた。夕日が山の端に消える寸前、逢魔ヶ時と共に奴等は現れたのだ。

 

 

「ま、まったく見えない……! この千里を見通す目をもってしても……!」

 

「おのれぇ! グハァ!?」

「卑怯者……ばはッ!」

 

 何の前触れもなく周囲が漆黒に包まれた。しかもただ暗くなった訳ではない、如何程の視力があろうとも見通すことのできない完全な闇である。

 

 視力に優れる白狼天狗の長所は潰された。あとは闇の中、一人また一人と狩られていくばかりだ。

 どうやら敵は光が存在しない真の暗闇の中でも相手を識別できるらしい。

 

 あまりにも一方的な惨状と迫り来る脅威に、椛は額から汗を滴らせた。だが、戦意は保っている。

 なるほど並大抵の妖怪では敵わないわけだと、切迫した状況においても冷静に分析していた。

 

 十数名から構成される白狼天狗の一団を瞬く間に潰走させる疾さ、タフで丈夫な身体を持つ妖獣を一撃で仕留める攻撃力、的確に敵の弱みを突く洞察力。全てが高水準だ。

 

 だからこそ、沸るというもの。

 

 気付けば暗闇は静寂に満ち、所々から呻き声が聞こえるだけになっている。つまり、自分が最後の一人。ならば狙いのタイミングは今しかない。

 相手の攻撃が自分に当たると同時に繰り出す、超速のカウンター。

 

 振り下ろされた魔爪が椛の肉を穿ち──。

 

 賊の骨を斬り裂いた。

 

 

「なッ──そん、な……!」

 

 噴き上がる鮮血とともに、辺りを包み込んでいた闇魔法は崩れ去った。

 

 腰から肩までを易々と切り裂く下段袈裟懸け。種族によっては致命傷にならないかもしれないが、間違いなく今後の戦闘を不可能にするダメージである。

 

 肉体に触れる感覚と同時に意識的に放たれる音速の斬撃。時間差を丸々消し飛ばすほどの須臾の駆け引きは、椛の得意とするところだ。

 攻撃が身体に入り込む角度、空気の揺らぎ、同胞の返り血が放つ異臭、そして狙うであろう部位の予測──それらを完全に把握することができれば、目が利かずとも敵の居場所を割り込むことなど容易い。

 

 椛の獣的な反射神経、そして先に倒れていった同胞達の犠牲が成した神業である。

 

 眼前には切断された部位を抑えて蹲る少女。サイドテールの金髪と七色の妖しい翼。自分が哨戒中に見かけた姿、そして射命丸文からの情報と合致していた。

 巷を騒がせていた賊に違いあるまい。

 

 彼女は信じられないと言った様子で、愕然と椛を見上げている。

 

 

「そんな……最強の妖怪である、こ、この私が……! こんなこと、あっていいはずが……!」

「貴様の力が侮れない領域にあるのは分かった。ともすれば幻想郷を混乱に陥れかねないほどに。……だが勝負は水物、最後の最後まで諦めない気持ちが勝利を手繰り寄せた」

「おのれっ、おのれおのれぇぇ……!」

「さあ、目的と仲間の居場所を言いなさい。素直に話せば苦しませず一撃で首を斬──」

 

「なんちゃってぇッ! 悪質吸血鬼タックル!!!

「ぐわあああああっ!!?」

 

 極限まで研ぎ澄まされていた椛の集中力が、勝利の確信という抗い難い美酒により、最後の最後に途切れた。途切れてしまった。

 それこそ野盗──ニッヒが虎視眈々と狙っていた瞬間だったのは言うまでもあるまい。

 

 まずは会話で相手を煽てて油断を誘い、身体能力に物を言わせた初撃で継戦能力を奪う初見殺し。

 これまでに数多の強敵(とも)を屠ってきた必殺技が炸裂し、椛は錐揉み回転しながら墜落。深い溝を地面に刻み込み、勢いそのままに岩壁へと激突した。

 

 薄れてゆく意識の中、椛は切断部分を急速に再生させる下手人の畜生と、その側に降り立つ協力者と思われる妖怪を睨む。これが椛に残された唯一の抵抗だった。

 

 

「『紅い通り魔』……それほどの力を持ちながら、なんという、狡猾な……! ぐふっ」

 

「あのさぁ、これだけは言っておきたいんだけど、紅い通り魔は誤訳だからね? 正しくは紅い悪魔(スカーレットデビル)だから! ていうかそれ別の人だからやめてクレメンス! ……ちょっとぉ? 聞いてる?」

「死んでるんじゃないの?」

「え……いや生きてるじゃん。驚かさないでよ」

 

 首に手を当て生存確認。ほっと胸を撫で下ろす。

 原作の守護者を自認するニッヒにとって、立ち絵無し台詞無しの中ボスではあれど、命を奪い去るのには抵抗があったのだ。他の天狗は知ったこっちゃないけれども。

 

 なにはともあれ、こうして白狼天狗の護衛部隊はあえなく全滅。大量の献上品がニッヒとルーミアの手元に転がり込んでくる事になる。

 ウキウキ気分で早速荷台へと乗り込み中身確認するが、積み上がった大量の酒樽を前に二人のテンションはみるみる萎えていくのだった。

 

 

「……誤チェストにごわす。こや目当てのブツになか」

「お酒よりやっぱり食料の方が嬉しいよね」

「襲う前に何を運んでるのか聞くのって女々かな?」

「名案だと思うよ」

 

 酒を始めとした嗜好品と縁が無いだけでルーミアも飲むことには飲むので無駄にはならないし、幻想郷の猛者は酒好きが殆どであるため、持っておいて損はないだろう。

 ただ問題を挙げるとすれば、先にも述べた通りルーミアは今のところ食料以外眼中になく、食欲の存在しないニッヒは進んで酒を飲まない。そして強者と馴れ合う気も現状無い。

 

 つまりハズレである。

 

 

「剣とか盾も回収するんだ」

「うん。溶かして新しい鉄器を作ろうと思うの。ルーミアも何か武器が欲しいでしょ? 格好良いやつ作ったげるよ。漆黒の魔剣ダーインスレイヴみたいなの!」

「肉を綺麗に捌ける包丁なら欲しいかな」

「料理用じゃなくて解体用だよね多分」

「もちろん」

 

 使える物は全て奪う。道具を大切にするニッヒだからこそ、奪う物を差別しない天晴れなカスの勿体無い精神。月面戦争のあれこれで吹っ切れたとも言う。

 

 

「それにしても、天狗に手を出して大丈夫かな。流石に今までの妖怪達とは格が違うけど」

「先に手を出したのはルーミアでしょ」

「動くモノには問答無用で闇をぶつけるのが私の仕事。その後は全部ニッヒがやった事」

「それを言われるとぐうの音も出ないや」

 

 荷車に戦利品とルーミアを乗せ、山の斜面をそのまま滑り降りていく。川沿いを走れば霧の湖はすぐそこだ。

 

 

「でも私達が目指しているのは幻想郷最大最強の妖魔軍団。天狗なんかにビビってられないよ。やがては思い付く限りの大妖怪と戦う事になるかもなんだし」

「ニッヒって段階踏むの下手だよね」

「偉大でガサツなマイロードの背中を見て育ってきたからね! えっへん!」

「ふーん吸血鬼ってみんなイカれてるんだ」

「退かない、媚びない、省みない! 吸血鬼に逃走はないんだよルーミア!」

「そーなのか」

 

 戦う相手は選ばないし、売られた喧嘩は全部買う。人に傅く事なく、部下を力とカリスマで押さえ付け、戦いに敗れ荒野に散るその時まで我が道をひたすら突き進む。

 それが紅魔館を統べるスカーレット姉妹の生き方。

 

 ならばその部下であり、彼女らの道を再現せんとする自分もそれに倣わなければならない。

 

 マイロードならきっとそうする。

 それがニッヒの行動指針の一つとなっていた。





フラン「いや、しないが……」

烏天狗は白狼天狗を小馬鹿にしている△
互いに小馬鹿にし合っている○
天狗は姫海棠はたて以外みんな畜生◎
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